今回の実例は報道記事から。
イスラエルは、ガザを爆撃・砲撃しなくなったからといって、パレスチナ(あるいはカギカッコ付きで「パレスチナ」と表記した方が問題が明確になるのかもしれないが、ここではカギカッコを使わずにいく)に対する暴力を伴った態度を見直したわけではない。例えば6日の日曜日には、東エルサレムのシェイク・ジャラー地区で何が起きているかを取材していたジャーナリストが、「PRESS」とでかでかと表示されたフラックジャケットを着ていたにもかかわらず、イスラエル側によって、まさに引きずられるようにして連行されていった。連行されていった先で手首をきつく拘束されるなどの陰湿な暴力の加害を受けたうえで、今後15日間はシェイク・ジャラー地区で取材しないという条件(とんでもない条件である)で釈放された。その出来事を伝える一群のツイートに、ざっくりとした日本語を添えてリツイートしたところ、英語で流れてくるものをそのままリツイートするのとは段違いの広まりを見せたようだ。
はっきりとPRESSと表示された服を着て書類を手にしたジャーナリストが強引に連行されていく。連行しているのはイスラエル当局。少し離れたところから様子を眺めているのはユダヤ教正統派の人たち。連行されたのはアルジャジーラの記者。 https://t.co/f09jHqb9WQ
— n o f r i l l s /共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) 2021年6月6日
https://t.co/3oGWEfCjlj アルジャジーラのジャーナリストが強引に連行されていったのは東エルサレムのシェイク・ジャラー地区。「ガザ衝突[sic]」が起きていないから国際報道にはほとんど乗りませんが、だからと言って平常ということではないです。 #SaveSheikhJarrah #EastJerusalem #FreePalestine
— n o f r i l l s /共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) 2021年6月6日
https://t.co/qxuEFP1hRA 連行されていったジャーナリスト、ジェバラ(ゲバラ)さんは、しばらく拘束されたのち、今後15日間はシェイク・ジャラー地区で取材活動をしないことを条件に釈放されたそうです。 #SaveSheikhJarrah #EastJerusalem #FreePalestine #JournalismNotACrime
— n o f r i l l s /共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) 2021年6月6日
https://t.co/kMmoDdio2d 取材中に強引に連行され、拘束された後で釈放されてお子さんたちを抱きしめるアルジャジーラのジャーナリスト、ジェバラ(ゲバラ)・ブデイリさん。 #SaveSheikhJarrah #EastJerusalem #FreePalestine #JournalismNotACrime
— n o f r i l l s /共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) 2021年6月6日
https://t.co/8nztu8lyOZ #SaveSheikhJarrah #EastJerusalem #FreePalestine #JournalismNotACrime
— n o f r i l l s /共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) 2021年6月6日
さて、その一方で、イスラエルの政治が大きく動いている。「政治」ではなく「政局」とすべきかもしれない。ここ15年間ずっと首相をやってきて、ここ何年かは驚くほどストレートな汚職疑惑の当事者となり、ついには現役首相であるにもかかわらず訴追され、人々がうんざりするほど短期間に何度も総選挙を繰り返して、明確に退陣することにはなっていなくても政権をしっかり維持することもできないということになっているベンヤミン・ネタニヤフ(所属政党リクード)に対し、国会に議席を持つネタニヤフとリクードではない政治家たちが、「右」も「左」もなく手をつないで連立政権を組むということになった。イスラエルにおいて「『右』も『左』もなく」と表現するのは実は不正確で、そこには「ジューイッシュ」も「アラブ」も、という、イスラエルならではの構造をも入れ込まねばならない。だが私にはそれができるだけの十分なベースがない。ともあれ、下記のように、常套句を使えば「呉越同舟」になっている写真が、先週、ネット上にいろんな方向性で広がりを見せる感情の波を引き起こしていた。
Whatever happens tonight and in the days left until the confidence vote if it ever takes place, this is a historic photo. A leader of an Arab-Israeli party and the leaders of a Jewish-nationalist party signing an agreement to join a government together pic.twitter.com/ahGijY6qgc
— Anshel Pfeffer אנשיל פפר (@AnshelPfeffer) 2021年6月2日
これに対しては「起きるとは思いもしなかったことが現実になった」という声が多く起こり、大人は一体何をやっているのかという疑問の中でここ数年もやもやしてきたイスラエルの子供たちの間では「大人だってやればできる」という評価を生じさせてもいるようだが、もちろん、そういった肯定的な評価ばかりではない。こういう写真に「希望」を見出せるほど楽観的な環境には、パレスチナ人は置かれていない。そもそも、この新連立政権が首相とするのは、ネタニヤフの極右政策の中の人だった人物である。
This too was "a historic photo". Photos mean little if the politics are intent on continued discrimination, as they are. pic.twitter.com/wbPzusJ4Uw
— Yousef Munayyer (@YousefMunayyer) 2021年6月2日
それでもしかし、これは「同じことの繰り返し」に終止符を打つ「始まり」ではある。下記のBIWさんが言うように、「希望も懐疑も維持されねばならない。必要なのは始まりである」。
Both hope and skepticism must be maintained. You need a beginning.
— BIW (@BIWinCA) 2021年6月2日
私は自分にわかるようにしか咀嚼できないから、当然のように、この光景で、そしてBIWさんの言葉、「希望も懐疑もどちらも」からおのずと連想されるあの光景を思い浮かべている。本当は、こんなふうに置き換えるべきではないのだろう、と考えながらも。
腐った水が澱んでいて、希望などありはしないところに、人びとがあえて希望を見出だすことによって、現実が変わっていくこともあるんですよね。北アイルランドで添付画像以降(2007年以降)の流れを可能にしたものの重要な部分がそれ。もちろんそれだけではなく、より本質的に重要な制度改革があった。 pic.twitter.com/fobdOrIpid
— n o f r i l l s /共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) 2021年6月3日
閑話休題。こうして新たに連立政権が発足するという前提で話が進むかに見えていたところで、予想通り、ネタニヤフが激しく抵抗しだしたというのが週末の状況だった。
https://t.co/Qc77YpAL7u "Netanyahu on Friday published a Facebook post that cited a story from the Bible, which compared his political rivals on the right to the spies Moses sent to tour the land of Canaan and that lied to the people when the returned."
— n o f r i l l s /共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) 2021年6月5日
https://t.co/nKr9MJrXHw 「おれの鶴の一声で事態が急展開するぞ、それでもいいのか」ということか。特撮ヒーローものの悪役じみてきたが、これは現実だし、米国で半年足らず前に実際にあったことだ。
— n o f r i l l s /共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) 2021年6月6日
イスラエルの国会での新政権発足の手続きは今日月曜日に予定されているが、何がどうなるのかはまだわからない。
というのが前置きで、今回の実例は、いよいよネタニヤフ政権が終わりそうだという流れになってきた先週前半の段階で英BBCがまとめたネタニヤフという人物についての「プロフィール」的な記事から。こちら:
www.bbc.co.uk
以前、アリエル・シャロンの息子が日本の広島についてとんでもない発言をしたときに、そのことについて書いたら、それについてわあわあ騒いでいた人から突然、「アリエル・シャロンって誰ですか」と尋ねるツイートが飛んできて面食らったことがあるが(こちらとしては、そんなことは当然わかっているから騒いでいるんだと思っていた)、パレスチナについての関心は一応持っているが、イスラエルの政治家たちについてそういう具合に五里霧中であるという方々に好適な、コンパクトなプロフィール記事である。ただし、ネタニヤフがパレスチナに対して何をしてきたかは十分に書かれているような印象は受けない記事で、そこのところは今のBBCに何をどのくらい期待できるのかという話でもあろう。
実例として見るのは、記事のかなり下の方から。
キャプチャ画像の下の方、小見出しの次のパラグラフから:
Only in 1988, when he returned to Israel, did he become involved in domestic politics
太字で示した ", when" は《非制限用法の関係副詞》で、直前の "1988" に補足説明を加えるはたらき。「1988年に、彼はイスラエルに戻ったが」ということになる。
下線で示した "did he become" の部分は、唐突に疑問文の語順になっているのだが、これは "Only in 1988" を《強調》するために文頭に持ってきたことで生じた《倒置》である。倒置なしなら、"He became involved in domestic politics only in 1988, when he returned to Israel" という文になる。
文意は、「1988年に、彼はイスラエルに戻ったが、そのときになってようやく国内政治にかかわるようになった」。
そのあとに続く部分:
..., winning a seat for the Likud party in the Knesset (parliament) and becoming deputy foreign minister.
太字で示した部分は《現在分詞》で《分詞構文》。「クネセト(国会)でリクードのための議席を獲得し*1、外務副大臣になった」。
※3790字
※しばらく休載していましたが、ぼちぼち戻していきます。