Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

ジェノサイドが実況され続けてくるガザ地区から届いた仮定法過去完了の例文

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"You'd be in prison if it weren't for me." という例文を取り上げた昨日のエントリ、はてブで上位に表示されていた影響もあり、閲覧数が多くなっている。ブコメも多くいただいており、その中に英語の「仮定法」についてのものが少なくない。私は元々「仮定法ハンター」と異名を取る(取ってない)ほどの例文収集家だが、おかげさまでそれに輪をかけるようにして目が「仮定法」に最適化されてしまった。もはや仮定法スポッターである。

そんな今日のことだ。いつものようにガザ地区から直送されてくる英語の投稿の中に、「それ」はあった。投稿の主は、非常に厳しい状況にあるガザ地区北部でテントを拠点に無料診療所を開設し、自宅を失った人々に医療を提供しているエジディーン医師。2023年10月7日の直前に、留学先から戻ったばかりの若い医師で、これからばりばり働くぞと意気込んでいたところ、すべてを奪われたのだが、そこで折れずに無料診療所を立ち上げて組織化し、現在はHOPEという名称のNGOとしていて、内科や外科、皮膚科といった部門にとどまらず、歯科診療所も設けているし、遠隔診療も手掛けている。運営費は世界から集まった寄付金なので、お志がおありの方はNGOのサイトからご寄付いただきたい。

彼の英文は、エドワード・サイードが指摘していた「外国語として英語を学んだアラビア語母語話者のクセの強い英語」なのかもしれないが、独特のうねりがある。読んでるとぐるんぐるん回される感覚になる。なので体力が弱っているときは読めなかったりもするのだが、読む価値は十二分にあるので、英語が読める方はアクセスしてみていただきたい。

https://x.com/ezzingaza/

また、彼のツイートは、かなりきれいに編集された形だが(うねりが抑えられている。いいシャンプーを使った日のくせ毛のように)、1冊の本にまとめられている。電子書籍で手軽に買えるので、ぜひ読んでみていただきたい。

 

さて、今日見つけた「それ」はこれである。

https://x.com/ezzingaza/status/2061901968281641073

スクショ内の3パラグラフ目: 

Had our timing been slightly different, had we stopped for a few extra minutes, had we taken another route, perhaps this post would never have been written.

《ifの省略》によって《倒置》が生じた《仮定法過去完了》の文である。省略と倒置のない形にすると: 

If our timing had been slightly different, if we had stopped for a few extra minutes, if we had taken another route, perhaps this post would never have been written.

住んでいる場所のすぐ近くに空爆があり、2人が殺され、12人が負傷させられた、という報告に続き、「自分たちもその場所にいることがある」と述べたあと、「ほんの少しだけタイミングがずれていたら、あと何分かその場所にい続けていたとしたら、別な通り道を通っていたら」と仮定し、「この投稿は書かれることはなかったかもしれない」と結んでいる。

ここで「私は死んでいたかもしれない」とか「それは私だったかもしれない」とかではなく、「この投稿は書かれることはなかったかもしれない」。この書きかた、この視点、この《読者》との関係性への間接的言及――イスラエルによって標的とされて殺害されたジャーナリストのアカウントから、没後12時間後くらいに流れてくる「この投稿をあなたがご覧になっているとしたら、それは私が死んでいることを意味します」といった、タイマーでセットされた投稿を連想させる――、これがエジディーン医師の英文の特徴だ。何気ない一言が、読者の心をゆさぶる。それが連鎖していく。

かなりとんでもない書き手である。

この日の投稿全文を読めば、それがわかるだろう*1

例文として検討した仮定法のところ以外にも、英文法・英語表現上のポイントはたくさん入っているので、ぜひ全文をお読みいただければと思う。

そして、ガザからの叫びに耳を傾けていただければ、と。「翻訳フィルター」なしで。

 

 

*1:これも仮定法で表せるな……。

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