今回の実例は、Twitterから。
「受験英語・英文法的に解説するところのあるものがないなー」と思っていたところに流れてきた、「受験英語そのまんま」の実例である。「奇跡が起きた」と書き立てたいところだが、「奇跡 miracle」という宗教的な意味合いのある語はそう軽々しく使うものではないということは十分にわきまえているつもりなので、「もっけの幸い」という、昔話の絵本にでも出てきそうな日本語の言い回しで、今回のことを記憶しておこうと思っている。
閑話休題。その、偶然にもどんぶらこどんぶらこと流れてきたツイートはこちら:
"If Sinn Féin were to become the largest party that would present a real problem for unionism." @J_Donaldson_MP on the prospect of recent election predictions ringing true.
— View From Stormont (@ViewFrmStormont) 2021年9月13日
See the full interview on #VFS at 10:45PM pic.twitter.com/sRbkrwvajF
このツイートをしているアカウントは、北アイルランドの放送局UTV’(ブリテンのITV系列局)が週一度やっている政治番組、"View from Stormont" のもの。
Stormontはベルファストのすぐ外側にある地域の名称。ここには北アイルランド自治議会をはじめとする立法・行政機構*1が集中しているので、ちょうど日本語の「永田町」のような意味合いで用いられる。「ストーモント」は元々は19世紀初頭に作られた大邸宅の敷地の名称だが、その後持ち主が外国に移り住んだために手放されることとなり、1921年に北アイルランドが成立した際、同自治議会 (the Parliament of Northern Ireland) と自治政府 (the Government of NorthernIreland) の場所として購入され、以降必要に応じて様々な建物が作られてきたので、19世紀の様式(スコットランド式)のストーモント場から、20世紀後半のモダニズム建築まで並んでいて、「たてもの園」の趣すらある。最も頻繁に「ストーモント」と言及されるのが、古典主義様式の白亜の美麗な建物である自治議会の議事堂で、これは1921年の北アイルランド成立時のまま "Parliament Buildings" と呼ばれているが、現在(1998年和平合意以降)の自治議会の位置づけは parliamentではなくassemblyであることに注意が必要である*2。
なんてことを書いているとエントリが書き終わらないのだが、UTVの "View from Stormont" という番組は毎週月曜日の夜に放映され、北アイルランドの政治家たちへのインタビューや政治専門のジャーナリストによる分析などが行われる。Twitterアカウントのページに記載されている番組のサイトのURLはデッドリンクになっているので(こういう細部の詰めの甘さが何とも言えない「イギリスあるある」感をかもしだしていて嫌いじゃない)、番組詳細について知りたい場合は(今のところは)下記へ:
このツイートの第1文を見た瞬間に、「おお、なんと見事な」と声を上げずにいられる受験英語屋などいようか。いや、おるまい。(反語)
一応、ちょっとコンマの使い方が規則通りではないのでそこを朱字で補うと:
If Sinn Féin were to become the largest party, that would present a real problem for unionism.
《if節の中のbe+to不定詞》!!!!!
説明は以上。
あとはこの見事な例文を鑑賞し、堪能しましょう。
文意は「万が一にも、シン・フェインが最大政党になるようなことがあれば、それはユニオニズムについて本当の問題を呈するであろう」と直訳される。
この直訳文のぎこちなさはおいておくとして、この文意が取れない場合は、おそらく「シン・フェインが北アイルランドにおいて第一党になるということはどういうことか」「ユニオニズムとは何か」という、言語(文法、シンタックス)の外側にあるコンテクストがわかっていないということなので、そちらはまた各自で頑張って調べるなどしていただきたい。ジェフリー・ドナルドソンのこの発言について、思うところはいろいろあるが、それは当ブログの範囲外のことだから、今回はここまで。
※2250字