Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

【再掲】「Go Toキャンペーン」「Go Toトラベル」という言葉のどこがおかしいのか (1)

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このエントリは、2020年7月にアップしたものの再掲である。

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今回は変則的に、ある違和感maxな日本の官製フレーズについて。

新型コロナウイルスの流行で、最も危険なところで体を張って仕事をしている医療従事者が、まともな待遇を受けることすらできていないということが次から次へと伝えられてくる一方で、感染が拡大していることを示す数値が出ている状況下、日本国政府は「Go Toキャンペーン」とやらを開始するとかいうことで、この珍妙なフレーズがネット上に大量に出回ったのが、先週末(7月11日から12日)から週明け(13日)のことである。ハッシュタグによるヴァーチャルデモも行なわれた。

そういう中で、怒涛のように流れてくる「GoToキャンペーン」という文字列を見ているうちに、頭がおかしくなってきた。

これは、以前述べたように――そして今日ここに書くように――この珍妙なフレーズ(というより文字列)が英語としておかしいということが前提で、さらにそこにこんなふうに怒涛のように「GoTo」「GoTo」言われると、「goと言われたらto」、「goは必ずtoを伴う」という思い込みを発生させてしまうし、それはよくないことだということを、まさに心の底から叫ぶようなつもりで書いた、別の言葉にすれば「もううんざりだ!」という気持ちの吐露なのだが、これが少々バズってしまった。現時点で、3.1K Retweets and comments, 8K Likesとなっている。

気持ちの吐露の言葉だからかなり雑だし、字数も少ないので、何を言っているか、わかりづらいところがあるだろう。今回のブログではその点についての補足を行ないたい。

 

目次

 

《go to +場所》は《go + 副詞句》。このtoは前置詞。

まず、goという動詞は基本語中の基本語で、英語を習った人なら知っているし、意味も「行く」だということはだれでも知っているだろう*1

そして、多くの場合、「~へ行く」と言いたいときは《go to ~》と言うということも、だれでも知っているだろう。英作文で「毎年夏には、おじいちゃんとおばあちゃんの家に行きます」という課題を出されたら、"I go to my grandparents' house every summer." と、迷わずに英語で書ける人がほとんどだろう。

この《go to ~》のtoは、「~へ」という意味を表す前置詞だ。前置詞だから、その後ろには名詞(あるいは名詞句)が続く。上の例では、toという前置詞の後に、my grandparents' houseという名詞句が続いている。この《前置詞+名詞》は《副詞句》だ。

文法用語が続いてしまって退屈かもしれないが、もう少々お付き合いいただきたい。

《副詞句》ということは、《副詞》の役割をする《句》(複数の語の集まり)だということはおわかりいただけるだろう。

つまり、《go + to + 名詞》は《go + 副詞句》なのだ。下記の下線部が副詞句である。

  I go to my grandparents' house every summer.

 

 

《go + 副詞》のときは、toは要らない。

ということは、《go + 副詞》という形もあるんじゃないかと思うだろう。その通り。それが、上記の私のツイートへのリプライにもいくつか出ていた、"go home", "go abroad" といった表現である。homeもabroadも副詞で、前置詞なしで「~へ」という意味を表している。だから「暗くなる前に家に帰りなさい」は "Go home before it gets dark." だし、「女子学生たちは教育を最後まで受けるために海外に行った」は "The female students went abroad in order to complete their education." である。

 

「goは必ずtoを伴う」という思い込みがあると、この《go + 副詞》が正しく使えない。△go to homeとしてしまったり、△go to abroadとしてしまったりするわけだ。これは小さなことのようだが、コミュニケーションの阻害要因になる。こういう「変なクセ」はつけない方がいいし、そういう「変なクセ」がつきそうなものは、初学者・初心者・初級者はなるべく避けた方がいい。そういう変なものを、この国の政府は「官製」の何かとして、あちこちにばらまきまくっている。そうしておいて、他方では「英語ができる日本人」云々であれこれ中途半端に手を突っ込んでは物事をグダグダにしているのだ。

 

閑話休題。英文法の話に戻ろう。

ここまでは、五文型でいうと第一文型、《SV》の構造の話である。

 

《go + 形容詞》の表現を迷いなく使えるようにするためには、「go to」連呼は邪魔。

さらに、上記の私のツイートで述べているのは、《SVC》の文型(第二文型)で《go + 形容詞》の形になるもののことだ。goはtoを伴うことなく、直接形容詞を取る。

  The milk has gone bad.

  (牛乳が悪くなってしまった〔腐ってしまった〕)

  The crowd went silent when the popstar sat at the piano.

  (そのポップスターがピアノの前に座ると、群衆は静まり返った)  

これは日常の英語で非常によく使われる表現で、使いたいときにすっと口をついて出てくるようにしておきたい。

難しい表現ではない。しかし「go to」「go to」が口癖のようになってしまうと、これがすっと出てこなくなるかもしれない。そして、実践の場で英語を使ったことのある人ならわかると思うが、言葉を口にする際の「言い淀み」や「迷い」は、時として、非常に低く評価される。それどころか、全体的な評価を引き下げてしまうこともある(「言葉をごまかしている」と受け取られる場合など)。もちろん、英語でだって言葉を選びながらしゃべるという場面はある。だが、個々の表現でいちいち迷うことは、よい印象は与えない。だからこそ、簡単でシンプルな表現は、一切迷う余地なく、すっと口をついて出てくるようにしておくべきなのだ。今回の「go to」連呼はその点で、よい影響を与えるものではない。"go bad" と言いたいのに口をついて出るのが "go to bad" になってしまうかもしれない。「自分が言い間違えるかも」というプレッシャーは、発話のテンポやリズムを狂わせるし、思考も乱す。

「GoToキャンペーン」のtoは、実は前置詞ではない。

さて、この「GoToキャンペーン」、新聞社などの表記もGoとToの間にスペースがあったりなかったり、そのスペースが全角だったり半角だったりしているのだが、先ほど日経新聞のサイトで検索したところ、アキがなかったり全角アキが多発していたりで一層わけのわからない感じになっていた。

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この検索結果からだけでもわかることを整理すると、「GoToキャンペーン」の中に「GoToトラベル」事業と「GoToイート」事業がある、ということになる。

「トラベル」はtravelだし、「イート」はeatだ。そして、これらいずれも《動詞》である。名詞ではない。

toの直後に動詞の原形が来るものといえば、みなさんご存じの《to不定詞》だ。

このto不定詞のtoは、考え方はいろいろあるのかもしれないが、学習英文法では通例、前置詞のtoとは別のものとして扱う*2。「《to + 名詞》になってるtoは前置詞、《to + 動詞の原形》になってるtoはto不定詞の一部」という扱い方だ。

これをおさえておかないと、"I am looking forward to see you." のどこがおかしいのかがわからなくなる(look forward to ~ のtoは前置詞なので、直後は名詞・名詞相当語でなければならない。よって動詞のままのseeではなく、動名詞のseeingとしなければならない)。

これは大学受験生をはじめ「英文法」をしっかりやっておかないと困る人にとってはかなり重要なポイントだが、意外と雑に扱われるし、しっかり教えられる人も少ないし、一度わからなくなってしまうとずっと混乱したままになってしまいがちという厄介なポイントでもある。

 

《go+to不定詞》という表現について。

そして、この《go + to不定詞》という表現は、扱いが難しい。全く言わないというわけではないのだが、《go and do ~》とすることの方が多い。これはたぶん文法的になんちゃらということではなく、口頭で言いやすいかどうかではないかと私は感じている(実際に口で発話してみるとわかると思う)。

  I'll go to get something to eat. ←あまり言わない

  I'll go and get something to eat.*3 ←よく言う

  (ちょっと行って、何か食べるものを取ってくるよ)

to不定詞を伴うのは、goが過去形になったり過去分詞になったりしているときや、goの後に何か副詞・副詞句が入っているとき*4だろう。

  She went abroad to finish her studies. 

  (彼女は研究を完了するため、海外に行った)

  I'll go to the station to meet you. 

  (あなたをお迎えするために、私が駅に行きます)

 

《go to travel》だの《go to eat》だのという表現は、英語として通じるのか。

で、 "go to travel" とか "go to eat" とかだが――正直、いやもうほんと言語野がやられるんで勘弁してくださいよ、っていう感じなのだが――英語ではそうは言わないだろうという表現だ。

特に前者。ありそうな形を頑張って考えてみて思いついたのが下記*5。不自然な文かもしれない。

  I'll go to the States to travel around by Greyhound bus. 

  (グレイハウンド・バス*6で旅して回るために、米国に行こうと思う)

後者の "go to eat" は、前者に比べればありなような気がするが、「外食する」なら普通に "eat out," "dine out" と言うので、わざわざこんな表現を覚える必要はないだろう。あと、eatを「食事する」という自動詞ではなく「~を食べる」という他動詞で使うなら違和感は軽減されるような気がする。

  I'll go to Akita to eat kiritanpo. 

  (きりたんぽを食べるために秋田に行こう)

あと、上で見た "go and eat ~" に置き換えられるような場合もあり。

  Let's go to[and] eat something sweet. 

  (何か甘いものを食べに行こう)

 

ちなみに「本物の英語」では: 

 

 

ここまででとっくにブログ1回分の規定の分量(4000字)を超えているので、今回はここまで。続きは次回に。

 

※5500字

 

参考書:  

英文法解説

英文法解説

 

 

*1:もちろん、goの《意味》は「行く」だけではないが、それはここでは本題ではない。

*2:元々はto不定詞のtoも前置詞だったのだが。

*3:このandが脱落した形、I'll go get something to eat. もよくある。

*4:副詞・副詞句が入ることで、"go to do ~" という意味のまとまりではなく、"go ... / to do ~" という意味のまとまりになり、to不定詞の部分がgoとちょっと切り離された感じになるように思う。

*5:なお、Google検索ではそれなりにヒットするように見えると思うが、"go-to travel (agency)" 「困ったときに頼りになる旅行代理店」という表現の一部だったり、"go to travel.website.com" とかいう文面の一部だったりしている。

*6:アメリカで運行されている長距離バス。

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