Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

not only A but (also) B の構文における倒置, die -ing, sayの目的語のthat節が2つある場合(「アイルランド自由国」の成立から100年)

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今回の実例は、報道記事から。

と、本題に入る前に、今回のトピックとは全然関係ないが、前回のエントリについたはてなブックマークのコメントでデタラメ(ひょっとしたらデマ)が吹聴されている気配なので、その点について注意喚起をしておきたい。

前回のエントリは、イーロン・マスクが支配するTwitterが、10年近く前にアカウントを停止された、民族浄化を主張するネオナチ・白人優越主義のサイト「デイリー・ストーマー」の創設者で編集人のアンドルー・アングリンのアカウントを復活させたことについて書いたのだが、そのエントリに対するブクマのコメントにこんなのがある: 

同じように極左とかも帰ってきてるんだろうけどな

https://b.hatena.ne.jp/entry/4729123275077013412/comment/pwatermark

発言は自由だ。だが、発言するなら、エントリを最後まで読んでからにしてくれないかな。

https://hoarding-examples.hatenablog.jp/entry/2022/12/06/%E7%B4%8410%E5%B9%B4%E5%89%8D%E3%81%AB%E3%82%A2%E3%82%AB%E3%82%A6%E3%83%B3%E3%83%88%E3%82%92%E5%81%9C%E6%AD%A2%E3%81%95%E3%82%8C%E3%81%9F%E6%A5%B5%E5%8F%B3%E3%81%AE%E5%A4%A7%E7%89%A9%E3%81%8C

さて、本題に入る。

今から101年前、1921年12月6日、ロンドンのダウニング・ストリート10番地(英国首相官邸)において、英国政府とアイルランド共和国 (the Irish Republic) の代表団との間で、アングロ・アイリッシュ条約が結ばれた。アイルランドから英軍が撤退し、アイルランドは英国の国家元首(国王)を元首としていただく自治国となり、すでに「北アイルランド」として英国の法律で定められていた北部6州はその自治国から離脱する権利を条約発効後1か月の間は有する、といったことが条文で定められていた。

そして、今から100年前の1922年12月6日に、その条約が発効し、アイルランドの北部6州(北アイルランド)を除く26州は「アイルランド自由国 (the Irish Free State)」となった。

その「自由国」は、さらに15年後の1937年12月に「アイルランド (Ireland; Éire)」となり、英国内の自治国というステータスを脱して完全な独立国となる。この「アイルランド」は、1949年以降英国政府によって「アイルランド共和国 (the Republic of Ireland)」と呼ばれるようになった。現在、多くの場合に国際的に用いられているのはこの「アイルランド共和国 (the Republic of Ireland)」という名前であるが、それは、1921年にアングロ・アイリッシュ条約を交渉した「アイルランド共和国 (the Irish Republic)」、すなわち1916年のイースター蜂起のときに掲げられた旗が象徴していた「アイルランド共和国」と同一ではない。

と、このことがわかったのは、英語で資料を読むようになってからである。アイルランドについて日本語で情報を入れている限りは、アイルランド史にとって重要なポイントであるこの「アイルランド共和国」の違いがわからない。どちらも「アイルランド共和国」と表されるからだ*1

さて、というわけで、2022年12月6日は、現在の「アイルランド」というか「アイルランド共和国」のもととなった「アイルランド自由国」の成立から100年という記念すべき節目の日であったのだが、アイルランド政府は特にお祝いなどはしていなかった。大統領が正式な声明を出していたが、「100周年」っぽい華やかな行事は行われていない。

それについて、アイリッシュ・タイムズに解説記事が出ている。

www.irishtimes.com

今回の実例はこの記事から。

といってもこの記事、アイルランドについてかなりの予備知識がない限り、読むのは容易ではないだろう。

なので、内容は問わず、形式だけ見る。

と、いきなりですみませんが、ここまで書いた段階であとは書きかけです。数時間内に書き上げます。⇒書いた。

英文法の実例を見るのは、記事をかなり読み進めていった箇所から。

https://www.irishtimes.com/history/century/2022/12/06/the-irish-state-is-100-years-old-why-is-nobody-celebrating/

キャプチャ画像内の2番目の文: 

Not only is the centenary of the State not being officially marked, but there has been no commemoration to honour the 750 National Army soldiers who died defending that State at its inception.

《not only A but (also) B》の構文(太字)で、 "not only" が文頭に出ているために《倒置》が起きている(下線)形である。《倒置》とはSVの語順が逆転してVSの語順になることを言うが、ここではVが "is" で、Sが "the centenary of the State" である。

《倒置》の構文は何も特殊なものではなく、そのように言う(書く)のが自然だから使われる構文で、この例の場合、倒置しない形は逆に不自然に聞こえる(見える)だろう*2

"the centenary" は「100周年」で、何かの出来事があってから100年という場合にも、誰かが没してから100年という場合にも使われるから、メディアの記事やプレスリリースの類では頻出語である。例えば今年2022年は、1922年の『ユリシーズ』出版から100年にあたるが、これは "the centenary of James Joyce's Ulysses" と表される。下記は記念年に際してアイルランド政府やユニヴァーシティ・カレッジ・ダブリンなどが作ったサイトのキャプチャ。

https://ulysses100.ie/

日本でも今年は、何人ものジョイス研究者が手弁当で、Zoomを利用して、アカデミアの外にいる私たち一般人にも開かれた読書会を月に2回、実施してくださってきた。12月16日(金)20時から22時に行われる次回がいよいよ最終回で、8時だよ! 全員集合 (長さん、志村、仲本RIP)の回である。Zoomで一方的に聞くだけの設定ができる人なら誰でも参加できるので、関心が少しでもおありの方は下記からご登録を。実に実り多く、実に楽しい「知」の場を作っていただいたことに、心から感謝している。

何でジョイスの話してるんだっけ。

ああそうだ、centenaryだ。

こうして改めて見てみると、時系列としては、独立戦争と並行して1918年から20年にかけて『ユリシーズ』がアメリカの雑誌に連載され(全部ではない)、21年末にアングロ・アイリッシュ条約が成立して3か月ほど後の22年2月22日(ジョイス40歳の誕生日)に書籍として出版され、同年6月には北部6州を切り離してしまう条約に対する賛否から独立戦争をともに戦った人々の間で内戦となり、同年8月12日にはアングロ・アイリッシュ条約交渉団のリーダーだったアーサー・グリフィスが急病で没し、同月22日にはマイケル・コリンズが何者かに暗殺され、そして12月6日にアイルランド自由国が成立している。ジョイスが執筆したときにそんな展開を知っていたはずはもちろんないのだが、こうやって見てみると、『ユリシーズ』の中のThe Citizenが登場するところ(第12挿話)を読み返したくなるではないか。物語は1904年6月16日のダブリンが舞台で、そのころはまだ、グリフィスのシン・フェインも結党前だった。

おっと4100字を超えてしまった。とはいえこんな中途半端なところで終わるわけにはいかない。この調子ではブログを書き終わらないから先に行くね。

上で見た "Not only ..." の文の最後の方: 

the 750 National Army soldiers who died defending that State at its inception.  

《die -ing》は「~して死ぬ」の意味。SVCの構文である(Vがdie, Cが-ing)。その前にある "who" は《関係代名詞》で、この部分の意味は「その成立時において自由国を守って死んだ750人のナショナル・アーミーの兵士たち」。

これまた補足を書きたくなるのだが、思いとどまってポインターだけ示しておこう。「ナショナル・アーミー」は、アイルランド内戦を描いたケン・ローチの映画『麦の穂をゆらす風』の登場人物でいえば、テディの側の武装勢力である。

ここらへんでいろいろと書きたくもなるのだが、本当に書き終わらなくなるので、英文法のポイントをもう一つ解説して終わりにする。

キャプチャ画像の下の方から: 

The Minister for Defence Simon Coveney said he received no invitation to the event, and that the National Army will be remembered next year which will be the centenary year for the Irish Army.

動詞 "said" の目的語であるthat節が2つあり、1つ目のthatは省略されているが、andでつながれた2つ目のは省略されていない。規則通り、文法通りのスタイルである。

この例文だと文が長いので別な例文を挙げると: 

  He said (that) he didn't like the idea, and that there must be an alternative

  (彼は、その考えはよくないと思うと述べ、代替策があるはずだと言った)

 

英語だけを見るのはここでおしまい。最後に一言言わせてほしい。

いやー、アイルランドのナラティヴって……!!! 

 

※5100字

 

 

↓マジかこの本、この企画

 

 

 

*1:英語で読んでても、両者が同じものではないという前提がない限りは、区別がつかないと思う。The University of OxfordとOxford Universityは同じものという理解がなされるのが普通だからである。

*2:倒置しないと "The centenary of the State is not only being officially marked, but there has been ..." となるが、ぎこちないし、「ぎこちない」では済まない違和感もある。but以下がThe centenary of the Stateを主語とする文なら違和感もないかもしれない。例えば、The centenary of the State is not only being officially marked, but is seldom talked about by the general public. といったように。

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