Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

譲歩の副詞節 whether A or B (OEDに新たに26の韓国由来の言葉が収録された)

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今回の実例は、ニュースについての解説記事から。

BBC Newsのウェブサイトを見ていると、ときどき、見出しの下*1に "Newsbeat" と書かれた記事に行き当たる(BBC News日本語版はこういう区分を消してしまっているので、日本語版をいくら眺めてもわからないと思うが)。これは、以前説明した通り、青少年向けのプログラムの記事で、全体的に平易である。報道記事というより単なる読み物のようにサクサク読めるので、多読素材を探している方にはお勧めだ。下記から記事が一覧できる。

www.bbc.com

今回見るのはその記事のひとつで、英語辞書の世界的最高峰、Oxford English Dictionary (OED: 日本語で「オーイーディー」とも、ややふざけて「おえど」とも) に新たに収録された単語のニュース。

OEDの新語リストは年に複数回公表され、社会的に大きな動きがあって収録される新語が増えたときは毎月にように公表されるが、今年は3月と6月に続いて、9月にリストが出た。詳細は、OEDのサイトにある「アップデート」のセクションから確認できる。今年は、2020年春に始まった新型コロナウイルスパンデミックで一般的に見られるようになった新語(essential worker, social distance, staycationなど)が加えられているが、9月のアップデートではさらに anti-vaxxer などが加わっている。

留意しなければならないのは、辞書というものはそもそも社会の中で広く使われている語を収録するもので、「辞書があるから単語ができる」のではない。だから、今回新たにOEDに追加収録された語があるということは、その語が今までなかったということは意味しない。例えば今年新たに追加されたsocial distanceは専門分野の用語(術語)としてはずっと使われてきたし、より意味を明確化するためにphysical distanceと呼ぶべきではないかといった議論もなされてきた(実際に、アイルランド共和国政府は今回のパンデミックにあたってphysical distanceという用語をとっている。パンデミックが始まったときの首相が医者だったので、そういう繊細さに心を配ったのだろう)。この語については「用語集」のサイトに記録してある

閑話休題。で、そのOEDの2021年9月のアップデートで新たに追加収録された語の中に、韓国由来の言葉がたくさん入っている、というのが、今回BBCのNewsbeatで取り上げられている。記事はこちら: 

www.bbc.com

日本では、特にネット上の一部ではどうしても認めたくない人たちがいるようでdenialismが盛んだが、K-popの勢いは本当にすごい。Twitterでも、特にBTSについては、ほぼ10年前にOne Direction (1D) やJustin Bieberでティーンエイジャーが騒いでいたのと同じくらいの騒ぎっぷりが感知できた(最初は北米にいるコリアンのティーンエイジャーが騒いでいるように見えたが、すぐにそれは世界的に広がり、BTSがロンドンのO2アリーナで公演するころには「何年か前に1Dがこうだったな」と思えるくらいになっていた)。個人的には音楽もルックスもつるつるに整えられすぎていて特にひっかからないので(それは日本の若い男性グループにも言える)、全然知らないのだが。

ともあれ、BTSのようなポップグループや、昨年の米アカデミー賞作品賞受賞作である映画『パラサイト』、ネット配信チャンネルで広く見られているドラマなどを通じて、韓国由来の文化が、世界中に韓国の言葉を広めている、というのが、2021年の現況と言える、というのが、今回の記事の主眼だ。

実例として見るのは、記事の最初の「リード文」の部分から。

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https://www.bbc.com/news/newsbeat-58749976

Whether it's watching a show like Squid Game or listening to BTS hits such as Butter or Dynamite, chances are you've had some kind of Korean influence in your life.

文頭の "Whether" から "or Dynamite" までがひとつの節で、この《whether A or B》は《譲歩》の《副詞節》だ。意味は「AであろうとBであろうと」で、ここでは文意は「『イカゲーム』のような番組を見るのであれ、『バター』や『ダイナマイト』のようなBTSのヒット曲を聴くのであれ」。

書き出しのこの数語だけでもう、コリアン・ソフトパワーのキーワードてんこ盛りである。

その次、この文の主節だが: 

chances are you've had some kind of Korean influence in your life.

《chances are (that) ...》は定型表現で、直訳すると「可能性が高いのは、…ということだ」となる(chanceには「好機」だけでなく「可能性の高いこと」という意味があることに注意)。

ここでchancesと複数形を用いるのは、それこそ「ネイティブだったら何も考えずにできること」だが、英語は外国語として習得しなければならない上に、元々「複数形」というものがない言語を母語とする日本語母語話者には非常に難しいところである。「ネイティヴ」からすれば「何でそんな細かいところを気にするの?」と思われるところかもしれないが、「なんで?」と言われても実際難しいし、だからこそ気になるんだからしょうがない。英語を使えるようにしていくために勉強する上では、こういうのは、実例に遭遇するたびに意識的に覚えていくようにすることで、自分で使える知識のストックを増やしていくのが唯一の道となる。「とりあえず覚える」以上の文法的な考察や解析は、英語という言語について「使うための道具」以上の関心を持っている人ならば自発的に進めていく部分だろう。

文意は、「可能性が高いのは、あなたはあなたの人生・生活において、何らかの韓国の影響を受けているということである」と直訳される。

イカゲーム』はネットミーム化していて、今週Facebook, Instagram, WhatsAppが落ちたときにTwitterでけっこうたくさん流れていた。下記NYポストのまとめにも入っている。

 

というわけで、英語圏でも韓国文化の影響は、一部の「マニア」だけでなく一般社会で無視できないくらいに大きくなっている。しかし日本語圏にはどうもその現実が認められない人々がいるようで、韓国(や中国)を下に見るために歴史否定に走るというおぞましいことも、特にネット上では起こり続けている。とりわけ最近私の見ている範囲で激しくなっているのは、従軍慰安婦という経験を否定する人々の動きで、米国のとある法学者が書いた「論文」と称するものを支持し喧伝する日本の人々が、その「論文」と称するものの不備(というよりぐだぐださ)を学問的な態度で指摘する英語圏の学者にしつこく絡んでいるという状況である。そういった人々の根底にあるのは、「韓国がこんなに大きなプレゼンスを持つはずがない」という差別心と植民地主義的な否定 (denialism) だと私には思えるのだが、OEDのような辞書に「韓国からの影響」がはっきりと現れ、OED編集部がそれについてアカデミックな解説文を書いているという事実は、特に日本語圏において広く共有されるべきだろう。

public.oed.com

個人的には、特に韓国のソフトに興味があるわけではないので、「韓流」はhallyuと綴るということすらこのコラムが出るまで知らず(常に "K-" の接頭辞で語られるのしか見ていないから)、「『ハン』の『ン』が落ちるんだ」「『流』はRじゃなくてLなんだ」といったレベルで驚いている始末だが、この解説文はとてもおもしろかった。特にskinshipという英語は、日本語(和製英語)の「スキンシップ」と韓国語の「seukinsip」から英語でも造語されたようで、特に日本や韓国での子育ての文脈や恋人同士や友人間での身体接触を言うために用いられていたものが、今ではその文脈の外で一般的に見られるようになっているというのは、スリリングである。

The word skinship (1966) is a blend of two English words, skin and kinship, following the model of the Korean word seukinsip and the earlier Japanese word sukinshippu. It is used especially in Japanese and Korean contexts to refer to the touching or close physical contact between parent and child or between lovers or friends, viewed as a means to express affection or strengthen an emotional bond. It is also now fairly common to see parents outside of Korea or Japan in online forums talking about the role of skinship in good parenting, or K-drama fans recommending a series for the good skinship scenes between its romantic leads, or K-pop fans gushing over the latest display of skinship between members of their favourite group.

https://public.oed.com/blog/daebak-a-k-update/

 

OEDといえばこちら: 

 

 

*1:見出しの下にあるのはスマホで閲覧した場合。PCのブラウザで見ると見出しの上にある。