Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

等位接続詞andの作る構造を丁寧に読んでみる(ノーベル平和賞のプレスリリース)

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今回の実例は、前々回前回に引き続き、今年のノーベル平和賞の受賞者を告知するノーベル財団のプレスリリースから。

前置きは一切抜きにして、本題に入ろう。記事はこちら。

www.nobelprize.org

今回はこのプレスリリースの最後の部分から。

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https://www.nobelprize.org/prizes/peace/2021/press-release/

最初のパラグラフの第1文: 

Free, independent and fact-based journalism serves to protect against abuse of power, lies and war propaganda.

《等位接続詞》のandが2つある。それぞれ、どのような構造を作っているだろうか。また、このだらだらとした文の主語と述語動詞(SとV)はどれだろうか。

まずはSとVを把握してしまおう。だらだらとした文だが、Vになりうるのは1つしかない。どれだかわかっただろうか。この文では、その語の前の部分が全部主語 (S) である。どれがSでどれがVかは、少し下で説明する。

次に、《等位接続詞》の構造について。何度も説明しているが、等位接続詞は原則として文法的に等しいものをつなぐ接続詞である。例えば、「《名詞》 and 《名詞》」、「《動詞》 and 《動詞》」、「《形容詞》 and 《形容詞》」といったつながりを作る。「《名詞》 and 《動詞》」というふうになることはない。

また、つなぐものが2つのときは、シンプルに《A and B》と書くが、3つになると《コンマ》を使う必要が生じて、《A, B and C》と書くというルールがある。これは《A, B, and C》と、コンマを2つ使って書く流儀もある*1ノーベル賞のプレスリリースのこの文では、2つ目のコンマは使わずに書かれている。

と解説したところで、実例を見てみよう。まず1つ目の "and" だが: 

Free, independent and fact-based journalism

これは特に難しいところはないだろう。 "free" と "independent" と "fact-based" という形容詞3つがつながった形で、"journalism" を修飾している。3つ目の "fact-based" は2つの語を《ハイフン》でつないで作った《複合語》である。この部分は「自由で、独立しており、事実に基づいたジャーナリズム」の意味だ。

次に、2つ目の "and" は: 

abuse of power, lies and war propaganda.

これが、形式だけ見ると可能性が2通りある。

ひとつは、"abuse (of power)" と "lies" と "war propaganda" をつないでいるという可能性。つまり、"abuse of power, lies and war propaganda" となっている可能性だ。

もうひとつは、"power" と "lies" と "war propaganda" をつないでいるという可能性。つまり、"abuse of power, lies and war propaganda" となっている可能性だ。

どちらであるかは、形式からは判断できないので、意味から考える必要がある。

そして後者で解釈しようとすると、意味不明になってしまうので(「権力と嘘と戦争プロパガンダの乱用」では意味が通じない)、ここでは前者(「権力の乱用と嘘と戦争プロパガンダ」)と解釈する。

このように、"and" の作る構造と意味のまとまり(センス・グループ)を把握してしまうと、このだらだらした文は次のように見えてくる。

[ Free, independent and fact-based journalism ] serves to protect against [ abuse of power, lies and war propaganda ].

下線で示した "to protect" は《to不定詞》で、これは文の述語 (V) にはならない。というわけで、述語は "serves" である。

こんな回りくどい考え方をしなくても、ぱっと見で動詞になりうるのは "serves" しかないのだが、ぱっと見でしっかり根拠を持ってそう判断できた人は面倒な考え方はしなくてよい。判断できなかった人や判断というよりあてずっぽうで何となく当たってしまった人は、ここで説明したような根拠を確認しておいてほしい。

ここでは "to protect" は《副詞的用法》のto不定詞である。serveという動詞は日本語にしづらい動詞だが、ここでは「~するために役立つ」といった意味で、文意としては「自由で、独立しており、事実に基づいたジャーナリズムは、権力乱用、嘘や戦争プロパガンダに対して防御するために機能する」といった内容になる。

第2文: 

The Norwegian Nobel Committee is convinced that freedom of expression and freedom of information help to ensure an informed public.

これも《等位接続詞》があって長たらしい文になっているが、構造は取れただろうか。

The Norwegian Nobel Committee is convinced [ that freedom of expression and freedom of information / help to ensure an informed public ].

文全体は《S is convinced that ...》(「Sは…であることを確信している」)の構文で、that節の中で "and" が用いられていて、節内の述語動詞は "help" である。この "and" は、"freedom of expression" と "freedom of information" という名詞句をつないでいる。

これが、"freedom of expression and freedom of information" と書かれており、 ""freedom of expression and information" とは書かれていないのは、"freedom of expression" と "freedom of information" がそれぞれまとまった言葉として定着しているからである*2

第3文: 

These rights are crucial prerequisites for democracy and protect against war and conflict.

ここにもまた "and" が2つだ。これの構造は取れただろうか。

2つ目の "and" はシンプルで、"war" と "conflict" をつないでいる。

一方、1つ目のは少々やっかいだ。andが何と何をつないでいるかは、andの直後にある語を見て、文法的にそれと等価であるものをその前の部分で探せばよいのだが、ここでは "and" の直後にあるのは "protect" で、これは一般動詞。だがこれの前の部分には一般動詞は見当たらない。

ではどうなっているかというと、"These rights areand protect ..." という構造になっているのだ。こういうふうにbe動詞と一般動詞をandでつなぎたい場合、私はライティングの先生からは「代名詞を使え」と習ったが(つまり、 "These rights are ~ and they protect ..." とする)、そこらへんは流儀によるので、ノーベル賞サイトのこのプレスリリースのような書き方もある。

第4文: 

The award of the Nobel Peace Prize to Maria Ressa and Dmitry Muratov is intended to underscore the importance of protecting and defending these fundamental rights.  

ここもまた "and" の連打である。これは単純なので、下記に構造だけ示しておこう。

The award of the Nobel Peace Prize to Maria Ressa and Dmitry Muratov is intended to underscore the importance of protecting and defending these fundamental rights.  

 

既に当ブログ既定の4000字を超えているので、あとははしょるが、2番目のパラグラフの最初の文: 

Without freedom of expression and freedom of the press, it will be difficult to successfully promote fraternity between nations, disarmament and a better world order to succeed in our time.

「~がなければ」の意味の without は、仮定法で用いられることが多いが、ここでは下線部の "will be" が示しているように直説法である。

"it will be difficult to successfully promote ~" は《形式主語it》の構文と、《分割不定詞》の合わせ技。文意は「表現の自由報道の自由がなければ、~をうまく促進することは難しくなる」。

そしてここでもまた "and" の構造がある。これは "fraternity between nations" と "disarmament" と "a better world order" がつながれた構造だ。

 

字数をかなり超過しているのでこの辺で。

 

※4460字。

 

 

 

*1:この2つ目のコンマはOxford commaまたはserial commaなどと呼ばれる。このコンマをどのような用語で呼ぶかは、基本的に本人の好みによるが、どういう先生について習ったか、どんな先生の書いた本で勉強したかも影響する。だから、編集会議などで、ある人は「シリアル・カンマ」と言い、ある人は「オックスフォード・コンマ」と言っているが、同じものを指している、ということはよくある。

*2:日本語でも、例えば「社会権自由権」「所得税と消費税」と書くのが自然で、「社会・自由権」「所得・消費税」と書くのは違和感があるが、それと同じである。

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