今回の実例は、新聞の解説・分析記事から。
日本でも報じられているが、日曜日(10月2日)にブラジルの大統領選挙と議会選挙の投票が行われた。大統領については、何人もいる立候補者の中で、事実上、現職で極右のボルソナロ候補と、元職で汚職事件で有罪判決を受けたがその判決が最終的に無効と判断されたルラ(ルーラ)候補の一騎打ちの形だった。そして、事前の世論調査では、「ルラ候補圧勝の情勢」と分析されていた。しかし、実際に投票が行われてみたら、かなりの接戦だった。
事前の予想通りならば、日曜日の投票でルラが過半数の票を獲得して大統領になっていたはずだ。だが実際には、ルラの得票率が48.43%、ボルソナロの得票率が43.20%で、どちらも過半数には達せず、4週間後に決選投票を行うこととなった。世論調査は、ボルソナロの票を低く見積もりすぎていたのだ。
この、「事前の世論調査は、どこもかしこも外しに外した」ということが、大統領選挙第一回投票の結果よりも大きいのではないかというくらいに大きな注目を集めているようだ。事前の調査が大外れになるのは今回が初めてではないが、なぜか今回は、英語圏の外で起きたことであるにもかかわらず、英語圏のあっちでもこっちでも注目されている。
今回みるのは、そういった記事のひとつで、英ガーディアンに掲載されている記事。こちら:
記事はとても読みやすく、最初から順番に読んでいけば話が分からなくなるということもないだろうから、ぜひ全文をお読みいただきたい。
実例として見るのは、記事の最後の方から。
キャプチャ画像の第一パラグラフ:
Moreover, while polling firms adjust for “shy” far-right supporters unwilling to tell the truth about their voting intentions, many Bolsonaro voters, like many Trump voters, may just have refused to respond, seeing polls as part of a “fake news establishment” – and leaving pollsters unable to reach a large part of the electorate.
これで1文。かなり長い文だ。いつものようにスラッシュを入れて構造を見てみよう。
Moreover, / while polling firms adjust for “shy” far-right supporters ( unwilling to tell the truth about their voting intentions ), / many Bolsonaro voters, ( like many Trump voters, ) may just have refused to respond, / seeing polls as part of a “fake news establishment” – and leaving pollsters unable to reach a large part of the electorate.
まず最初の "moreover"。これは「さらに」という意味で、つなぎ言葉として用いられる。品詞としては副詞。日本語に訳すときは、必ずしも言葉にならないかもしれないが、ロジック(論理)の構造ははっきりわかるはずだ。これまで述べていたことに重ねて何かを言うという構造になっている。
その次、"while polling firms adjust for “shy” far-right supporters unwilling to tell the truth about their voting intentions" は、これ全体で接続詞whileの節。"unwilling" はその直前の "“shy” far-right supporters" を修飾している。この節は、「自分たちの投票の意向に関して本当のことを言いたがらない、『シャイ』な極右支持者たちについては、世論調査会社各社は補正しているが」という意味。
ここまでは副詞節で、主節はこの後ろだ。
many Bolsonaro voters, like many Trump voters, may just have refused to respond
"like many Trump voters" はコンマで挟まれた《挿入》なので、いったん外して考えてしまってよい(だから薄いグレーで表示してある)。
太字にした部分は《助動詞+have+過去分詞》の構造。「1つ前の時(過去)において、~だった/したかもしれない」という意味を表す表現である。
You may have found the AI-generated picture slightly odd.
(そのAIが生成した写真を見て、あなたは少し変だと感じたかもしれない)
というわけで文意は「ボルソナロに投票する有権者の多くが、トランプ支持者の多くと同じように、(世論調査に対して)反応することを拒んだだけかもしれない」。
つまり、右派は世論調査の電話がかかってきても無視したとかで、結果的にサンプルに偏り(実際に比べて左派が多くなるという偏り)が生じたのではないかという指摘である。
次。分詞構文のところ:
..., seeing polls as part of a “fake news establishment” – and leaving pollsters unable to reach a large part of the electorate.
この分詞構文はダッシュ(―)で2つのパートに分かれていて、前半は、先行する "refused to respond" という行動の原因・理由・根拠を述べている。「世論調査を『フェイクニュースを流すエスタブリッシュメント』の一部と見て」。
一方で、後半は、先行する "refused to respond" という行動の結果を述べていると考えられる。「そして、調査会社が有権者の大きな部分に接触することを不可能にした」。
少し珍しい形だが、ここで "and" の前にコンマではなくダッシュが使われていることにも意味があるわけだ。こういうのは、学校では教えてくれない(学校で使っているテキストでこういうのの実例があれば別だが)が、英語で書かれた文章を読解する必要がある人には必須の知識であろう*1。翻訳者ならばなおさらである。
ここで注目すべき構文は、太字で示した《leave + O + C》。「OをCの状態のままにしておく」の意味で、意訳すれば「OはなすすべもなくCの状態にある」といった感じにもなろう。
要は、右派は世論調査を信用しておらず、何ならその権威性を貶めてやろうとして、調査に応じないということをした。その結果、調査に応じたのは左派に偏ったため、左派圧勝という結論が出てしまった、という分析があるわけだ。
次の文。これも長いね。すでに3300字超なので、これは次回に回すことにしよう。
受験生は、こういう長い文を正確に読む練習は、しておいたほうがいいですよ。
※3380字
*1:ずっと以前、いわゆる「難関」の大学の入試問題で、こういうパターンに遭遇したことがある。ただし、これがある部分は直接の設問にはなっていなかった。仕事で解答解説を書くにあたってずいぶん難儀した記憶がある。受験生が知っているはずの規則通りじゃないし、かといって受験生に示せる根拠となる文法書の説明などもない(パンクチュエーションについて細かく書いている受験生向けの本はなかった)から。