Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

【再掲】やや長い文, 前置詞+関係代名詞, to不定詞の副詞的用法(新型コロナウイルスと科学の現場)

↑↑↑ここ↑↑↑に表示されているハッシュタグ状の項目(カテゴリー名)をクリック/タップすると、その文法項目についての過去記事が一覧できます。

【おことわり】当ブログはAmazon.co.jpのアソシエイト・プログラムに参加しています。筆者が参照している参考書・辞書を例示する際、また記事の関連書籍などをご紹介する際、Amazon.co.jpのリンクを利用しています。

このエントリは、2020年5月にアップしたものの再掲である。

-----------------

今回の実例は、前回と同じ、ノーベル賞を受賞した科学者が書いた論説記事から。

前回は記事書き出しで、「(ロックダウンという厳しい行動制限から)普通の生活に戻るうえでは多くの疑問が生じる。それには科学・医学によって解を導き出すことが必要だ」という内容を、書き出しで述べている部分を見た。今回はそれに続く部分を見よう。

記事はこちら: 

www.theguardian.com

この論説記事の筆者、サー・ポール・ナース*1は遺伝学者で、2001年に他2人の科学者と共同でノーベル医学・生理学賞を受賞した。2010年から15年まで、任期5年の王立協会(ロイヤル・ソサイアティ)会長を務め、現在は2010年創立のフランシス・クリック研究所のトップとして科学研究の現場に関わり続けている。

f:id:nofrills:20200514054737p:plain

2020年5月2日, the Guardian

第二文:

In fact, the speed with which the virus has spread around the globe has been matched by the speed with which many scientists have mobilised themselves to take on this pandemic.

この文は、ぱっと見たときに、太字にした部分が浮かび上がるように見えているのではないかと思う。そう、《前置詞+関係代名詞》だ。

同時に、この文は少々長くて、何が文の主語で何が動詞なのかが少々つかみづらい。まずはその部分をクリアしてしまおう。

文構造を明らかにするためにスラッシュやカッコを入れると、次のようになる。

In fact, / the speed ( with which the virus has spread /around the globe has been matched by the speed ( with which many scientists have mobilised themselves /to take on this pandemic ) .

冒頭の "in fact" は文構造にかかわらないので外して考えてよい。

下線を施した "the speed" が主語、"has been matched" が動詞で、文の骨格は、"the speed has been matched by the speed" となる。

そして、2つある "the speed"それぞれを、《前置詞+関係代名詞》の形になった関係代名詞節が修飾している、という形だ。

《前置詞+関係代名詞》は今年のセンター試験でも出題されたが、国公立二次や私立大入試の下線部和訳などでも常連の文法項目である。もちろん、いわゆる「受験英語」を超えた実用英語でも(ここで見ている記事のように)よく出てくる。

なんとなく「わかりづらい」というイメージが先入観になっていてとっつきづらいかもしれないが、実はそんなにわかりづらいものではない。次のように考えればよいのだ。

  The virus has spread around the globe with the speed. という文

  → the speed which the virus has spread around the globe with という節 (1)

  → the speed with which the virus has spread around the globe という節 (2)

節 (1) の形のままでも、文法的には全然かまわない。だが、英語は「前置詞が最後に来る」ことをあまり好まない。「別に間違いじゃないんだが、できれば前置詞は文の最後には置きたくないかな」みたいな感覚がある。だからわざわざ、節 (2) のような形で書き直すわけだ。特にフォーマルな文(新聞記事とか役所の文書とか)では、節 (2) のような形が標準的という扱いになっている。文法チェックを提供するオンラインサービスのGrammarlyでは、「節 (1) の形も節 (2) の形も、どちらも正しいが、フォーマルな文では (1) のほうがふさわしい。重要なのは前置詞の存在を忘れて書き落とすということがないようにすること」と端的にまとめている。

www.grammarly.com

 

今回の実例の文後半の "the speed with which many scientists have mobilised themselves to take on this pandemic" も同じことで、次のように考えればよい。

  Many scientists have mobilised themselves to take on this pandemic with the speed.

  → the speed which many scientists have mobilised themselves to take on this pandemic with

  → the speed with which many scientists have mobilised themselves to take on this pandemic

"to take on this pandemic" は《to不定詞の副詞的用法》。take on ~は「~を相手として取り組む」といった意味で、「このパンデミックに対応するために」。

mobilise (アメリカ式の綴りだと mobilize) は軍事用語で「兵員などを動員する、戦時体制にする」といった意味だが、より広い文脈で「何かに対応するために人を集めて態勢を整える」といったときにも用いられる。ここではその意味で、この節の意味は「このパンデミックに対応するために、多くの科学者たちが結集しているスピード」となる。

 

つまり今回見たこの文は、「ウイルスが世界に拡散しているスピードに、このパンデミックに対応するために、多くの科学者たちが結集しているスピードが追い付いている」という意味である。

多くの人々は、これを読んで「え?」と思うだろう。治療薬もない、ワクチンももちろんない未知のウイルスで、人がばたばたと死んでいる。それも世界の多くの都市で人々が外出せず、経済活動もほとんど止めているというのに、ウイルスの勢いは止まっていない(ように見えている)ときに、何を言っているのか、と。

それこそが筆者の狙いである。そうやって読者の側に「何を言っているのか?」という疑問を引き起こすことで、現状を丁寧に説明していく、というスタイルで、このスタイルでうまく書ければ、大変に説得力のある文章となる。

サー・ポールは今回見た書き出しの文に続けて、英国でこれまでにないような形で科学研究が動いていることを具体的に説明している。そのうえで「ワクチンなんかすぐにできる」みたいな政治家たちの軽い言葉にクギをさして、この記事を読む私たち一般人が冷静に、それでいて悲観せずにいるための考え方のベースとなるような説明をしてくれている。これは「無責任な安全論」などではなく、むしろその対極の、現実的な説明だ。研究機関や企業名などの固有名詞が多いので読みづらい箇所もあるかもしれないが、ぜひ、これが今年5月の頭に書かれたということを念頭に、全文を読んでいただきたいと思う。

 

参考書:  

英文法解説

英文法解説

 
ロイヤル英文法―徹底例解
 

 

 

*1:リンク先はウィキペディア英語版。日本語版にもエントリがあるが、情報量が少なすぎるのでおすすめしない。

当ブログはAmazon.co.jpのアソシエイト・プログラムに参加しています。筆者が参照している参考書・辞書を例示する際、また記事の関連書籍などをご紹介する際、Amazon.co.jpのリンクを利用しています。