Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

not A but B, A not B (アメリカは、何のためにアフガニスタンに介入したのか)

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今回の実例は、Twitterから。

アフガニスタンが大変なことになっている。ぼーっと見ていると気づかないかもしれないが、もともとアフガニスタンは「タリバンか、(こないだカブールから逃げた)ガニ大統領の政府か」の二項対立というか二択ではなく、ガニ大統領の政府がアフガニスタンを捨てて逃げ出してタリバンが政権を掌握したからといって、そして、仮にタリバンのあれやこれやを無視して「タリバン政権」を前提として受け入れるとしても、それでさくっと次の局面に進めるわけではない。簡単に言えば「タリバン以外」の武装勢力軍閥)がいっぱいあるからだ。

そして、8月半ばにタリバンがカブールに入ってからも、それらの「タリバン以外」について、識者筋は、わかっていることに基づいて分析などしてきたわけだが、そういう中でほとんど語られていなかった集団が、日本時間で昨夜遅く、退避を急ぐ人々が密集しているカブールの国際空港で、自爆攻撃を行った。犯行声明を出したのは、イスイス団の系統でアフガニスタンを含むあの地域で組織された武装勢力である。この地域には「ホラサン (Khorasan)」という古い名称があり、この武装勢力は、英語圏などでは、地名の頭文字をとって "ISIS-K", "IS-K" などと呼ばれている(ウェブ検索するときには、現状、前者のほうが都合がよい)。本稿でも「イスイス団K」と書くこととしよう。

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https://www.ecosia.org/search?q=ISIS+K

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https://www.ecosia.org/search?q=IS+K

8月半ばにタリバンがカブールに入ってからというもの、私の見るTwitterの画面では、バイデン大統領によるものすごく極端な米軍撤退の決定に対して、米国内外から批判的な意見が次々と流れてきているのだが(特に英国からの批判は多いが、保守党筋であってもジョンソン政権とは直接関係のないところからしか批判は出ていないようである。このあたり、英国は老獪)、イスイス団Kのような武装組織にこのような攻撃を行わせてしまったあとでは、なんというか、「何とも言えないムード」としか言いようのないものが漂っていて、ワクチン接種後の腕の痛みと倦怠感がまだ残っていて*1、暑さと冷房でぼーっとしている私には処理しきれない。

今回の実例は、そういう中で流れてきた、米国の大物外交官の言葉から。

非常にあけすけな、あるいは冷徹な言葉であるが、この認識を持っているかどうかは極めて重要だと思う。

ツイート主のリチャード・ハース氏は、米外交問題評議会 (Council on Foreign Relations: CFR) の会長を務めるベテランの外交官。ジョージ・W・ブッシュがおっぱじめた「テロとの戦い対テロ戦争)」のしょっぱなから、政策決定権のある人々のいる場所にいた人で、北アイルランド紛争の後処理(ピース・プロセス)にも、北アイルランドに入って長い時間をかけて提言を行うという形でかかわっている(が、北アイルランド北アイルランドなので、非常に優秀な補佐役をつけていたハース氏でも、何ともすることができなかった)。

ツイートの第1文: 

The purpose of nation-building in Afghanistan was not to build democracy but to build a security force able to hold off the Taliban & terrorists. 

"nation-building" とか "state-building" とかは、現状、ちょっとものすごいホットなトピックスになっていて解説しづらいので詳しいことは私ごときにはとても書けないのだが、そこは飛ばして、英語の形式だけを見ていこう。

この文は、太字で示したように、《not A but B》の構文で、「AではなくBである」という意味の文である。

この構文は、こんがらがっている議論をいったん整理するときに用いられる。「なんで英語やるの」という疑問で頭がいっぱいになっているときに、自分の中で「英語を勉強する目的は、テストでよい点数を取ることではなく、英語を使えるようにすることだ」といった感じで整理すれば、目的が明確化されるだろう。そういうふうに、話をすっきりさせて次に進むもうというときにこの構文がよく用いられるのである。

下線で示した "able" は、直前の名詞を後ろから修飾する句を導いている。と言うと難しく感じられるかもしれないが、"a security force that is able to hold off ..." というように、関係代名詞とbe動詞を補って考えることができると言うとわかりやすくなるかもしれない。

文意は、「アフガニスタンにおけるネイション建設(国家建設)の目的は、民主主義を打ち立てることではなく、タリバンおよびテロリストたちをhold offすることができるsecurity forceを構築することであった」(考えている時間がないので、一部原語のままにしておくことをご容赦いただきたい)。

 

第2文: 

We did this out of self-interest.

太字の "this" は《指示代名詞》で、指示しているのは全文の内容だが、もっと短く、"nation-building in Afghanistan" と考えてもよい。ここではむしろその方が読みやすいかもしれない。

下線で示した "out of ~" は、「~から」の意味だが、これは物理的にも、ここでのように概念としていうときにも用いられる。これは自分が使いたい時に、使いたいようにしておきたいイディオムのひとつである。

  He took a book out of his bag. ※物理的な例

  (彼はバッグから、1冊の本を取り出した)

  He asked the question out of curiocity. 

  (彼は好奇心から、その質問をした)

 

最後、第3文: 

The improved human rights situation was a positive byproduct of our efforts, not the rationale.

この文は《A, not B》の形で、意味は「BではなくAである」。

文意は、直訳すると「改善された人権状況は、わが国のeffortsのpositiveな副産物であり、(わが国のeffortsの)理論的な根拠ではなかった」。

つまり、「結果的に人権状況は改善されていたし、それはよいことだったが、そもそも米国は、人権状況の改善を目的としてアフガニスタンに介入したわけではない」ということだ。

バイデン政権の政策決定者がこの認識を持っているかどうかは、極めて重要である。私はどちらかというと悲観的だが。

 

なお、イスイス団Kについては、黒井文太郎さんの解説記事が、英語圏各メディアの同じ趣旨の記事よりも背景情報が多く盛り込まれている。ご一読をお勧めする。

friday.kodansha.co.jp

 

 ※3300字

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https://twitter.com/RichardHaass/status/1431013239630962691

 

 

 

 

 

 

 

*1:1週間程度は続くこともあるとのことで、私もそのケース。

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