Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

イーロン・マスクと、Twitterの「青い認証マーク」について、経緯の記録 (1)

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さて、今回は、英文法の実例というよりは、何があったかの記録。もう古い話になっているが記録はしておく。

イーロン・マスクTwitterを買収して以降、とりわけ大きな関心を集めることとなったニュースは、私が把握している範囲では、日本語圏では第一に大量解雇(一斉レイオフ)の件で、第二にそこから派生した「トレンド操作」疑惑の件だったようだ。

前者については私も少し記事類を見たが、後者についてはまともに見ると病みそうなのでほとんど見ていない。端的に言えば、曖昧な情報に基づいた混乱から発生した陰謀論が横行しているようにしか見えない。私は日本にいるけどTwitterは英語で使っていて、Twitterの地域設定もUKやアイルランドにしていて(今はUKにしてある)、自分の見る画面でTwitter Japanが関わっている範囲は広告程度だと思うのだが(「広告程度」っていうかそれがTwitterのメインの売り物ではある)、その私が見た画面を下記スレッドでシェアしてある。TrendingとNewsのタブに注目してもらいたい。

のっけから、ガンダムなんか見るわけもない私*1ガンダムの広告をでかでかと表示したって意味ないんですけどね……という事案だが: 

↑このTrendingのタブは機械的なもので、「中の人」はたぶんいないし、ユーザーによって中身が変わったりもしない。スコットランドにいる@yunodさんからの報告も参照されたい。

↑「中の人」がいるのはこのNewsのところ。もっと言えばこのNewsでリンクされている個別のページ(「モーメント」。詳しい解説はこちら)で、そのリスティングが古いままになっている。つまり大量解雇の影響を受けている。

 

この「ミス・アルゼンチンとミス・プエルトリコの結婚についての記事」が延々と表示されっぱなしになっているのは、日本である芸能人が延々とお誕生日を祝われっぱなしになっているのと同じで、更新停止になっているから。

とまあ、こういうふうなので、「操作」と騒げるのはよほどナイーヴな人だけではないかと個人的には思う。ともあれ、日本語圏では「何でそんなことが大きな話題になるの?」と思わずにはいられないことが注目されていたようだが、私が見ていた範囲では英語圏では全然様相が違っていた*2

大量解雇については、ユーザーたちが取り上げるまでもなかった。突然ログインできなくなったという報告が当事者たちから山のように、#LovedWhereYouWorked というハッシュタグで流れてきたのだから。英語としてはこの Loved where you worked というフレーズの "you" が、二人称というよりは一人称に近い意味合いで、とても興味深いのだが*3、今はそれどころではない。この "you" を使った日本語の小説がグレゴリー・ケズナジャットの『鴨川ランナー』*4だから、これに関心を持った人は読んでみるといい。私はこの "you" は誰からも教わった覚えがない(学校でやるような「一般人称のyou」ではない)。実例をたくさんみることで知った用法だ。

閑話休題。私が見ている限り、マスクによる「改革(って呼んでよければ)」で最初に英語圏のユーザーサイドから大きな疑問点として注目されたのは、「青いチェックマーク (blue check[tick])」、日本語では「認証マーク」と呼ばれるものだった。

最初は、「認証マーク」に月20ドルを課金、という方針が示された。10月末日のことだ。

www.theverge.com

報道を見る限り、どうたら、イーロン・マスクには、有料サブスクリプションサービスであるTwitter Blueと、「青いチェックマーク (blue check)」の区別がついていないようだった。つまり、マスクは自分でも一応ユーザーではあるが、よく理解していないサービスを自分のものとして、そしてうろ覚えと誤解に基づいて「大ナタ」をふるっているわけだ。マスクの所業を見て「ワンマン社長にはありがち」などと知ったかぶっていてる人もけっこうみるけれど*5、もっと全然レベル低い話だよ、これ。自分が買い取った町工場が作っている製品の特性について何も知らずにコストカットコストカットと言い募って大事な職人さんを解雇しまくる傲慢な社長の話なら、日本のビジネス小説にありがちかもしれないけど……。

ともあれ、Twitter blueというのは、およそ1年前の2021年11月に北米とオセアニアでiOSユーザーを対象にスタートした有料サービスで、undoボタンが実装されたり、画面を見やすくできたりといった通常ユーザーにはないオプションサービスを提供するものだった(過去形)。

イーロン・マスクは、Twitterで有料ユーザーを増やしたかったのなら、単にそのTwitter Blueの提供地域を拡大するようにすればよかったのだ。欧州大陸やアフリカ大陸、アラブ、インド亜大陸にアジアと、この有料サービスを使いたい人はいくらでもいただろう。

しかし彼はそうすることはせず、即座に、「青いチェックマーク (blue check)」の有料化というトンデモ方針を打ち出した。繰り返しになるが、Twitter blueとblue checkの区別がついていなかったんだろうと思う。んで、あとから「さーせん、実は区別ついてませんでした」と言うこともできないの。いわゆる「謝ったら死ぬ」系の人だから。

私はTwitterはそれなりの古参ユーザーで、世界中のジャーナリストやNGOTwitterを使うようになる前から見ていて(Andy CarvinとField producerの論争とか……懐かしいよね。そのころから日本語圏は特殊だったのだけど)、「青いチェックマーク (blue check)」が導入された経緯も見ている。政府要人や大手NGOなどを名乗る偽物アカウントが、著名人の死亡説を根拠もなく吹聴するという「社会実験」(とされるもの)が相次ぐなどして、リアル世界が混乱したのだ。正体不明の匿名アカウントがネットの片隅で何か言ってるだけなら「はいはい」で済むが、著名人がその発言を真に受けてしまった場合や、大手に勤めるジャーナリストがその発言を勤め先のlive blogに掲載してしまった場合は、「ネットの片隅」とは言っていられなくなる。私も一度、大手のジャーナリストがリツイートしていた偽の著名人死亡説に釣られたことがある。

それがセレブの死亡説ならまだ「悪意のあるいたずら」で済むかもしれないが、場合によっては株価操縦などにもつながりかねないし、人命にかかわる騒ぎになることもありうる。こういうのは決して「軽い気持ちでのいたずら」では終わらない。

で、そういう誤情報の多くが「著名人や相応の立場にある人物のなりすまし」によるもので、拡散するきっかけが「著名人や著名な報道機関所属のジャーナリストによるリツイートなど」であることに気づいたTwitterは、そういう誤情報の拡散を防ぐことを目的として、「青いチェックマーク (blue check)」を導入したのだ。

このマークをつけるためには、その当人の重要性が認められる必要があるほか*6、アカウントの中の人が本当に当人なのかどうかを政府発行の身分証明書で確認するという手続きが必要とされた。

一方で、マスクがこれと混同していたと思われるTwitter Blueは、単なる「有料サービス購入ユーザー」である。これには「青いチェックマーク」はつけられていなかったはずだ。

ここで「有料サービス購入ユーザー」に何か特別感を持たせたいのなら、例えば Flickr Pro のバッジのようなものを考えればよかったのだ。Flickr Proは「はてなブログPro」と同じようなもので、無料ユーザーには使えない機能を使えるというプレミアムつきの有料サービスで、Flickrのサイト上ではユーザー名に添えてPROマークが表示される。

https://flickr.com/photos/christoph_fischer/50605807088

マークが2通りあるのは、PROになった時期によるのだろうと思う。青字にピンクの下線のが古い。Flickrは2000年代前半にカナダの独立系ベンチャーとして創業され、その後米Yahooに買収され、次はYahooごとVerizonに買収されて、今はSmugMag傘下にあるのでその過程でPROマークにも変遷があったのだが、今でも古いPROマークはそのままのデザインで維持されているようだ。

はてなブログProは: 

https://hatenablog.com/guide/pro

これもまた、うちのような無料アカウントではおぼつかないような細かいところに気をくばってくれる有料サービスである。

さて、話はそれたが、上記のような次第で、Twitterで「間違いなく本人」と確認されて青いチェックマークをつけている文化的に重要な著名人のひとり、作家のスティーヴン・キングは、Twitter Blueと「青いチェックマーク」を混同したと思われるイーロン・マスクが吐いた「青いチェックマークは月20ドル」の有料制にするという血迷ったプランに、次のように反応した。

※Fワードはよい子は使ってはいけません。

会話体というか、くだけた文体で《省略》が行われているが、それを補うと次のようになるだろう。イタリック体が補った部分。

Do I have to pay[Should I pay] $20 a month to keep my blue check?

太字にした "to keep" は《to不定詞の副詞的用法》で、文意は「私の青い認証マークを持ち続けるために、月々20ドルだって?」。

キングの言ってることはもっともで、ユーザーがコンテンツを作るサービスで、著名作家を「この人も使っています」的にプロモーションの材料にするのなら、サービス運営者がユーザーである作家にお金を払うのが筋だろう。

これに対して、一般のフォロワーらが「20ドルくらい、あなたには何ということもないでしょう」とリプライをつけ、キングが「そういう問題ではなくて」と応じる中、イーロン・マスクが商談をふっかけるようなリプライをつけた。

マスクが言っているのは「うちらだって請求書は支払わなきゃならないんで。完全に広告頼りというわけにもいかないでしょう。8ドルならどうです?」。

だから、そういう問題ではないとキングは言っているのに、聞いていない。

さらに: 

マスクは何やらもっともらしいことを言って説明しているように見えるが、それらしい言葉を数多く並べているだけで、実は何も説明していない。というか、なりすまされると悪影響が出るような政府機関や政治家、研究機関や報道機関やジャーナリストといったアカウントが、他の一般ユーザーとの区別のためにつけている「身元確認済み証」である「青いチェックマーク」を、金で買えるものにしてしまうことのどこが、ボット対策になるのか。ボットはカネを出さないとでも? 各種陰謀論やロシアによる工作のことをまさか知らないわけではあるまい。

つまり、マスクの言っていることは意味不明だ。

しかし結局この件は、「月8ドル払ったユーザーにはブルーチェックがつく」ということで落ち着いてしまった。

これがバカげた考えであったことは、秒速ではっきりするのだが……。

 

この続きはまた次回に。明日は土曜日だが、今週は新刊の辞書を通販で買ったせいで寝込むという予想外のことが起きてしまって休載をしているので、新規でエントリを書くつもりである。

 

※上限目安を大幅に超過して、8370字。

 

 

 

サムネ: 

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/e/e4/Twitter_Verified_Badge.svg/800px-Twitter_Verified_Badge.svg.png

 

*1:私がガンダムなどのアニメに興味がないことは、これまでさんざんTwitterで蓄積されているはずなのだが(何しろ関係アカウントをブロックしたりワードをミュートしたりしまくっているし、監督の名前とか作品名とかもミュートしてある。新作が出るとその話題だけで見る画面を埋められてしまうから)、それがこういうところでは活用されてないんすよね。広告主のところにはこういうデータはいかないだろうけど。

*2:ちなみに個人的には、「あなたがフォローしている〇〇さんがフォローしているアカウント」とか「〇〇さんがlikeしたツイート」とかいう口実で見せられるツイートが、アメリカ悪玉論・ロシア擁護の人のものがめちゃくちゃ増えた。私がその筋を目に入れないようにしたのがシリア内戦のときだから、2012年くらいの雰囲気が戻ってきた感覚がある。

*3:当ブログでは過去にこれについて取り上げたことがある。2021年5月だ。

*4:アメリカ人が日本語で書いた小説である。

*5:そもそも「ワンマン社長」は「ワシが育てた」という意識で横暴になるわけで、育ったサービスをカネで買ったマスクは背景が違うと思う。

*6:このバードルを超えられなかったという日本の俳優さんかラジオパーソナリティの方のツイートを見たことがある。

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