Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

howeverによる譲歩の構文, as such, 前置詞のcome, 助動詞+受動態, など(聖書の英国手話への翻訳プロジェクト)

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今回の実例は、報道機関の特集記事より。

日本のメディアでもそうだが、報道機関が流す日々のニュースでは、毎日の大きな出来事の事実関係を伝えるもののほか、その時々の社会的な関心事や、「関心事」とまではなっていなくても多くの人々に共有されておいてよいような人々の暮らしにかかわることが取り上げられる。私の記憶にある限り*1、日本のニュース番組ではそういったことがらを取り上げるコーナーを「特集」と呼んでいると思う。

今回は、BBC Newsから、そういった「特集」の色が濃い記事を見てみよう。

クリスマス直前は、例年、ディケンズの『クリスマス・キャロル』が説いていたようなクリスマス・スピリットを感じさせる、人間社会の「ちょっといい話」が記事になるのだが、今回見る記事はおそらくその系統の記事である。

こちら: 

www.bbc.com

Sign languageは「手話」のこと。日本でも、今期のテレビドラマで耳の聞こえない人/聴覚を使わない人を主人公としたドラマがあったそうで、手話への関心は今、かなり高いかもしれない。

何語圏であれ、手話は、私たち聴者が使う言語とは大きく異なり、まったく別な言語といってよいものであることが多い。日本の手話も、日本語とは別の言語である「日本手話」と、日本語を口を動かして話しながらそれをなぞるようにして手を動かして単語を並べていく「日本語対応手話」の2つがある。

英語圏にも手話は何種類かあり、この記事で取り上げられているBritish Sign Languageは英国(UK)で広く使われている手話言語で、その歴史は15世紀までさかのぼれるおうだが、私たちが習ったり学んだり使ったりしている英語とは別の文法を持つ別の言語である。

記事は、このBSLを第一言語とし、英語を第二言語とするハンナ・ルイス師の取り組みを紹介するものである。ルイス師は聴覚を使わない人で、イングランド国教会(アングリカン)の聖職者であるイングランド国教会では女性も聖職者としてつとめることができる)。

記事は、導入部はイギリスで人気のTV番組の話題から入っているので、それを知らない私たちには読みづらいかもしれないが、「つかみ」は読者として想定している人にわかりやすいように書くものなので、何のことかわからなくても、そういうところで立ち止まらずに先へ先へと読んでいけばよい。

数パラグラフ――というかBBC Newsは1文ごとに改行する謎スタイルを採用しているので数センテンス――読み進めていくと、次のような下りがある。

https://www.bbc.com/news/disability-59650048

いくつか重要な文法項目が入った箇所である。

最初のパラグラフ: 

"I can read it, I can understand it, I can preach on it. But when I see the Bible in BSL it just hits me - emotionally, spiritually - in a way that reading never will.

ここは文法的には特に解説すべきところもないのだが、 "it just hits me" のhitの使い方など、表現としてはぜひ覚えておきたいものがある。また、ここでルイス師が言っている "read" は、「(手話言語ではなく)英語で読む」ということで、手話言語についての "see" と対照的に用いられている。readもseeも英語が苦手な中学生でも必ず知っている基本語だが、手話言語というコンテクストでどう使われるかということは、なかなか知る機会がないのではないかと思う。この発言は「自分の第一言語である手話で "見る" と、英語で "読む" のとはまるで別物のように深く響く」ということを言っているわけだ。

次の文: 

"However good the interpreter, you're receiving the Bible once-removed," she told Radio 4's Sunday programme.  

太字で示した部分は、howeverを用いた《譲歩》の構文で、やや略式といえる表現で、最後にisが省略された形("However good the interpreter is" とするのが通例)。

interpreterは「通訳者」の意味だが、英語圏の一般的用語としては「通訳」と「翻訳」を日本語圏のように厳密には区別しないので、場合によっては「翻訳者」と訳すべきときもある。

"once-removed" は家系について言うときの形容詞で、名詞に対して後置される、英語には珍しい形容詞である(しかし英語ってなんでこんなに例外が多いんだろうね)。日本で発行されている学習英和辞典では調べられないかもしれない(今、手元にある『ジーニアス英和辞典 第6版』を見てみたが、掲載されていない)。removeの過去分詞、removedは「隔たった」という意味で形容詞化したもので、onceは「ひと刻み、一段階」の意味だから、「ひと刻み隔たった」の意味。これが親族関係だと、例えばcousin once-removedは「1世代を間に置いたcousin」で、cousinの子供、ということになる。わかりづらいけれど、下記の解説映像を見ると多少わかりやすくなる。

www.youtube.com

閑話休題。今回の実例のように "once-removed" が用いられている場合は、「原本とはちょっと違ってしまっている」という意味を比喩的に表しているということになる。文意は、「通訳者がいかに優秀であっても、あなたは元の聖書とはちょっと違った聖書を受け取っていることになる」と直訳される。

次の文: 

BSL is Hannah's first language and, as such, the most meaningful.  

"as such" は、辞書を引くと《意味》というか《訳語》がたくさん載っていてびびるかもしれないが、その中から文脈にあったものを特定するのも一種のスキルである。そのためには《文の意味》を考えなければならない。間違っても、自分が選択した訳語に合うように文意をねじまげてはいけない。書かれていることは書かれている通りに読もう。

ここでは「したがって」の意味。「BSLはハンナにとって第一言語であり、したがって、最も意味が豊かに伝わってくるのである」。

その次。いきなりここでパラグラフ・ライティングのスタイルに切り替わるので戸惑うかもしれないが: 

Currently, while there are some non-traditional versions of the Bible available in BSL, there has been no official translation until now. Previously it had come down to the subjective reading of individual interpreters - their take on the stories and words on any given day. Come the following week, or a different interpreter, the Bible stories might be signed slightly differently and convey slightly different meanings.  

太字にした "come" は《前置詞》である。

Wiktionaryを見てみよう。

Used to indicate a point in time at or after which a stated event or situation occurs.

come - Wiktionary

説明を読んで理解できただろうか。

翻訳しろと言われたらかなり至難の業となりうる英語だが、日本語にしてアウトプットできなくても、英語で読んで理解できていればよい。いわく、前置詞のcomeは、「述べられている出来事もしくは状況が起こる時点を示すために用いられる。また、その時点のあとにその出来事もしくは状況が起きるという場合にも用いられる」(2文に分割して日本語化しました)。

Wiktionaryの例文には、例えばこんなのがある: 

Come summer, we would all head off to the coast.

この "Come summer" は、「夏には」、「夏が来たら」とか「夏になったら」という意味だ。

というわけで今回の実例にある表現: 

Come the following week, or a different interpreter, the Bible stories might be signed slightly differently and convey slightly different meanings.  

この文は、「その次の週が来たら、あるいは別の通訳者が担当したら、聖書の物語は少し違うふうに手話にされ、少し違う意味を伝えるかもしれない」。

またここで雑学的なことを書きたくなったが、もう4000字になるので、先に行く。

次のパラグラフ: 

The BSL Bible Translation Project is trying to put that right. A team of Christian volunteers have been working with historical and biblical experts to translate the Bible from the original Greek and Hebrew texts into a BSL video version.

下線で示した部分、《put ~ right》は「~をただす」の意味で、《~》の部分には「状況」を表すものが入ることが多いが、この用例のように代名詞のthatやthis, itが来るのを見聞きすることが圧倒的に多いだろう。この表現は、putやthatやrightといった個別の単語を知っていても、それだけでは意味が取りづらいだろう。東京都が強行実施した中学生対象の英語の自称「スピーキングテスト」ESAT-Jの出題ミスについて、当局側は「文法としては未習でも単語は既習なので問題なし」と強弁しているが、そういう強弁ができるということは、英語の文法やイディオムを苦労して身に着けるという経験をしていないことを意味する。

キャプチャ画像では途中で切れてしまっているが、太字で示した部分は《現在完了進行形》で「ずっと~してきている」と、過去から今に至るまで継続して進行中のことを表す。「信仰者のボランティアのチームが、ギリシャ語とヘブライ語の原典から、BSLのビデオ版に聖書を翻訳するために、歴史や聖書学の専門家とともに作業を行ってきた」の意味。

というように、英国で聖書の手話言語訳が進められているということを伝える「特集」記事の一部を見てきたが、日本でも聖書の手話言語訳が行われているということを、@nest1989さんからご教示いただいた。

 

 

 

 

*1:2011年の「地デジ」への切り替えのときにテレビを捨ててしまったので、この10年以上はニュース番組を1本見るという習慣がないから、今は実際にどうなのかがわからない。

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