今回の実例は、米国の放送局の映像クリップから。音声の聞き取りが必須となる。
今から4年か5年前だったと思うが、「今どきのネーティブは、挨拶で How are you? なんて言わない」という記事がどこかのオンラインメディアに出て、大いに話題になった。その記事は英語を使わない/使えない日本語話者である記者が、英語母語話者に取材したものをまとめたと思しき記事で、よくわかってない人が大雑把にとらえすぎて暴走している雰囲気はあったが、そこでご意見番みたいにしゃべっている英語母語話者にもたぶんおおいに暴走の気味はあったのではないかと思う。
その記事が出たとき、ネット上の日本語圏の英語話者界隈は「ていうかwwwww」的なムードに満たされてざわざわしたのだが、英語を使わない日本語話者や、「日本人が英語をしゃべれないのは学校教育のせい」というお題目を信じている日本語話者の間では「やっぱり!」的なムードになったようだ。
それらの人々の間では、自分が暗記させられたり復唱させられたりしたフレーズがついつい口をついて出るようになっていたというのに、「それは実際には使われない」などという(「要出典」な)「ネーティブ」による断言を目にしてうろたえたり怒ったりして、「学校教育は役に立たない」というイデオロギーはますます硬質化されていった。
この圧倒的な、1986年か、感。
「1986年」については、江利川先生の下記書籍を参照されたい。この本は、個人的に、「読んでよかった」と心から思えている本である。
閑話休題。
で、うちら日本語母語話者、特に1990年代以前の日本の学校教育で英語を学ばされた日本語母語話者が、恨みつらみに近い感情を抱いている、
"How are you?"
"I'm fine, thank you. And you?"
という定型表現のやり取りについて、「非常にフォーマルな響きがするから日常ではあまり使わない」ということは指摘されえるかもしれないが、「今どきのネーティブはこんな表現は使わない」というのは事実に反するガセネタだ。
それはちょうど、「今どきの日本語母語話者は『すみません』なんて言わない。『すいません』だ」というの*1がガセネタであるのと同じだ。
そのガセネタが話題になったときに、私はTwitterで "How are you?" という文字列を検索して、このフレーズが使われている実例をたくさん挙げて「NAVERまとめ」でページを作成した。そのページは、今はもうネットの藻屑だ。
その際、私は、 "How are you?" と "How are you doing?" は厳密に区別するようにしたが、「How are you? は今どき使わない」というガセネタに反発した英語を使う日本人の多くは、両者の区別はつけていなかったようだ。(私が両者を区別したのは、前者と後者ではスピーチレベルが異なると教わっていたからである*2。)
で、今回、 まさにその、ややフォーマルな響きを伴う "How are you?" の実例に、音声で接したわけである。
いまだに信じている人がいるかどうかは疑問だが、一時期広く拡散された「英語母語話者(ネイティブ)は "How are you?" なんて言わない」というガセネタの反証にもなるクリップ。 https://t.co/P6DVqeC7pP
— nofrills/文法を大切にして翻訳した共訳書『アメリカ侵略全史』作品社など (@nofrills) 2022年12月29日
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