Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

省略, 接触節, など(安置された棺を延々中継し続けるテレビニュースが、 #MournHub と揶揄されている)

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今回の実例は、Twitterから。

エリザベス2世の棺は、スコットランドからイングランドに送られ、バッキンガム宮殿で遺族(王族)が私的な別れを告げたのち、バッキンガム宮殿から徒歩で15分程度のところにあるウエストミンスター宮殿 (Westminster Palace: 通常の文脈ではthe Houses of Parliamentとして知られるあの壮麗な建物) に運ばれて、一般国民に開かれた場に安置されている。

そして、安置された棺と、それを守る護衛の兵士たちと、最後の別れを告げるためにものすごく長い時間、ものすごく長い距離の列に並んでここまでたどり着いた一般国民の姿を、BBCなどの報道機関が、延々と流している、という。

正直、エリザベス2世が亡くなってニュースはそれ一色になるだろうと言われていたときにも「そうはいっても西洋の先進国で民主主義がいかに根付いているかを自慢してみせるような国とその報道機関だし、日本での昭和天皇崩御のときほどの熱狂はないでしょ」と思っていたのだが、たぶん昭和天皇のときの日本より今の英国はすさまじい。

といっても「大喪の礼」があった当時私はテレビを見ていなくて、バイト先のレンタルビデオ屋が忙しくなって店長がホクホクしてたことと、めぼしい作品はあらかた出払ってしまったこと*1くらいしか直接の体験としては覚えていないのだが、それでも、ただ並んでいる人々を延々と中継し続け、それら並んでいる人々についての記事が何本も書かれる、ということにはなっていなかったと思う。

Twitterでは#CoffinWatchというハッシュタグがあって、Twitter利用者が、BBCなどが貼りついて中継しているエリザベス2世の棺とその護衛と弔問に訪れた(というか「弔問」でもないかもしれない……pay the respectと英語で表されるもの)人々を見ながら何か気づいたことなどをツイートしたり、「こんなのバカげている」と怒りを表明したりしている。それについての「自虐」(英国の伝統芸だ)パロディもある(via @yoookd)。

#Mournathonというハッシュタグもある。「死を悼む」の意味のmournと、「マラソン」marathonを掛け合わせた造語で、初めて見る語だが、見れば一発で意味がわかる(文脈があるから)。

これは、延々とただ映像を流しておけば、人はそこで起きていることを何か探してしまうという現代美術的なアレが美術館の外で起きているという例で、シチュアショニズム的ですらあるが、ぶっちゃけ、怖い。

実際にどういう様子かはこのエントリの下の方に貼りつけておくが、こういう中でできた「自虐」(と呼ばれるだろうが、実は「同じ英国民でも私たちはあの人たちとは違う」という目線での)ハッシュタグのもう一つの例が、#MournHubである。

18禁の話になるが、今英語で何か読んだり書いたり調べたりしようとしたら常識として欠かせないウェブサイトに、PornHubというのがある。ポルノ専門サイトで、hubは「ハブ空港」などというときの「ハブ」。PornHubとはつまり「そこに行けば何かしらポルノが見られるサイト」という意味だ。

そして#MournHubとは、「そこに行けば何かしら(エリザベス2世の)死を嘆いている人々が見られるサイト」という意味で、BBCをはじめとするニュースのチャンネルがそうなっちゃっていることを揶揄する人々が集まっているハッシュタグである。揶揄だから、取り上げられるものの多くは単なる「女王様がお亡くなりになってしまって、私たちはこれから知らない世界に放り込まれる」的なよくある感傷ではなく、激烈なものだ。

その一例: 

文頭に主語の "I" が省略された、日記文体・手紙文体と呼ばれる文体である。"all the news I saw on UK TV" の部分は《接触節》の構造。

「1週間ほどネットを使っていなかったが、英国のテレビで見るニュースといえばすべて『例の行列』のことだけだった」という文面に、 #MournHub というハッシュタグが添えられている。

"The Queue" の《定冠詞のthe》の使い方も興味深い。《the + 一般名詞》で「決定版の~」となる用法だ。

下記は、メディアが取り上げている激烈な事例について「マジかよ」と言って呆れている例。

呆れられているのは、「女王様に一目会わせたくて、亡き母の遺灰を持ってきました」という一般市民が、メディアに取り上げられている様子。

「遺骨ペンダント」的なものが一般化している日本社会ではさほど異様なことには思えないかもしれないが、元々「火葬」という習慣がなかった英国では、やはりこれは激烈であろう。

そして、王室支持で感情的な右派タブロイドの中でもとりわけ強烈なデイリー・エクスプレスの報道を揶揄するツイートのひとつ。

"whilist" はwhileとほぼ同義の接続詞。

エクスプレス紙は、一般市民からの花を前にしたウィリアム王子(今や皇太子)夫妻が「エリザベス2世はみんなのおばあちゃんのような存在でした」と語っている、という体裁で、それに対してツイート主のグレイアムさんは「ですよね、私の祖母は黄金のピアノで We'll Meet Again を演奏しながら、500万ポンドのお帽子をかぶってましたし」と述べている。

"a £5,000,000 hat" とはもちろん王冠のことで、あの王冠についているダイヤモンドがどこからどのような形で英国の王家のものとなったかなどを考えたら、そんなに無邪気に「この国のシンボルが死んでしまった」と嘆くことはできない、と考える人は、決して少なくはないのである。

 

※ここまでで4090字

 

私は日本にいるから、この熱狂の状態がどういうふうになっているかを100%体感することはできないのだが、日本にいても確認できる範囲では次のようになっている。

まず、BBC Newsのスマホアプリ。

日本時間で今日16日の朝、アプリを開いたところの静止画はこうだった。

スクロールダウンするとこう。

 

ガーディアンはこう。ちなみに地域設定はUKにしてあり、ログアウトした状態である。

こちらはスクロールダウンするとこう。

 

*1:とても多くの人々が、どのチャンネルも同じことをやってるようなテレビを消してレンタルビデオで映画を見ていた……今ならネット配信があるからそういうのが目に見えることはないが。

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