Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

倒置, 独立分詞構文, など(『ホテル・ルワンダ』のポール・ルセサバギナに、ルワンダの法廷で有罪判決が下された)

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今回の実例は、ちょっとびっくりする人が多いのではないかという報道記事から。

たまたまだが、つい数日前に過去記事の再掲で1994年のルワンダの虐殺について触れた記事をアップした

hoarding-examples.hatenablog.jp

この虐殺については、日本語ウィキペディアにも相当量の情報があるので、「30年近く前のことなんか知らないよ」という方は、まずはそちらを見ていただければと思う。

ja.wikipedia.org

起きたことがあまりに想像を絶するようなことなので、ウィキペディアでは逆にちょっとわかりづらいという方には、虐殺が起きたあとの調査や調査報道をまとめた本が何冊か出ているので、それらを見ていただくのがよいだろう。お住いの自治体の公共図書館にもあるはずだ。個人的には、米ジャーナリストのフィリップ・ゴーレイヴィッチによる『ジェノサイドの丘』をまずはお勧めしたい。

1994年のこのとんでもない出来事を、発生当時は知らずにいて(この虐殺は世界的にほとんど報道されなかった)、あとから何があったかをリアルタイムで知った世代の人々が、現在、思想信条的に敵対する人々や、考え方が相いれない人々、あるいはもっと幅広く批判対象となる人々のことを、害虫呼ばわりすることに非常に大きな抵抗を覚えていることが多いのは、おそらく、この殺戮を引き起こしたラジオのプロパガンダ放送で、殺害する側の民族集団が、殺害すべきとした民族集団を害虫呼ばわりした、という事実のせいであろう。今、この文を書きながら、「そういえば以前は、漫画や小説を含め一般的なフィクションで、ならず者や累犯者について『社会のダニ(寄生虫)』という言葉が、登場人物のセリフなどで用いられることがとても多かったが、今は前ほど目にしなくなったような気がする」と思った。もちろん、私が漫画や小説を読まなくなったとか、TVを10年前に捨ててしまったといったことも影響しているだろうが、21世紀になる前は「社会のダニ(寄生虫)」という表現は、本当に気軽に、ポンポンと使われていたのだ。

閑話休題。このルワンダのジェノサイドを扱った映画は何本も作られたが、そのひとつが、2005年に日本での劇場公開をめぐってネット上の日本語圏を揺るがした『ホテル・ルワンダ』である。この映画についての日本語版ウィキペディアには、ソースなしで*1簡単に記載されているだけなのだが、「大虐殺」という重苦しくて悲惨なトピックを扱った実話ものの重苦しく地味な映画で、主演俳優がアカデミー賞にノミネートされたために高騰した配給権を買う映画配給会社が現れず、日本では劇場公開なしになりそうになった。それはまずいと感じたある映画ファンが「こんな深刻な題材を扱い、高く評価されている映画が、日本ではまともに見られないのはおかしい」ということで声を上げ、著名なブロガー&映画評論家が主体的に発言しつつ公開要求の声を増幅するという形で、ネット上で「この映画を日本でも劇場公開してください」という署名運動が起きて(→その当時の私のブログ)、その結果として劇場公開された。当時、私も署名したし、映画を見に行きもした。映画はヒットしたようだ。今でもDVDやBDが普通に手に入るし、配信もあるだろう。あらすじを一言で説明すると、外国人ジャーナリストや支援活動家がよく使う高級ホテルの副支配人であるポール・ルセサバギナが、ジェノサイドが開始された街で、いかにしてホテルに人々を避難させ、最終的に外に逃すことに成功したか、という物語だ。映画の作りとしてはパニックもの・脱出ものの作りで、とてもわかりやすい。未見の方はぜひ。

この映画の製作国としては米英南アとイタリアがクレジットされているのだが、監督のテリー・ジョージ北アイルランド出身で、当時は米国に暮らして仕事をしていた。この人は『ホテル・ルワンダ』の何年もあとに、北アイルランドを舞台にした短編映画でオスカー*2獲得しているのだが、それについて書いた私のブログで、彼の北アイルランドでの経歴について少し詳しく取り上げている。

nofrills.seesaa.net

この人の経歴を簡単に説明するのは不可能なので、リンク先に飛んで読んでいただきたい。こういう経歴(……まあ、少しは書いておかないと話がわかんなくなるので書いておくが、北アイルランドのあの動乱の時代、1970年代初めに10代の終わりだったという世代で、北アイルランドナショナリストリパブリカン側の活動家で、「テロ組織」――IRAではない――にかかわり、投獄されている)の人が、ポール・ルセサバギナという人物のことを映画にするときに、一体どんなことを考えたのだろうということは、映画を見たかなり後も(というか今も)頭の片隅にひっかかっていて、そしてその状態のままで、最近のルセサバギナ氏についてのニュースを見ていたのだ。

ここまでで既に2000字を超えているので、ペースを上げていこう。

まず、約1年前、2020年8月末の報道: 

www.bbc.co.uk

近年、ルワンダのカガメ大統領との対立がヒートアップしていたルセサバギナ氏は、国外に出て亡命生活を送っていたのだが、その亡命先から、ルワンダの隣国DRCを拠点とする武装集団を擁する政治集団/政党を組織していた。そして、どういう経緯でかルワンダ当局に身柄を拘束され、2020年8月に首都キガリでカメラの前に引き出されたというのが上記の記事。

そして1年あまりが経過して、今回、裁判が終わり、ルセサバギナ被告に「テロリズム」の容疑で25年の禁固刑が言い渡された、というのが今回の記事だ。(つまりここからが当ブログの本題。ここまでは前置き)

www.bbc.com

どういうことなのかは、記事をお読みいただきたい。英語は平易なので、何の苦もなく読めるだろう。

実例として見るのは、記事中に埋め込まれている記者の解説部分から。

f:id:nofrills:20210921064922j:plain

https://www.bbc.com/news/world-africa-58624691

最初の文: 

There are several high-profile dissidents and critics of President Paul Kagame living in exile, but never before has the country managed to lure any of them home and put them on trial for terrorism.

太字にした部分がちゃんと読めるだろうか。

そう、これは《倒置》である。否定語の入ったフレーズ "never before" を、強調のために前に持ってきたために、主語の "the country" と述語動詞 "has managed" に倒置が起きて、述語動詞の中で助動詞である "has" が、主語の前に出ている。

つまり: 

  the country has never managed ... before 

  → never before has the country managed ... 

ということである。

文意は「ポール・カガメ大統領を批判する陣営の大物の中には、亡命生活を送っている人々も幾人もいるが、これまで一度としてその国(=ルワンダ)は、そういった人々の誰かを国におびきよせて、テロリズムで裁判にかけるということを成し遂げられていなかった」ということになる*3

第2文: 

Given that Rusesabagina used his fame to criticise the government from abroad, this was an especially significant case.

太字で示した "Given that ~" は、「~ということを考えると」の意味で、一種の熟語のように考えてもよいのだが、文法的には "given" は過去分詞で(見りゃわかるか。giveは「~を与える」だから過去分詞で「~を与えられると」が原義)、これは《独立分詞構文》である。that節でなく単なる名詞・名詞句が来る場合も多く、江川泰一郎『英文法解説』にはp. 352で「慣用的な独立分詞構文」として次のような例文で言及されている。

Given the present rate of population growth, ... (以下略) 

(人口の増加率が現在のまま続くと仮定すれば……)

第2文の文意は、「ルセサバギナが、国外から政府を批判するために自分の名声を使ったということを考えると、これはとりわけ重大な裁判であった」。

 

記事本文では、ポール・カガメ大統領の政権が強権的でかなり無茶苦茶やっているというHRWヒューマン・ライツ・ウォッチ)の報告書が一言だけ言及されているが、ルセサバギナ氏の現政権批判活動が、武装勢力(これがまたFLN: Front de Liberation Nationale*4 という、アルジェリアかという名称で、ちょっとやりすぎなのではと思わずにはいられないのだが)を擁する政治集団の組織化というのは、何というか、『ホテル・ルワンダ』のテリー・ジョージ監督はどう見ているのだろうか、と思わずにはいられない。

あと、ルワンダは資源も豊富で、近隣国との関わりもいろいろあって、しかも植民地時代の宗主国との関係も実に大変なことになっていて、各国のふるまいがもろに「レアルポリティーク(リアル・ポリティクス)」な感じがして、実に、私程度では情報を拾うことも十分にはできないように思っている。ただ、ルワンダが国としてアーセナルのスポンサーになってて、プレイヤーが着ているユニフォームの袖に同国観光庁の広告が入っているのを見ると、私はいつも「もにゃもにゃ」っとした感情を抱く。カガメ大統領は熱心なガナサポなのだそうだが。

 

※ちょっとオーバーした。4280字

 

 

 

 

*1:またかよ、とうんざり。

*2:アカデミー賞の最優秀作品賞(短編部門)。

*3:あまり直訳ではない。

*4:フランス語のアクサンは省略。っていうか入力できない。

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