スマートフォンを使うようになってからずっと、ロックを解除して最初に目に入るところには、BBC Newsのアプリを置いてあった*1。一応「イギリス好き」だし、「さて、ニュースをチェックするかー」って思ったときにぱっとアクセスできるようにしてあるのが、BBC Newsだったのである。

さっきそれを解除した。BBC Newsに呆れかえる局面を通り越して、不快感を抱くようになったからである。BBCの美しいロゴは自分の日常生活の一部と思えるほどに好きだったのだが、もうなるべく視界に入れたくない。
現在、この位置には(いったんReutersを置いたんだけどそれを取りやめて)アルジャジーラ・イングリッシュ (AJE) が鎮座している*2。

なぜこんなにBBCへの気持ちが変わったのか。すでにガザ・ジェノサイドで気持ちは離れていたが*3、記事を見るたびに「批判的な私」としてふるまうのも嫌になるほど気持ちが離れてしまったのは、BBC Newsの耐え難い幼稚性のせいである。
この「幼稚性」とは何か。
■目次■
「子供が(異様に)喜ぶ」類の「汚い」言葉
(この「子供が」からは一般的女児が排除されているので、「子供が喜ぶ」云々は普段は私は使わない表現なのだが、ここでは使う。)
日本で、子供向けとして大ヒットを飛ばしている学習ドリルに、「うんこドリル」というシリーズがある。いちいち排泄物が出てくるドリルだ。算数では従来「りんご」や「みかん」だったところが「うんこ」になり、漢字の書き取りでは「山に登る」の「登る」を書かせる問題の短文が「うんこをしてから山に登りましょう」みたいになるなど、いちいち「うんこ」ネタになっている。これについて、中の人たちは「大人があまり積極的に近づかない傾向のある……言葉ですが、子どもたちにとっては口にするだけで楽しくなってしまう魔法の言葉です」として子供にとって勉強を楽しいものにするための仕掛けであると開き直っているし、実際に売れているのだが、これが耐え難く幼稚であるということは同意していただけるかと思う*4。
この幼稚な用法での「うんこ」という言葉に英語圏で相当すると思われるのが、いわゆる「Fワード」だ。「ちょっと待て、それは卑語、性的な下ネタだ、『うんこ』のような無邪気なものとは違う」と言いたくなる人もいるだろうが、幼稚性という点で考えていただきたい*5。
「Fワード」は、それを意味のある、生きた言葉として使っている本人は、本当に怒っていたりいらだっていたりする。感情をともなった表現だ。普段使いの日本語の「クソ忙しい」「クソガキ」などの「クソ」も同様である。その表明、その発露としての発話は、尊重すべきだ。しかし、「誰それが『Fワード』を使った~~!」っつって騒ぐ外野の連中は、「うんこ」という言葉に喜んでいる小学生みたいなもの。「言うべきではない言葉」をある意味で神格化しているだけだ。
私がそれを痛感したのは、2011年3月11日の東日本大震災のときに福島第一原発で爆発があり、周囲の町や村がもう戻れない町や村になるだろうし、ひょっとしたら東京もやばいんでは、ということで英語圏報道が「惨事を眺める野次馬」の目線になったときのことだ。さすがに大手報道機関ではどこもネタにもしていなかったと思うが(タブロイドでも)、Twitterには「福島」のアルファベット表記 (Fukで始まる) をネタにしたくだらない発言が次から次へと出てきていた。言語的には確かに、気持ちはわからんでもなかったので「まあ、字面的に無理もないからねえ」と淡々とスルーしていたのだが、さすがに何か月も経過してもまだやってる奴がいるのには閉口するどころか怒りを覚えて、「津波で何万人もが落命し、原発事故では実際に家を失っている人がいるときに、いつまで子供じみたことで喜んでるんだ」と直接カチコミかけたことは一度ではない。
あのとき、たぶん誰も「災害(人災)が起きた地を貶めてやろう」といった悪意はなく、単に字面としておもしろがっていただけだが、実際に深刻なことが起きているときに、外国語の単語(それも固有名詞)が自分の言語の卑語に似ているといって騒ぎ、その卑語と起きている深刻な事態とを結びつけてみせて「うまいこと言った」ような気になっているというのを、延々と何か月も見せられ続けることには、限界があった。
閑話休題。
……を使って喜んでいる米大統領
さて、そのような言葉である「Fワード」を、特に公共の発言の場で、広く一般に公開されることを前提として使うことを「F爆弾を落とす to drop the F-bomb」と言う。「F爆弾 F-bomb」は「原爆 A-bomb」や「水爆 H-bomb」にならった言い回しで、これを紹介するだけで最近の繊細な「唯一の被爆国」性に自己同一化している人々がクソ騒がしくなるかもしれないと私は内心、モブの恐怖におののいているが、そういう表現が英語圏にあることはこちらがクソ忌々しく思っていてもどうすることもできないので、それはそういう事実として淡々と受け止めるよりない。鉄板焼きが「ヒバチ」呼ばわりされていることは、日本語話者にはどうすることもできない単なる事実である。
「F爆弾を落とす」のは、ミュージシャンや俳優などが(多くの場合はある程度計算して)インタビューなどでよくやるのだが(そしてその発言の意味や話者の意図には関係なく、単にその「Fワード」だけが隠蔽されるべきものという扱いを受けるので、オンエアされる映像ではいちいち「ピー」「ピー」音が入っていて、その音を聞いて視聴者が喜ぶ)、普通に「知的」とみなされることが仕事の一部であるような人は、自分の家を一歩出たら、まずやらない。これが英語を使う社会のnormである。
しかし、そのnormをさげすみ、「ぼくちゃんってこんなこともやっちゃうんだよねー」的な言動で世間を「お騒がせ」するタイプの人というのもいる。2024年11月に次の大統領を選ぶ選挙で米国の有権者が、一度目の大統領時代にアメリカをめちゃくちゃに引っ掻き回したにもかかわらず、米国全体で数えて200万票の差をつけて選出したのが、そういうタイプの御仁である。
そしてその人物が、なんかいきなり攻撃していきなり国のシンボル的な位置にいる人(最高指導者)を爆殺したことで勝手に開始した「戦争」をどう扱ったらいいかわかんなくなって、口から出まかせの「もう勝った」を(濡れ手に粟で「儲かった」と言える身内を見守りながら)連発した挙句、「F爆弾を落とした」わけだ(「F爆弾」だけでなく、ほかにもとんでもないことをいろいろわめいているが)。
本人の発言をなるべく視界に入れないようにしている私の画面には、嘆きの声を伴ったスクショ画像として流れてきた。
This is an actual post. This is not funny. This is beyond desperate. This is a deeply unwell man who doesn’t belong anywhere near the levers of power. Every member of his cabinet and Congress is complicit in not demanding his removal now. pic.twitter.com/kNM0GI4SCo
— Steven Beschloss (@StevenBeschloss) 2026年4月5日
ジャーナリストで文筆家で大学で教えてもいるSteven Beschlossさんはこのように、「(これは合成などではなく)本当にこういう投稿をしている。(ギャグのつもりかもしれないが)まったく笑えない。絶望的と言うのでは言い足りない。これは、本来、権力のレバーの近くになど一切居場所のないはずの、深いところまで不健康な人物である。閣僚たちのひとりひとり、議員たちのひとりひとりが、この期に及んでなおこの人物の退陣を求めないことにおいて、事態に加担している」と述べている。大統領の英語よりよほど格調が高く、立派な英語である(こういうのを日常的に読まないと英語力つかない。できれば自分でも書けるようにしたほうがいいんだけど……)。
歴史家のウィリアム・ダルリンプルさんはもっと端的に言いたいことを言っている。「1ミリの余地もなく、恥ずかしい」。
A complete embarrassment pic.twitter.com/iOiGrn87xV
— William Dalrymple (@DalrympleWill) 2026年4月5日
バーニー・サンダース上院議員の発言も流れてきた。「イランにおける戦争を開始して1か月後、イースター・サンデー当日のアメリカ合衆国大統領の発言がこれである。これは、危険で、精神的均衡を失っている個人が何かわめいているだけの発言だ。議会は即座に動かねばならない。この戦争を止めよ」。
One month after starting the war in Iran, this is the statement of the President of the United States on Easter Sunday.
— Bernie Sanders (@BernieSanders) 2026年4月5日
These are the ravings of a dangerous and mentally unbalanced individual. Congress has got to act NOW. End this war. pic.twitter.com/TTBArqTTyE
「戦争を止めよ」より、「退陣させろ」だよ。イラン攻撃が止まったところで、次に何やるかわかんないわけで。
また、外交政策に関する分野の専門家であるRula Jebrealさんは、モハンメド・エルバラダイ元IAEA事務局長の発言を、エルバラダイがノーベル平和賞受賞者であることを強調しつつ引用して紹介し、「トランプは米国を貶め、その名声を破壊した。この先何世代もがその影響を被る。この損害は挽回不能かもしれない」と述べている。ちなみにエルバラダイの発言は国際社会に向けて「この狂人が、この地域を火の玉にしてしまう前に、頼むから、ご自身にできることはすべてやっていただきたい」というもの。
Nobel Peace Prize winner and former IAEA Director General Mohamed @ElBaradei has urged the international community to stop President Trump: “Please, do everything in your power before this madman turns the region into a fireball.”
— Rula Jebreal (@rulajebreal) 2026年4月5日
Trump has debased the US and wrecked its… https://t.co/9yr8ntMz7A pic.twitter.com/RUTolxX1lV
各投稿にエンベッドされてはいるが、閲覧できなくなった場合に備えて、一応、スクショもアップしておく。

隅から隅までおかしな発言しかないのだが、「F爆弾」と "b**t**ds" 呼ばわりのコンボからは、「わかってやってる」ことが明白であろう。
こんなのをイースターに投稿するということの異常性を言う意見もあるが、「異常」というより「キリスト教への無関心」っぷりを示しているのがすごい。自分の票田でしょうに。うちの地元の国会議員だって、歴代、商店街(票田)でイベントやるときは丁寧に挨拶してるよ(買い物なんかはしたことないかもしれないけど)。
……をもてはやしている英BBC News
で、これくらいだったら「またか……」と思って批判者の発言をメモする目的でリツイするだけでスルーしてたのだが(実際、アメリカに関心があるわけでもない私が、この人物のために1秒だって自分の時間を使うのはばかばかしい)、当該発言の翌日*6、いつものようにBBC Newsをチェックしてみると、まだ「Fボム」で盛り上がってる。それも2か所もある。

右半分は少し下にスクロールダウンしたところのスクリーンショット
"expletive" というのが「Fボム」などの罵倒表現や卑語を言う単語*7。それが「たっぷり入ったトランプの脅しの言葉」について、BBC Newsはきゃっきゃしているわけだ。
これは完全に、「ボーイズ・クラブ」。エリートが内輪ウケしているのだ。
しかもBBC Newsは、何かの拍子で表示されたスプラッシュの画面で見たのだが、「アメリカは変化しつつある America is changing」というコンセプトを報道の中心に据えている。これも婉曲表現で、「トランプのアメリカ」の恒久化を主張していのだろう。あるいはそれへの願望かもしれない。その根底には、「英国も変わらなきゃ」があるはずで、それはつまり「保守党もだめ、労働党もだめ、これからはファラージ」という既定路線があるのだと思う。
というわけで、「もういいや」と思ったのである。
BBC Newsのアプリを削除するとニュース速報が入ってこなくなるので削除はせず、ショートカットだけ消して、この位置にはアルジャジーラ・イングリッシュを置くことにした。これはこれでまたアレだし、何よりアプリの反応が遅くてイライラするんだけど、しばらくこれでやってみる。
ちなみに、トランプの「F爆弾」については、ロイターは(発言当日はどうだったかわからないが翌日には)完全に「相手にしない」モードになっている。報道機関ってのはこうであるべきだろう。

スマホどころか、インターネットを自分の好きなように使えるようになって最初にアクセスしたのが、BBC News(とガーディアン)のサイトだった。1998年の夏前だったはずなので28年になる。以来、ほぼ1日も欠かさずにアクセスしてきた。スマホでは、ロックを解除するたびにBBC Newsをチェックしていた。
その習慣を捨てることに、今、ためらいはない。もう、この下品さ、下品さの常態化にはうんざりだ。
ちなみにドナルド・トランプの評価は……

半分本当だから困る(「天才」と思ってる人はたぶんいないが「ブッシュってまともだったんだな」って言ってる人はいっぱいいる。ジョー・バイデンと比べてもずいぶんまともだったよ。かっこつけのオバマはどうなのかわからない)。
あとこれ。「無能で、不適格/不健康で、精神疾患のあるナルシシストの大人の皮をかぶった子供」。メフディ・ハサンさんはこういう人物が大統領になったことについて、「選挙報道でメディアが『どちらの言い分も平等に』ということをやったから」と指摘している。その通りだと思う。
This is what happens when 77 million people take leave of their senses and put a manifestly unqualified, unfit, mentally ill narcissistic man-child in charge of the country and the world's most powerful. military. This is what happens when the media 'bothsides' election coverage. https://t.co/s9yTs3sjjw
— Mehdi Hasan (@mehdirhasan) 2026年4月5日
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※この本、おもしろいけど、なんでこんなプレ値ついてんの? 公共図書館にあるよ。私はもちろん持ってる。
*1:どうでもいいことだが、2段目は無印やダイソーなど買い物系のアプリや電子書籍のアプリとSNS、3段目は電卓やマイクブロッカー、辞書など実用系を中心に並べてある。以上、全部はあけっぴろげにしないけれど概要は開示しておくので、ネットストーカーは詮索しなくていいよ。
*2:ちなみに、アルジャジーラのアラビア語版と英語版は成り立ちが別で、AJEが2006年11月に発足した際に報道の現場で番組作りをしていたジャーナリストたちの多くは、BBCなど英大手メディアから引き抜かれた調査報道等のジャーナリストだ。
*3:なお、ガザ・ジェノサイドでは、自分の価値観の一部を担っていたと言っても過言ではな英ガーディアンを、2023年10月の段階で消している。アプリ削除はもちろん、ブラウザのクイックアクセスからも消したのは、あのメディアがシオニストであるばかりか、ジェノサイド否認のプロパガンダ機関だからである――ガーディアンがシオニストであることはずっと知っていたし、そのうえで「多様な意見」の場として反シオニズムの発言も多く掲載していることや、記者ひとりひとりは必ずしもシオニズムの言説・ナラティヴの担い手ではないということはわかっていたし、それをレスペクトしていたんだが、ジェノサイド否認のナラティヴ(「自衛権を有するパレスチナなど存在しない」という《物語》を含む)で、愛想が尽きたというより嫌悪感をおぼえるようになった。
*4:子供にとっては1回きりだろうし、長じれば「黒歴史」化するのだろうが、立場上、毎年毎年こんなので教えさせられるという苦痛にさらされている人もいるだろう――教材持ち込み式の学習塾の講師や、自宅学習なら親や兄・姉――と考えると、泣けてくる。精神的ダメージは地味に深いよ、これ。男児が大学生の女性に汚い言葉を言わせて楽しくなるといったやばい方向にも行くし。
*5:むしろ「うんこ」のほうがずっと幼稚で恥ずかしいという議論は成り立つかもしれないが、そんな議論してる暇があったら猫動画でも見てた方が生産的だ。
*6:時差があるので24時間経っていたかどうかはわからない。
*7:expletiveという英単語は、字義通りに訳すと「付加的な」で、「言いたいことはすでに十分に言えているのに付加される意味のない言葉」の意味だが、これ自体が婉曲すぎて意味がわからないあたり、いかにも英語らしいと思う。罵倒語などのほかに、形式主語など意味はないけど構文を作るために必要な語についてもexpletiveという。