このエントリは、2020年10月にアップしたものの再掲である。
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今回の実例は、辞書を引くということについて。
新たにナスカの地上絵が発見されたというニュースは、日本語でも大きく伝えられているので、ご存じの方が多いだろう。
ペルーの文化省は16日、世界遺産の「ナスカの地上絵」の保全作業をしている考古学者らが、幅37メートルの新たな地上絵を発見したと発表しました。これまでに知られている地上絵より古い時期のもので、急な斜面に描かれていたため自然の浸食でほぼ見えない状態だったということです。
これはもちろん世界的に大ニュースで、英語圏でも大きく伝えられた。今回はそれらの記事のひとつを読んでみよう。内容が単純明快で、同じことが日本語で伝えられているというニュースは、今回やるように、英語のメディア(それも、できればタブロイドではない一般の新聞)の記事をネットで探して読んでみると、「英語で文章を読む」ということのよい練習になる。当ブログでは以前、野球のイチロー選手の引退のときに所属球団シアトル・マリナーズが出したステートメントを読むということをしているが、今回はそれをニュース記事でやるという感じで進めよう。
まずは「ナスカの地上絵」について英語記事を探すための下準備をする。すなわち、「ナスカの地上絵」は英語ではどう表現するのかを調べる。このような世界的に有名な事物の場合は、日本語版のウィキペディアを参照するだけでわかることが多い。
日本語ウィキペディアで「ナスカの地上絵」のページを出すと、デフォルトのページレイアウトでは左サイドバーの中に「他言語版」の欄があるので*1、その中の "English" にカーソルを合わせると、英語版のページタイトルがポップアップする。これが、「それを英語でどう言うのか」の答えだ。
つまり「ナスカ」は "Nazca", 「ナスカの地上絵」は "Nazca Lines" だ。英語って物事をなんだかやけにあっさりと、いわば即物的に表現するよなあと思うことがよくあるのだが、個人的にはこれもその一例だ。
さて、こうして得られた "Nazca" というキーワードで、Googleで「ニュース」で検索すれば、英語の記事が出てくる。その中から、自分の読んでみたいものを読んでみればよい。クリック/タップした記事が難しかったりピンとこなかったりしたら、別の媒体の記事を読んでみるとよい*2。
今回は、この検索結果にも出ているが、単に私がいつも読んでいる媒体で、記事を読んでみたら短くていい感じだったので*3、ガーディアンの記事を見てみよう。
記事はこちら:
まず↑↑この埋め込んだもの↑↑に出ているが、見出し(太字)の下にあるリード文(この記事が何についての記事なのかを1文か2文で要約した文)の最初の単語、"feline" の意味が、辞書を参照せずここに出ている情報だけでわかるだろうか。この単語の意味をもう知っているという人も、知らないと仮定して考えてみてほしい。
リード文2番目の "geoglyph" という単語は初めて見るという人が多いのではないかと思うが、これは単語を見ただけで意味が推測できる。"geo" はgeometryやgeographyといった単語にも入っているが「地、土地」の意味。"glyph" は「ヒエログリフ」の「グリフ」で「描く」の意味。これを合わせて "geoglyph" とすると「地面に描かれたもの」つまり「地上絵」だ。
その「地上絵」にくっついている言葉が "feline" で、まあ何となく勘が働くだろうが、これは形容詞で「felineな/felineの/felineに関する地上絵」といった意味だ。
ここまで推測できたらもう答えはすぐそこにある。
入試の試験本番で、重要な部分で知らない単語に遭遇したときは、こういうふうにして意味を推測することになるので、今のうちに練習をしておこう。
最後に辞書を参照して、自分の推測が合っているかどうかを確認しよう。ついでに発音も確認しておくこと。第一音節にアクセント(語強勢)があることにも注意だ。手元の電子辞書などで発音が確認できない場合は下記weblioを参照。
さて、ではいよいよ本文だ。
記事本文の最初の文:
The dun sands of southern Peru, etched centuries ago with geoglyphs of a hummingbird, a monkey, an orca – and a figure some would dearly love to believe is an astronaut – have now revealed the form of an enormous cat lounging across a desert hillside.
いきなりわからない単語だ。こういうふうにしょっぱなにわからない単語があると読む気をなくしてしまうかもしれないが、"The dun sands of southern Peru" とフレーズ全体を見れば「ペルー南部のdunな砂」ということで、このdunという単語の意味がわからなくても全体の意味は取れるだろうと判断できるから、そのまま読んでいけばよい。
ちなみに、高校生や受験生はそんなことはしないと思うが、最近は一般の人々は英語の辞書を参照する代わりにGoogleに打ち込んで、Googleが自動的に表示するGoogle翻訳の結果を参照することがよくあるのだそうだ。
だが、Google翻訳は、複数の「語義」を示すということをしない。Google翻訳が示すのは常にたった1つの意味で、なぜそのように結論したのかをあのシステムは示すことはない。
それが文の場合は、たまたまうまくいってしまうことが非常に多いのだが(そしてたまたまうまくいくことを「精度が高い」と人は評価する)、前後を切り離した単語だけの場合は、うまくいくはずもない。
5分くらいであってもまじめに英語の勉強というものをしたことがある人ならば知っていると思うが、単語がわからなくて辞書を引く場合、辞書にずらずらと羅列されているいくつもの「語義」の中から、自分が今見ている英文の中での意味を探すのは当たり前のことである。
それに加えて、英語には綴りが同じ別の単語、つまり「同綴異義語*4」というものがある。「創業10周年記念フェア」のfairと、「フェアな判定」のfairのようなものだ。前者は「催し物」の意味の名詞で、後者は「公正な、公平な」の意味の形容詞であるが、品詞が違うだけでなく語源から異なる別個の単語である。こういうとき、辞書では、fair1, fair2と番号を振って、別の単語としてエントリーしている。
今回のこのdunもそのような、同綴異義語がある語で、取り扱いにはそれなりの注意が必要だ。しかしGoogle翻訳が一番上に表示されているGoogle検索の画面だと……
今探しているのとは全然関係のないdunの語義が、あたかも唯一の語義であるかのように示されている。これはdun1, dun2のうちのdun1の語義で、今ここで見なければならないのはdun2である(が、Googleはそれを示すということをしない。Googleのこの性質を知らずに「Googleを使いこなす」のは無理である)。
というわけで、このdunは「灰褐色の」という意味の形容詞だ。"The dun sands of southern Peru" は「ペルー南部の灰褐色の砂地」。
ここで文全体を改めて見てみると:
The dun sands of southern Peru, etched centuries ago with geoglyphs of a hummingbird, a monkey, an orca – and a figure some would dearly love to believe is an astronaut – have now revealed the form of an enormous cat lounging across a desert hillside.
やけに長いが、全体の構造が取れただろうか(主語と述語がどれかわかっただろうか)。それを太字にして書いてみると:
The dun sands of southern Peru, etched centuries ago with geoglyphs of a hummingbird, a monkey, an orca – and a figure some would dearly love to believe is an astronaut – have now revealed the form of an enormous cat lounging across a desert hillside.
「ペルー南部の灰褐色の砂地は、今、~を明らかにした」という文となる。
なんだか大げさな文だが、英語圏の一般紙(クオリティペーパー)の記事の書き出し(「つかみ」の部分)はこういう大げさな感じの文体になっていることがよくある。
ではこの文の意味は……というところで、すでに当ブログ既定の4000字を超えているので、次回へ続く。
※4300字
サムネイル用画像 via いらすとや:
参考書: