Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

【再掲】聞き取りの練習, need to do ~, 間接疑問, not just A but also B, など(新型コロナウイルスに関する、アイルランド首相のすばらしいスピーチ)

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このエントリは、2020年3月にアップしたものの再掲である。

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今回の実例は、アイルランド首相のスピーチから。

カトリックの国であるアイルランドは、アイルランドキリスト教を広めた守護聖人聖パトリックの祝日である毎年3月17日を盛大に祝う。

元々このセント・パトリックス・デーは宗教的な礼拝の日であった。現在のようなバカ騒ぎや盛大なパレードという習慣は、かつてアイルランドから北米に移住・脱出した「在外アイリッシュディアスポラ)」の人々の間で始まったもので、アイルランド自体で盛大なパレードなどが行われるようになったのはここ数十年のことだ。

en.wikipedia.org

ともあれ、そのセント・パトリックス・デーのパレード、アイルランド共和国政府は、今年は新型コロナウイルスの感染拡大防止のために中止という判断を下していたのは、先日書いた通りである。

hoarding-examples.hatenablog.jp

中止の根拠は、人と人の距離が近い接触(濃厚接触)がウイルスを広めるということで、同じ根拠に基づいてパブも閉鎖された。アイルランドでパブが閉鎖されるなんて、日本でコンビニが一律閉鎖されるようなものだろう。

 

3月17日当日、アイルランドからはいつもの賑やかな光景とは異なり、ごくごく小規模な、ほほえましい「パレード」の映像などが流れてくることになった。

そしてその夜9時、公共放送RTE(日本でいうNHK)でレオ・ヴァラドカー(ヴァラッカー、バラッカー)首相の演説が放送された。ヴァラドカーは、自身が率いるFG党が2月の総選挙で第3党に甘んじることになり、退陣することを表明しているが、この総選挙の結果が実はすさまじいカオスで次にどの党が組閣することになるのかが全然決まらず、結局FG政権が、次の組閣が成るまでの間という条件で、暫定的に、選挙前と同じ顔触れで政権を担当し続けている。それを「ケアテイカー内閣」というが、政治がそういう不安定な状態のときに、アイルランド新型コロナウイルス禍が襲ったわけだ。

ヴァラドカーは、お父さんがインド出身の医師なのだが、本人も政治家になる前は医者として働いていた(病院勤務医を経て一般医の資格を取得)。つまり、医者としての経験がない多くの政治家と違って医療の現場を知っているし、専門的な説明についての理解が及ぶ範囲も広く深い*1。その彼のスピーチは、現状を冷静に分析した結果を政治リーダーとしてストレートに、言葉でごまかそうとせずに人々に伝えつつ、社会全体に「がんばろう」という気持ちを与える力強いメッセージだった。それも、フランスやイギリスで政治リーダーがやっているような「戦争というレトリック」に頼らずにそれを見事にやり遂げた*2。結果的に、アイルランドの多くの人々は支持政党にかかわらず「今、この人が首相でよかった」と思っているに違いない。

 

今回の実例はそのスピーチから。映像は下記: 


Ministerial Broadcast by Taoiseach Leo Varadkar about the Covid-19 pandemic

 

スクリプト(文字起こし)は下記で読める。耳で聞くための英語としてではなく読むための文面として整える編集が加えられているので音声と完全に対応してはいないが: 

Taoiseach Leo Varadkar's full speech on coronavirus as he makes state of the nation broadcast - Irish Mirror Online

 

スピーチらしくゆっくりはっきりと発話し、確実にメッセージを伝えようとしているので、「英語のリズム」をつかむための聞き取りの練習台になるだろう。内容も優れているし、ぜひ聞いてみていただきたいと思う。

 

文法的には下記のところを見ておこう。

映像で1:40~1:53のところから。(カッコ内は実際に発話されているが、アイリッシュ・ミラーのスクリプトでは省略されている部分。)「中学英語」で行ける。

We all need to take steps to reduce close human contact. That is how the virus is spread. Not just at public gatherings or public places but also in our own homes… places of leisure and (places of) work.

1文ずつ見ていこう。まず最初の文: 

We all need to take steps to reduce close human contact.

太字で示した《need to do ~》は「~する必要がある」。

下線で示した "to reduce" は《to不定詞の形容詞的用法》で直前のstepsという名詞を修飾していると考えられる。

文は「私たち全員が、人間同士の近い接触(濃厚接触)を減らすためのステップをとる必要があります」の意味。

 

2番目の文: 

That is how the virus is spread.

howの節は「いかに~するか」。中学で習う《間接疑問文》だ。

  Nobody exactly knows how the ancient people built the Stonehenge. 

  (いかにして古代の人々がストーンヘンジを建造したのか、誰も正確には知りません)

これに加えて、下線部で示した《That is how ~》という形は、直前で述べたことを受けて「そのようにして~するのである」ということを述べるための定型文的な表現。

  A dog wags its tail when it sees its owner. That's how they express their love. 

  (犬は飼い主を見ると尾を振る。そのようにして愛情を示すのだ)

spreadは活用形がない動詞で、過去形でも過去分詞でもspreadという形のままである(発音も変化しない)。この文の "is spread" は《受動態》で、「広められる」の意味である。

文意は「そのようにして(=人と人とが濃厚接触をして)、このウイルスは広められるのです」。

 

最後、3番目の文(動詞がないので、正確に言うと「文」ではなく「句」だが): 

Not just at public gatherings or public places but also in our own homes… places of leisure and (places of) work.

《not only A but also B》の構文で、onlyの代わりにjustが用いられている。「AだけではなくB」という意味はonlyでもjustでも同じである。

  Not just toilet paper rolls but also kitchen paper rolls are out ot stock! 

  (トイレットペーパーだけでなくキッチンペーパーも在庫切れだ!)

文意は「公的な集まりや公的な場だけでなく、自宅でも、余暇を過ごす場所でも、仕事場でも(同じです)」。

 

アイルランドは既に、屋外で500人以上、屋内で100人以上という上限を基準として、不特定多数の人が集まる場をウイルス対策のために閉鎖しているが(3月12日付の政府のガイドラインを参照)、それに加えて今回首相は、友人や家族との集まりも極力少なくするよう呼び掛けている。結婚式なども当面は控えてほしいという呼びかけだ。

小売業や電気・ガス・水道などは通常通りだが、生活必需でない分野は活動が完全に抑制される。日常生活に必要な買い物も、なるべく商店に行かずに、地元の店の配達を頼んでほしいという要請がなされている。まさに前例のないことをやらねばらななくなったアイルランドの首相は、この状況を一言でまとめて、次のように言葉にしている(4:05)。

In short – we are asking people to come together as a nation by staying apart from each other.

「簡潔に言えば、私たちは国民のみなさんに、お互いに距離を保つことで、国として一つにまとまっていただきたいとお願いしています」

 

2月の選挙が示したように、アイルランドは政治的に分断されていて、それも「あれかこれか」の二分というより「あれかこれかそれか」の3分に加えて「どれでもない」の4分のような状態だ。ヴァラドカーは選挙区でも苦戦して何とか議席を獲得したにすぎないし、党がボロ負けしたことももちろん知っている。その上で、国民をまとめて一つの方向に、それも「個々人の自由な活動を抑制する」という方向に持っていかないとならない立場にある。

そこでこのような言葉で、支持者に対してだけでなく、国民全体に語り掛けることができる政治家、語り掛ける言葉を持っている政治家は、世界的にもまれな存在だろう。

実に、アイルランドは「言葉の国」である。

 

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https://youtu.be/hNmm5OLBx8c

 

参考書:  

アイルランド紀行 - ジョイスからU2まで (中公新書)
 
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  • 発売日: 2010/03/22
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

 

*1:そのわりに、緊縮財政を情け容赦なく医療などの分野にも適用してきたし、そのために選挙で負けたのだが。

*2:アイルランドは軍事的に中立国である。国連PKOでは大活躍しているが。