Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

辞書とはどのようなもので、どのように作られるものか, 付帯状況のwith, 省略, 言い換えなど(OED入りしたsqueaky bum timeというフレーズの由来)

↑↑↑ここ↑↑↑に表示されているハッシュタグ状の項目(カテゴリー名)をクリック/タップすると、その文法項目についての過去記事が一覧できます。

【おことわり】当ブログはAmazon.co.jpのアソシエイト・プログラムに参加しています。筆者が参照している参考書・辞書を例示する際、また記事の関連書籍などをご紹介する際、Amazon.co.jpのリンクを利用しています。

今回は、イランの抗議行動のことや北アイルランドのセンサスのことや、イーロン・マスクという個人がTwitterを所有することに関する懸念を表明する人権団体の記事についてなど、頭の中と手元で準備していたものを後回しにして、ばかみたいだけど、中学レベルの「辞書とはどのようなものか」について。

なぜそれを書くことにしたのかというと、飯間浩明先生のこちら: 

ここで飯間先生がおっしゃっている「『座り込み』の意味について」の議論の発端は、下記で布施祐仁さんが言及しておられるツイートである: 

布施さんが言及している破廉恥なツイートについては、現地をよく知る共同通信の原田浩司カメラマンが投稿直後に次のようなファクトチェック(ツッコミ)を入れているのだが: 

こういうファクトチェックを経て持ち出されたのが、国語辞典を(おそらくすごく適当に)参照して持ち出された「『座り込み』の意味」であり、飯間先生がおっしゃっているのは、「だって辞書にはこう書いてある!」と勝ち誇る幼稚なドヤ顔集団*1に対する「辞書」を作る側からの冷静で冷徹な指摘である。しかしながら、残念なことに: 

というわけで、

↑↑こちらの↑↑記事。今日はこれを英語の実例として読んでみよう。

記事はこちら。毎年この時期に報じられる「OED(オックスフォード英語辞典)に新たに追加された語」の中で、特に来月開幕するサッカーW杯に絡んで収録されたというサッカー絡みの単語や表現について報じるサッカー専門メディアの記事である: 

www.fourfourtwo.com

実例として見るのは、記事の書き出しの部分から。

https://www.fourfourtwo.com/news/sir-alex-fergusons-infamous-squeaky-bum-time-phrase-added-to-oxford-english-dictionary

The Oxford English Dictionary has added 15 football-related terms in its quarterly update ahead of the World Cup next month, with Sir Alex Ferguson's infamous "squeaky bum time" phrase among the newly recognised terms.

太字にした部分は《付帯状況のwith》。これを、普通に文の形で書けば:

and Sir Alex Ferguson's infamous "squeaky bum time" phrase is among the newly recognised terms

となる。

文意は、「オックスフォード英語辞典が、来月のワールドカップを前に、4半期ごとのアップデートにおいて、15件のサッカー関連の言葉を追加した。新たに認められた語句の中には、サー・アレックス・ファーガソンの悪名高い "squeaky bum time"  というフレーズも入っている」

ここで "recognise" という語が用いられているのはOEDに権威性があるからだろう。そうでなく、そこらへんの用語集の類ならば、includedとかいった平たい感触の単語が使われているはずだ。

さらにその先: 

https://www.fourfourtwo.com/news/sir-alex-fergusons-infamous-squeaky-bum-time-phrase-added-to-oxford-english-dictionary

The former Manchester United manager first uttered the phrase back in 2003 in a press conference when discussing Arsenal's end to the season, suggesting that the Gunners would face lots of pressured situations to the conclusion of their campaign that they would have to cope with.

文頭の "The former Manchester United manager" は、前文の "Sir Alex Ferguson" の言い換え。報道記事でよくあるパターンで、heなどのただの代名詞ではなく、その人の経歴やバックグラウンドを説明するような語句が用いられるので、イングランドおよびブリテンのサッカーに一切関心のない人には読みづらいだろう。

下線で示した部分は、whenという接続詞に導かれる副詞節の中で《主語とbe動詞が省略》されていると考えられる。そこを補うと、 "when he was discussing ..." となる。

ここまで、文意は「この元マンチェスター・ユナイテッド監督(=ファーガソン)は、2003年、記者会見において、アーセナルのシーズンの終わりについて話をしているときに、最初にこのフレーズを口にした」。

utterは多義語で、大学受験レベル。ちゃんと調べておくこと。

その後ろ: 

suggesting that the Gunners would face lots of pressured situations to the conclusion of their campaign that they would have to cope with.

太字にしたのは《現在分詞》で、ここは《分詞構文》。これまた報道記事らしい文体だ。"the Gunners" はArsenalの愛称で、イングランドのサッカーに関する記事を読むにはこういうのを知っておく必要がある(あとホームスタジアムの名称。アーセナルならEmirates, マンチェスター・ユナイテッドならOld Trafford)。

文意は「ガナーズアーセナル)は、シーズンの終わりに向けて、対応していかねばならない厳しい状況に何度も直面することになるだろうということを述べて」と直訳される。

なお、"squeaky bum time" とは、スポーツの試合終盤などで手に汗を握り、息をのむ展開になっているときのことを言う表現で、そのまま直訳すれば「お尻が落ち着かない時間」となる。

そう聞いて私が思い浮かべるのは、2002年のワールドカップでのアイルランド対スペインの試合で、試合終了間際にロビー・キーンが同点ゴールを決めたときのことなのだが、この表現が一般的に用いられるようになったのは2003年の記者会見でのサー・アレックスの発言がきっかけとのことで、ロビー・キーンのあの魂のゴールのときにはまだこの表現は一般的には存在していなかったということになる。

 

ちなみに私個人は: 

で、"squeaky bum time" という表現にうちが絡んでいるとは知りませんでしたよ。2002年や2003年というと、今ほど大量に、ただネットに接続しているだけで流れ込んでくる(大半は芸能やスポーツに関連する)ニュースはなかったし、サー・アレックス(意地でも「ファーギー」とは呼ばない)の記者会見での発言まではフォローしてなかった。

 

なお、辞書がどういうものかについては、手元にあるor積読山既読が原の中にある辞書に関する本でもいろいろ説明がなされているのだが、引用しようと思って読み始めてしまい、ひどい目にあった。そこはあとで書き足すことにする。

 

※ここまで、引用が多いので5400字くらいになっている。規定の分量を1400字超過。

 

 

 

 

*1:私もそういう手合いにからまれたことはあります。ネットでボランティアで翻訳をしていたので、「自分は英語はよくわからないが、おまえのtheの解釈はおかしい。なぜなら辞書の15番目の項目にこういうのがあるので、こう解釈すべき」みたいなのはいろいろありました……。誤訳の指摘はありがたいものですが、書かれていることが自分の考えと違うからといって「誤訳」と決めつけてなされる言いがかりは迷惑です。

当ブログはAmazon.co.jpのアソシエイト・プログラムに参加しています。筆者が参照している参考書・辞書を例示する際、また記事の関連書籍などをご紹介する際、Amazon.co.jpのリンクを利用しています。