今回は、前回文字数を大幅に超過してもなお全然書けなかった本エントリ表題の話。
この9月19日に行われた英国でのエリザベス2世の葬儀(ご遺体の安置から礼拝、埋葬までの儀式)と、27日に行われた、2か月半も前に火葬されている安倍元首相の、本来ならば「お別れ会」「偲ぶ会」であるべきなのになぜか「国葬儀」としてゴリ押しされたイベントとの比較は、後者が行われた翌日である今日は、前者の重厚さと圧倒的な「本物」感に対し(そりゃほんとに本物だからね。ウエストミンスター・アベイの建物からして、実際に目にすれば、うちらの感覚ではやばいから。あそこまで立派な建物でなくても、ロンドンの建物はやばいの多い)、後者の何ともいえないハリボテ感と反教養主義丸出しの選曲などが話題になっているが、その話を書いているとまた本文にたどり着かないので、そこは他人様のツイートの引用だけにする。
やー、まじで葬儀なのに、
— Rein (cogito ergo sum) (@Isisleonidas) 2022年9月27日
選曲ヤバすぎよ😂
人妻に手出して、報復で殺されたオペラの曲とか、
ユダヤ人がガス室に送られる時に奏でられたピアノ曲とか…。
こういうことです。この辺の曲って、クラシックコンサートでは単独で演奏されるときはわりとアンコールピースなんだよね。まあ「国葬だから誰もが知ってる曲を選んだ」と担当者は言うんだろうけど、曲の意味とか全然考えてない。 https://t.co/rHgzjcEzse
— mipoko (@mipoko611) 2022年9月28日
これに続けてアメイジング・グレイスを演奏するみたいなんだけど、あれって讃美歌ですよね。選曲のテイストでも政教分離の点でもプレイリストが地雷だらけ https://t.co/LrfsmZoBzz
— junkTokyo (@junktokyo) 2022年9月27日
で、文字数的に前回書けなかったことに進もう。
安倍氏のなんちゃって「国葬」に、それが遺体はもうなくて、仏教では成仏しているはずの時期に行われる「なんちゃって」クオリティであることを知ってか知らずか、G7からは、安倍氏と同格の「2人前の政治リーダー」がわざわざ地球を半周してまで来てくれていることについて、前回フランスのニコラ・サルコジ元大統領(政治資金の不正で有罪)や英国のテリーザ・メイ首相に言及しているが、「外交」の側面がある葬儀ではこのように故人と同格の人を送るのが最大限に丁寧な形となるのではないかと思う(もうひとつ、その国の代表者として全権をもって駐在している大使を送るというのもあるが、どちらがよいとかいうことは私にはちょっとわからない)。
英国のエリザベス2世の場合は国家元首が亡くなったのだから、その葬儀には各国が国家元首を送った。「送った」と書いたが、エリザベスさんの葬儀が行われる前に書いたように、実際には英国サイドから招待状が送られて、それに応じるという形で葬儀への参列が行われた。日本の場合は招待状が送られたのが天皇・皇后ご夫妻で、お二人はそれに応じて渡英なさったわけである。欧州各国で王室のある国は国王や女王が招待され(スペインはちょっとアレでしたね)、共和国からは大統領が参列した。
一方で、英国が招待状を送りもしなかった国もある。
英国のエリザベス2世の本物の「国葬」と日本の安倍元総理のなんちゃって「国葬」を比較する際に、「誰が参列している」ということを言う場合、英国が招待状を出さなかったのはどの国に対してなのかということを見ておいてもいいかな、というのが本エントリの主旨である。
こんなことをしているミャンマー軍事政権と昵懇の仲であることを、「弔問外交」を錦の御旗に強行する自称「国葬」という場で世界に見せつける日本国政府。英国のエリザベス2世の葬儀ではミャンマーは招待せず。 https://t.co/gPqasjffpv
— nofrills/文法を大切にして翻訳した共訳書『アメリカ侵略全史』作品社など (@nofrills) 2022年9月27日
エリザベス2世の葬儀に呼ばれなかった国について、はっきり書いておくことは、役立ちますかね。
— nofrills/文法を大切にして翻訳した共訳書『アメリカ侵略全史』作品社など (@nofrills) 2022年9月27日
というわけで、「エリザベス2世の葬儀に呼ばれなかった国」について、今から調べるにはどうしたらよいかを、以下で見ていこう。
まず、どの国の誰が参列するかは、葬儀の数日前に書いた通り、英国がどこの誰にinvitationを送るかで大方決まるわけなので、この単語を手掛かりにウェブ検索すれば、英語圏の記事が見つかるだろう、と考えればよい。
英語圏のメディアは、丸ごとペイウォールの壁の向こうに入っているものは別として、多くが記事を消したりせず、最初に出したURLをその後もずっと保持している(アーカイヴ性が高い)。
だから、以下で示す方法は、基本的には、葬儀が終わってすぐの今の段階だけでなく、この後もずっと使える方法であるはずだ。ただ、検索結果として表示されるものの順番は変動するだろうし、今上位にあるものがそのままずっと上位にあるとは限らない。その点、検索ワードを適宜付け加えるなどの工夫は必要になるかもしれない。
というわけで本編。
今回は、Elizabethさんのfuneralに誰がinviteされているかを説明した記事を探したいのだから、これらのワードを検索エンジンの検索窓に打ち込むのが第一歩となる。
ここではGoogleを使ってみるが、Googleにこれらの3語を入力していくと、下図のように候補が表示される。多くの人が関心を持ってこれを検索しているということだ。
私のフィルターバブルの影響を受けないように、シークレットモードで検索してみると、次のような結果が表示された。
(最近推されているTikTokからの検索結果ってほんと邪魔なんだけど、あと数年でブームも終わるだろうからもう少しの我慢だと思う。私のフィルターバブルの中にはこれは入ってこないようになってる)
この検索結果の3つ目がガーディアン、4つ目がBBCなので、ここら辺(どちらも手堅い英国のメディア)を見れば知りたいことはわかるだろうと考えて、検索結果の一番上の日経(日本)や2番目のDW(ドイツ)を飛ばして3番目と4番目をチェックするのがよさそうだと私なら判断するが、2番目のDWも悪くはないだろう。一番上の日経のは、私が東京からアクセスしていることで反応してトップに出てきているのだろうと思うが、ヘッドラインからして、知りたいことを知るにはイマイチ違う記事のようだ。
というわけでガーディアン。これはページを開いてみればAFPの配信記事であることがわかる。AFPはフランスの国際通信社で、英語記事を配信している。
BBCはBBCだ。映像制作もBBCだから、映像から切り出した静止画像もたくさん入った記事になっている。
これらの記事を見れば、「エリザベス2世の葬儀に呼ばれなかった国」は調べられる。
まず、ガーディアン掲載のAFP記事だが、これは上から "World royalty" (各国国王)、 "State leaders" (各国指導者)、 "Commonwealth countries" (コモンウェルス各国)とセクションがあり、最後に "Not invited" (招待されず)というセクションがある。ここを、まずはざっと読んでみよう。
Not invited
Owing to strained ties, the UK has opted to invite ambassadors, not heads of state, from several countries, including Iran, Nicaragua and North Korea.
Russia and Belarus are among a small group of countries excluded after Moscow’s invasion of Ukraine.
Russia’s president, Vladimir Putin – subject to a travel ban to the UK due to sanctions – had said he would not attend.
Russia and Belarus have embassies in London and their presidents sent King Charles III messages of condolences.
Other countries not invited are Myanmar, Syria, Venezuela and the Taliban-ruled Afghanistan.
ここをざっと読んで、上記のような国家元首クラスの人々ではなく大使を招待して終わりにした国と、もう全く全然招待されなかった国が把握できれば、「英文が普通に読める」と言えるだろう(特によく読めるわけではない)。TOEICなどで要求される読解力はこういうものだ。
第1文:
Owing to strained ties, the UK has opted to invite ambassadors, not heads of state, from several countries, including Iran, Nicaragua and North Korea.
太字にした "owing to ~" は、大学受験準備用の熟語集では必ず扱われていると思うが、《原因・理由》を表す基本的な前置詞句のひとつで「~のために、~が原因・理由で」。「緊張した関係を理由として」。
下線部の "opt to do ~" も連語として覚えておくとよい表現。このoptは「オプション option」という名詞形を作る動詞。「英国は、いくつかの国からは、国家元首ではなく大使を招待することを選択した」。
大使だけを招いた国としては、イラン、ニカラグア、北朝鮮の3か国が挙げられている。いずれも英国と外交関係があるので大使がいるということも確認しておきたい。(例えば日本は北朝鮮とは外交関係がないから大使はいない。)
第2文:
Russia and Belarus are among a small group of countries excluded after Moscow’s invasion of Ukraine.
太字にした "excluded" は《過去分詞の後置修飾》。「ロシアとベラルーシは、モスクワ(=ロシア政府)によるウクライナ侵略のあとで除外された、わずかな数の国々に含まれている」。
その次の文は補足情報で、ロシアのプーチン大統領についての説明。制裁対象となっているので渡英できない立場にあるし、(仮に招待されても)参列しないと本人が言っていた、という。
その次の文もまた、ロシアとベラルーシについての補足情報で、駐英大使館からチャールズ国王にお悔やみのメッセージは届けられているという。
そして最後の文:
Other countries not invited are Myanmar, Syria, Venezuela and the Taliban-ruled Afghanistan.
太字にした部分、読めばわかるのだが、自分で書くときに「あれ、こういうときってどうするんだっけ」となりがちなので、覚えておくとよい。「~された」は過去分詞で表すが、「~されなかった」は過去分詞の前にnotを置いて《not + 過去分詞》で表す。それを名詞の修飾のために使うときには、2語になるので、名詞の後ろに置く後置修飾の形にする。「招待されていない他の国々」。
というわけで、少し上の方に書いたお題だが:
-大使を招待して終わりにした国: イラン、ニカラグア、北朝鮮
-もう全く全然招待されなかった国: ロシア、ベラルーシ、ミャンマー、シリア、ベネズエラ、タリバンが統治するアフガニスタン
このほか、参列を見合わせた人として、記事の上の方に "Although Mohammed bin Salman, the crown prince of Saudi Arabia and its de facto ruler, had been invited, it emerged late on Sunday that he would not be attending." とあるのにも注意していただきたい。サウジアラビア王国の国王は高齢で、実質的な統治者となっている王太子のMBSことモハメド・ビン・サルマンが招待されていたが、土壇場で参列しないということが判明した。MBSはジャーナリストのジャマル・カショギさんの殺害という恐ろしい疑惑の当事者で、国際的には村八分みたいな状態にあるが、英国の王室とサウジアラビアの王室は関係がわりと深いし、カショギさん殺害の約7か月前にはMBSは訪英し、エリザベス女王やチャールズ皇太子、ケンブリッジ公ウイリアムと会っている。今回も、当初、サウジ国王は来られないからMBSが招待されたということだったが、女王の死で悲しみの中にあるということばかりが強調されて伝えられた英国でもこれにはかなりの反対の声があり、結果的にはMBS本人が参列を見合わせるという選択をすることになったようだ。もし来ていたら、エリザベス2世の棺に敬意を払うためのあのすさまじい行列に、MBSに対する抗議行動が合わさって、カオスになっていただろう。
さて、もうひとつのBBC記事。こちらは葬儀が行われた後のまとめで、上の方はどこに誰が座っていたかといった図解付きで参列者についてざっとまとめられていて、一番最後に "Not invited" のセクションがある。
先ほど見たAFP記事とは順番が異なるが、書かれていることは同じだ。つまり、同じことを言うのにどのように違う文章が書けるかというサンプルとして参照できる。
Representatives from Syria, Venezuela and Afghanistan were not invited. This is because the UK does not have full diplomatic relations with these countries.
No-one from Russia, Belarus and Myanmar was invited either.
Diplomatic relations between the UK and Russia have all but collapsed since Russia's invasion of Ukraine, and a spokesperson for Russian President Vladimir Putin said he was "not considering" attending the funeral.
The invasion was launched partially from the territory of Belarus. And the UK has significantly scaled back its diplomatic presence in Myanmar since a military coup last year.
North Korea (DPRK) and Nicaragua were invited to send only ambassadors, not heads of state.
Human rights groups had criticised the decision to invite Saudi Crown Prince Mohammed Bin Salman. The prince has been accused by Western intelligence of ordering the killing of Saudi journalist Jamal Khashoggi in 2018. Prince Turki Bin Mohammed al Saud attended the funeral instead.
Who was at the Queen's funeral service - and who was not? - BBC News
上記部分、単語は特に難しいものはなく、熟語らしい熟語は "all but ~" くらいなので、「実用的な文を高速で読む」ということの練習素材にもなるだろう。
と、ここまでですでに6700字を超えているのだが、最後に、では日本は安倍氏のなんちゃって「国葬」で何をやらかしてしまったのかということを見ておこう。ハリボテ感とか安っぽさとかいったものとは別に:
取材しました。日本政府は、ミャンマー国軍によるクーデター後の統治を政府承認していません。1989年の昭和天皇の大喪の礼の際にも、当時の軍事政権の代表を招待しています。
— Azusa Ushio (@Azusa_Ushio) 2022年9月26日
「暴力の正当化だ」 国葬に軍関係者を招待、在日ミャンマー人が抗議https://t.co/8uTuNQFWqL
昨日の国葬には、在日ミャンマー大使が参列、その様子をSNSなどに投稿しました。英国は先のエリザベス女王の国葬にミャンマー、ロシアは招待しませんでした。
— 朝日新聞霞クラブ(外務省・防衛省担当) (@asahi_gaikou) 2022年9月28日
↓
ミャンマー軍事政権に「お墨付き与えた」 国葬招待の日本政府へ批判:朝日新聞デジタル https://t.co/8ubw6VezyQ #国葬
国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」の笠井哲平さんは、「軍事政権がミャンマーを代表する正統な政府であるというプロパガンダに使われている。国際社会が一丸となってお墨付きを与えないようにしているのに、日本政府は逆行する行為をしている」と批判している。https://t.co/AffVtb0FPe
— Teppei Kasai (@TeppeiKasai) 2022年9月28日
ミャンマー国軍の支配下にあるミャンマーの外務省は、ソー・ハン駐日「大使」が安倍元首相の国葬に出席したことを早速フェイスブックで発信。
— Teppei Kasai (@TeppeiKasai) 2022年9月27日
日本政府は「軍政」にお墨付きを与えてしまった上、「軍政」の正当性を強調するプロパガンダの材料も与えてしまった。https://t.co/TFOUMdGrov pic.twitter.com/ktvDvHzTRm
朝日新聞の記事を見た後私も確認しましたが、確かにフェイスブックだけでなく、ミャンマーの外務省のサイトにも国葬の参列について掲載がありました。これも一種のプロパガンダです。 pic.twitter.com/vsSRccwfax
— Teppei Kasai (@TeppeiKasai) 2022年9月28日
長井健司さんの妹である小川典子さんは、「安倍晋三元首相の国葬に国軍関係者が招待されていることについては「ミャンマーの現状を『日本が認める』という誤った姿勢を世界に知らしめてしまう。あってはならないこと」と批判した。」https://t.co/lrIb5k7p8B
— Teppei Kasai (@TeppeiKasai) 2022年9月28日
この9月27日は、長井健司さんが殺されてちょうど15年という日でもあった。
15 years to the day that Japanese photographer Kenji Nagai was killed by Myanmar soldiers while working in Yangon to document the crackdown on the Saffron Revolution. Still very few answers about his death from Japan or Myanmar. https://t.co/gOjImyEkLp
— Timothy McLaughlin (@TMclaughlin3) 2022年9月27日
ミャンマーでジャーナリストの長井健司さんが銃撃されてから今日で15年。撃たれた際に握りしめていたカメラは、今も戻ってきていません。
— 栄久庵(えくあん)耕児 (@ekuankoji) 2022年9月27日
長井さんや事件のこと、そして、ミャンマーの人たちのことを忘れてはいけないと改めて感じました。
1年前の記事を再掲します。https://t.co/4vtvNiBMh8
今日はこの日……。日本国政府は長井さんのカメラひとつ取り戻せなかった。ミャンマー軍政との力関係はそういうことなんでしょう。 https://t.co/2gFvABNWnf
— nofrills/文法を大切にして翻訳した共訳書『アメリカ侵略全史』作品社など (@nofrills) 2022年9月27日
ミャンマーで反政府デモを取材中に銃撃された長井健司さんが亡くなって本日で15年。長井さんが手にしたカメラは未だに返却されていない。そんなミャンマー国軍を防衛大に留学させたりする日本政府には怒りさえ感じる。 pic.twitter.com/RLaNu1Wvf4
— ミスターK💙💛 (@arapanman) 2022年9月27日