Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

【再掲】英語のパラグラフの書かれ方, 接続詞, 助動詞+have+過去分詞, therefore, 分詞構文など(ダイヤモンド・プリンセスの検疫は不十分だったという米CDCの声明)

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このエントリは、2020年2月にアップしたものの再掲である。

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今回の実例は、米国の政府系機関の文書より。

豪華客船「プリンセス・ダイヤモンド」のことは先日書いた通りである。今回の実例は、この船で行われていた「検疫」についての米CDCの文書(の一部)だ。

CDCはCenters for Disease Control and Preventionの略語で、「アメリカ疾病管理予防センター」のこと。米国の保健福祉省所管の感染症対策総合研究所である。所在地はジョージア州アトランタ。ここがどういう存在かというと、「本センターより勧告される文書は、非常に多くの文献やデータの収集結果を元に作成・発表されるため、世界共通ルール(世界標準)とみなされるほどの影響力を持ち、実際に日本やイギリス等でも参照・活用されている」(下記ウィキペディアより)。詳細はウィキペディア参照。

ja.wikipedia.org

 

そのCDCが、米国人乗客が一部を残して船から引き上げて米国へ帰国したあとで、ダイヤモンド・プリンセス号での検疫についての声明文を出した。

既に広く報じられているように、下船して帰国のためのチャーター機に乗り込んだ人々の一部が感染していて機内で簡易的に隔離されるということが起きたが、332人が帰国した(全員がこれから米国内でさらに2週間隔離される)。

アメリ国務省などによりますと、新型コロナウイルスへの集団感染が確認されたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の乗客などを帰国させるために手配したチャーター機に乗っているアメリカ人のうち14人について、新型コロナウイルスへの感染が確認されたということです。

この14人は数日前に船内で検査を受け、チャーター機の出発前に新型コロナウイルスに感染しているという検査結果が出ていたということです。

しかし国務省は、14人を機内で隔離することで、ほかの乗客への感染を防ぐことができると判断し、帰国させることにしたということです。

www3.nhk.or.jp

(2020年2月17日)

 

アメリカ政府が手配した2機のチャーター機は、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」に乗っていたアメリカ人、338人を乗せて羽田空港を出発し、17日にカリフォルニア州テキサス州に到着しました。

これらのチャーター機には、新型コロナウイルスの感染が確認された14人が搭乗していましたが、アメリ国務省によりますと、カリフォルニア州に向かった飛行機の機内でさらに3人が発熱し、機内で隔離されたうえで到着後、医療機関に搬送されました。

www3.nhk.or.jp

(2020年2月18日) 

 

今回参照するCDCのステートメントは、現地18日付(日本時間では19日)で出されたものである。チャーター機で帰国しなかった人々(約100人)についてのものだ。文面はこちらから: 

edition.cnn.com

※CNN記事は一部抜粋。全文を確認したい方は下記から。

https://www.cdc.gov/media/releases/2020/s0218-update-diamond-princess.html

 

f:id:nofrills:20200220044930p:plain

2020年2月19日、CNN (CDCステートメント)

上記キャプチャ画像の引用部分(左側に赤い線がある部分)を読んでみよう。注目すべきはこのパラグラフの構造だ。ただ文章を見せられてもそこがわかりづらいと思うので、補助線的なものを書き入れてみよう。

【話の導入(前置き): We commend the extraordinary efforts by the Government of Japan to institute quarantine measures onboard the Diamond Princess. 【言いたいこと(トピック・センテンス): [相手のある外交的なことなので、相手への配慮を示した部分: While the quarantine potentially conferred a significant public health benefit in slowing transmission,] CDC’s assessment is that it may not have been sufficient to prevent transmission among individuals on the ship. 【具体的な説明(サポート・センテンス): CDC believes the rate of new infections on board, especially among those without symptoms, represents an ongoing risk. 【結論: Therefore, to protect the health of the American public, all passengers and crew of the ship have been placed under travel restrictions, preventing them from returning to the United States for at least 14 days after they had left the Diamond Princess.

 このように、「話の導入」、「トピック・センテンス」、「サポート・センテンス」、「結論」と、大きく4つに分けられる。このタイプのパブリック・アナウンスメント的な文の書き方としてはお手本通りだ。

 

最初の「話の導入」のところは、ここでは米国の政府系保健・公衆衛生機関が、自国民(米国人)の検疫を行っていた日本の政府に対する感謝の意を述べている。commendは「賞賛する」の意味で、役所の文書など堅苦しい文章で用いてしっくりくるような正式な語である。この文は、「ダイヤモンド・プリンセス号における検疫手段の設定に関する日本国政府のすばらしいご尽力に深く感謝の意を捧げます」というような意味。

で、せっかく褒められているのに何だが、これは読み飛ばしてよいところだ。よく恣意的な読み方をする人がこういう部分をとらえて「ほらみろ、日本はアメリカに褒められているじゃないか」と言い張るが、それは、「お前の気持ちもわかるが、ここはお前が折れなきゃならない」と言われて「気持ちを理解してもらえた」と喜んでしまうような的外れなことである。

 

次、2番目に来ているのが「主文」に相当するもの、「トピック・センテンス」だ。ここがこの文の要である。文の前半部分は、すでに上に示したように、CDCのいつもの文書(米政府機関から米国民に対する文書)とは違って「米国政府と日本政府」という関係に配慮しなければならないことから、やや長たらしく、相手(日本)への配慮を示している従属節で、《接続詞》のwhileが用いられている。「検疫は、感染を遅らせることにおいて、非常に大きな公衆衛生上の利益があったと考えられるものの」というのがこの節の意味だ。

そしてこの文の主節、"CDC’s assessment is that it may not have been sufficient to prevent transmission among individuals on the ship." これがこの声明文の中心である。太字で示したように《助動詞+have+過去分詞》の形が含まれていることにすぐ気づけるかどうかが読解の上では重要だ。may not have been ~は「~でなかったかもしれない」。

また全体の文の形、《~ is that ...》も覚えておくと便利な形である。

  My understanding is that humans are slaves to cats. 

  (私の理解するところでは、人間はねこ様の下僕である)

  My opinion is that cats are better than humans. 

  (私の意見は、ねこは人間よりよいということである)

というわけでこの部分の意味は、「CDCの評価では、それ(=検疫)は、乗船していた個人の間での感染を防ぐために十分ではなかったかもしれないということである」。つまり、ダイヤモンド・プリンセス号で行われていた検疫は、船上でのヒトからヒトへの感染を防ぐものではなかった、とCDCが結論したわけだ。

 

3番目のセクションである「サポート・センテンス」は、そのような結論についてもう少し具体的に説明する役割を持つ。

「トピック・センテンスのあとにサポート・センテンス」という構造は英語では鉄板の構造だが、日本語ではそういうふうに書く習慣があまりないので少しわかりづらいかもしれない。会話ならわかりやすいだろう。あなたが誰かと遊んでいるときに相手が「俺、そろそろ帰るわ」と言ったとしよう。あなたは「え? もう帰るの?」と言う。相手は「7時から塾なんだ」と説明する。この場合、「俺、そろそろ帰るわ」が《トピック・センテンス》で、「7時から塾なんだ」が《サポート・センテンス》だ。

論理的には、これを逆にしても意味は変わらない。つまり「7時から塾なんだよね。だから、俺そろそろ帰るわ」と言っても意味は同じだ。だが流れが違うし、あなたへの語りかけの度合いも違う。「7時から塾」(つまり理由)を先に言うのは、一方的にしゃべっている(通告している)ような感じになる。

というわけで、「検疫は十分ではなかった可能性がある」という《トピック・センテンス》に対する《サポート・センテンス》は、「乗船者の新たな感染の率、特に無症状の人々の間でのものは、現在進行形のリスクを示していると考えている」の意味。

「検疫は問題なかった」としている日本政府にとっては悪いニュースだ。

 

そして最後、therefore(「したがって」)に導かれて、結論が述べられる。このthereforeは「結論」を述べる《論理マーカー》である。

"to protect the health of the American public" の "to protect" は《to不定詞の副詞的用法》で《目的》を表す。「アメリカの公衆の健康を守るために」。

"all passengers and crew of the ship have been placed under travel restrictions" で現在完了形が用いられているのは、《完了》の意味。「(たった今)~された」ということだ。「この船の乗員乗客全員が、旅行制限下に置かれた」の意味。もう少しこなれた日本語にすれば「この船の乗員乗客全員に、旅行の制限を課すこととする」といったところだろうか。

その後、"preventing them from returning to the United States for at least 14 days after they had left the Diamond Princess." の "preventing" は《分詞構文》で、直前の部分の説明を導く。《prevent ~ from -ing》は「~にーさせない」の意味で、「彼らがダイヤモンド・プリンセスを後にしてから少なくとも14日間は、米国には帰還させない」の意味。

 

CNNの記事での抜粋はここで終わっているが、CDCのステートメントは次のように続いている。上の部分ではっきり内容がわからなかった部分がある人も、こうして先に読み進んでいくとより具体的なことが書かれているので、読んでみていただきたい。

Currently, there are more than 100 U.S. citizens still onboard the Diamond Princess cruise ship or in hospitals in Japan. These citizens have been placed under the restrictions, as have the ship’s other passengers and crew.

After disembarkation from the Diamond Princess, these passengers and crew will be required to wait 14 days without having symptoms or a positive coronavirus test result before they are permitted to board flights to the United States. ... 以下略

https://www.cdc.gov/media/releases/2020/s0218-update-diamond-princess.html

 

参考書: 

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