Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

英語を聞き取るとはどのようなことか~人は知ってる単語しか聞き取れない(Ch4ニュース、ジョン・スノウの引退)

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今回は、いつもと少し趣向を変えて、聞き取りについて。

昨日から今日にかけて、Twitterの私が見る画面で「英語の聞き取り」が話題になっていた。発端は髙村峰生さん(関西学園大学教授)の下記のツイートだったようだ。

このツイートを発端に、(元の発言者の意図とはかなりずれてしまってはいるようだが)「(全部)聞き取れるというのは、どういうことか」をめぐってやり取りがかわされていた。

実は人は、母語であれ習得した外国語であれ、音を全部聞き取って言語として理解・解釈しているわけではない。かなりの部分、脳内で既知のものと照らし合わせて補っている。そんな話をしていると終わらないし、そもそも私にはそんな話をするには知識が不十分なのだが、英語学習についてよく言われる「知らない単語は聞き取れない」というのはそういうことで、知らない単語は脳内で参照できるものがないから把握できないのである。わかりやすい例では、聞いたこともない地名や人名は、最初はただ音声で聞かされても頭に入りづらく、文字で示してもらったほうが話が早い。

こう書いていて私がぱっと思いつくのは、とてもシンプルな例だが、今から20年前に日々のニュースでもよく言及されていた「カイバル峠」だ。これはアフガニスタンの地名だが、そういう地名があるということを知らずに音声だけ聞かされた場合、「峠」があるから、これは地名だなということがわかっても、「カイバル」の部分ははっきりとは認識されないだろう。一方で、先に新聞なり何なりで「カイバル峠」という名称を知っていた人は、ラジオやテレビで「カイバル峠」という言葉が音声で出てきたときに聞き取れなかったということはまずない*1

だから、英語の聞き取りの練習というのは、単に「英語のシャワー」を浴びていたらある日突然聞き取れるようになるなどということはほとんどなくて、「英語のシャワー」と同時に地道なボキャビルをしたり、英文を大量に読んでコロケーションを把握して、ある特定の文脈の中で、ある語が出てきたら次はどんな語が来る可能性があるかを予測しながら聞けるようにしたり、といった、耳以外の訓練が重要になってくる。

さて、前置きはこのくらいにして本題に入ろう。

2021年12月23日、英国のいわば「仕事納め」の日に、ひとりのニュースキャスターが引退した。ジョン・スノウ。どっかのドラマの主要キャラのような名前だが、チャンネル4ニュースの「顔」「看板」と言える存在で、プライムタイムのニュース番組のキャスターを32年にわたって続けてきた。がっさり言って、冷戦終結からあとずっと、である。もちろん、番組を任されるようになる前からジャーナリストをしてきた人で、そのキャリアは45年にはなるだろう。彼の長いキャリアを3分半ほどにまとめた映像があるが、まさに「映像の世紀」の最後の方、と言っても過言ではない。いや、あれよりも「資料」感が薄くて、より生々しい。聞きづらいことを聞くスノウの質問に答えるネルソン・マンデラのこの眼の光。ここにいるのは、私たちがよく知っている「笑顔のマディバ」「偉人ネルソン・マンデラ」ではない。ネルソン・マンデラの別のペルソナだ。

この「まとめ」には入っていないが、ジョン・スノウは今から10年前の3月11日にあの大地震津波が発生して原発が爆発してすぐに日本にやってきた英国人ジャーナリストの1人でもある。津波の厳しい映像がたくさん入っているのでここにはエンベッドせずにリンクするだけにしておくが、その津波(’と原発事故)の現場を歩き、(通訳者を介して)人々と話をし、というか人々の話に耳を傾けていた。だから、ひょっとしたら、福島県宮城県には、それまでジョン・スノウのことを知らなくても、東日本大震災で知った人や、「ああ、この人、話をした」と思い当たる人もいるのではないかと思う。

そのジョン・スノウの最後のニュースの締めくくりが、下記の映像である。聞き取ろうと頑張って聞いてみてほしい。

ニュースキャスターとしての仕事中で、人が何も考えずに聞いただけで聞き取れる(言っていることが理解できる)ように話しているが、その「人」は英国の人(多くは、というより圧倒的多数が英語を母語とする人々)であり、外国語として英語を学んでいる人には若干つらいかもしれないが、決して聞き取りにくい音声ではないので、聞き取ろうとしてみてほしい。

そうすると、どのくらい聞き取れているか(どのくらい聞き取れないか)がおのずと確認できるだろう。

そこまで行ったら、次の映像を確認してみてほしい。

これは、最初の映像の10秒以降の部分に、字幕がつけられた映像である。

つまり、最初の映像での聞き取りの答え合わせが、これでできる。字幕を見ながら、自分が聞き取れていなかった単語を書き出して、それらを、知っているのに聞き取れなかった単語と、そもそも知らなかった単語とに分けてみよう。

そして、次は、知っているのに聞き取れなかった単語に留意して、最初の映像(字幕なしのもの)をもう一度聞いてみよう。

そこでまた聞き取れなかったら、字幕のある映像をもう一度再生して、注意深く聞いてみよう。

そもそも知らなかったので聞き取れなかった単語については、この機会に覚えるつもりでノートに書き出して、辞書を引いて意味や発音、用例を確認しておこう。

私自身、聞き取れない単語があった。最初の方に出てくる "coalface" だ。

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https://twitter.com/Channel4News/status/1474121176167456769

ひょっとしたら知ってるはずの単語なのかもしれないが、自分で使ったことがないので自分のものになっておらず、聞き取れなかったのだ。ちなみにcoalfaceは炭鉱の中で石炭が露出している面という意味だそうで、つまり炭鉱を掘るという作業の「最前線」。それが色々な分野で用いられる慣用表現となったのだという。そろそろ死語になりそうではあるが、まだしばらくは使われるだろうし、ジョン・スノウの世代では圧倒的にリアルな言葉であろう。

それから、下記の下りは、英国のテレビ放送の歴史みたいなものを踏まえていないと、内容が予測できないから、聞き取れないかもしれない。チャンネル4は1982年に、BBCとITNに続いて開局した新しい放送局で、プライムタイムの「チャンネル4ニュース」は開局時から続いている。この開局の経緯で、"government's regulators" (字幕では "governments [and] regulators" と書き起こされているが、ミスだろう)がかかわっている。政府当局の認可を受けて開局しているわけだから。

f:id:nofrills:20211224232951p:plain

https://twitter.com/Channel4News/status/1474121176167456769

そのあとの "Thank you to all the people who have trusted me with their stories all over the world" は、「世界各地で、私を信頼してお話をしてくださったみなさんに感謝します」で、上で述べた東日本大震災の取材のように、ジョン・スノウは世界のどこかで大きな災害、事件や事故があると現場に飛んで、その現場を見てその現場のにおいを感じてその現場の音を聞き、気温を体験して、そして当事者に話を聞いて、ニュースという形に落とし込んできた人である、ということを踏まえれば、聞き取り・内容把握はスムーズに進むだろう。

そして、圧巻はその次のくだり。

Most of all, I'm so grateful to you at home. Yes, you, sitting there. It's not always an easy watch, and we don't always get away with, and we don't always get it right, but your hunger to know more about the world, to hear different voices, to get close to the truth, it's been the greatest privilege of my life to bring you the news. Thank you. Stay safe.

「ニュースを見る」ということについて、これほど見事な定義があるだろうか。

(ここでまた、頭はネルソン・マンデラのあのインタビューに戻る。"To hear different voices.")

そしてしめくくりが: 

That's Channel 4 News. Good evening. 

日本語にすれば「それでは今日のチャンネル4ニュースはこんなところで」といったような決まり文句だが、これをジョン・スノウが言うのは今日が最後だ。

その思いも込めた "That's ~" というしめくくりの定型表現。

これだって、"That's ~" が番組などのしめくくりの定型表現だということを知らないと、うまく聞き取れないかもしれない。

 

というところで、何度でも音声教材として聞いてみてもらいたい。

ちなみに、私も大学時代にニュースで聞き取りの練習をした。当時はネットなんてなくて、自宅でビデオで学習するというふうにもなっていなくて、大学のLL教室(というものがあった)でみんなで一つの画面を見て聞き取りの練習をしていた。その教材になっていたのが、アメリCBSダン・ラザーである。

 

ジョン・スノウは、世界的に人気になった某ドラマの主要登場人物とまったく同じ名前なので、はてなブログ内蔵の検索エンジンで普通に検索しただけではドラマのキャラクターのフィギュアとか写真集とか、ドラマの解説本みたいなのが大量にヒットしてしまい、ジャーナリストのジョン・スノウの本が見つからないが、Goodreadで探すと効率がよい。

暗殺されたアンナ・ポリトコフスカヤのこの本は、英語版の序文がジョン・スノウである。

 

 

*1:これが「カイバル峠」くらいシンプルなら、一度で覚えてしまうかもしれないが、長音が入っていたり拗音が入っていたりして「舌を噛みそうな」音であった場合や、単に長い場合などは、そんなにシンプルにはいかない。

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