Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

英語の文章の論理構造と日本語の抄訳の問題, 故人について書くときの過去形(エリザベス女王の死去とロイヤル・ワラント: 御用達マーク)

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今日は休日なので、本来過去記事を再掲するのだが、今週は前半で再掲のストックが切れてしまっているのもあって、軽く書くことにした。

というかTwitterで連ツイしようと思って書き始めたのだが、連ツイよりブログの方が書きやすいと気づいた。

さて、今日、次のような記事を見かけた。フランスのAFPの記事を日本語化(多くは抄訳)して紹介しているAFP BBの記事である。

www.afpbb.com

この記事に次のような一節がある。

 ……世間の目から見て英女王との結びつきがそれほど強くないブランドにとって、王室御用達は「何よりもノウハウと伝統が認められること」を意味するとAFPに語った。

ここが、ぱっと見て十分に意味が取れなかった。そういうときの定石で原文を探して参照した。

原文記事の検索は、まず "Dubonnet" で検索してみたがそれでは当然役立たずで、次に "Dubonnet Queen" で検索するも、これも「女王お気に入りのカクテルのレシピ」などがずらずらと表示されてしまう。

その後、さらに1つ足して "Dubonnet Queen AFP" とすることで今回は探しものが見つかった(が、これでも検索結果が多すぎたら日本語記事内にある固有名詞などを併用して検索することになる)。

見つかった原文は下記: 

www.france24.com

この英文をぱっとと見てわかったのだが、上で見たAFP BBの日本語記事はこの英語記事の抄訳で、原文にある《A. However, B. But C》の論理構造のうち《However, B》の部分を省いて訳出されているようだ(これ自体は抄訳の平凡なやり方かもしれない)。だから、元々文脈という点でわかりにくくなっている。

この場合、《A》が故人がいつも持ち歩いていたハンドバッグのメーカー、《However, B》は故人の御用達でもあったがチャールズ皇太子(当時)の御用達でもあるレインウエアのメーカーで、《But C》が故人が愛好したアルコール飲料のメーカー、という構造。

Aは(チャールズ国王は使わないもののメーカーだから)ロイヤル・ワラント(ほんとは「ウォラント」と発音するのがUK流)を失うことになるだろうが、Bは(チャールズ国王が使っているから)保持というか更新するだろう。一方でCは……というのが話の流れ(ロジック)。

そして、Cについては、読者がBからCへの流れに乗れるように親切にガイドしていくブリッジ的な解説のような部分があるのだが、ここでは実際にはBのパートが削られているから、そのブリッジ的な部分がそのまま残っていることで、唐突な印象になってしまっているようだ。

さらに言えば、原文ではこの一連の記述は、Cについて焦点化したパラグラフで*1、パラグラフ全体としては次のような流れになっている。

【パラグラフの書き出し(トピック文)】Among the other brands that benefited from their association with Queen Elizabeth was the Dubonnet wine-based aperitif -- the key ingredient in her favourite cocktail of Dubonnet and gin.

【A】Launer, which prided itself on supplying the sovereign with her ever-present handbags since 1968, now risks losing its precious cachet.

【However, B】However, Barbour jackets, particularly suited to country life in the British weather, were the official manufacturers of waterproof and protective clothing to both Queen Elizabeth and her eldest son.

【But C】But for brands less well-associated with Queen Elizabeth in the public mind, the royal warrant is "above all, the recognition of know-how and tradition", Christian Porta, the managing director of global business development at Pernod Ricard, which owns Dubonnet, told AFP.

【Cについての補足的情報】The French wine and spirits multinational holds warrants for Dubonnet and also for Mumm champagne.

【さらに展開】However, in this field it has some competition: Bollinger, Krug, Lanson, Laurent-Perrier, Louis Roederer, Moet and Chandon and Veuve Clicquot also hold royal warrants.

この構造で、日本語記事では下記で取り消し線を施したように一部を削ってしまっているので、何か読みにくいというかブツブツ切れていて唐突にあれこれ出てくるように読めるわけだ。

【パラグラフの書き出し(トピック文)】Among the other brands that benefited from their association with Queen Elizabeth was the Dubonnet wine-based aperitif -- the key ingredient in her favourite cocktail of Dubonnet and gin.

【A】Launer, which prided itself on supplying the sovereign with her ever-present handbags since 1968, now risks losing its precious cachet.

【However, B】However, Barbour jackets, particularly suited to country life in the British weather, were the official manufacturers of waterproof and protective clothing to both Queen Elizabeth and her eldest son.

【But C】But for brands less well-associated with Queen Elizabeth in the public mind, the royal warrant is "above all, the recognition of know-how and tradition", Christian Porta, the managing director of global business development at Pernod Ricard, which owns Dubonnet, told AFP.

【Cについての補足的情報】The French wine and spirits multinational holds warrants for Dubonnet and also for Mumm champagne.

【さらに展開】However, in this field it has some competition: Bollinger, Krug, Lanson, Laurent-Perrier, Louis Roederer, Moet and Chandon and Veuve Clicquot also hold royal warrants.

と、このように全体を見てきたわけだが、日本語記事の:

デュボネのブランドを所有する仏ペルノ・リカール(Pernod Ricard)のグローバル事業開発担当責任者クリスティアン・ポルタ(Christian Porta)氏は、世間の目から見て英女王との結びつきがそれほど強くないブランドにとって、王室御用達は「何よりもノウハウと伝統が認められること」を意味するとAFPに語った。

これの太字部分を: 

世間の目から見て英女王との結びつきがそれほど強くなかったブランド

とするだけで、ずいぶん唐突感が軽減されて読みやすくなると思うのだが、いかがだろうか。

なお、英語の文章では、故人について書くときはすべて《過去形》を使うのが原則である。ウィキペディアを見ても簡単に確認できるが、日本語では「〇〇はアメリカの俳優。」と記述されていて、それだけでは存命なのか他界しているのかがわからないが、英語では "〇〇 is an American actor." ならば存命、 "〇〇 was an American actor." ならば故人と一瞬で判別できる。

 

※4050字。

 

補足。

これは英語とは関係なく一般常識的なことだが、英国の「ロイヤル・ウォラント(ワラント)」は、文字通りに解釈すれば「王室のお墨付き」みたいな意味になるのだが、「王室」全体ではなく「王室メンバー個人」が使っている製品・商品やサービスについて発行される(正確に言えば、その製品の製造者、サービスの提供者に使用が許可される)。

先代の国王についていえば、「エリザベス女王御用達」「エディンバラ公御用達」と「チャールズ皇太子御用達」があった。これについて確認することは、今はもう王室のサイトではできないのだが、ウィキペディアの旧版(エリザベス2世が亡くなる前の最後の版)でできる。

https://en.wikipedia.org/w/index.php?title=Royal_Warrant_of_Appointment_(United_Kingdom)&oldid=1108330050

日本に輸入されている紅茶やらジャムやらといった食品類では、この3つのマーク*2の一番左のを見ることが多かったのだが、これはエリザベス女王(当時)ご愛用の品物などにつけられるマークだった。

それが、エリザベスさんの死とチャールズ国王の即位で、次のようになった。

https://en.wikipedia.org/w/index.php?title=Royal_Warrant_of_Appointment_(United_Kingdom)&oldid=1111168747

ライオンとユニコーンと王冠と盾などの紋章部分は変わらないにしても、実際に商品につけられるときはそれに添えられる説明文的なところを変更しなければならない。下記はシュウェップスの炭酸飲料についている御用達マークだが、これの "BY APPOINTOMENT TO HER MAJESTY QUEEN ELIZABETH II" という文字列が、今後は "HIS MAJESTY KING CHARLES III" と書き換えられることになる。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/b/b5/Schweppes_Royal_Warrant.jpg

上で見た3つのうち、中央のふわふわの羽のは「皇太子」つまりPrice of Walesの御用達マークで、こないだまではこれはチャールズさんご愛用の品物などにつけられていたが、これからはウィリアムさんご愛用のものにつけられることになる。

さて、故人の御用達マークについてだが、ウィキペディアには次のように記載されている。必要に応じてソースを参照してご確認されたい。

Upon the death of Prince Philip, Duke of Edinburgh in April 2021, warrants issued in his name became void; however warrant holders were permitted to continue to use the Royal Arms and the Legend for up to two years. The same occurred upon the death of Queen Elizabeth II in September 2022.

Royal Warrant of Appointment (United Kingdom) - Wikipedia

つまり、パッケージとかいろいろ印刷しちゃってることなどを考えてだと思うが、亡くなった場合は即時廃止ではなく、最大で2年間そのまま使用できることになっているという。エディンバラ公のは来年2023年以降は見かけなくなっていくだろう。

一方で、同じウィキペディアの記事によると、2002年に亡くなった皇太后(クイーンマザー)のウォラントは2007年までの5年間使われていたというので、きっとこういうことも成文法にはなっていないのだろうなと暖かい気持ちになる。ああ、コモンロー。

ともあれ、英国のロイヤル・ウォラントは、上で参照したシュウェップスのような庶民的なブランドにもついていて、特に「高級品」の目印になるとは限らない。一覧を見ると、ネスレやP&Gやユニリーバと、うちの駅前のドラッグストアのチラシでよく見かけるグローバルな企業名もあったりする。

この一覧、今はまだエリザベス女王がご存命だったころの状態だが、そのうちにどんどん書き換わるだろう。後から、エリザベス時代の一覧を確認したくなったら、上で見たのと同様にウィキペディアのhistoryのページから、2022年9月以前のものを選んで表示してみればよい。

 

 

 

*1:もう少し説明すると、Cはフランスの企業で、記事を掲載しているAFPはフランスの報道機関であり、この記事は「女王死去の影響、とりわけフランスにとっての影響」に重点を置いた記事である。

*2:ほんとは「マーク」とは言わないんだけど、シンプルにするためにこうしてます。ご容赦。

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