Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

人称代名詞を使わないで書かれた報道記事と、男性名から女性でも使われる名前に改名した銃撃犯

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やることが山積みの状態のまま、腱鞘炎がやばい感じの上に、ずいぶん前に何だかわけのわからない言いがかりをつけられていたことに今頃気づいたので自衛のために反論したらものすごい絡み方をされて(Twitterのリプライの埋め立て……15年ぶり。前にそういう目にあわされたときは、はてなブログじゃなくてはてなダイアリーで何が起きたかを書いたんだけど、リプの埋め立ては攻撃手法のひとつなんですよね)、前の記事のはてブをまだチェックすることもできていなくてすみません。ブクマしてくださった方が忘れたころ(3日後くらい)にチェックすることになると思います。ご海容のほど。

 

で、例によってパレスチナと関係のない話題での英文を読まないと頭がおかしくなるので、関係のないニュースの記事を読んだんですよ。日本で伝えられているかどうかは未チェックですが、米ミネアポリスでの、痛ましい銃撃事件。標的は学校を併設したカトリックの教会。標的は教会の中の子供たち。銃撃犯の窓からの乱射で子供2人が殺され、14人が負傷。

最初にこの銃撃事件に気づいたのは、たまたま見ていたニューズアグリゲーターの画面で "anti-Catholic" という文字列を見たから。こんな文字列がニュースに出てくるのは北アイルランドだろうと思ったらミネアポリスで、頭の中が「?」で満たされた。いわく、警察は銃撃犯は「反カトリック」で、事件はヘイトクライムと考えられるという、といったリード文だったが、それはすぐに訂正されて、「動機は不明」もしくは「動機は複合的」になっていた。

いずれにせよ、何があったのかは確認したかったので、その画面で目についた見出しをクリックしてみた。乱射して子供たちを殺傷してすぐに自分に銃を向けた容疑者は、ロビン某という名前で、代名詞は "he" が使われていた。容疑者の顔写真はまだ公表されていない段階だった。感想は「まだ何もわかってない段階なんだな」というだけで、数時間したらまたニュースチェックしよ、と思って画面を閉じた。

その次に見たのは、スマホに入れてるアイルランドのThe Irish Timesのアプリだ。たまたまアイルランドの政治ニュースに用があったのだが、トップニュースがこのミネアポリスの銃撃事件だったので記事を読んでみた。そしたら、容疑者のロビン某の代名詞が "she" だった。よく見たらアイリッシュ・タイムズの記事ではなく、提携メディアであるNYTの記事だったが、まあそれは些末なことだろう。

web.archive.org

ロビン (Robin) は男性でも女性でもありうる名前である。『ブレードランナー 2049』で主人公の上司を演じていたロビン・ライトは女性だし、『いまを生きる』のロビン・ウィリアムズは男性だ。

名前が「ロビン」で、代名詞が "he" と "she" の両方あるということは、報道機関の間違いでなければ、トランスジェンダーで、例えば「自分では男性と称し、そのように生活しているが、法的には女性」といったことが考えられるな、と思っていたが、何しろ情報がない段階なので考えたってしょうがない。

そしてしばらくしてから、この事件はLive blogで報じていたが、容疑者についてはいつも以上に慎重だったBBCのわりと確定的な記事が出ていた。そして、この記事が、徹底的に代名詞を避けていた。少し見てみよう。下線で示してあるのが銃撃犯に言及している語句である。

Investigators say that the attacker who opened fire on pupils as they were praying at a church in Minneapolis was "obsessed with the idea of killing children".

Robin Westman, who killed two children and injured 18 others, did not seem to have any specific motive, according to Minneapolis Police Chief Brian O'Hara.

The attacker "appeared to hate all of us", the chief said on Thursday, adding: "More than anything, the shooter wanted to kill children".

The murdered children have been identified by family as Fletcher Merkel, eight, and Harper Moyski, 10.

...

Officials have released few details so far about the suspect's background, but say Westman previously attended the church's school and had a mother who had worked there. 

The 23-year-old suspect is believed to have approached the side of the Annunciation Church, which also houses a school, and fired dozens of shots through the windows using three firearms. Police also found a smoke bomb at the scene.

Witnesses have described seeing children bleeding as they fled from the church, begging for help from strangers.

In a news conference on Thursday, acting US Attorney General for Minnesota Joseph Thompson said "the shooter expressed hate towards many groups, including the Jewish community and towards President Trump".

The attacker, who died at the scene of a self-inflicted gunshot wound, left a note, officials said, but they added that a definitive motive may never be known.

"I won't dignify the attacker's words by repeating them, they are horrific and vile," said Mr Thompson. 

...

日本語で書かれた文面を機械的に英語にしたのではないかと思うくらい、徹底的に代名詞を排除して書かれている。むしろ、英語ってこういうふうにも書けるのかとびっくりしたくらいであるが、英語で読んでるとさすがに違和感がある。

そしてこの次のパラグラフで説明がなされる。

Westman's name was legally changed from Robert to Robin in 2020, with the judge writing: "Minor child identifies as a female". However, some federal officials and police have referred to Westman as a man when discussing the attack.

つまり「容疑者ウエストマンの名前は、2020年に法的に変更され、ロバートからロビンになった。この際、判事は『自己を女性と認識している未成年者』と書き記している。しかしながら、一部の連邦政府関係者や警察官は、今回の攻撃について語る際に、ウエストマンを男性として扱っている」。

2025年に23歳なので2020年は未成年だ。そのときに名前を男性名の「ロバート」から、女性名(としても一般に使われる)「ロビン」に変更した。どちらも愛称は「ロブ」のままでいけるから、かなり現実的な選択だったのかもしれない。

そして2025年に彼女が起こした事件について語るときに、一部の警官やFBIが「彼」扱いをしているというのがどういうことなのか。私はアメリカのことはろくに見てないのではっきりとはわからないし調べるのもだるいのではっきりわからないまま書くが、2025年1月にドナルド・トランプ政権が発足して真っ先にやったトランスジェンダーやクイアの権利の剥奪に関連しているのかもしれない。

BBC記事のこのあとの部分: 

Chief O'Hara told reporters that news outlets should stop using the killer's name, because "the purpose of the shooter's actions was to obtain notoriety".

He added that she, "like so many other mass shooters that we have seen in this country too often and around the world, had some deranged fascination with previous mass shootings".

Chief O'Haraは上の方でBrian O’Haraとフルネームで言及されており、男性である。したがって、太字にした "He" は警察のオハラさんのことだ。

そしてそのオハラさんの発言内容を報じる文が、少し不自然にも見える形で、引用符で全文をそのまま転記するようなスタイルではなく、地の文としてthat節を使う形で主語だけ引用符の外に出して、書かれている。それが、容疑者についてようやく出てきた人称代名詞の "she" だ。ということは、オハラさんは容疑者について "she" とは言わなかったということだろう。単に "the suspect" と言ったのかもしれないし、"Westman" と名前で言及したのかもしれない。あるいは "he" を使ったのかもしれない。わからない。

 

というわけで、「北アイルランドでもないのに、『反カトリック』の攻撃だなんて、嫌な話だ」というのが入口だった陰惨な事件は、もっと別な方向で陰惨な展開を見せた。実際に、この1つの事件を以て「ほらみたことか、トランスジェンダーの連中は狂暴なんだよ」とわめきたてている自称フェミニストがいるらしい。気が重い。

そして何よりも、身勝手な人物の一方的暴力で命を奪われた2人の子供たちがかわいそうでならない。けがをした子供たちや、体は大丈夫でも精神的に傷を負った子供たちには、時間はかかるだろうけれど、着実な回復の道を歩んでほしいと思う。

この人物の背景には興味はないし、この人物が使った武器(例によってアソルトライフルを含む銃を3丁も使ったらしい。それも合法的に入手したものを)に関しては、もう、外国人は関心を持つだけ無駄だと私個人は思っているので、記事も流し読みするだけだ。

ただこの容疑者、個人的に非常に迷惑だなと思うこともしてくれている。

FBI Director Kash Patel has described the attack as "an act of domestic terrorism motivated by a hate-filled ideology".

In a post on X, Patel said that the attacker "left multiple anti-Catholic, anti-religious references" written on guns and in notes uncovered by investigators.

"Subject expressed hatred and violence toward Jewish people, writing Israel must fall,' 'Free Palestine,' and using explicit language related to the Holocaust," he wrote.

The killer also "wrote an explicit call for violence against President Trump on a firearm magazine".

パレスチナではガザが武力で制圧どころか抹消されようとしていて、ガザにいるカトリックの人々、正教の人々も、生命の危機に瀕している。個人の生命だけでなく、ずっとそこにあったクリスチャンのコミュニティ自体が抹消されようとしている。それに抵抗している。カトリックの人々がパレスチナの解放を訴えている。そういうときに「反カトリック」を標榜し無差別暴力を子供に加える人物が「パレスチナ解放」と口にする。その害悪たるや。つか、うちら、自分たちの側にこういうのがいることは事実として認識しないとだめですよ。

 

下記は、先日イスラエルに爆撃されたカトリック教会の前に集うカトリックの人々。ガザを立ち去ることはしないという。

「反カトリック」の思想で、ガザを支持・支援することはできない。

 

ちなみに、最初にアグリゲーター経由で見た "he" を使っていた記事だが、履歴を頼りに探してみると、NDTVという媒体の記事だった。普段は見ない媒体で、どの国のものかもはっきりとはわからなかったが、調べてみるとインドである。私が見た "he" を連打したような記事はサイト検索してももう見つからず、あったのはこの記事で、"he" を使うことに正当性があると主張しているような記事だ。

The man who opened fire on students and worshippers at a Catholic School in Minneapolis on Wednesday had previously shared the details of what he wanted to wear for "my shooting".

"I don't want to dress girly all the time, but I guess sometimes I really like it. I know I am not a woman, but I definitely don't feel like a man ... I really like my outfit," revealed a translation of parts of Robin Westman's notebooks, mostly written in Cyrillic.

これをそのまま読めば、この人物を単に "she" で表すことは難しいと報道機関の記事を書いた人が判断したということだろう。名前の「ロビン」も性別関係なく用いられる名前だ。そういうときの代名詞は、今のお約束では単数でも3人称ならtheyを使うということになっているのだが、ここではそのルールに従ってもいない。

というか「ロビン」が「女性」だったというのの根拠は、2020年にロバートからロビンに改名したときの判事の言葉(上述のBBC記事より、'with the judge writing: "Minor child identifies as a female".')だけなのだろうか。

この銃撃犯のことは個人的にまったくどうでもいいのだが(いずれまた、例の90年代の高校銃乱射事件の犯人みたいに一部で神格化されるんだろうなとは思う)、英語の実例として、ここまで「これはどうなの?」と思わされる記事もまずない。

 

最後に資料として、アイリッシュ・タイムズに掲載されているNYTの記事の一部。下線を補ったのがこの銃撃犯をさす名詞・代名詞。ちなみに記事の後の方で "Federal officials referred to Westman as transgender." と書かれてはいる。

https://web.archive.org/web/20250828072319/https://www.irishtimes.com/world/us/2025/08/28/robin-westman-minneapolis-school-shooting-suspect-posted-videos-fixated-on-guns-and-violence/

https://web.archive.org/web/20250828072319/https://www.irishtimes.com/world/us/2025/08/28/robin-westman-minneapolis-school-shooting-suspect-posted-videos-fixated-on-guns-and-violence/

本人が「自分の代名詞はshe/herです」と明示していたのなら、英文としてこれで何も問題はない。だが、 "I know I am not a woman, but I definitely don't feel like a man" という人が、自分のことをshe/herで扱ってほしいと言うだろうか、という疑問がある。以前はそう言っていたけれど、今はそうではないということも考えられるが。

 

そして単に英文として、NYTのこの "she" 連呼と、上で見たBBCの違和感のあるほど代名詞を使わない文体と見比べると、ちょっと怖い。自分が当たり前だと思っていた報道の文体はNYTのもので、BBCのに違和感がある。でもきっとファクトに忠実なのはBBCのほうだ。

英語ってこういう性質、NYTの文体が自然に見えて、するっと読めてしまうような性質の言語だ……。ファクトと「読みやすさ」は関係ない。

英語に限らず、三人称の代名詞で執拗に性別を言う言語はきっとどれもそう。代名詞だけでなく名詞も性別をつける言語も多いが(英語はactor, actressなど一部の語だけだが、フランス語は例えば "Je suis étudiant." と"Je suis étudiante." と語の形が変わるし、名詞が変われば形容詞も変わる)、それを思うだけで気が遠くなる。この点は、私は心底「日本に生まれてよかった(日本語が母語でよかった)」と思っている。

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