このエントリは、2020年5月にアップしたものの再掲である。
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今回の実例は、イギリスで起きていることについての報道記事から。
英語では「人種差別的な暴言を吐かれる」ことを、日常的には、 be racially abused と表す(「ヘイトスピーチ」という法律文書に出てくるみたいな抽象的な用語はこういう場面ではあまり使われない)。
abuseはuseにab-という接頭辞がついた語で、「~を正しくないやり方で使う」が原義、つまり「~を乱用する」で、これはケンブリッジ英語辞典では "to use something for the wrong purpose in a way that is harmful or morally wrong" と定義している。そこから転じて、「~を残忍なやり方で扱う、~を虐待する」の意味、また、「~に対して普通はありえないような失礼で侮辱的な言葉を使う」の意味になる。
「人種差別的な暴言を吐かれる」be racially abused は、この3番目の意味のabuseの受動態の表現だ。それが今回見る記事の見出しに入っている。
記事はこちら:
報道記事の見出しだから、-edは動詞の過去形ではなく過去分詞で、be動詞が省略された受動態である。この省略されているbe動詞を補って書くと次のようになる。
BBC reporter was racially abused while reporting on Covid-19 in Leicester
つまり、「BBC記者が、レスターでCovid-19について報じているときに、人種差別の暴言を吐かれた」という記事だ。
この "racially abuse" は、見出しの下に示されているリード文(見出しに補足する形で、記事の要点を短く述べた文)で "a man shouting 'terrible things' at her" と言い換えられている。"terrible things" に引用符がついているのは、それが警察が使った表現そのものだからである(この引用符の使い方のルールについては、つい先日もまた説明したばかりなので、そちらをご参照いただきたい)。
実例として参照するのは、記事の下の方から。見出しになっているBBC記者Sima Kotechaさんのケースとは別に、他にもこんな人種差別事例がある、と述べている箇所だ。
キャプチャ画像にあるBAMEは英国では普通に用いられる略語で*1、 "Black, Asian, and minority ethnic" のこと。この頭文字を続けたものを1つの単語のように読むので、発音は「ベイム」となる(「ビー・エイ・エム・イー」ではない)。AsianをMEに含めてBMEと言うこともある。
ここで差別体験を語っているRashidはInzamam Rashidさん。Sky Newsの記者である。名前を見ればわかると思うが、彼もまたBAMEの人である。Twitterのプロフィール欄に「ウルドゥ語も使う」とあるのでパキスタンかインドにルーツのある人だろう。
そのラシドさんの発言から:
“I am used to receiving racist abuse, unfortunately, but I’ve been getting it in such volumes recently that it has really shocked me,” he said. “The majority of threats and the abuse and the nastiness is directed at this one story about BME disproportionality.”
セクションごとに順番に見ていこう。
I am used to receiving racist abuse, unfortunately,
《be used to -ing》は「~することに慣れている」。このtoはto不定詞のtoではなく普通の前置詞なので、直後は名詞となるため、動名詞の-ingが来ているわけだ(look forward to -ingのtoの後が動詞の原形でなく動名詞なのと同じ理屈)。
racist abuseは、本エントリの上の方で説明したbe racially abusedを踏まえていればわかりやすいと思うが、このabuseは名詞として用いられていて、racistは形容詞で「人種差別主義の」(「人種差別主義者」という名詞ではない)。raciallyという副詞の元になっているracialという形容詞を用いずにracistを用いる点など、慣れていないとなかなか難しい、理屈通りではないところがあるが、racist abuseで「人種差別の暴言」というセットフレーズとして覚えておくとよいだろう。
この部分の意味は「残念なことに、私は人種差別の暴言を受けることには慣れています」。
次。
but I’ve been getting it in such volumes recently that it has really shocked me
下線部は《現在完了進行形》。「ずっと~している、~し続けている」。ここでは少し後の方にあるrecentlyとつながっている。
太字で示した部分は《such ~ that ...》の構文である。これは《so ~ that ...》の構文ととてもよく似ている。違いは、suchのあとには名詞が来て、soのあとには形容詞・副詞が来るということ。
Emma is such a kind person that nobody dislikes her.
Emma is so kind a person that nobody dislikes her.
(= She is so kind that nobody dislikes her. )
(エマはとても親切な人なので、彼女を嫌う人はだれもいない)
volumesは「大量の何か」の意味で、in volumesは「大量に、ものすごい量で」。
というわけで文意は「しかし、最近はものすごい量でそれ(=暴言)を受けているので、本当にショックを受けています」。
次。
“The majority of threats and the abuse and the nastiness is directed at this one story about BME disproportionality.”
ややイレギュラーな形でandが2度出てきているが、これはこの個所がラシドさんがしゃべったまま文字起こししたものだからだろう。標準的な書き言葉では、「AとBとC」と言うときは A, B and C と、andは一度しか使わないことになっているが、口頭での発話では A and B and C と言うこともある。
nastinessは形容詞nastyの名詞形で、ここでは「嫌味」の意味。
disproportionalityは形容詞disproportionalの名詞形。ここでは、人口全体に占めるBAMEの割合から考えて不釣り合いなほど多く、COVID-19でBAMEの人々が亡くなっていることを述べている。
文意は「脅迫の大半と暴言と嫌味は*2、黒人・エスニックマイノリティが不自然なほど多く死亡していることについての1本の報道に向けられています」ということ。実際に
ラシドさんの3月末の報告のクリップがYouTubeにあった。ここではBAMEの人々の犠牲者が多いという話はしていないが、こういうふうにニュースに出てくる記者だということは確認できるだろう。
母音の一部にクセがあるなと思ったら(「ア」が「オ」になることがある)、ウォリントン出身だそうだ。リヴァプール~マンチェスターの中間地点。
ウォリントン在住の人が町を紹介するビデオを見ると、アクセントの特徴がよくわかるだろう。
参考書: