Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

否定語+最上級, 感覚動詞(知覚動詞)+目的語+動詞の原形, など(チャーリー・ワッツ死去)

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今回の実例は、再度予定稿から変更して(すみません)、報道記事についている解説から。

ほぼ60年間、ずっと同じロック・バンドでドラムを叩いてきたミュージシャンが亡くなった。私が、ここ日本で「洋楽」と呼ばれるものを自分から進んでラジオで聞くようになったころにはもうとっくに「ベテラン」扱いされていて、つまり私と同世代の人たちはあえて聞こうとはしなかったザ・ローリング・ストーンズというバンドのドラマーだ。

クソ生意気な子供にとって、リアルタイムでTVの音楽(「洋楽」)番組から流れてくるのを聞く限りでは、このベテランたちの音楽は、あえて自分から探して聞くようなものではない、という印象だった。リアルタイムでなく古い曲でも、Satisfactionなど超有名なのは、自分から探すまでもなく、ラジオや商店の有線放送でよく流れていた。自分から探して聞くようになったのは、やや成長して、自分が生まれる前からまだよちよち歩きだったころの音源を積極的に聞くようになったあとのことで、それも「超有名な曲以外のも知っていないと話にならない」という、謎の「教養」じみた必要性を感じたからだったのだが、そんなのぶっとばすくらいの「なにこれかっこいい」っていう驚きがあって、それからはレンタル屋で借りるなどして一通り聞いた。海外旅行に持って行ったカセットテープにも入ってた。ロンドンではこの人たちの曲に救われたことが何度かある(あの場所で聞くあの音は、特別なものだった)。だから、(語れるような蘊蓄を自分の中にため込んでいるわけではないし、聞くアルバムも限定的だが*1)自分はそれなりにこのバンドの「ファン」であると、ここ30年くらいは思っている。

www.youtube.com

戦争や紛争のニュースに接すると、自動的に頭の中で再生されるのも、このバンドの曲である。

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これらの楽曲で、屋台骨的な役割を果たしているのが、亡くなったチャーリー・ワッツのドラムである。

というわけで、今回の実例は、チャーリー・ワッツが亡くなったことを伝える報道記事(オビチュアリー、つまりいわゆる「訃報記事」とは別のもの)より、音楽専門記者の解説的な部分より。記事はこちら。

www.bbc.com

記事自体は、見習い記者がウィキペディアを見て、Twitterをしきりにリロードして書いたような、報道記事というよりは「まとめ」記事だが、この記事の中ほどに、"By BBC music reporter Mark Savage" というクレジットがあるセクションがある。そこから: 

 

f:id:nofrills:20210825180634j:plain

https://www.bbc.com/news/entertainment-arts-58316842

第1文: 

Charlie Watts was never the most flashy drummer.

太字にした部分は、単なる《最上級》だが、実際に何かと比べて「最も~な」と言っているわけではない。最上級は、下線で示したように否定語を伴って、「とても~な」の意味になることがある(否定語と合わせて「あまり~でない」の意味)。この最上級は『ロイヤル英文法』で「絶対最上級」として解説されているのだが(2000年に出た改訂新版のp. 367)、日常の会話などでは特にこの「否定語+最上級」で「あまり~ない」の意味をあらわしている例に、かなり頻繁に遭遇する。

  Rochdale’s team doctor has said it is “not the wisest thingfor football to continue as Covid-19 sweeps through the sport...*2

  (ロッチデールのチームドクターは、新型コロナウイルス感染がスポーツ界にも広がるなか、サッカーがこのまま続行するのは「あまりよいことではない」と述べた)

というわけで、今回実例としてみているこの文は、「チャーリー・ワッツは、あまりflashyなドラマーではなかった」という意味になる。この文を《トピック文》として後続している《サポート文》で言及されているドラマーの例を見れば、「チャーリー・ワッツは、これ見よがしに派手なことをやってみせるタイプのドラマーではなかった」くらいに翻訳できるだろう。

第2パラグラフ: 

A jazz aficionado, he fell in love with the drums after listening to Chico Hamilton play brushes on Walking Shoes; and was only introduced to the dark arts of rock 'n' roll by Mick Jagger and Keith Richards in the early 1960s.

下線で示した部分は、《be動詞 (being) が省略された分詞構文》と考えられるのだが、この形も、毎日英文記事に接していれば毎日どこかで見るくらいに頻繁に用いられる形である。

  A talented singer, he has also released some solo songs outside of BTS*3

  (彼は才能ある歌い手であり、BTSとは別にソロで何曲かリリースもしている)

"aficionado" は、見ればわかる通り、スペイン語からの借用語で、意味は「熱烈なファン」。英語にもそれを表せる単語はいくつかあるのだが(enthusiast, buff, freakなど)、あえてこの借用語(外来語)を使うのがしっくりくる文脈というものがあるらしく、音楽分野はそれに該当するようだ。何となく20世紀後半にアメリカで流行したような新しい借用語かなと思ったのだが、Merriam-Webster辞書によると1800年代初めに英語に取り入れられたものだそうだ。詳しく調べてみたらおもしろいかもしれない。

太字で示した部分は、《感覚動詞(知覚動詞)+目的語+動詞の原形》の構造。文意は「ジャズの大ファンだった彼は、チコ・ハミルトンがWalking Shoesでブラシを使って演奏するのを聞いたあとで、ドラムに夢中になった」となる。

記事ではここで、下記の映像にリンクが入っている。バリトン・サックス奏者のジェリー・マリガンが、トランペットのチェット・ベイカー、ベースのボビー・ウィトロック、ドラムのチコ・ハミルトンと共演した演奏(音のみ。画像はスライドショー)。

www.youtube.com

 

さて、このパラグラフの後半部分:

...; and was only introduced to the dark arts of rock 'n' roll by Mick Jagger and Keith Richards in the early 1960s.

朱字で示した《セミコロン》は、《コンマ》の代用と考えてよく(コンマよりも見た目的に重い感じになるので、読者は一度ここで目を止めることになるが)、文の構造としては、 "he fell in love with the drums ... and (he) was only introduced to the dark arts of rock 'n' roll" という形になっている。この文構造からはストレートには読み取れないが、筆者が何を言いたいかというと、「チャーリー・ワッツは元々はジャズの人で、ロックンロールは、後にザ・ローリング・ストーンズとなる面々に会うまでは知らなかった」ということである。

BBC記事でこの解説文を書いているマーク・サヴェッジは、1974年北アイルランドのベルファスト出身の音楽記者(彼が生まれたころにはストーンズはもうキャリア10年を超えていたし、ブライアン・ジョーンズという重要な初期メンバーは他界していた)。個人的に、この人の名前がある音楽関連の記事は読んでみようかなという気になるものが多い。

ほか、ガーディアンのアレクシス・ペトリディス、デイリー・テレグラフのニール・マッコーミックと、記事を見かけたら読んでみる価値がある書き手の記事をざっと読んで、Twitterのスレッドにまとめてある。よろしければ。どれか1本だけ読むのなら、テレグラフのニール・マッコーミックの記事がよいと思う(この人の音楽評論の文章はほんとにいいよね): 

 

 

※最後のツイートの貼り付けを除いて、3800字

 

 

 Between the ButtonsはUK盤とUS盤で収録曲が違う。ジャケ写はフォトグラファーがレンズにワセリンを塗ってこの効果を得たもので、画像加工ではない。裏ジャケにマンガみたいなのが載っているが、これがチャーリー・ワッツの作(彼はフルタイムのミュージシャンになる前はグラフィック・デザイナーとして仕事をしていて、ストーンズのステージのデザインにもかかわっていたそうだ)。

RIP Charlie Watts. 

 

 

*1:80年代以降のこういうメインストリームのバンドの音作りが実は苦手で、曲の良さとは別に、スタジオアルバムが聞けないというのがけっこうある。デジタル・ディレイとかメインストリームのロックバンドが使うシンセが苦手で……だからリアルタイムでそういうのが流行っていたときに、反動みたいにして60年代ものを聞いていたというのはあるかもしれない。

*2:英文出典: https://www.telegraph.co.uk/football/2020/12/29/probably-not-wisest-thing-moment-doubts-grow-football-continuing/ 

*3:英文出典: https://www.wionews.com/entertainment/bts-singer-v-turns-25-burj-khalifa-lights-up-in-his-honour-353412 

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