このエントリは、2020年5月にアップしたものの再掲である。
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今回の実例は、今月上旬にガーディアンに掲載された論説記事から。トピックは新型コロナウイルスと科学の現場について、書いたのはノーベル賞を受けた科学者である。明確にして明晰に、論理的に「何がどうである」ということを説明している文章で、私が高校生のころ、こういう文章をざばざば浴びるように読める環境が現在のように実現されていたら、さぞかし勉強がはかどったことだろうと思わずにはいられない文章だ。受験生のみなさんにはぜひ、全文を読むことをおすすめしたい。
記事はこちら:
この論説記事の筆者、サー・ポール・ナース*1は遺伝学者で、2001年に他2人の科学者と共同でノーベル医学・生理学賞を受賞した。2010年から15年まで、任期5年の王立協会(ロイヤル・ソサイアティ)会長を務め、現在は2010年創立のフランシス・クリック研究所のトップとして科学研究の現場に関わり続けている。
実例として見るのは、記事の書き出しの部分。
第一文:
If we are to return to our normal lives, we need answers to many questions and they will only be delivered by science and medicine and their applications.
太字で示した部分は《if + S + be + to不定詞》の形になっている。
《be+to不定詞》に関しては、以前のエントリの解説をここにもコピペしておこう。
《be+to do ~》は、高校の文法の授業で「予定、義務・命令、運命、可能」などと暗唱させられてうんざりしてしまった人も多い項目だろう。要は「まだ起きていないこと」(あるいは「すでに起きているとは限らないこと」)を言う表現で、それぞれ文脈的なことで訳し分ける必要があるので「予定、義務・命令……」という例の呪文のような《用法》が出てくるわけだ。
例えば「予定」は下記のようなもの:
We are to arrive at Shinjuku station in half an hour.
(あと30分で新宿駅に到着します)
「義務・命令」はこんな感じ:
You are to finish your homework before you watch TV.
(テレビを見る前に宿題を終わらせなければいけませんよ)
「運命」は「予定」のバリエーションと考えることもできる:
Tommy was never to return to his hometown.
(トミーは故郷の町に二度と戻ってくることがない運命だった/二度と戻ってくることはなかった)
「可能」は通例否定文で、toのあとは受動態の形になっている:
Not a soul was to be seen on the street.
(街路には人っ子一人見当たらなかった)
これらのうち、「可能」は少し毛色が違うが、残る用法は「まだ起きていないがこれから起きるはずのこと」を言うものだということが共通していて、基本的には「予定」の用法をしっかり把握しておくことが重要だ。
この《be+to不定詞》がif節の中に入ると、「予定」(「今後において~する」)にifの「~するなら」が合わさって、「目的」、あるいは「意志」の意味になる*2。つまり、「もし(どうしても)~するつもりならば」だ。最もよくある、わかりやすい例文が下記。
If you are to succeed, you must work hard.
(成功するつもりならば、一生懸命勉強しなくてはならない)
今回の実例の "If we are to return to our normal lives" は、「私たちが通常の生活に戻るつもりであるならば」の意味となる。
さて、そのif節を受ける帰結節:
we need answers to many questions and they will only be delivered by science and medicine and their applications.
「~の答え」は《answer to ~》。前置詞がofなどではなくtoであることをしっかり覚えておこう。「~の鍵」の《key to ~》とペアにして覚えてしまうと効率がよいだろう。
下線で示した "they" は "answers" を受けている。「私たちには多くの問いの答えが必要であり、それらは……」。
"will only be delivered" は、onlyはいったん外すとして "will be delivered" となるが、《will (助動詞) + 受動態》の形。このdeliverはとても日本語にしづらい単語で、翻訳の仕事でこれが出てくると「うぐぅ……」とうなってお茶でも淹れようかとなるのだが、この場合は「答えを出す」ということだ。
"science and medicine and their applications" は、一見、A and B and C という奇妙な形になっているように見えるが、実は science and medicine でひとまとまりのフレーズで、それに and their applications がついている形。「バターを塗ったパンとりんご」が bread and butter and an apple となるのと同じ理屈である。
というわけでこの文は、「私たちが通常の生活に戻るつもりであるならば、私たちには多くの問いの答えが必要であり、科学・医学とその応用だけがそれらの答えを出すことになろう」の意味となる。もう少しわかりやすく日本語にすれば、「通常の生活に戻るつもりなら、多くの疑問の答えが必要となるが、その答えを出せるのは科学・医学とその応用だけだ」ということになる。
第二文も重要な文法事項が入っているので取り上げたいのだが、今回は説明がかさばって、既にかなり長くなってしまったので、それは次回に持ち越すことにしよう。
参考書: