先日、《不定詞の意味上の主語》を表す《for ~ to do ...》の構造について書いた。
hoarding-examples.hatenablog.jp
「不定詞の意味上の主語」とは、「to doするのは誰か」ということである。それが文の主語と一致している場合や一般論のときは明示されないが、一致していないときにforを用いて明示するのである。
■ I have something to read. (私は読むべきものを持っている)※直訳
→ to read するのは、文の主語である I なので、特に何も書かない
■ I have something for my son to read. (私は息子が読むもの/息子に読ませたいものを持っている)
→ to read するのは my son で、文の主語である I とは異なるので、forを用いて明示する。「息子が読むもの」か「息子に読ませたいもの」かは文脈次第で、いずれにせよ「読む」のは話者である「私」ではなく「息子」である。
一般論をいうときはこうなる。
■ It's important to sleep well. (ちゃんと寝ることは重要だ)
→「誰にとってもしっかり睡眠をとることは重要」という文。
■ It's important for you to sleep well after a hard day. (あなたは一日大変だったんだから、ちゃんと寝ることが重要だ)
→何らかの文脈があって(例えば「私は大丈夫だから、あなたが寝なさい」と言われたのに対する応答、など)、「あなたが寝る」ことをことさらに言っている、という状況になる。
forを使わずに《意味上の主語》を言う構文もある。want to do ...と、want ~ to do ...を思い浮かべていただくとよいだろう。この形をとれる動詞は限られている。
■ I want to take a break. (私は少し休憩したい)
→ to take するのは、文の主語である I なので、特に何も書かない。
■ I want you to take a break. (私は、あなたに少し休憩してもらいたい)
→ to take するのは you で、文の主語である I とは異なるので、明示する。
ラサール石井参院議員のような人たちが深い知見も意味もなくdisってくれたおかげで軽視されつくしている「英文法」は、こういうことを体系的に学ぶものだ。そしてこういうことを知らないと、英語が「道具として」使えるレベルにはならない(なるとしてもひどく時間がかかる)。信じられないほどのレベルで英語を使いこなしているガザの人たちは、こういうことをかなり徹底的に学んでいる。マーフィー使ってるっていうし。
さて、上にリンクした先日の記事への補足。"a song for you to sing" が「あなたのために(誰かが)歌う歌」ではなく「あなたがが歌う歌」であるならば、「あなたのために(誰かが)歌う歌」は何というのかという質問があった。それは "a song to sing for you" である。語句の順番が違うだけだが、それで意味が全然変わってくる。
というわけで今回は、ガザでテント暮らしをせざるを得ない状況の中でも勉強し続けて修士論文の口頭試問をパスしたMBA持ちのモハンメドさんの自由律詩(自由詩)を読んでみよう。英語の詩は、規則通りに韻を踏むことがお約束だが、「自由律」ではそのルールは無視してよい。
I write to you, in my own words, my free verse poem, "How Much Must I?"
— mohammed hussein~Gaza 🇵🇸 (@mohammedIhysse) 2025年8月14日
How much must I survive the shelling for them to call me a hero?
How much must I hold my children when they are afraid for them to call me a hero?
How much must I bury my friends and return with a broken… pic.twitter.com/AwxmCvS0qZ
全体にわたって、《不定詞の意味上の主語》を表す《for ~ to do ...》の構造が繰り返されている。"for them to call me a hero" は、直訳すれば「彼らが私をヒーローと呼ぶ(ためには)」の意味で(callが作るSVOCの構造にも注意)、それが "How much must I do ..." の文の中にはめ込まれている。つまり、この詩は全体が、"How much must I do ... for them to call me a hero" を何層にも重ねてある形で、最後に "a hero" をめぐるどんでん返しがある。
英語としては全然難しくないし、《for ~ to do ...》の構造を意識して読むのに非常に適したテクストだと思う。全訳はnoteのほうに掲載する(noteはこれから書くので、書いたらリンクします→書きました)。
このエントリが1ミリでも英語の勉強になったと思われたら、可能なら、MBA持ちのモハンメドさん(「モハンメドさん」が多すぎるのでひとりひとりにニックネームをつけて呼ぶようにしている)にご寄付を。金銭的余裕がないかたは、彼の言葉を広めてください。今、集団として殺されつつある人びと(ジェノサイドされている人びと)のなかにどういう人がいるのか、「あちこちのすずさん」的な目をもって、事態を見てほしい。Twitter/Xをやっていたら彼をフォローしてその言葉を追ってほしい。幼い息子さんが2人(イマドとアダム)いて、お連れ合いのヤラさんとの核家族4人でテント暮らしをしていて、珍しく、お連れ合い(成人女性)の姿も映像や写真に入れています(自分の家の成人女性の姿は見せまいとするのが現地のデフォ)――つまりとても「リベラル」な人です。
さて、当ブログならびに拙Twitter/Xアカウントを、id:tmrowing (松井孝志先生)にご紹介いただきました。ありがとうございます。
tmrowing.hatenablog.comTwitter/Xのアカウントでの#ガザ市民の声翻訳について、"胸が締めつけられるような投稿が多いのですが、現実を知るためにもお読みいただければと思います" とおっしゃっていただきました。
私は、普通に読んでいたらとっくに胸が締め付けられてつぶれていたと思いますが、翻訳者なので自分の感情などというものはないものとして扱っています。それでも現実があまりにひどいし、ずっとフォローしてる人たちについてはそれなりに愛着もあるので(「ネット上の友人」という関係になっている人もいる)、本当に、ときどきどうしたらいいかわからなくなっています。そういうときに英文法解析ができる隙があると、私は救われます。現実世界で起きていることと異なり、ちゃんと根拠を示して解説すればそれで話が終わるからです。イスラエルのやっていることは単なる違法行為なので、本来、ちゃんと根拠を示して法的な手続きをとれば、それで解決するか、解決するに至らなくても停止するはずのことなのです。その秩序が、イスラエルによって破壊されている。それは今に(2023年10月7日以降に)始まったことではなく、例えば隔離壁についてはもう20年以上も前に「違法」と判断されています(「国際司法裁判所は2004年7月9日にイスラエル政府の分離壁の建設を国際法に反し、パレスチナ人の民族自決を損なうものとして不当な差別に該当し、違法であるという勧告的意見を出している」)。
ガザ・ジェノサイドは、この世界のルール、特に戦争犯罪や人道に反する罪、ジェノサイド罪といったものを規定する国際法をすべて無視して――というより「スルーして」という日本語がふさわしい――遂行されています。法律が無視されているということは、被害者からみれば頼れるものがないということになる。警察にストーカー被害の相談をしているのに「痴話げんか」とみなされて放置される被害者と同じで、どこにも救いがないのです。そして、その流れを主導し決定づけたのは、米国の民主党政権(ジョー・バイデン大統領)です。トランプが最悪なのは、1期目で米大使館をテルアビブからエルサレムに移転させたことからも明らかですが、ガザ・ジェノサイドの責任を負うべきはトランプではないです。でも、トランプはICC(国際刑事裁判所)に制裁を発動するという暴挙に出たわけで、責任がないわけでもないです。そこまでして、何を守りたいのか、と私は思ってもいるけど、結局、彼らは「守りたい」ものがあるから破壊しているのではなく、単に破壊したいのでしょう。何のためにかはわかりませんが。
https://t.co/T0RsNLNowy "国際刑事裁判所(ICC)所長・赤根智子《緊急インタビュー》「経済制裁に危機感」「いま、戦争犯罪を裁くために」"
— maybe_frills #EndTheSiege (@n0fr1ll5) 2025年8月16日
2025/08/15
赤根さん。ご著書も文春新書から出ている。https://t.co/4GHoygg5Er 『戦争犯罪と闘う 国際刑事裁判所は屈しない』
https://t.co/T0RsNLMQH0
— maybe_frills #EndTheSiege (@n0fr1ll5) 2025年8月16日
"今年の6月5日、アメリカが「イスラエルおよびアメリカを標的とした不当かつ根拠のない行動に関与した」としてICCの裁判官4人に対して制裁を行いました。……4人のうち2人は、2020年にアフガニスタン紛争での戦争犯罪の疑惑について捜査開始を承認した裁判官ですが、……続
続……その後ICCの検察局はタリバンの指導者のイスラム国ホラサン州における行為をこの捜査の主たる対象としました。しかし、米国は、米軍・CIA関係者等にも捜査が及ぶのではないかと考えて"
— maybe_frills #EndTheSiege (@n0fr1ll5) 2025年8月16日
うわあ(以下略)
米はこういうことをやりうるなんて言おうものならフクロにされた日々が懐かしい(違)
"ここで問題なのが、制裁対象になった裁判官がウガンダ、ペルー、ベナン、スロベニアの出身で、いずれも女性だということ。ネタニヤフ首相に逮捕状を出した裁判官は3人いたのに、2人だけが対象となり、先進国の男性裁判官は対象とならなかった。これは明らかに選択的で、先進国と他の国の分断を図る…"
— maybe_frills #EndTheSiege (@n0fr1ll5) 2025年8月16日
これを、ICCに手配されているロシアのプーがアラスカでトランプと会談、というニュースと同時に見るわけですよ。プーの前には、ICCに手配されているイスラエルのネタニヤフが堂々と訪米し、という話もある。
— maybe_frills #EndTheSiege (@n0fr1ll5) 2025年8月16日
破壊されているのは何か、ということ。「戦後80年」で。
そうそう、ウガンダといえば、ICCじゃなくてICJの方で、南ア対イスラエルで唯一反対してイスラエル側についていたあの判事(ICJの副所長で、今年初め、当時の所長が自国の首相となるために辞職したので、臨時の所長になったけど、その点は岩澤判事が正式な所長に選出されたので大丈夫は大丈夫)が、法に照らしてではなく、自身の信念に照らして判断していた*1ことがウガンダのメディアのインタビューで判明し、今、Twitterは大騒ぎになっている状態。国際法方面がこれを何ともできないなら、アメリカとイスラエル(とロシア)による破壊に加えて自壊の方向の力も加わるのではないかと。
In a new interview, Julia Sebutinde, the ICJ judge & Christian Zionist who shocked the world by disregarding international law to defend Israel’s genocide in Gaza, said “We are in the end times” & “the lord is counting on me to stand on the side of Israel” https://t.co/39MkITmq2q
— Craig Mokhiber (@CraigMokhiber) 2025年8月14日

