Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

【再掲】比較級+than+any other ~, 機械翻訳が誤訳する英文, 譲歩の構文, など(カーナビー・ストリートのシリア難民シェフ-4)

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このエントリは、2021年6月にアップしたものの再掲である。

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今回もまた、前々々回前々回、および前回の続きで、6月20日「世界難民の日 World Refugee Day」に英国の新聞に出たレストランのレビュー記事から。文脈などの前置きについては、 前々々回のエントリをご参照のほど。

前回までの3回をかけて、第3パラグラフを細かく、詳しく読んでみたが、その内容は「レストラン・レビューの記事」らしからぬというか、社会一般の問題、歴史認識問題を扱うものだった。筆者のジェイ・レイナーが、そこまで広げた風呂敷をどう畳んで、どのように「レストラン・レビュー」を展開していくかというのがこの記事の見どころのひとつなのだが、今回はその展開の部分を見てみよう。

これを読むと、日本の東京の「豊かさ」とは別の文脈にある、英国のロンドンの「豊かさ」(それは、あの都市を訪れた人ならだれもが肌で感じるはずであるが、中には「自分はすごい、自分たちはすごい」という意識があまりに普通になりすぎていて、「自分の国に比べて英国の首都はこんなにみすぼらしい」ということ以外は何も感じない人もいるかもしれないし、「その原因は怠け癖のついた移民にある」などと極論に走ってしまう人もいるかもしれないが)がどういうものかが、少なくとも言葉では見えてくるだろう。実際、大学受験に際しての「英文読解」の勉強では、こういう「英国の豊かさ」の一部である文章を、断片的にではあっても数多く読むことが常道だったのだが。

記事はこちら: 

www.theguardian.com

 

記事の4パラグラフ目から。

f:id:nofrills:20210625223438j:plain

https://www.theguardian.com/food/2021/jun/20/jay-rayner-restaurant-review-imads-syrian-kitchen-represents-all-the-good-things

第1文: 

Or to put it in terms relevant to a restaurant column, we do not have a more diverse restaurant sector than any other country in Europe by accident.

文法ポイントは2つ。まずは太字で示した《比較級+than+any other ~》の構文。ここでは《~》の部分に単数形が来ていることにも注目したい。この構文は意味的には《最上級》の内容を表し、「ほかのどんな~よりも…である」だ。

  Africa has more languages than any other continent. *1

  (アフリカには、ほかのどの大陸よりも多くの言語がある)

続いて下線で示した部分。実はこの文、文頭から読み下していくと「私たちは多様性に富んだレストラン産業を持っていない」となってしまうのだが、それは事実に反するし、記事を読んでいる人々が既に知っていること、常識とも異なる。だから、読みながら何となく、「このnotはdo not haveというセンス・グループでhaveを否定するのではない。何かこのnotが否定する語句が、このあとに来るのだろう」と予測しながら読む(話を追う)ことになるのだが(読みながらこういう処理ができるようになるまでは相当の練習が必要である。英語を母語とするいわゆる「ネイティヴ」だって、それは同じことだ)、それが文末にある "by accident" だ。つまり、この文全体は、「by accidentでこういうことになっているわけではない」という意味。

"by accident" は「偶然に」で、この文の文意は、直訳すれば、「私たちが欧州のどの国よりも多様性に富んだレストラン産業を持っているのは、偶然ではない」ということになる。

あ、しまった、前半を忘れていた。"Or to put it in terms relevant to a restaurant column," の文頭の "Or" は《言い換え》の論理マーカーで、このすぐ上で述べていたこと――排外主義的言説が幅を利かせているイングランドで、自身移民(難民、亡命者)の子孫である筆者が、当事者性を自覚し始めているということ――が「レストランについてのコラム」らしい話とは言えなかったのを受けて、レストラン・レビューに近い記述にしていこうという切り替えを行っているのがこの箇所である。

と、これは文章全体の《文脈》を読んでいるからそのように解釈できているのだが、今思い付きでこの部分を機械翻訳で「精度が高い」と各方面の学者からも「お墨付き」を得ている状態のDeepLに投げてみたところ、やはりダメである。"to put it in terms relevant to a restaurant column" が理解できないのに、適当な日本語をこじつけて出力してしまっている。出力結果の日本語だけ見れば、これが《誤訳》だとは思わないだろう。逆に言えば、原文と訳文を照らし合わせてこの《誤訳》に気づける人でないとこの翻訳エンジンは怖くて使えない。そして、それができる人は翻訳エンジンなど使う必要がそもそもない。逆に、対照してチェックする方が普通に読むより手間も時間も労力もかかってしまうことになる。

f:id:nofrills:20210625225650j:plain

https://www.theguardian.com/food/2021/jun/20/jay-rayner-restaurant-review-imads-syrian-kitchen-represents-all-the-good-things

この誤訳を修正しておこう。"to put it in terms relevant to a restaurant column" は、「レストラン(・レビュー)のコラムに適した言葉でそれを言い表すならば」という意味である。

 

また文字数がやばいことになってきているから速度上げていこう。次の文以降: 

It’s the product of waves of immigration. And yes, of course, some of that is also the product of rampant imperialism; the two things are often fellow travellers. Still, the fact is that if you enjoy eating the food of the Indian subcontinent, or of China and the Middle East, or of West and East Africa, of Thailand and Japan and Poland and all other points of the compass, cooked by people schooled from birth in its intricacies, you should give thanks for immigration.

最初の文は、英文解釈としては何の問題もないだろう。"the product of ~" という表現は、自分で英語で何かを書くときに使えるように、しっかり覚えておくと便利な、「英語らしい」というか「ネイティブっぽいかっこいい」表現だ。これが使えると文が締まるんだよね。

次の文とその次の文は、太字で示した部分が《譲歩》の構造を作っている(StillはButと置き換えて解釈してもよい。Butだと語彙が初歩的過ぎて子供っぽく見えるが、意味的には非常に近い)。この《譲歩》は一般用語として考えてはならない。これは文法用語で、「Aではあるが、B」の形の構文のことを言う。「Aではあるが」で一歩譲っているから《譲歩》なのだ。日本語で例文を挙げるとこういう感じ。いずれも後半の方に重点がある: 

  なるほど、確かにこのケーキは美味いが、カロリーが高すぎる。

  カリフォルニアの夏は確かに暑いが、湿度が高くないからしのぎやすく感じる。

ここにあるような、《Of course, A... But[Still, And yet] B...》の構造は、「確かにAではあるが、Bだ」という意味で、筆者の言いたいことはBのほうだ。

で、このBの方の文が、いろいろと羅列している個所があったりするのでやけに長いのだが、スラッシュなどを入れて構造を示すと下記のようになり、大きく見れば《The fact is that ~》のthat節内が《if ~, you should ...》となっている形である: 

Still, the fact is that [ if you enjoy eating the food (of the Indian subcontinent, or of China and the Middle East, or of West and East Africa, of Thailand and Japan and Poland and all other points of the compass,) cooked by people schooled from birth in its intricacies,] you should give thanks for immigration.

丸カッコ  (...) でくくった部分はただの羅列だから、ただ読んで解釈するだけならひとまとめにしてしまえばよい。ここは要するに「世界各地の」の意味だ。

そのあと、"cooked by people schooled from birth in its intricacies" の "intricacies" が難しくて、単語自体はわかっても(「複雑さ」という意味である)、訳語確定のためにあれこれ調べものをしないといけないから(普通に読めば、これは「複雑な技術・技能」の意味で「料理という繊細で複雑な技能」のことを言っていると思うんだけど、それで確定するには裏付けで調べものが必要なところ……所要時間は少なく見積もって15分かな。そして確証が得られなかったらまた考え直さなければならないし、自分の最初の考えが見当違いということもある。「翻訳」というのはこういう作業です)そこは今は飛ばして、「生まれたときから訓練されてきた人々によって調理された」という意味になる。

つまりこのif節は、「あなたが、生まれたときから訓練を受けてきた(その地の伝統を受け継ぐ)人々によって調理された世界各地の料理を食べることを(ここロンドンで)楽しんでいるのならば」という意味。

その帰結節は「移民があることに感謝しなければならない(感謝するのが当然だ)」。ここのshouldは特別な用法ではなく素直な助動詞のshouldである。

その《if ~, you should ...》の文が、《The fact is that ~》の構文の中に入っていて、「事実は、あなたが、生まれたときから訓練を受けてきた(その地の伝統を受け継ぐ)人々によって調理された世界各地の料理を食べることを(ここロンドンで)楽しんでいるのならば、移民があることに感謝しなければならない」という意味の文になっている。

「移民」と「レストラン」という2つの一見かけ離れたテーマが見事にマリアージュしているね。

 

また当ブログの上限4000字を軽く上回ってしまった。今回はここで終わりにするけど、イギリスの食文化と移民の関係については、「英国の名物料理」とされているフィッシュ&チップスを通してみると、とてもおもしろい。下記の本は本当に面白いのでおすすめだ。実際、イタリア人経営の店(ということが名前でわかるような店)の揚げイモは美味い。トルコ人ケバブのついでに揚げ芋をやってる店も悪くないが。 

 

※本体部分5000字

 

【増補版】シリア 戦場からの声

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