わたしは激怒した。必ず、かの、イメージだけでしたり顔で「日本の英語教育」を語っちゃう上に1980年代末の、『別冊宝島』の「道具としての英語」の時代の認識のまま「文法」を敵視する業界人改め国会議員(参議院)の、「張りぼて」と言うのも張りぼてに失礼なレベルでチャチな言説にカウンターをくらわしておかなければならぬと決意した。わたしには政治がわからぬ。わたしは、一介の英語屋兼ブロガーである。コンマのあとにスペースがなければ笛を吹き、仮定法と遊んで暮して来た。けれども「英文法なんかやってるからしゃべれない」という邪悪な言説に対しては、人一倍に敏感であった。
ラサール石井氏 午前4時過ぎ当選会見 早大除籍 受験英語の改革訴える「文法ばかりの教育ではなく…」 https://t.co/de5nYfmXFv
— maybe_frills #EndTheSiege (@n0fr1ll5) 2025年7月20日
唖然………………何百万年前の話をしているんだ。唖然唖然唖然……………………………………化石か。
いやー、我々のESAT-Jでの闘いって、何だったんすかね。
ラサール石井*1の思い込みとは逆に、日本の英語教育で「英文法」が片隅に追いやられて、もう何年になるだろう。ぶっちゃけ、そうなる前から、文法などお構いなしに「何となくフィーリングで」*2英文を読む大学受験生はとても多かったし、その中にはごくまれに、なぜかとびぬけて優秀で、文法はまったくできないのに読解テストは8割超をコンスタントに得点するという人もいた(が、そういう場合は自分では英文を書けないので、自由英作文ができないと受からない大学には進めなかったりするのだが)。いやもうほんとマジで、He is a lawyer. を He has been a lawyer for 30 years. に展開することもおぼつかない、みたいなことは、いつだってとてもありふれていたんだけど、もうそういう問題ではなく、全体に、なんていうか……と急に歯切れ悪くなっててあれなんですがごめん。
昨晩、noteのほうでこの記事を書いたときに、"My Death is not a song for you to sing" というタイトルの「ガザの詩人の会」の自主制作本(電子書籍)について自分のツイートを発掘する必要があって、このタイトルをTwitter/X内で検索したときに目にしたものを見て、「英文法大事!!!!!!」と叫んだわけですよ。さらしたいわけではないのであちこちマスクしますが、スクショ:

うんうん、わかるよ、単語だけ勝手につなぎあわせるとこうなるよね。だがこれは《不定詞の意味上の主語》だ。英文法ちゃんとまじめにやってないとできない項目トップ10の上位に食い込む例のあれだ。
It's easy to take a picture with your phone. という文なら一般論だ。「(一般的に)携帯電話を使って写真を撮ることは簡単である」という意味だ。
それを一般論にせず、「特定の誰かが写真を撮ること」を言いたい場合に《意味上の主語》が出てくる。 It's not easy for me to take a picture with my phone, because I'm injured in my right hand. みたいなものだ。「私が携帯電話で写真を撮るのは難しい。右手に怪我をしているので」。これは一般論ではない。「ほかの人にとっては難しくないかもしれないが、私には難しい(怪我をしているから)」ということを言っている。
これを踏まえていないと、It's not easy for me to take a picture with my phone. を「携帯電話で自分のための写真を撮るのは簡単ではない」と解釈してしまうのだがそれは誤訳だ。上記キャプチャはまさにその例である。
さらにそこから、日本語だけで勝手に考えて「携帯電話で自撮りするのは難しい」とか「インカメラで映え写真ってどうやったら」みたいに「意訳」してしまうこともあるだろうが、それは意訳じゃなくて単なる誤訳である。元の解釈が間違ってるんだから。
ひるがえって、"My Death is not a song for you to sing" だが、これは「私の死は、あなたのために歌う歌ではない」ではなく、「私の死は、あなたが歌う歌ではない」である(to singするのがyou, というのが《意味上の主語》の構造。こう説明しても理解されないのがデフォっすけどね)。
要は、他人の死を勝手に称揚すんな、ということで、これは2023年10月以降全地球規模で広がっている、非パレスチナ人の間でのパレスチナ・ナショナリズムの熱狂と陶酔に、当事者であるパレスチナ人によってガツンとくらわされているパンチである。非パレスチナ人は、パレスチナについて語ることはできても、パレスチナを語ることはできない、というとわかりやすいだろうか。翻訳者なんざ特に、基本的にただの媒体なんで、自分が熱狂しちゃいかんのである(ましてや煽動するなどもってのほか)。自分が歌うな、言葉に歌わせろ、そういうことだ。
私はロマン主義的な熱狂、あの甘美な陶酔も知っている(いろいろあったんだよ)。むしろ大好きだ。だが、それを捨てねばならぬ。わたしは覚悟した。そういうことだ。
そんなことより、不定詞の意味上の主語くらいはしっかり押さえようず……
俺の死は歌じゃない
— maybe_frills #EndTheSiege (@n0fr1ll5) 2025年6月25日
お前が歌う歌じゃない#ガザ市民の声翻訳 #Gaza #ITranslate #ガザ https://t.co/y7GdxaeP86
ちなみに、このEbookを紹介してる元スレッドはこれ:
A list of books with proceeds going to Palestine. A 🧵:
— SÍDHE PRESS (@SidhePress) 2025年5月6日
To Lay Sun Into A Forest- Poems About Grief. All proceeds go to The Sameer Project https://t.co/JU2B9OKv3z
ドイツ、ベルリンとスコットランドに拠点のある自主出版レーベルで、フェミニズムや反植民地主義の詩を扱っている。下記の詩集はデスク脇に置いて常に参照できるようにしてある。
英文法の重要性については、下記の本がいい。ゴールは「書く」ことで(このあたり「英会話」で熱狂している日本の「読み書きはできるのに会話ができなかったと思い込んでいるけれど実は書くこともできなかった中高年」の視野の狭さは致命的だが、今の30代から下はこの「英語の読み書きはできる日本人」という神話からは自由だろう)、そのために「文法」がいかに重要かをちゃんと書いている。著者は「外国語としての英語」というものを扱いなれている英語母語話者である。翻訳は高橋さきのさん。
ていうか、「英語の読み書きはできるけどしゃべれない」と眉間にしわよせてた中高年、こういう英語書けないでしょ。
I was walking, searching for a bag of flour to buy… Suddenly, a massive explosion shook the area. A building next to me collapsed into rubble. Bodies scattered in the street—children and women screaming, blood everywhere.
— mohammed hussein~Gaza 🇵🇸 (@mohammedIhysse) 2025年7月25日
I could barely breathe… I saw a man next to me…
これは、ガザで経営学を大学院で学んでいる最中にジェノサイドに巻き込まれた人の英語。
All day long, my little daughter comes to me, whispering incomprehensible words in her baby tongue —
— Haitham in Gaza 🇵🇸🍉 (@HaithamElmasri1) 2025年7月25日
words I can barely understand, but I know what she means: “Papa... I want milk.”
She repeats it over and over again, tirelessly...
not knowing that there’s nothing here — nothing…
この人も経営学を修めた人。
Despite the moments of despair and exhaustion we face during work—due to relentless pressure and fatigue—all of it seems to fade the moment our shift ends, even if only briefly, as I make my way back to my tent. I forget the pain, because our cause is greater than all this… pic.twitter.com/2UAXh1b2Jw
— KhaledNurseGaza🩺🇵🇸 (@KhaledNash1993) 2025年7月25日
看護師さん。
今、ぱぱっと見た画面にあったものをいくつかリンクしただけだが、このクオリティの英文がガザからは毎日、いくつものアカウントから流れてくる。この人たち、もう20年近く前から封鎖下にあって、自由に外と行き来できるわけでもない環境で育って学んできて、この英語を使えてるわけです。文法はケンブリッジの教材(マーフィー)でがっつりやってるみたいですね。


