このエントリは、2020年8月にアップしたものの再掲である。
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今回は、英文記事からの英文の実例というより、日本語で「英語圏でこんな記事が出た」と報道されている英語記事の探し方の実例について。
報道記事を「ハイパーリンク」というものが実装できない紙ではなく、それが前提となっているウェブで読むことが日常となって久しいが、英語圏報道機関では、基本的に、どこかよその媒体で出た記事を参照して新たに記事を立てる場合、その元記事にリンクするのが定例である。
例えば下記は、日本語圏でも話題になっているウイグルの強制収容所についてのBBC報道を受けてガーディアンが書いた記事のキャプチャだが、"reports by the BBC" の部分にBBC記事へのリンクがはられている*1。
ここではたまたま、さっき私が見ていたので、ガーディアンがBBCにリンクしている例を見たが、どこがどこにリンクするかは特に限定はされていない。BBCがガーディアンなどほかの媒体にリンクしていることもあるし、学術誌のThe LancetやScienceにリンクしていることもあるし、Twitterでの誰かの発言を地の文に組み込んだら、Twitterにリンクをはるのがデフォである(日本語圏のメディア、特にウェブメディアやスポーツ新聞では発言だけコピペして、発言主の名前も表示せずリンクもしていないが、「引用元を示す」という最低限のことすらしていないあれは剽窃にならないのだろうかといつも思う)。
だから英語圏では、報道されている記事について確認したい場合、元記事を探すという作業は必要ないことが多い*2。
だが、そもそもリンクをはるということをしていない日本語圏マスコミの記事の場合は、元記事を探すところから始めないと、その記事が元の記事の言ってることを正確に要約しているかどうかといったことすら確認できない。日本語圏の報道機関も「元記事にはリンクをはる」ことを基本としてくれていたらよいのだが、たま~にリンクしてある記事を見たらラッキーと思うという状態は、ここ20年くらいずっと変わらないので、この先も変わらないんだろうなと思っている。
つまり、日本語圏にいる以上、「元記事を探す」というスキルは必要なままだろう。
さて、今回見るのは、今日(2020年8月6日)付の共同通信記事である。共同通信は自前の媒体を持たず他の媒体に記事を供給する「通信社」で、下記では私がたまたま見かけた東京新聞ウェブ版の記事を参照するが、ほかにも、日本全国のいろいろな媒体で同じ記事が掲載されている。
【ロサンゼルス共同】米紙ロサンゼルス・タイムズは5日、広島、長崎への原爆投下を巡り「米国は核時代の幕を開ける必要はなかった」と題し歴史家らが寄稿した記事を掲載した。……
歴史家のガー・アルペロビッツ氏とジョージ・メイソン大教授のマーティン・シャーウィン氏の共同寄稿。米国では原爆投下が戦争終結を早め多くの米兵らの命を救ったとの主張が主流だが、日本との戦争を経験していない若者の増加などで変化の兆しもある。
これはAIが適当にそれらしい文面を書いたのだろうか。そうではなく人間が書いたのなら、第二次世界大戦が終わって75年経過し、「歴史の生き証人」である戦争体験者がどんどん数を減らしているときに、「日本との戦争を経験していない若者の増加」としれっと書けてしまうあたり、おそらく何も考えていないのだが、 それにしたって何も考えていなさすぎる記事で、こんなものを読んだところで何もわからない。それどころか、「ようやくアメリカでもこういうことを言う人が出てきたか」みたいな誤認を生じさせるという点で有害ですらある。事実は、このお二人は何十年も前から、「広島と長崎への原爆投下は不要だった」という地道な検証を続けてきており、その業績はすでに認められている。つまり「今になって出てきた」ようなものではないし、「変化の兆し」という言葉で語るべきことでもない。今、考え方が変わっていない人は、この先もずっと変わらないだろうという性質のものだ。それを前提としないことには「歴史認識」という一筋縄ではいかない問題を扱うことなど、到底できない。
という問題意識をこの記事で抱いたうえで、ここで紹介されている元記事を探してみよう。
共同通信のこの短い記事から得られる情報は、掲載媒体は「ロサンゼルス・タイムズ」、掲載日は「(2020年8月)5日」、トピックは「広島・長崎への原爆投下」、記事を書いたのは「ガー・アルペロビッツ氏とマーティン・シャーウィン氏」ということで、これだけあれば十分に元記事を探すことができる。
以下、PCのブラウザを使うことを前提として話を進める。スマホやタブレットの場合はそれなりに応用してもらいたい。
まずは掲載媒体のサイトを見る。Google検索がデフォルトの状態(個人的な設定を何もしていない状態)であれば、「ロサンゼルス・タイムズ」(以下、「LAタイムズ」)は、このカタカナのままウェブ検索しても、英語のサイトが検索結果に表示されるはずだが、もし日本語のページしか検索結果に出ていなくても、ウィキペディア日本語版のエントリから容易にたどることができる。
こうして得たLAタイムズのURLを開いて、そこで「検索」のアイコン(虫眼鏡)を見つける。「検索」はたいがい画面の右上にあるが、ここでも例外ではない。
https://www.latimes.com/
「サブスクライブしてください」というプッシュが強いが、恒常的に参照するのでなければとりあえずスルーしてよい。LAタイムズは確か、サブスクライブしていないと閲覧できる記事の数と種類に制限があるのだが、今回日本で共同通信が取り上げた記事を確認してみる程度なら、サブスクライブする必要はない。
では次の手順。「検索」の虫眼鏡アイコンをクリックすると入力欄が出てくるので、そこに記事のキーワードを打ち込む。キーワードは、筆者名でもよいし、トピックに関する英単語でもよい。ここでは後者の方が簡単なので、そちらからアプローチする。
検索窓に "hiroshima nagasaki atomic bomb" と打ち込んで*3、虫眼鏡アイコンをクリックすると:
探している記事がどんぴしゃりで表示される:
こうして得られた記事を読めばよい。記事はこちら:
ざっと読んでみたが、一般人にはわからないような専門用語も特にないし、記述は非常に平易でわかりやすく、パラグラフ構成もはっきりしていて読みやすい文章である。英語がどちらかというと得意という高校2年生なら、時間はかかるかもしれないが、読めるだろう。ぜひ読んでみてほしい。2020年、このくらいのことは、米国でも、LAタイムズというメジャーな場で言われているのである。これを読んでも「原爆投下は必要だった」という考えを変えない人も大勢いることは事実であろうが。
さて、上では記事のトピックから検索をしてみたが、現在話題になっていて記事がたっぷり出ているような場合は、それでは検索結果が多すぎて目的の記事にたどり着けないこともある。そういう場合のために、筆者名から検索する練習もしておいたほうがよいだろう。
今回の場合、ガー・アルペロビッツ氏とマーティン・シャーウィン氏、どちらもカタカナのまま検索すれば、日本語ウィキペディアが出てくるし、著書の邦訳もされているのでAmazonなどのページもある。
ここで英語の綴りを得て、検索窓に入力すれば、問題なく記事が表示される。
さらに考えを深めたければ、このお2人がこれまでどういう仕事をされてきたかについて、日本語版ウィキペディアにとどまらず、英語版ウィキペディアを見てみるとよいだろう。情報量が段違いである。日本語版ウィキペディアはアニメだの芸能だのにかかわる人については、百科事典というよりはファン向けの小冊子のような細かい情報が満載になっている一方で、アカデミックな人名録としては情報量が少なくてスッカスカなことが多いし、ユーザーもそれに慣れてしまっているのだが、英語版ウィキペディアが元がアカデミックなところからスタートしているせいか、こういった学者・研究者について充実していることが多い。特にガー・アルペロヴィッツ氏についてはものすごい情報量だ。
お二方とも1930年代後半生まれ。原爆投下のニュースを子供のころに見聞きした世代である。
字数が4000字近いので、今回はここまで。
※3990字
参考書:
NHK CD BOOK 高校生からはじめる「現代英語」 ニュース英語で上級を目指せ! 書ける話せる反訳トレーニング (語学シリーズ NHK CD BOOK)
- 作者:伊藤 サム
- 発売日: 2020/07/14
- メディア: ムック