Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

【再掲】It is ~ that ...の強調構文, 同格, 仮定法(新型コロナウイルス、英国の方針転換)

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このエントリは、2020年3月にアップしたものの再掲である。

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今回の実例は、解説記事から。

BBC Newsのウェブ版では、何かかみ砕いた説明があったほうがよいような複雑なこと、背景を詳しく述べたほうがよいようなことなどを報じる場合に、その分野に精通した記者が解説を書くことがある。

それらの解説は、Analysis(分析)と位置付けられているが、いつ、どこで、何があったとか、誰がどういう発言をしたということを普通に淡々と書くスタイルの報道記事の中に、別個に区切った欄を設けて埋め込んであることもあれば、1ページ独立した形で記事を立てることもある。

今回見るのは後者のスタイルでのAnalysis記事で、トピックは新型コロナウイルス。感染の広がりにどう対処すべきかに関する英国政府の方針が、ほんの数日の間にがらりと変わった。そのことについての解説である。日本語圏ではいまだに、変更される前の英国政府の方針が「イギリスのやり方」として語られているが(翻訳や執筆のタイムラグがあるので、それは仕方がないのだが)、それら語られていることの多くが、書かれた時点でもう古い情報になってしまっている(「変更前の話」である)ことに注意が必要である。

閑話休題。記事はこちら: 

この記事は、英語としては大変に読みやすく、一読するだけで、目まぐるしく変わる状況を整理できるというお役立ちな記事なのだが、内容が内容なので、医学分野の素養がない私が日本語化することは避けたい(間違った訳語を選択してしまいかねないし、そういう悪意のない間違いがコピペなどで広まることで「デマ」になることもありうる)。よって、以下では日本語の対訳はいつも以上に少ないが、その点はご了解いただきたい。当ブログの主眼は、学校で習う英文法がどのようなときに実際の「生きた英語」で出てくるかを示すことにあり、記事の内容そのものについて述べることは当ブログではカバーしきれない範囲のことである。

記事では、ロンドンのインペリアル・コレッジ*1の研究チームが新たに出した論文を「決定的エビデンス(証拠)crucial piece of evidence」と位置づけ、ほんの数日前、先週後半に英国政府が示した対処方針が変更を迫られ、一般市民の日常生活に大きな影響が出ることになると、はっきりと述べている。

その論文の内容は、記事の最初の方でざっくりと説明されているが、論文そのものも誰でも自由に読めるようになっている。

 

論文では、Suppression, Mitigation, Do nothingの3つの対策が検討・分析されている。大雑把にいえば、Suppressionは中国で最初に武漢を閉鎖したときのようなやり方で、人の移動を制限して、とにかく感染させないようにすること。Mitigationは感染阻止は無理なので、感染拡大のペースを抑え、医療システムが対応できないほど多くの患者が急激に発生しないようにして、最も重症化リスクの高い人々を守るというやり方。Do nothingは文字通り、何もしないことで、論文だから可能な想定で、実際には行われないし、行われてもいない。英国が先週示した方針は2番目のMitigationであった――と、これが話を始める前提として述べられている。

 

そして、実例として見る部分: 

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2020年3月17日, BBC News

キャプチャ画像の最初のパラグラフ: 

It was on only Friday that Sir Patrick Vallance, the chief scientific adviser, explained the mitigation plan to the BBC.

太字にした部分は、《It is ~ that ...》の《強調構文》である。

そしてそのthat節の内容だが、"Sir Patrick Vallance, the chief scientific adviser," の部分は《同格》の表現。「政府首席科学顧問であるサー・パトリック・ヴァランス(バランス)」という意味だ。

というわけでこの文は、「政府首席科学顧問であるサー・パトリック・ヴァランスがmitigationのプランをBBCに対して説明したのは、(まだほんの数日前にすぎない)金曜日だった」という意味になる。

ちなみに、こういうとき英語圏では日付ではなく曜日で述べるのがお約束になっているのだが(「それって何日前よ」と思ったときにいちいちカレンダーを見なければならなくなるので、逆に面倒なのではと私などは思うのだが)、「先週金曜日」は13日、記事が出たのは17日(ひょっとしたら16日……私がこの記事を読んだのは17日だが、日本と英国は時差があるので、英国の日付では記事が出たのは16日かもしれない)で、17日は火曜日、16日なら月曜日だ。ジョンソン首相が科学顧問を引き連れて記者会見を行い「みなさんの大事な家族・友人がたくさん死ぬことになる」と述べ*2、即座にごうごうたる非難が起きたのが木曜日だった。日本語圏に閉じこもっていると見えていなかったかもしれないが、英国政府の対応の変化がいかに目まぐるしいか、これでわかっていただけるかと思う。

 

次の実例。キャプチャ画像で4番目のパラグラフ:

If mitigation worked it would have avoided the most draconian measures other countries have used and built up immunity, which would help limit the spread of coronavirus.

《仮定法》であるが、ぱっと見ると、if節が《仮定法過去》、帰結節が《仮定法過去完了》という、やや珍しい形である。

逆はよくある。つまりif節が仮定法過去完了で帰結節が仮定法過去という例は、学習参考書にも必ず出ているはずだ。「あのとき~だったならば、今…ではないのに」という状況は、実際にありふれているだろう。例えば、試験勉強をサボってしまって赤点をとり、追試を受けることになった場合。

  If I had studied a lot harder last week, I would be playing soccer now. 

  (もし先週、もっと一生懸命勉強していたら、今頃サッカーをしていたのに)

 

しかし今回の実例ではその逆で、if節が《仮定法過去》、帰結節が《仮定法過去完了》の形である。「もし今~ならば、あの時…だっただろうに」というのは論理的につじつまが合わない*3。どういうことだろうか。

ここは、帰結節が《仮定法過去完了》なのではなく、元の形が現在完了で《仮定法過去》なのだと考えられる。つまり、"If mitigation worked, it would have avoided..." は、直説法で書き直すと、"Because mitigation does not work, it haven't avoided..." となる、ということだ。

わかりづらいかもしれないが、この形は稀に遭遇する。逆に言えば、稀にしか遭遇しない。大学受験生のみなさんには、"it would have + 過去分詞" の形が100%仮定法過去完了とは限らない、ということだけ、頭の片隅に置いておいてもらえればと思う。

 

今回のBBCの解説記事は、ここまでが前段で、この先が本題である。ここまでの話を踏まえたうえで、この先の部分は各自でお読みいただきたいと思う。 

www.bbc.com

 

参考書:  

英文法解説

英文法解説

 
ロイヤル英文法―徹底例解
 

 

 

*1:Collegeはイギリスでは「コレッジ」というように発音するのでそのように表記する。アメリカでは「カレッジ」。

*2:ここでの私の日本語はずいぶんと乱暴な日本語に見えるかもしれないが、ジョンソンの英語での発言は実際にそういうニュアンスだった。意図的に元のことばを捻じ曲げているつもりはないということをお断りしておく。

*3:稀につじつまが合うケースもあるかもしれない。「今、雪が降っているが、さっきは暖かかった」ような場合、「雪が降っているとは信じがたい」という人が「今、雪が降っているのなら、さっきもっと寒かったはずだ」と述べるといったケースなら、if節が《仮定法過去》、帰結節が《仮定法過去完了》でも成立する。

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