Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

be going to do ~を使った表現, have no idea+what節, など(ガザの大量料理人と、Twitter/Xでの心温まるやり取り) #ガザ市民の声翻訳 #ガザ #Gaza

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たまには心温まることを書こう。

先日、当ブログでエントリ化した刷り物で取り上げている、ガザのWatermelon Reliefで、真顔で大鍋で大量の料理を作って子供たちを笑顔にしているハマダさんの7日の投稿: 

パンクチュエーションがくだけた文体のものになっているので、それを格式ばったものに改めると: 

I'm gonna need your help, my Spanish-speaking friends..

I was sent this video, but have no idea what she is saying.

Thank you @informativost5 for this report.

というふうになるだろうか。

英文としては、ほぼ誰でも「読めばわかる」文だと思うが、自分でゼロからこれが書ける/言えるかどうかは別で、もし書けなければ、暗記して、自分で使える文のベースとして頭の中にストックしておくといいと思う。「復文」の練習素材にしてもいいだろう。

文面を見ていこう。

最初の文: 

I'm gonna need your help, my Spanish-speaking friends..

《I'm gonna do ~》は、言うまでもなく《I'm going to do ~》が音便化したみたいな表記で、基本的にこれは《未来》を表すのだが、ここでは「これから必要とすることになる」というより「今必要となる」の文意で用いられている。

英語では、こういうふうに時をずらすことで、あまりにストレートな言い方をちょっとやわらげるということがよく行われる*1。日本語でも、レジの人が例えば「お会計は1050円です」と言う代わりに「お会計のほう、1050円になります」と言うのが(なぜか)丁寧な感じがする、というのがあるが、英語でI need your helpと言う代わりにI'm gonna need your helpと言うのもそれに似た感じがする。

『ロイヤル英文法』では、こういう《be going to do ~》について、「主観的判断」としている。「なにか徴候があって、近い将来にあることが起こりそうだ、という話し手の見込みや確信を表す」とある(p. 416)。ただし挙げられている英文に、主語が1人称のものはなく、ここでの "I'm gonna need your help" の説明としてはちょっと違うかという感じだ。

では、とワンランク上の安藤『現代英文法講義』をひもとくと、「第7章 未来時を表す表現形式*2」内、7.1.2.「be going to+不定詞」の [B] の項で、「人称主語とともに用いられ、〈決定済みの意図〉を表す」というのがある(p. 101)。例文は極めてシンプルな、 "I'm going to play tennis this afternoon." で、「今日の午後はテニスをするつもりだ」の意味だが、翻訳調ではない日本語で自然な表現としては「午後はテニスする」とか「午後はテニスの予定だ」、「今日の午後はテニスだ」みたいになるだろう。で、これと "I'm gonna need your help" との違いは何かというと、まず、needという動詞の性質とplayという動詞の性質が違うし、this afternoonという時点が発話の時点からある程度先にある一方で、ハマダさんがneedしているのは「今」だ、というのもあって、要するに、沼だ。こういうことはたぶん私の右側の棚にささっている「翻訳英文法」分野の本に書いてあるんじゃないかなーと思うが、明確なソースを探そうとすると文法書の沼から出られなくなってしまう。

要は、 "I need your help" と言う代わりに "I'm gonna need your help" と言うこともあるよ、この文体は効果的に使えたら好印象を与えられるよ、ということである、と乱暴にまとめて、先に行こう。

第2文: 

I was sent this video, but have no idea what she is saying.

《等位接続詞》のbutの前で大きく区切って読む。前半は《受動態》。

Someone sent me this video.

→ I was sent this video. 

ということで、ビデオを送った人が誰かを言わずに済ませるには受動態が便利だ。

もちろんそれを言いたいときには、 "I was sent this video by my friend Paul." みたいに言えばよい。

文の後半は、《have no idea》と、《間接疑問》もしくは《関係代名詞のwhat》、というかwhat節の合わせ技。(そろそろ疲れてきたので雑な説明ですみません。)

《have no idea》は、"don't know" と意味的には同じだが、響きはちょっと違う。"don't know" ほどつっけんどんな感じにならずに同じことを言える。私は日本で教科書通りに英語を習ったので、やたらと "I don't know" を言うクセがあったのだが、「その場合は "I have no idea" のほうがいいよ」という指導を受けて、 "I don't know" を口にする頻度はかなり下がったと思う。

《have no idea + what節》(《have no idea of what節》のofが抜けてしまった形だが、特に非標準というわけではない)の形で「何が〔何を〕~なのか、わからない」の意味。これも必須構文で、what節以外にもいろんな疑問詞節が使える。

  I have no idea how my cat managed to escape. 

  (うちの猫がどうやって脱走したのか、見当もつかない)

つまり、ハマダさんの投稿は、ここまでの2文で、「スペイン語がわかる友人のみなさん、ちょっと助けてもらっていいですか。このビデオを送ってもらったんですが、この女性が何を言っているのかが全然わかりません」。

そして最後に、この映像クリップの制作主であるスペインの放送局にお礼を言って〆ている。

映像は1分半ほど。ガザに対するすさまじい爆撃やガザで引き起こされているひどい飢餓の様子を、テレビで一般向けに流せる範囲内の映像で説明しつつ、鋭いまなざしをカメラに向けながら手元もほとんど見ずに大量の料理を手際よく次々と作っては、大鍋をテント村に持っていって子供たちに料理を配っているハマダさんの活動を紹介している。

スペイン語がわからなくても見ればわかるが、内容は: 

これは親切な人による人力での聞き取りと人力での翻訳・要旨まとめだが、現在のテクノロジーを利用した自動翻訳・吹き替えbotTwitter/Xでは利用できる。そのやり取りが: 

つまり、 @ezdubs_bot にメンションして、「元の言語」と「翻訳したい言語」を半角スペースを挟んで書くだけで、翻訳され吹き替えられたビデオを作ってくれる。吹き替えの音声は元の話者の声を使うので、違和感が少ない。AIがここまで使えるようになったのは、端的に驚くべきことだと思うし、それがTwitter/Xという国境を簡単に超えられるプラットフォームで手軽に使えることの意味は、とても大きい。

ただ、ここまで手軽に使えるツールがあるということは、誤情報や悪意のあるデマもまた手軽に翻訳・吹き替えられるということでもある。

機械には誤情報を誤情報であると判断する能力はないわけで、翻訳者の役割は、言葉を上手に置き換えることよりもむしろ「元言語での情報が事実に照らして正確な情報か、それとも誤情報か」ということを判断することに重点を置くようになっていくかもしれないと思う。

 

ハマダさんとフォロワーとのやり取りにはさらに心の温まるこんなのもある。

スペイン語はできない私でも(フランス語と単語はよく似ているのでフランス語経由で)これはわかる。"From the river to the sea, Palestine will be free!

(この "Palestina será libre!" の "será" が本物の《未来形》です。英語の場合はbe動詞を変化させずに助動詞を使って未来を表すので、動詞に《未来形》はない、ということになる。)

なお、ここで紹介したハマダさんの投稿のように、何かをフォロワーに向けて要請し、やってほしかったことが完了したときは、元の投稿に自分でリプライをつけることで「もう大丈夫、完了しました。みなさん、お世話になりありがとうございました」というメッセージを発することができる。

ハマダさんのこの英文もこのまま覚えておいていい。

 

ハマダさんたちのWatermelon Reliefをはじめ、ガザの人々がやっている支援活動について簡単にまとめた刷り物の画像を再掲しておこう。内容は過去のエントリをご参照いただきたい。

 

 

 

 

 

 

*1:余談だが、こういうのは日本では「ネイティブの英語」として売り込まれることが多いのだが、ここでの話者、ハマダさんは「ネイティブ」つまり英語母語話者ではない。アラビア語母語とするパレスチナ人である。それも20年近く封鎖されているガザ地区の人である。(こういったことをきっかけに、日本語圏で当たり前にある「ネイティブの英語でなければ本物の英語ではない」という「ネイティブ幻想」を真に受けないようにしておくとよい。)

*2:学校英文法では「未来形」と称するが、実は英語にあるのは「未来形」ではない。そういうことは、受験英語の次のレベルの文法書を読んだり、フランス語やスペイン語などを習うなどするとわかるのだが、そうしないと知らないままかもしれない。

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