今回の実例も前回と同じトピックで、ただし個人のツイートではなく報道記事から。
アフガニスタンで中村哲さんの車が何者かに銃撃されて、車の中の人たちが殺されてしまったことは、世界中で報じられた。そのことはすでに日本語でも「世界が悼む」調で報じられているが、英語圏のトーンは「中村さんが殺された」ことを強調しつつ、そこだけに話を持っていっていない。「全部で6人が殺された」ことを見出しで大きく取り上げているものが多い。「1人の日本人と、5人のアフガニスタン人」という語り方だ。
それは単に英語圏のメディアが日本でもアフガニスタンでもないからで、殺害されたのが、例えば1人の英国人と5人のアフガニスタン人だった場合は英国のメディアはその「1人の英国人」を中心に据えるだろう。
だから今回、日本のメディアが「中村哲さんが殺された」ことにスポットライトを当てて「ほかに5人が死んだ」ということは、今のところほとんど書き添えるような形でしか言及していないとしても、それ自体は特に例外的なことではない。
その上であえて書くが、私はこの悲報にショックを受けているときに英語圏の報道記事の見出しを見て、何というか、距離を取ることができたように感じている。
というわけで今回の実例は、そういった英語圏の報道記事のひとつから。
記事はこちら:
リード文がこの内容というのはこの際どうでもいいことで(こういうときに、当該国の政治トップの発言をメディアが大きく取り上げるのは、形式的なことだからね)、まずは見どころは見出しだ。直訳すれば、「日本の支援組織の長が、アフガニスタンでの攻撃で死亡した6人の中にいる」。
記事自体は淡々と事実を述べるもので、報道記事としては平易な英語で書かれており、高校の英語教科書で中村さんの活動について書いてあった章とあまり変わらない程度の難易度なので(単語は少し難しいかもしれないので辞書は必須)、ぜひ、ご自身で全文をお読みいただきたいと思う。
今回実例として見るのは、記事を少し読み進めていったところから。
キャプチャ画像では最初のところが少し切れてしまっているのだが、こういう文である:
Hundreds of Afghans posted photographs of Nakamura on their social media pages, condemning the killing and underscoring the esteem in which he was held.
太字にした部分は《分詞構文》。「何百人ものアフガニスタン人がソーシャルメディアのページに中村さんの写真を投稿し、殺害を非難し、彼に対する敬意を強調していた」という意味。
実際、Twitterを使っているアフガニスタンの人たちがこの悲報にどう反応していたかは、下記にごく一部だが、記録してある。みな口々に中村さんを讃え、中村さんの活動に感謝し、彼を守れなかったことを詫びている。
この次の文もまた分詞構文だ:
The gunmen fled the scene and police have launched a search operation to arrest them, Sohrab Qaderi, a member of the governing council in the province of Nangarhar, told Reuters, adding that he believed Nakamura had been targeted for his work.
長くてコンマがやたらと多くて読みづらいと感じる人もいるかもしれないが、コンマはこういう長い文の文構造を把握するためには非常によい手掛かりとなるので軽視はできない。
この文を長くしているのは "Sohrab Qaderi, a member of the governing council in the province of Nangarhar," で(これは《同格》の表現)、そこをMr Qaderiに置き換えるだけでもずいぶんスッキリする(下記の下線部)。
The gunmen fled the scene and police have launched a search operation to arrest them, Mr Qaderi told Reuters, adding that he believed Nakamura had been targeted for his work.
これをさらに普通の語順に直すと:
Mr Qaderi told Reuters (that) the gunmen fled the scene and (that) police have launched a search operation to arrest them, adding that he believed Nakamura had been targeted for his work.
こうすれば、この分詞構文の "adding" をどうとらえたらよいか、はっきり見えるだろう。つまり "Mr Qaderi told Reuters ..., adding that ..." という構造だ。
文意は「カデリ氏はロイターに対し、銃撃犯は現場から逃走し、警察が彼らを逮捕するために捜索作戦を開始した、と述べ、中村さんは彼の仕事のために標的にされたと考えている、と付け加えた」ということになる。つまり主文ではカデリ氏が事実を淡々と述べた個所を紹介し、分詞構文のところでカデリ氏が考え・意見を述べているところを紹介している。報道記事のオーソドックスな書き方である。
そしてキャプチャ画像の最後の部分の文:
Among those killed in the attack on Wednesday were the doctor’s bodyguards, a driver and a passenger, a hospital spokesman said.
これは《倒置》の文である。倒置しないと次のようになる。
The doctor’s bodyguards, a driver and a passenger were among those killed in the attack on Wednesday, a hospital spokesman said.
ちょっと読みづらい。だから倒置されているわけだ。
この文に含まれている "those killed" は、killedという過去分詞は形容詞的に働いており、《those + 形容詞》の形と構造的には同じである。この場合、thoseと形容詞の間に「関係代名詞+be動詞」を補って考える。つまり "those killed" は "those who were killed" の意味で「殺された人々」。
直訳すれば、「中村医師のボディガードたちと運転手、車に同乗していた人*1が、水曜日の攻撃で殺された人々の中にいると病院のスポークスマンは述べた」。
見出しでも使われているし、この記事の他の部分にも出てくるのだが、このamongの使い方も覚えておきたい。「~に含まれる」、「~の一例だ」といった意味を表す。
He is among the most famous Japanese writers in Europe.
(彼は、欧州で最も有名な日本の作家のひとりである)
今回のガーディアンの記事は、あまり長くないのだが、2008年にアフガニスタンで殺害された同じペシャワール会の伊藤和也さんにも言及し、また中村哲医師の殺害の少し前に起きたアメリカ人国連ワーカーに対する襲撃のことにも末尾で触れている。中村さんの事件はアフガニスタンの東の端で起きたが、国連ワーカーに対する攻撃はカブールで起きている。そのときの記事:
ガーディアン記事を締めくくっているのは、カブールで月曜日に、情報機関職員が銃撃されて2人が死亡し3人が負傷したという事件についての短い記述だ。この事件も、中村さん殺害と同じように誰も犯行声明を出してはいないというが、明らかに、平和を望んでいない、平和を望ましいものと考えていない人々がいて、そういう人たちがこういう形の暴力を展開している(そしてそれは、アフガニスタン人とは限らない)。
#Afghanistan ジャララバードでの中村哲医師の追悼集会の様子。「あなたはアフガニスタン人として生き、アフガニスタン人として死んだ。あなたをお守りすることができず、申し訳ありませんでした。日本に対しても、申し訳ないです」と英語で書かれたバナー。 Picture via https://t.co/nifl91i2K3 pic.twitter.com/E4rZ2UzBuJ
— nofrills/共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) 2019年12月4日
運転手やボディーガードをしていたアフガニスタンの人々は、中村さんを守ろうとして殺された。責めるべきは彼らではない。中村さんを守れなかった人々ではない。中村さんと、彼を警護している人々に対する銃撃を行った連中である。
今日みた記事を書いたPeter Beaumontは、紛争・戦争が専門の記者。この分野に関心がある人はフォローしておいて損はないジャーナリストである。

The Secret Life of War: Journeys Through Modern Conflict
- 作者:Peter Beaumont
- 出版社/メーカー: Harvill Secker
- 発売日: 2009/05/07
- メディア: ハードカバー