Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

《比較》の表現, 分詞の後置修飾, 文頭のAnd, など(エリザベス女王の葬儀にアイルランドから誰が参列したか)

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今回の実例は、報道記事から。

日本でも大きな、というかものすごく大きなニュースと扱われた英国のエリザベス2世の葬儀が、19日の月曜日に行われた。私はBBCのウェブストリームで、ウエストミンスター・アベイでのfuneral serviceから、軍人たちが棺を曳いてウエストミンスター・パレス前(国会議事堂)からホワイトホール、ザ・マルを経てバッキンガム宮殿へという、観光客にもお馴染みのルートを通ってグリーン・パークの中を進み、同パークの西の端にあるウエリントン・アーチ(ナポレオン戦争後の凱旋門で、バッキンガム宮殿の入り口でもある)で、故人自らデザインの考案に参加したという特製の霊柩車(中に載っている棺が沿道からよく見えるよう工夫されている)に乗り換えて、ウィンザー城に向かうところまでは見ていた。そのあとは見ていない。儀式としてはウィンザー城内の礼拝堂での、故人のこの世との別れの儀式のほうが、ウエストミンスター・アベイでの儀式よりもさらに重要だったかもしれないが、もうあれこれと限界という気分だった。ちなみに私個人は君主制維持を主張する側よりも共和主義者の方に共感を抱いている。それでも同じ時間を共有したくてわざわざウェブストリームで何時間も見ていたのは、ひとつには惰性であり(こう見えても「イギリス好き」なので)、もうひとつには、これが「帝国」の終わり、落日の最も美しい瞬間になるかもしれないという気が強くしていたからである。

日本の報道やコメンタリーの類はほとんど見ていないのだが、それでも目にしたものの中には、ウエストミンスター・アベイでの葬儀の参列者の席次をめぐって書かれたゴシップ風味の記事に「米国は英国とは『特別な関係』にあるというが、米大統領の席は後ろの方だった」みたいな記述があった。

英米のいわゆる「特別な関係」は政治や軍事同盟的な点について言うことであり、国家元首の葬儀での席次のような場合には当てはまらない。

ていうか、その記事、「英連邦が重視されたので、米国よりもカナダが前だった」みたいなことを書いてあったのだが、書いた人や編集が「英連邦とは何か」をよく知らないのだろう。あるいは知っててあえて「アメリカ中心主義」を取っているのかもしれないが。

カナダもオーストラリアもニュージーランドも、バハマやジャマイカのようなカリブ海諸国も、ナイジェリアや南アのようなアフリカ諸国も、英連邦(コモンウェルス)加盟国にとって、今回の葬儀は、自国の国家元首の葬儀である。コモンウェルスは「同君連合」だからだ。これらの国々の葬儀での席次が高いのはあたり前だ。

一方で、他の国々が基本的に1人(とそのパートナー)しか招待されなかったときに、2人が招待されるという形で「特別な関係」がはっきり出た国がある。もはや英連邦加盟国ではないが、元英連邦加盟国だったから、というよりは、エリザベス2世個人とのかかわりの深さと、それが持つ歴史的な意味合いの大きさゆえではないかと思う。

Among those attending on behalf of Ireland will be President Michael D Higgins and Taoiseach Micheal Martin. 

This is highly unusual as both the President and the Taoiseach will be out of the country at the same time for an event.

www.irishmirror.ie

ヒギンズ大統領は、大統領に就任してからは所属政党なしだが(選挙で選ばれた者は党派の区別なく、全国民の大統領となる、というのが大原則である)、1968年以降労働党に所属し、長年国会議員を務めてきた政治家である。

そのヒギンズ大統領が、大学時代に数年間所属したのがフィアナ・フォイルアイルランド語の党名を直訳すればアイルランド特有の愛国ロマン主義ばりばりの名称*1だが、英語では「共和党 the Republican Party」である(ただし党名としてこの英語名が使われているのを見たことは私はない)。フィアナ・フォイル(以下「FF」)は、元々ガチガチの共和派である。

 

アイルランド独立戦争を戦った独立派勢力は、独立戦争終結させたアングロ・アイリッシュ条約(北部6州の英国残留を決めた条約)に賛成した一派と反対した一派に分かれ、アイルランドは英国の支配を逃れたあと、血みどろの内戦に陥った。ケン・ローチ監督の映画『麦の穂をゆらす風』は、英国の支配の苛烈さについての映画ではなく(そこしか覚えてない人もいるみたいだけど)、この悲惨な内戦を、テディとデイミアンという兄弟に投影して物語として描いたフィクションだ。

さらにその内戦の後、当時「アイルランド自由国」として、現在の英連邦諸国と同じように英国とは「同君連合」という関係にあったアイルランドでは、英国との関係をめぐって深刻な対立が発生する。そこからできたのが、FFという政党である。

Fianna Fáil was founded by Éamon de Valera, a former leader of Sinn Féin. He and a number of other members split from Sinn Féin when a motion he proposed—which called for elected members to be allowed to take their seats in Dáil Éireann if and when the controversial Oath of Allegiance was removed—failed to pass at the Sinn Féin Ard Fheis in 1926.

Fianna Fáil - Wikipedia

この流れでデ・ヴァレラについて触れないのはどうかと思うが、すでに2500字を超えているのでそこは「デ・ヴァレラの強固な意志により、『アイルランド自由国』は同君連合から脱して独自の大統領をもつ『アイルランド共和国』になった」程度にして現代のことにいくと、デ・ヴァレラの作ったFFという政党の現在の党首がミホール・マーティンで、そのマーティンという政治家が、2016年の総選挙でいろいろあった末のめぐりあわせで、現在アイルランドの首相を務めている。

つまり1936年の憲法(37年批准)で英国の支配を完全にぶっ壊した政党の現在の党首と、そうやって英国の支配がぶっ壊された上に存在している大統領が、2人とも、英国の国家元首の葬儀に招かれたのである。

みなさん、シン・フェインのことばかりに注目しているけれど、アイルランドと英王室の関係の持つ意味は、「北アイルランドと英王室の和解」以上のものがあり、後者は前者の一部でしかないので(私も相当アレだな)、ぜひ、前者に注目していただきたいと思う。

さて、今回の実例だが(これからかよ!)、葬儀参列者についてまとめたベルファストテレグラフの記事から。「北から目線」だが、この記述を見れば「アイルランドは南北で対立しているわけではない」ということがよくわかるだろう(いまだにそう思っている人がいるのが日本語圏である)。記事はこちら: 

www.belfasttelegraph.co.uk

実例として見るのはまず書き出しの部分: 

https://www.belfasttelegraph.co.uk/news/northern-ireland/queens-funeral-the-guests-from-northern-ireland-who-will-attend-41998243.html

《比較》の構文が効果的に感情にうったえかけてくる書き出しの2文: 

It will be an occasion like no other – a historic day filled with poignancy and pageantry. And the guest-list for the Queen’s funeral will be just as impressive.

下線で示した "like no other" は一種の熟語で、意味はそのまま「他に類を見ない」ということ。この例のように、名詞の直後に置かれて「またとない~」という意味で用いられる。(もっと正確な説明をすると、like no other occasionというフレーズがこの裏にある、ということになるのだが、文字数が多くなってきたので割愛。)

太字で示した "just as ~" は、just as ~ as ... の後半部分がいわずもがななために省略された表現と考えられる。ここでは下線部を引きずっていて、"just as impressive as no other" という意味合いになっている。文全体として、「女王の葬儀はまたとない機会になりそうだ。招待客のリストもそれに劣らず、印象的なものになるだろう」といった意味。

第1文の後半、《ダッシュ》で付け加えられている部分: 

a historic day filled with poignancy and pageantry.

この "filled" は《過去分詞の後置修飾》で、"poignancy and pageantry" は頭韻を踏んだおしゃれな表現である。

第2文が、Andで書きだされていることにも注目したい。これによって「タメ」のようなものが生まれていて、とても効果的な記述である。(「文頭のAndはご法度」と言われているのを信じている人もいるかもしれないが、先日説明したように、そのような「ご法度」はない。ただ、使い方を知らずに日本語の「そして」のつもりでAndを使うと、アホの子が書いた文みたいに見えることがあるから注意が必要である。)

ここで4100字を超えてしまったので、今回はここまで。続きはまた次回。

 

 

 

*1:「運命の戦士たち」という意味。

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