Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

前置詞+動名詞の使いどころ(「古代マヤ人がレーザーを使い」と読めてしまう文を修正する)

↑↑↑ここ↑↑↑に表示されているハッシュタグ状の項目(カテゴリー名)をクリック/タップすると、その文法項目についての過去記事が一覧できます。

【おことわり】当ブログはAmazon.co.jpのアソシエイト・プログラムに参加しています。筆者が参照している参考書・辞書を例示する際、また記事の関連書籍などをご紹介する際、Amazon.co.jpのリンクを利用しています。

今回の実例は、Twitterで回っていたついついくすりと笑ってしまうような例。

日本語で、修飾関係が少し複雑になると、文意が1つに確定できなくなることがある。先日Twitterで見て「すばらしい」と思ったのが、「頭が赤い魚を食べる猫」がどのように解釈されうるのかについての、下記の中村明裕さんの図解だ。

「頭が赤い魚」を「食べる猫」なのか、「頭が赤い猫」が「魚を食べる」なのか、というところまでは「ふむふむ、なるほど」なのだが、 「頭が魚を食べる」だとか「頭が猫」だとかいうところに来ると現実離れしてしまう。

その「現実離れ」をあえて作って遊ぶ、ということもできるし、そういう遊びは楽しいのだが、ある情報を端的に言葉で表現し、正確に人々に伝えることを仕事とするプロの書き手にとっては、そのような「現実離れ」のスキを作らない文を書くことが日々の業務で必須となる(さらにいえば、「頭が赤い魚」を「食べる猫」なのか、「頭が赤い猫」が「魚を食べる」なのかというところでも読者が迷わないように文を書くことも必要なのだが)。

英語でもこれは同じで、記者やライターは文意が曖昧・不明確にならないように書かねばならないし、メディアは、記者やライターによって書かれた文が意味不明確でないかどうかを確認してから*1公にする必要がある。

日本語は語順がかなり自由である一方で、英語は語順がかなりきっちり決まっているから、英語の文が「どうにでも解釈できる文」になることは、私が読んでいるものに関する限り、日本語よりは全然少ないのだが、それでも、英文を読むだけなら迷わないのに、日本語に訳そうとすると迷ってしまうという程度に意味が確定できないケースにはわりとよく遭遇する。訳そうとすると「はて」となってしまうということは、ただ読んでいるだけでは不明確さに気が付かずに通り過ぎていることもあるだろう。

……ということに改めて気づかされたのが、今日、Twitterの画面を見ているときのことだった。私がフォローしている米国のジャーナリストが、下記のツイートをリツイートしていたのだ。

"trigger" は名詞で「銃の引き金」の意味だが、ここでは動詞(他動詞)として用いられている。意味は、「《主語》 がきっかけとなって《目的語》が起こる」という意味であることが多く、例えば現在のコロンビア情勢についてのBBC Newsの解説記事には、"Here's a look at what triggered the protests and how they have grown." (「この記事は、何が抗議行動を引き起こしたのか、また抗議行動はどのようにして拡大してきたのかについての概観をまとめたものである」)という一節がある。

ただしここでの動詞triggerの用法はより口語的な場面でよく見聞きするもので、「~を動作開始させる」というような意味だ。よりこなれた表現にすれば「~のスイッチを入れる」だろう。つまり、 "trigger editors" は「編集者のスイッチを入れる」。ツイート全文は「このツイートは、編集者のスイッチを入れることを意図したものだ」と直訳されるが、要は「こんな文面見たら編集者がわらわらと起き出して仕事し始めるじゃないか」みたいな感じだ。

ここでツイート主のNoah Rothmanさん(彼自身、編集者として仕事をしている)が見ているのが下記のツイート: 

 私、最初これ読んだとき、「この文面のどこに、編集者がアップを始めるようなツッコミどころがあるのだろう」と思った。最後のusing lasersはresearchersがa massive ceremonial structureをdiscoverしたときの手段を表しているということは一読してわかるからだ。それ以外に解釈できない。

だが、次のリプライを見て、思わずふきだしてしまった。

つまり、ツイートの文面が、"Researchers discover ... using lasers" というふうには読めず、"the ancient Mayans using lasers" と読める、ということである。

ノア・ロスマンさんも上記の「編集者がアップを始めざるを得ないじゃないか」というツイートの次に、そういうツッコミを入れている。

 「編集者は両のこめかみに手をやって、そして余白にささっと書き込んだ。『古代マヤ人がレーザーを使って?』」。

なるほど、この英文は確かに文意が不明確だ。常識的には古代マヤ人がレーザーを使っていたなどという読解をする方がおかしいとは思うが、文構造がイマイチというのは確かにその通りである。

この問題を解決するためのたったひとつの冴えたやり方も提示されている。

そう、つまり、 "Researchers discover a massive ceremonial structure of the ancient Mayans by using lasers." とすれば、書き手が意図していないような読解をされることも、文意が不明確になることもない。《前置詞+動名詞》は偉大だ。

 

この実例のようなものは、書いてる本人は意外と気づかない。日本語だけでなく、英語でもこういうふうにして意味不明確になることがありうるということだけでも、知っておいてほしいと思う。自分で英文を書くときにとても重要なことなので。

 

※2900字

 

f:id:nofrills:20210716051448p:plain

https://twitter.com/NoahCRothman/status/1404461782048067587


 

 

 

 

 

*1:その作業がproof-readingである。

当ブログはAmazon.co.jpのアソシエイト・プログラムに参加しています。筆者が参照している参考書・辞書を例示する際、また記事の関連書籍などをご紹介する際、Amazon.co.jpのリンクを利用しています。