Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

【再掲】大っぴらに書くのがはばかられる語を含む文をどう表記するか, ボキャビル, など(連載:「フォー・シーズンズ」事件、その1)

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このエントリは、2020年11月にアップしたものの再掲である。

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今回は、この週末に英語圏で人々の目を点にさせ*1、続いて爆笑の渦に叩き込んだ「四季」にまつわるお話。

「日本には四季がある」のは事実だが、それをひっくり返して「日本以外には四季がない」とするのは論理的な誤りで、言うまでもなくもちろん日本以外の世界各地も四季はある(中には「常夏」の地域もあるが)

しかし現実には、「日本には四季がある」のが何か特別なものであるかのように語ること(そういうナラティヴ)がどうも目に付く。そのナラティヴは近年の日本の国粋主義プロパガンダの一環だろうと私は考えている*2。あるいは、当たり前のことを疑わせるというカルト的洗脳の手法*3

事実としては、「日本以外にも四季がある」。現につい先日、北米の秋の色を表現するための多彩な語彙を、辞書の名門Merrium-Websterのアカウントがフィードしていた: 

北米と言えば毎年春には「ワシントンの桜」のニュースがあるし、夏は今年は「デスヴァレーの気温」や「山林火災」がニュースになったし、冬は豪雪が報じられたりするわけで、普通にニュース見てれば「四季折々」なのはわかるだろうが、「日本だけに四季がある」と思っている人たちはそう思わないようだし、この語彙の量を見てもなんとも思わないかもしれない。でも、秋の木の葉の色についての表現は、少なくとも現在では「赤い(紅い)」か「黄色い」、「茶色い」くらいしか使われない日本とは段違いの豊かさである。実際こういう英語の語彙は、その中で生活していなければ、自分で使えるような形で身につけるのが難しい(私はredとscarletの違いがよくわかっていないし、それ以前に夕空の色はorangeなのかpinkなのかもわかっていると自信を持てるほどにはわかっていない)。そのくらい、すべてに密着している感覚的な語彙が、アメリカ英語ではこれだけ豊かなのだ(たぶんイギリス英語でもあまり違いはないが、木の数が北米に比べたら圧倒的に少ないことの影響はあるかもしれない)。

ともあれ、北米を含む「欧米」にもこういうふうに「四季」があるわけで、The Four Seasons*4という名称の企業や楽曲などの一覧がウィキペディアにもある: 

https://en.wikipedia.org/wiki/The_Four_Seasons

もちろん、ウィキペディアで項目化されないような小規模な企業などは、それこそ星の数ほどあるだろう。

というわけで、今回、この週末に起きたのは、いわば「そっちのFour Seasonsじゃねぇwwwww」という事案である。

Four Seasonsといえば、まず、世界的に展開している超有名な高級ホテルである。ウィキペディアによると、1960年にカナダで建築の心得のある創業者によって1軒のビジネスホテルとして始まり(つまり、カナダにも四季はあります)、現在ではビル・ゲイツサウジアラビアの王族のひとりが大株主になっているとか。全施設のリストは英語版ウィキペディアにはないけれど、日本語版が網羅的な一覧を載せている。すごいね、いっぱいある。

そして、米大統領選の開票がどんどん進められて、最後まで結果が出てなかったいくつかの州での開票作業も終盤というタイミングで、情勢不利の風向きに対して「選挙不正 voter fraud」だと根拠もなくわめきちらしていた現職ドナルド・トランプの陣営が、開票結果の公表が待たれているペンシルヴァニア州(略称PA)の最大都市フィラデルフィアでの会見を予告した。場所は「フォー・シーズンズ」、時刻は午前11時だ。

f:id:nofrills:20201109162003j:plain

https://twitter.com/atrupar/status/1325221361036521476

だが現職のこのツイートはすぐに消されて、次のツイートが投稿された。

f:id:nofrills:20201109162134j:plain

https://twitter.com/atrupar/status/1325221361036521476

「弁護士による記者会見を行う」が「でっかい記者会見をどーんとやる」になり、「フォー・シーズンズ」が「フォー・シーズンズ・トータル・ランドスケーピング」になり、「11時」が「11時半」になった。

この3つの修正のなかで普通にありえるのは最後の時刻の修正だけである。最初の修正はまともな大人の出す声明とはちょっと考えられないクオリティで、いわば「いつものトランプ節」なのだが、やっぱり普通じゃない。

というかそんなことより「フォー・シーズンズ・トータル・ランドスケーピング」って何。

これが発生したとき、たまたま私はTwitterを見ていたので、 フォローしているジャーナリストの人とかが混乱しているのを目撃してしまった。何人もが一斉にGoogle Mapsで「フィラデルフィアフォー・シーズンズ・トータル・ランドスケーピング」を検索し、キャプチャ画像をつけて「これかー」みたいにツイートしていた。

その1人が、英インディペンデントのリチャード・ホールさんだ。この方は、私は2011年のいわゆる「アラブの春」のときにレバノンにいた方だったと思うが(それでフォローした記憶がある)、今はアメリカ特派員をしている。

 "What in the actual..." の "..." は「大っぴらに書くのがはばかられる語」で、これは「一体どういうこと」の意味。語感としては「一体全体どういうことだってばよ」とか「わけがわからないんですけど」くらいのくだけた、率直な感じがする。こういう文は、自分から使う機会はあまりないかもしれないが、知っておけばマイナスにはならない。そもそも日本出身者でちょっと英語ができると得意になっている人は、その「大っぴらに書くのがはばかられる語」をそのままどばーんと書いてしまって顰蹙を買い、恥をかくことになったりもしがちだが。

続いてホールさんは: 

きれいに組まれた石垣にかわいらしい植栽。建物周りの花壇を作るときはここに相談しようかしら……ってそうじゃない。

landscapeは名詞で「風景」の意味だが、他動詞で「~を緑化する、~を造園する」(つまり「見て楽しめる風景を作る」の意味)の用法もある。ここではその用法で、landscaping companyは「造園業者」だ。

ドナルド・トランプは、世界の報道機関を集めて、フィラデルフィア市郊外の小規模な造園業者で会見を開くのだろうか?」

 

日本時間で8日(日)の未明、ホールさんのこのツイートを含めていくつかのツイートが流れてくるのを見ながら私は目を点にしていた。Twitterをやっていると、ときどき、あまりにもわけのわからないことに遭遇して「ひょっとして自分が英語を正しく読めていないのではないか」と疑うことがある。今回もそれだ。

というか、今回のこれは、これまでのそれを軽く上書き消去してしまうくらいにわけわからなさ度が高く、しばらく私は「え? え?」となるばかりだった。

そのころ、Boing Boingなどで書いているライターのジェニ・ジャルディンさんが笑い転げていで、これを見て私も「AHAHAHAHAHAでいいんだ」と安心した。

全部大文字で "HE IS SO BROKE" と書いているのは《絶叫》の感じでの強調。日本語のネットでの表記法だと全゛部゛に゛濁゛点゛を゛つ゛け゛る゛とか、一 字 一 字 の 間 に ス ペ ー ス を 入 れ る とかいったものに相当する。ドナルド・トランプ自身がこれをよく使っているが、正直、使いすぎるのはやかましいしうっとうしい。ジェニさんのこのツイートのように効果的に使うといい感じなんだけど。

brokeはbreak-broke-brokenのbrokeなんだけど、この場合は動詞の過去形じゃなくて形容詞化していて「破産した」という意味。口語で「一文無し」の意味でよく使う。

  I can't afford the train fee. I'm broke. *5

  (電車賃がね。ほんとにお金ないから)

ジェニさんの文は、丁寧に書けば "the Four Seasons" と大文字を使うべきところが小文字になったりしているが、「ほんとに文無しなんだな。あのフォー・シーズンズじゃなくて、フォー・シーズンズという名前の造園業者でやるって、あはははは」という意味である。

 

……と、ここで当ブログ規定の4000字を超えてしまっている。「四季」について、余計な話をしすぎたようだ。このネタで引っ張るのも間抜けだが、規定なので、続きはまた明日。

ちなみにこれについての私のスレッドは下記からどうぞ。

https://twitter.com/nofrills/status/1325537893159301120

 

※4550字。 真顔で英語解説するのがけっこう苦しい。

 

参考書:  

ジーニアス英和辞典 第5版

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  • 発売日: 2014/12/17
  • メディア: 単行本
 
Very Best of

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Frankie Valli July 4th - Grease, Can't Take My Eyes Off You, Let's Hang On

フランキー・ヴァリはこの年齢でこの声が出てること自体がすごいよね。何十年も前の、高音域で聞かせる曲が歌えるんだもん(キーは少しは下げてるかもしれないけど)。2曲目のサビは最後まで客に歌わせるのかなと思わせてご本人出てくるし、3曲目は高音主体の曲だし。

*1:ちなみに日本語の「目を点にする」「目を皿にする」「目をハートにする」といった慣用表現は、英語母語話者の人にはとてもおもしろいものに聞こえると聞いたことがあります。言葉っておもしろいですね

*2:私が最初に気づいたのは石原都政下での教育現場(都立高校)からの報告。すごい報告でした。

*3:カルトはそういうことを実際にやります。箸の上げ下ろしみたいな日常的なことで、それまでその人が当たり前としてきたものをブチ壊し、その人が従順に言うことを聞いていれば洗脳できてるということで。

*4:「四季」の意味では定冠詞をつけるのをお忘れなく。

*5:これは昔、拙著にも書いたことがあるが、実際にロンドンで失業中の友人の口から出たことばである。それで覚えた単語なので、リアルに痛みを伴っている。

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