このエントリは、2021年2月にアップしたものの再掲である。
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今回も、前々回、前回の続きで、新型コロナウイルスのまた新たな変異株についての報道記事から。
この記事のこの部分は、変異株についての恐怖感をあおらないようにする文体というか、情報を手際よくむぎゅむぎゅと詰め込んで、立て板に水のように語っている調子の文体の箇所なので、読む立場としては、見た目のボリューム感以上に読むのに時間がかかると思う。私が高校生の時にこういうのにぶち当たると、わからなくてわからなくて、場合によっては泣きながら、必要とあらば30分でも1時間でもかけて考えて読み解いていた。そうやってするすると読めたときの「これか」という感覚が、いわゆる「ブレイクスルー」の感覚だったのだと思う。というわけで、ちょっとつらいと思う方も少し頑張ってもらいたい。(全然歯が立たないという場合は、もう少しシンプルな例で基礎力を固めたほうが効果的であるが。)
記事はこちら:
キャプチャ画像内、3番目のパラグラフ(文):
The concern is that the virus is changing in ways that could let it easily spread and escape from the vaccines that we already have to fight Covid.
短い文なのに、thatが3つもある。っていうかこの記事、thatが多い。私がこういう文を書いたら英作文/ライティングの先生に「もうちょっと工夫しようか」と言われそうな気がするが、実際にはこういう性質のthat連発文というのはまあまあよくあって、だからこそ例の「that連発の難しい文」みたいなのを読めるようにすることは、ただの「頭の体操」以上の意味がある。薬袋善郎『英語リーディングパズル』(東京書籍)から引用しておこう。
He said that that that that that boy had usedin the sentence was wrong.
……5番目のthatは指示形容詞でboyを修飾しています。that boyで「その少年」という意味です。
4番目のthatは関係代名詞で……(以下略)
というわけで、今回の実例の文。
The concern is that the virus is changing in ways that could let it easily spread and escape from the vaccines that we already have to fight Covid.
最初の黒太字の "that" は、be動詞の補語になるthat節を導く接続詞のthatだ。つまりこの文は《the fact is that ...》の形の構文になっている。
The fact is that Mr Mori still has no idea what is wrong with his remarks.
(事実は、森氏は今なお、自身の発言の何がいけないのかが全然わかっていないということである)
"the concern" は「心配されること、懸念事項」の意味で、ここは「懸念事項は、……ということである」。
次、青で太字にしたthatは、直前の "ways" を先行詞とする《関係代名詞》で、ここでは主格。こういうときのwayには定冠詞のtheをつけるものではないのかという疑問もあるが、そこを追及し始めるとまた書き終わらないので、今回は「こういう実例だ」ということで先に行こう(大学入試の自由英作文などに際してこういう文を自分で書くときには、"in the ways that ..." とtheをつけておいてよいのではないかと思う)。
この関係代名詞のthatの節、"that could let it easily spread and escape from the vaccines" には、使役動詞の《let + O + 動詞の原形》が入っている。目的語の "it" は前出の単数形の名詞を受けており、ここでは "the virus" だ。"could" は過去形(過去時制)ではなく「~するかもしれない」という《推量》の意味。"and" は動詞の原形2つ, spreadとescapeを結んでいる。だから、"in ways ... vaccines" の部分の意味は、そのまま逐語訳すれば「それ(=ウイルス)に、たやすく広がらせ、ワクチンから逃れさせるかもしれないような方法で」となる。これではあまりに読みにくいので、自分で日本語にするときはそれなりに工夫することになるが。
それから3番目のthat, 朱で太字にした "the vaccines that we already have to fight Covid" のthatも関係代名詞だが、これは目的格で、"we already have" のhaveの目的語となっている。「私たちがすでに持っているワクチン」。
それに続く "to fight Covid" は《副詞的用法》のto不定詞で、《目的》を表し、「コロナと戦うために」。"Covid" はCovid-19を省略した形で、Covid-19のことを日常語ではCovidと呼ぶことが定着している*1。日本語で「新型コロナウイルス感染症」が「コロナ」になっているのと対応する。
この部分、意味を取りながら構造を読み解いていかないと、見た目だけでは "we have to fight Covid" というようにも取れてしまうので、要注意である。
以上、まとめると、今回見た部分の意味は、「懸念されているのは、容易に拡散し、コロナと戦うために私たちがすでに手にしているワクチンの効果を免れるような方向に、ウイルスが変異しているということだ」。
このあと、キャプチャ画像の4番目のパラグラフで "Current ones were designed around earlier versions of coronavirus" とあるが、この "ones" はvaccinesを受ける代名詞である。
この後の部分は、前々回、前回と今回読んできたところがクリアできていれば、さほど苦労せずに読めるはずなので、各自、自力で読んでみていただきたい。この水準の英文は国公立2次や私立の入試でよく出されるので、受験を控えている人にとってはよいウォームアップにもなるだろう。
参考書:
*1:書くときは全部大文字でCOVIDとすることもある。