先ほどからフィードしている通り、今年2月のエントリ4つを、5分差で再掲しているうちの3つ目。昨日日曜日にエルサレムで行われたイスラエルのナショナリスト過激派が「アラブ人に死を」と叫んで旗をぶん回す毎年恒例のパレードに関連し、昨年のパレードを記録した映像を見るエントリ群である。このパレードがどういうものであるかが十二分に説明されていると思う。私は自分の中で最も大きな関心を北アイルランドに向けて20年になるのだが、この過激派のパレードは、90年代半ばの「ドラムクリー紛争」のことや、この10年の間にまた激しくなっているロイヤリストの旗を掲げての行進のことを強く思い出させるものであるが、イスラエルのこれは権力の勾配が90年代以降の北アイルランドとはまったく違うところで行われているし、政府の関与の状況も全然違う(比べ物にならない)ので、「旗にはもううんざりだ」となってそこで思考停止せずにいなければならないと思っている(が、あまりにうんざりしすぎていてなかなか難しい。旗ってものを見るだけでもうね……)。
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今回は、前々回および前回の続きで、前回のエントリで途中まで見た昨年6月のエルサレムにおける「旗行進 flag march」の記録映像を見て、モハメド・エル・クルドさんのスレッドを先へ読んでいこう。
前置きなしで、以下、いきなり本題に入る。前回の繰り返しになるが、今回見るものは非常にえげつない言葉があふれていて、見聞きするだけで心理的に削られるような性質だから、受験生などで、精神の平穏を最優先すべき場合は、このエントリは今は読まずに、受験が終わったあとで読むようにしてほしい。ポジティヴなものは何も提供できない。
警告したからね。
ソースとするツイートはこちら:
Cowardly TV reporters interview us while our homes get bombed and ask us about what we “think of violence,” whether “teach our kids hate.” Yet the staggering eliminatory nature of Zionism apparent in both the regime’s rhetoric and actions is unquestioned. pic.twitter.com/5MQky2WWu0
— Mohammed El-Kurd (@m7mdkurd) 2022年2月13日
前回見たのは、この映像の次の上の段のところまでだ。
《end up in ~》は、ここでは「最終的には~に身を置くことになる」。
この事態は、日本語で「強制立ち退き」という言葉で説明されているが、「立ち退」かされた人は「難民キャンプに送ってやる」と、このデモ参加者はがなっているのだ。生き生きとした表情をして。
「難民キャンプ」といわれると、例えばレバノンやヨルダンにある、シリアの戦乱を逃れてきた人々が身を置いているような、未舗装の地面にテントを張った場所を思い浮かべるかもしれないが、パレスチナについていう「難民キャンプ」はそうではない。パレスチナの人々が、住んでいる家から追い出され、自分たちの村・町に戻る権利も拒まれてからもう何十年も経過している。その間に、「難民キャンプ」は、見た目では普通の町と変わらないような状態になった。しかし、そこに暮らす人々は、家を持たない/いつか帰るべき家がそこではない場所にある「難民」である。
東エルサレムのパレスチナ人は、イスラエル建国時に「難民」にされずに、ずっとそこに暮らし続けることができたパレスチナ人である。だが、21世紀になって、その人々をも「難民」にしてやる、と、イスラエルの過激派は息巻いているのである。
これは「立ち退き」の問題ではなく、「土地の収奪」の問題である。
次のシークエンス:
「ひょっとしてギャグで言っているのか」という感じだが、本人はきっと大真面目だ。たぶん、よその国のことは国名しか知らず、イスラエルとの、例の「親〇〇」「反〇〇」に二分される関係においてのみ把握している。
ここで言及されているサウジアラビアやモロッコは、長年のポリシーを翻して、イスラエルとの関係を結びつつある国だ。レバノンはそう単純ではないはずだが、海上国境問題で動きがあることが、イスラエルの極端な愛国主義者たちにはこう受け取られているらしい。
レバノンは宗教面でも単純ではないのだが、サウジアラビアやモロッコはイスラム教の国だ。それらの国々が「我が国とともに立っている」と豪語しておいて、ほぼ同時にパレスチナ人に向かって「お前らの宗教はゴミカス」と罵倒するのだから、この人たちの世界では、パレスチナ人の宗教は何だということになっているのだろうと首をかしげてしまう。
その次。「アラブ人」に対する罵倒の中でも一番ひどいものが使われている:
これを、「アラブ人」が住んでいる街に集団で押しかけていってやるのである。
次。
イスラエル人過激派のデモ隊と、パレスチナ人の住民たちとの間には、バッファゾーンが設けられ、イスラエルの警察が勢力引き離しを行っているのだが、彼らはデモ隊に目を光らせるのではなくパレスチナ人をにらみつけており、バッファゾーンの柵に近寄ったパレスチナ人は力ずくで立ち去らせている。そして、「あっちがこっちを襲ってきているときになぜ何もしないのか、差別だろう」と言葉で抗議する人には体をぶつけるようにして下がらせ、手を使って小突くようにして追い払うという対応をしている。
英文法的には、ここには《those who ~》が出てくる。「~する人々」の意味の、《関係代名詞》を使った定型表現だ。
次。パレスチナの人々が何と戦ってるって、これと戦ってるんだよね。「パレスチナ」の根本的な否定。本当に根本的な否定がなされていて、「欧州での差別と迫害から逃れてきたユダヤ人は何もない砂漠に国を作った」という《神話》があり、Twitterではそれに対抗すべく、「パレスチナの歴史」というハッシュタグで画像を投稿するというデモが行われたこともあった。もちろん、この旗デモでもパレスチナ人は言われっぱなしにはなっていない。
「パレスチナはもう死んでいる」「パレスチナなどない」という罵詈雑言に対し、こういうときに声を上げるのはなぜかいつもこういう「お母ちゃん」っぽい人なのだが、パレスチナの中年女性が「あんたたちがどう思おうと、パレスチナは存在する」と反論している。ここでは英文法的には《like it or not》が出てくる。これはwhether you like it or notを短くした表現で、参考書的には「好むと好まざるとにかかわらず」という対訳なのだが、要は「あんたたちの意見はどうでもいい、事実としては~だ」という意味である。
Many countries besides Japan have four seasons, like it or not.
(あなたがたがどう思おうとも、日本以外の多くの国に四季があるわけで)
キャプチャ画像の3段目で、Pressと表示したベストを着ているのは報道機関の記者たち。その右に、ただの白いシャツを着て、性能のよさそうなマイクをつけたビデオカメラを持った中年男性がいるが、この人は旗デモ側の記録係か、市民ジャーナリストか何かだろう。デモ隊と一緒になって「パレスチナなどない」と叫んでいる。
いやあ、しかしひどい言葉ばかりだ。そろそろうんざりしているだろうが、次で最後。デモ隊が街を練り歩き始める。過激派は、そこにもともと住んでいた人々に、こういう言葉を投げかける。
下から3つ目の「テロリストを逮捕しろ」は、デモ隊に怒ったパレスチナ人がデモ隊に向かっていったか何かだろう。警察がパレスチナ人を押さえ込んでいるところに、デモ隊が歓喜の声を上げているという状況だ。
そして最後にある「ガザに行け」は、東エルサレムを出てガザに行け、ということで、これだけでもこの人たちがガザ地区をどう見ているのか、よくわかる。
これでも、ガザ地区について「ゲットーだ」というと、「ホロコーストにつながったユダヤ人迫害を引き合いに出すな」と非難され、最悪の場合は反ユダヤ主義者呼ばわりされる。
この価値観の転倒は、ほんと、何とかならないものだろうかと思っているが、何ともならないのだろう。
次のツイート:
While the Occupation tortures Palestinians, spies on us, and exports cyber warfare and police brutality techniques to other violent regimes, so-called journalism institutions like @Politico & @dwnews force employees to pledge allegiance to “Israel’s right to exist.”It’s a circus.
— Mohammed El-Kurd (@m7mdkurd) 2022年2月13日
"the Occupation" は「占領当局」の意味で、この文脈では「パレスチナを占領している者たち」の意味。もっとわかりやすく言えば「イスラエル」のことだ。
文意は、「占領当局が、パレスチナ人を拷問し、パレスチナ人をひそかに監視し、よその暴力的な国家体制にサイバー戦争と警察の暴力を輸出している一方で、PoliticoやDW Newsのようないわゆる報道機関は、自社の従業員に対し、『イスラエルの存在権』への忠誠を誓わせている。サーカスだ(=茶番劇だ、見世物だ)」。
英文法的には《force ... to do ~》に注意。PoliticoやDWは従業員が「イスラエルの存在を否定すること」をしないよう、契約書に何か条項があるのだろう。
「パレスチナは存在しない」と、パレスチナ人が罵倒されているときに。
また途中で4000字に達した。続きは次回。
※4050字