Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

【再掲】whether節, 副詞のany, 口語表現の「すごい」, など(カーナビー・ストリートのシリア難民シェフ)

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このエントリは、2021年6月にアップしたものの再掲である。

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今回の実例は、レストランのレビュー記事から。といってもただのレストラン・レビューではない。

昨日6月20日は、「世界難民の日 World Refugee Day」だった。これは、難民の地位に関する条約(難民条約)が1951年に採択されてから50年となる2001年に始まった国連の国際デーのひとつで、今年は20回目となる。

本来、人が「難民」にならざるを得ない状況が地球上からなくなり、だれもが自分の「ホーム」と呼べる地を持ち、そこを拠点とすることを前提とできるようになるのが望ましいわけで、その意味ではこの国際デーや難民支援活動、難民についての啓発活動がいまだに続いていることは、難民条約を作った人々にとっては、実は不本意なことかもしれない。だが、現実は現実である。「望ましくない」からといって否認することはできない。

世界難民の日」の活動はTwitterなどでも展開されたし(ハッシュタグ #WorldRefugeeDay および #世界難民の日 を参照)、下記のようなオンライン・イベントも実施された。

RAFIQさんがフィードしているこのオンライン・イベントは、YouTubeでアーカイブが公開されている。今後1か月間は視聴できるので、ぜひご覧になっていただきたい。「難民」とは何か、ということについて、聞いているのがつらいかもしれないが、当事者(難民申請者)の言葉も含め、とてもわかりやすく伝えられている*1

各メディアでも関連記事が出た。中には「いかにもな啓発活動」というトーンではなく、ごく自然に語りの一部として「難民」がするっと入っている記事もあった。今回実例として参照するのはそういう記事のひとつだ。

なぜそんなにも「難民」がするっと語りの一部になりうるのかというと、それだけ身近な存在だからだ。「私の父は難民だった」というのは決して珍しくはなく、私自身の知己にも、第二次大戦でポーランドから逃れてきた人の息子がいるし、大家さん自身が第二次大戦前にドイツを脱出した進歩的ユダヤ人だったこともある。著名人にもそういう人は多く、例えば労働党エド・ミリバンド元党首と、その兄のデイヴィッド・ミリバンド元外相の父親はベルギーから英国に脱出したユダヤ人難民だ。その距離感(あるいは距離の近さ)を予備知識として入れておくことは、今回の記事の語り(ナラティヴ)を読んでいくうえで、よい支柱となるだろう。

記事はこちら: 

www.theguardian.com

この記事は、オブザーヴァー紙(ガーディアンの日曜発行分)でレストラン・レビューを担当しているジェイ・レイナーによるもの。ただのグルメガイドではなく、食、というか「食の提供という経済活動」「食事と消費」の現場から社会を見る、といった趣の文章が多い。

今回彼がレビューしているのは、あのカーナビー・ストリートに最近新たにオープンした「イマドのシリアン・キッチン」という店だ。店名を見ればわかるだろうが、この店は2011年以降のシリアの動乱を逃れて脱出してきたシリア人のシェフがやっている*2

レイナーのこの記事は、普通の「レストラン・レビュー」として書き始められているが、読み進めるうちにどんどん違う文脈を取り込んでいき、非常に力強い一文となっている。読みやすさも特筆に値する。ぜひ、全文をご一読いただきたい。スタイルとしては「随筆」と思って読むと、すんなり読めるだろう。

 実例として参照するのは、3パラグラフ目から。

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https://www.theguardian.com/food/2021/jun/20/jay-rayner-restaurant-review-imads-syrian-kitchen-represents-all-the-good-things

第一文: 

My job is to tell you whether a restaurant is any good.

短い文だが、文法事項は山盛りである。ただし難しいものではなく、和訳せずざっと読むだけのことで、ここに書いてあるような解説がいちいち必要なら、基礎力(中学レベル)が足りていないということになる。

下線で示した "to tell" は《名詞的用法》の《to不定詞》。《S is to do ~》で「Sは~することである」という意味を表す定番の構文だ。

太字で示したのは、「~かどうか」という意味を表す名詞節を導くwhetherで、"tell you whether ~" は「~かどうかをあなたに告げる」。

青字で示した "any" は、「訳せ」と言われたら結構大変になると思う。そういう単語は、見た目どんなに簡単で基本的なものでも、必ず辞書を引いてほしい。たぶん習ったことのない用法だから。このanyは形容詞のgoodを修飾しているから副詞と判断するところまではできるかもしれない。そしてこの副詞のanyは、『ジーニアス英和辞典』(第5版)では2ページ近くあるanyの項の説明の最後の方に出てくるが (p. 93)、「いくらかでも」という意味を表す。goodというと単に「よい」の意味で含みも何もないのだが、any goodとすることで「もしよいと言えるならば」的なニュアンスが加わる。このように、anyはけっこう高度なことができる単語なので、覚えておくとよいだろう。 

 

第2~4文:  

Surely that job has been done. Imad’s Syrian Kitchen represents all the good things. It’s a hell of a story.

ここはすらすらと読んでいくようにしてほしい。この3文での展開のさせ方など、お手本のように美しい。最初は「私の仕事は」という話だったのを、論点を「私」から「私がここで取り上げるレストラン」に切り替えるときのやり方だ。

太字にした "a hell of a ~" は、見ればわかると思うが格式張った場では絶対に用いられることなどありえないくらいにくだけた表現で、《強意》の意味を添える。日本語でいえば「めっちゃ」「すごい」くらいのニュアンスだが、もう少しくだけているから「すげぇ」くらいの語感かもしれない。自分から使おうとするときには要注意である。良いことについても悪いことについても用いられ、例えば "a hell of a doctor" は「すばらしく腕利きの医者」でもありうるし、「ひどいヤブ医者」でもありうる。そのどちらなのかは文脈で判断しなければならない。

 

さて、レイナーはこうして、話の焦点をイマド氏のレストランに持っていったのだが、ここでまた主語が "I" になり、書き手に焦点が合わせられていく。そしてそのパラグラフの最後に、なぜ書き手がこんなに熱をもってこのレストランについて語っているのかについて、読者がすっと納得できる(ことが期待されている)一文が書かれている。

今回、そこが本題だったはずなのだが、前置きがけっこう分量があったので、そこまで書こうとすると当ブログ上限の4000字を超えてしまう。続きはまた次回に持ち越しとしたい。

 

※3700字

 

 

 

 

 

*1:今から15年近く前になるのだが、A国出身の女性が滞在先のB国で難民申請をしたときに、彼女の属性から日本でも「支援ネットワーク」と称する活動が始まって、なぜか私がブリーフィング役で呼び出されたのだが、そのネットワークの人は「難民」についてほとんど何も知らなかった。というか、難民申請をした女性の属性ゆえに「仲間として支援しなければ」的な正義感をかきたてられ、同時にその属性の人々のネットワークを自分たちが中心となって作りたいという野望もあったようだが、「難民支援」を利用して自分たちの組織固めを考えるなど、言語道断である。そもそも難民申請した人の身の安全を何と思っているのかと。下手に「外国人の支援」を盛り上げたりすれば祖国に残る彼女の家族が危険にさらされるとか、そういう基本的なことすら認識されていなくて、唖然と……まあ、過ぎた話ですけどね。

*2:上にYouTubeアーカイブを紹介した「世界難民の日 IN KANSAI」さんのオンライン・イベントの中で安田菜津紀さん⁦⁦が紹介していらしたが、日本にも同じようにシリアから脱出してきた人がいる。ただしそのシリア人男性は日本で難民認定を受けることができていない。政府の迫害を受けるという「客観的な証拠」を示せ、と言われても、示せるような証拠を所持していたら連行されてしまうのがああいう独裁国家なのだから、証拠など持っているはずがない。

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