このエントリは、2020年5月にアップしたものの再掲である。
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今回の実例は、報道機関のTwitterフィードから。
イングランドに拠点を置く格安航空会社 (LCC) に、EasyJetという会社がある。1990年代後半に始まった「機内食サービスなどをカットしてその分安くする」「事務所・支店を持たず、予約は電話かネットのみとして、その分安くする」といった方法で運賃を安く設定するというやり方の現代的なLCCの欧州における代表的な会社で、欧州各国、および地中海沿岸の中近東の国々の130以上の空港を結ぶ近距離・中距離便を数多く運航している。新型コロナウイルスの流行が始まる前は、欧州・中近東の多くの人々が、仕事での出張やレジャーのためにこの会社の便を日常的に利用していた。
そのEasyJetがサイバー攻撃を受けて、900万人にものぼる顧客のメールアドレスや旅程、クレジットカード情報が流出した、ということが、昨日(5月19日)に報じられていた。今回と次回で、その報道のフィードをまとめてみていこう。
まず、英文法的に注目できるポイントがあるというだけの理由で、米ニューヨーク・タイムズのフィード。
EasyJet, the low-cost airline based in England, said that it was the target of a “highly sophisticated” cyberattack that exposed the email addresses and travel plans of about 9 million customers, and that some had their credit card details stolen. https://t.co/VM2G08pT5G
— The New York Times (@nytimes) 2020年5月19日
《同格》 の《挿入》をちょっと外して、だらだらと長たらしい部分をスラッシュとカッコで整理してみると、次のようになる。太字が文の骨格だ。
EasyJet, the low-cost airline based in England, said that it was the target of a “highly sophisticated” cyberattack that exposed ( the email addresses and travel plans / of about 9 million customers ), and that some had their credit card details stolen.
つまり、"EasyJet said that ..., and that ..." の形。《that節の繰り返し》だ。
that節を繰り返すときは、最初のthatは省略可能だが(今回の実例のように、省略しないことも多い)、2番目のthatは省略してはならない。つまり次のようになる。
She said (that) she was in Tokyo and that she would stay there until the end of January.
(彼女はそのとき東京にいて、1月末まで滞在すると言っていた)
今回の実例はまさにその形だが、文がちょっと長くなっていることもあり、この構造が見えづらいのではないかと思う。
文が長いだけでなく、that節の中にまた別なthatがあったりもするから余計に。
というわけで、上で下線で示したthatだが、これがどういうthatだか、わかるだろうか。
EasyJet said that it was the target of a “highly sophisticated” cyberattack that exposed the email addresses and travel plans of about 9 million customers
直後に "exposed" と動詞があることが判断の手がかりとなる。
この "that" は《主格の関係代名詞》で先行詞は "cyberattack" だ。この部分の意味は「およそ900万人の顧客のメールアドレスと旅程表を暴露したサイバー攻撃」となる。
その "cyberattack" の前に、引用符つきで “'highly sophisticated'” という形容詞があるのは、それがEasyJet社の発言そのままを引用しているということを示している。つまり、本当にhighly sophisticatedだったのかどうかは、NYTでは確認していない(確認できていない)。EasyJet社のプレスリリースが書いているままを伝聞していますよ、ということだ。
NYTだけでなくBBCなどほかの報道機関もこのスタイルで記述しているのだが、Twitterではこれには多くの人がツッコミを入れていて、「本当にhighly sophisticatedだったのか?」と述べている。ハッキングの被害に遭って顧客の情報を流出させた企業が必ず言うのがこの「"highly sophisticated" な攻撃を受けた」という文言だからだ。
“highly sophisticated” ? That puts the company's security even more in a discussable position ;(
— Bob ✈️ #gefrustreerd (@bobatco) 2020年5月19日
— Deixa o arevalo matias te leitar? (@MoneyMa52811535) 2020年5月19日
さて、NYTのフィードの最後の部分:
... and that some had their credit card details stolen.
《have + O + 過去分詞》である。解説は、過去に書いたものを引用しておこう。
《have + O + 過去分詞》は、「Oが~される(された)状態にする」という意味。訳し方は文脈に応じてバリエーションがあり、「Oを~してもらう」とか「Oを~される」などと訳出可能である。
例えば "She had her bicycle repaired." は、「彼女は自転車を修理された状態にした」という意味だが、自然な日本語にするなら「彼女は自転車を修理してもらった」だろう。ただし、自転車置き場に置いておいたのを誰か親切な人が勝手に修理してくれたのなら「彼女は自転車を修理された」という日本語になる(そんな状況はまず生じないにせよ)。また、この文の主語の彼女がどこかのお嬢様で、自転車の修理を召使に命令したのなら「彼女は自転車を修理させた」という日本語になる。
"She had her hair cut." なら、通常は「彼女は髪の毛を切ってもらった」ということになるだろうが、何らかの状況で「彼女は髪の毛を切られた」ということもありうる。
いずれにせよ重要なのは、「自転車が修理された」、「髪の毛が切られた」という《受け身》の関係を理解することである。
今回の実例では「Oを~される」の意味で《被害》を言っているが、このように、この表現は「望ましくないことをされる」という場合によく用いられる。下記の過去記事はまさにその例である。
hoarding-examples.hatenablog.jp
また、先日見かけた記事で、まさにこの《have + O + 過去分詞》の例としてとてもわかりやすいものだったので当ブログで取り上げようかなと思ったのだが、記事で扱われている人物があまりに下品で暴力的である上に、有罪判決を受けている性犯罪者(それも子供を餌食にするような)だったので、私が個人的に自分のスペースで言及したくもなかったので取り上げなかったものがある。記事のキャプチャ画像を一部マスクして下に掲示するが、記事はこちらである。
これもまた、ラッパー本人の意に反してチャリティ団体が彼の寄付金を拒否した(彼は寄付金を拒否された)わけで、本人にとっては不本意なことが行われたということを《have + O + 過去分詞》で表していることになる。
というところで今回はここまで。次回はこの同じEasyJetのハッキング被害を伝える別の報道機関のフィードをまとめてみてみよう。
追記:
《have + O + 過去分詞》は今日も見かけた。これは《使役》の例。
Nice letter, but he then had her executed on his day in 1536. https://t.co/WMZjKCgbHl
— Louisa Loveluck (@leloveluck) 2020年5月19日
※hisはthisのタイプミス(アン・ブーリンの処刑は1536年5月19日で、このツイートが書かれたのは2020年5月19日)。
つまり、英国の郵便局にあたるロイヤル・メイルが「こんなときだから大切なあの人に手紙を書きましょう」というキャンペーンをするに際して、よりによってヘンリー8世がアン・ブーリンに書き送ったラブレターを素材に広告を打つというすさまじい英国式ユーモアを行使しているのだが、それに対する普通の人の反応はだいたいこうだろう。「すてきなお手紙ですけど、そのあとこの人、相手の女性を処刑させたんですよね、1536年の今日この日に」。
(ヘンリー8世とアン・ブーリン、その娘のエリザベス1世については、英国では小学校でみっちり習うと聞いた。その上、テレビの歴史ものでは定番でなおかつ鉄板のネタである。うちら日本でいえば、織田信長・豊臣秀吉・徳川家康あたりのあれこれは誰でも知ってるというのが感覚的に近いのではないかと思う。つまりロイヤル・メイルのこれは、決して「一部インテリにしかわからないようなネタ」ではない。「ふところに草履を入れて暖めておく」くらいに誰にでもわかる話だ。)
参考書: