Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

"New phone, who dis?" というスラングについて、意味と用法、背景などを調べてみる。

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今回の実例は、Twitterから、ものすごい口語表現を。

数日前、Twitterでアメリカ在住の日本人の方から "Get out of here!" が「お礼されるほどのことじゃないよ」という場面で使われてて面食らった、という報告があったのが話題になっているのだが、そういうのに近い口語表現だ。

ちなみに、 "Get out of here!" については英語の辞書を参照するとすっきりするだろう。ウェブをフレーズ検索しただけで下記のページが見つかった。「冗談でしょ」「マジかよ」的なニュアンスの感嘆の表現だ。

interjection

An exclamation of surprise, disbelief, or incredulity.

(Farlex Dictionary of Idioms)

https://idioms.thefreedictionary.com/Get+out+of+here!

(idiomatic, informal)

An exclamation of disbelief. 

https://en.wiktionary.org/wiki/get_out_of_here

下記のケンブリッジ辞書のはちょっとわかりにくい。「誰かに何か良いことが起きたときに言う言葉」ということだが、おそらく「宝くじで10万円当たった」に対して「マジ? おめでとう」と言う代わりに「マジ? ウッザ」と口走ってしまうようなことを言っているのだろうと思う。

US informal

something you say when something good happens to someone

https://dictionary.cambridge.org/dictionary/english/get-out-of-here

外国語として英語を身に着ける立場にある者にとって、こういう口語表現(「卑語」ではないスラング)は、人から言われたときにその人が言いたいことを理解できるかどうかが重要になることは確かだが、自分で使おうとするのはハードルが高すぎる。日本語考えるなら、友人が「宝くじで10万円当たったよ」と言ってきたら「おお、すごいな、よかったな」と言う気持ちを込めて「ウッザ(笑)。回らない寿司おごれよ」と返しても問題ないにしても、相手が上司だったらそんなことはしない、という判断は私たちは社会生活の中で自然にしているわけだが、外国語ではそういう判断が基本的にできない。知った表現は使ってみたくなるのが人情だが、こういうのは使うには修行が必要だ。もちろん、Fワードを含む卑語を使った表現もそれと同じで、自分ではやたらと使おうとしないほうがいいし、ふとした時に口をついて出てしまわないようにしてはおいたほうがいい。

と、ここまで書くだけでやたらと時間を使っているが、今日の本題とはまったく関係ない。「辞書を見る」ということを除いては……。

さて、日本で立憲民主党の党首選挙が行われていたころ、英国では労働党のreshuffleが行われていた。Reshuffleというのは「シャッフルのやり直し」で、英国の政治用語としては「内閣改造」を意味する。そして、英国では与党による内閣に対し、野党(英国の「野党」はthe official oppositionとして法的位置づけのある存在で、議会で2番目に議席数を持っている政党のことである)が「影の内閣 the shadow cabinet」をつくるのだが、reshuffleという用語は与党の組織する「内閣」にも、野党の組織する「影の内閣」にも使われる。

つまり、日本時間でこの月曜から火曜にかけてのタイミングで、英国の野党である労働党で、「影の内閣」の改造が行われたのだが、これが今の労働党の方向性をめぐる党内のごたごたの最前線という感じで、私の見ている画面はかなり騒がしくなっていた。

労働党は、簡単に言えば、1997年の選挙で労働党に大勝利をもたらしたトニー・ブレア一派の残党やその支持者が、2010年代に労働党で支配的な勢力となっていた党内左派とひどく対立し、党としての対抗相手である保守党よりも、党内の別の勢力を叩きつぶそうとやっきになっている感じで、ぐだぐだである。今の労働党党首のキア・スターマーは、以前はどうだったのか知らないが党首になってからは「反左派」の色を強めており、最近ではブレア一派の残党の傀儡みたいになってて、なんかほんともう「何やってんすか」という感じなのだが、そんな話は当ブログでは関係ないね、うん。先に行こう。

その「影の内閣の改造」で最初にお役御免となったのが、スターマーによって党籍を停止されている前党首ジェレミー・コービンを熱心に支持し、2016年以来ずっと「影の内閣」にいたカット・スミス議員だった(「カット」はCatで、Catherineの愛称)。彼女は(少なくとも形式上は)スターマーから切られたのではなく自分から辞したのだが、その辞任表明の文書をTwitterに投稿している。

そのスミス議員の投稿にかみつくようにして絡んできたのが、2010年から17年まで労働党所属の国会議員を務めていたマイケル・ダグアー氏である。現在は政治の世界からは身を引いて、UK Music(音楽家の団体)のCEOを経て、the Betting and Gaming Councilのトップ、という人物だ。

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これに対して、からまれたスミス議員がこう返している。

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New phone, who dis? 

一見して「これはスラングだ」とわかる表現である。(なぜそれがわかるのかと問われても「野生の勘で」としか言いようがないのだが、もう少し丁寧に考えると、「電話」が出てくる文脈ではないのに出てくることと、見るからに定型表現であることがカギだ。)

最後の "dis" は普通に書けばthisとなる語で、"who dis" は "who's this" の音が崩れた表記。日本語でいえば「ありがとうございます」が「あざーっす」、「お願いします」が「おなしゃす」になるのと同様と考えておいてよいだろう。

と、そこまでは秒でわかるのだが、問題はその先で、このスラングのフレーズの意味がわからない。スミス議員がダグアー氏をうざったがっていることは、こんなに見るからに乱暴な言葉遣いをしていることから何となくわかるのだが、では、仮にこれを翻訳せよと言われたとして、どうすればいいのか。

そういうときにどう調べるか、というのが本エントリの内容である。

なお、もちろん「こんなフレーズは当然知っていますよ」という方もおられるだろうし、そういう方にとっては本稿は無意味、スラングでいう「ゴミ」だろうから、この先は単に読まずに通り過ぎていただければと思う。

まずは、スミス議員のこの発言についている反応を見てみよう。それによって、スミス議員の発言の、意味までは分からなくても方向性くらいはわかるかもしれない。Twitterではそれには言葉さえ必要でないこともある――絵文字で「拍手」が起きているとか、「いいぞ!」という内容のGIFが貼り付けられているとかいったことがあれば、「スミス議員が見事に言い返している」ということがわかる。

しかし、実際に見てみると……

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逆に、わからない表現が増えてしまった。 (・_・)

キャプチャ画像最初のDaveさんが言っているのは、スミス議員にウザ絡みしてきたダウアー氏が、政界引退する前は「うちの選挙区から出た議員だった」ということ。主語の "He" が《省略》されているが、それは、それが話し手と聞き手の間で百も承知の了解事項だからである。一種の《手紙文》の形式だ。

2番目のAnneさんのコメントは、何の苦労もせずにわかる。そのまんま「悲しい」(「悲しい人だね」)だが、日本語圏のネットスラングでいえば、少々古めかしい表現だが「痛々しい」くらいの意味合いだ。

ここまで2つ、党要職を退くという決断をしたのに変な人に絡まれているスミス議員に同情を示すコメントだということはよくわかるのだが、その次の2つ、 "Seen off." と "Based." は、それはそれでまた調べないとわからない。テクストに現れている文脈とかもないし。

これが「生きた英語」である。そこには「ハートで感じる英文法」みたいなものはない。

ともあれ、こういったリプライをいくら眺めていても、 "New phone, who dis?" というフレーズについては何もわからないので、ここで方向性を変えて、普通にウェブ検索してみることにする。こういう、いかにも「スラング」然とした表現なら、辞書的なページが必ずあるはずだから、ウェブ検索が一番手っ取り早いし効率がよい。(場合によってはここでウェブ検索するとらちが明かない方向に行ってしまうので、最初から辞書で調べた方がいい、ということもある。)

そうして検索してみた画面がこちら: 

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Know Your MemeとUrban Dictionaryが一度に釣れた。

どちらも「ネット上で発される口語表現(スラング)」の情報源として、非常に頼もしいサイトである。もちろん、基本的に「取引先とのやり取りには使わない表現」ばかりだが……。

まず、Urban Dictionaryを見てみよう。ここはユーザーが定義文と例文を書く「辞書」サイト(というより「用語用例集」「データベース」)で、内容はあてになるものもならないものもある(「いいね」ボタン的なもので閲覧者の評価がわかるようになっているので、それを参考にするとよい)。定義文や例文は投稿するユーザーの数だけ存在し、中にはユーモラスな「ネタ」になっているものも多く、「辞書」というより「お笑い芸人のネタ帳」として参照したほうがよいものも中にはある。

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https://www.urbandictionary.com/define.php?term=New%20phone%2C%20who%20dis%3F

「答えたくない質問をされたとき、"New phone, who dis?" と言って質問に答えずにすませる」という定義だが、よくわからん。次。(ちなみに出典を示していることだけはわかる "From vine Wellington Boyce" は、「Wellington BoyceのVINE投稿より」。VINEは当時存在したショートビデオの投稿サイトの名称で、このように全部小文字で書かれてしまうと、サービス名を知らない人は判別できなくなってしまう。)

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https://www.urbandictionary.com/define.php?term=New%20phone%2C%20who%20dis%3F

2番目のは "a text" (携帯電話のメッセージ、SMS)ということが明確になっているのでよくわかった。「ウザい」と言わずに「ちょっと何言ってるかわからない」と言う、といった内容の説明だ。例文もわかりやすい。

その次のはもっとわかりやすく、ここでスミス議員がやっているのはこの2の用例、「実際には知っている人の相手をせずに済ますために、上で述べたようにふるまうこと」。「上で述べたように」というのは「知らない電話番号からSMSが来たときの一般的な表現」で、つまり、 "New phone" は「知らない番号から着信が来てる」、"who dis?" はそのまんま「誰、これ」だ。

その、電話での1対1のテキストメッセージのやり取りから生じたスラングが、その文脈を離れて、リアル世界での(多くの場合冗談めかした)やり取りや、今回のようにTwitterのような場でも使われるくらいに定着している、ということである。

意味がわかったところで、検索結果で出てきたもうひとつのサイト、Know Your Memeで、このフレーズの背景を調べてみることにする。Meme(ミーム)は「流行りの言葉や画像など」のことである。

knowyourmeme.com

これによると、広まったきっかけはTwitterで、初出が2009年。初出時は、「自分が携帯電話を新しくした(機種変した)ので、誰からの着信なのかわかんないな」という意味で使われていたようだ。文脈は、デート中に、デート相手とは別の、体だけの付き合いがある相手からメッセージが着信したときにどう言い訳するか、みたいな話。

このときには「ありがちな言い訳」として笑いは誘ったかもしれないが、すぐに広まったわけではなかったようで、その後、2012年以降にテレビのコメディドラマで使われるなどしていくうちに定着したとの由。詳細はリンク先を参照されたい。

 

というわけで、当ブログ規定の4000字を1000字以上も上回っているのでこの辺で。

 

※5200字

 

現代米語スラング辞典(英英)

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