ドナルド・トランプの大変に下品な言葉遣いでのネタニヤフ罵倒を取り上げたエントリで、「追記」としてネタニヤフからの反応(とされるもの)を書き添えた際に、たまたま、レバノンにおいてイスラエルが国際人道法などガン無視して行い続けている蛮行に尊い命を奪われた若い女性のことに言及したら、ブコメでそれに反応をいただいた。
私自身は、残念なことに、こういう話にもう慣れてしまっていていちいち反応しないところまで来ているが、普通に考えれば、下品な言葉遣いなどはどうでもいいので*1、そんな時間があるのならばこういう話を取り上げなければならないのだろう。
■目次■
レバノン南部、ある女子大学生とその家族の爆殺
トランプとネタニヤフの電話会談のあとで、イスラエルがレバノン南部で行った攻撃で、若い女性が殺された。巻き込まれたのではなく、彼女が乗っていた車が標的とされて爆殺された。彼女が標的だったのか同乗者か、あるいは何か別な事情なのかは私にはわからない。彼女の死は、もはや報道機関のニュースフィードに乗ることもない、あまたの死/戦争犯罪のひとつに過ぎない。
Israel executed Theodosia today in Qlayaa, South Lebanon.
— sarah (@sahouraxo) 2026年6月1日
She was on her way to take her exams.
Israel dropped a bomb on her car, killing her and her parents. pic.twitter.com/bRyvKea9CF
殺された人はテオドシア(セオドシア)さんという女性で、髪の毛を覆っていない自撮り写真がある。何かを確認するまでもなく、キリスト教徒と考えられる。
殺害が行われたのはレバノン南部のクラヤア。と、ウェブ検索してみるとウィキペディア記事が出てきて、マロン派(マロナイト)の人々が暮らす街であることがわかる。
※上記のサラさんの投稿の時点ではまだ初期段階の情報錯綜があったのだろうと思われるが、のちに細部は修正されている。
Twitter/Xを使ってより詳しく調べる
「なぜキリスト教徒の村が攻撃されているのか」を調べようとしても一般人のウェブ検索ではどうにもならないかもしれないが(そもそもレバノンにおいてキリスト教徒も攻撃されているということもあまり報じられていない。今イスラエルがレバノンに対してやってることが「ヒズボラに対する戦争だ」と思い込んでる人には想像もつかないことだろう)、彼女について知りたければ、Twitter/Xだけでもある程度は調べられる。Twitter/Xは自動翻訳が導入されていて言葉の壁はとっぱらわれてるんだから、問題は、手を動かすに足りるほどの関心があるかないかだけだ。
https://x.com/search?q=Theodosia&src=typed_query&f=top
↑この検索結果で彼女のフルネームがわかるので、精度を高めるためにフルネームで検索するのが常道。
https://x.com/search?q=Theodosia%20Karam&src=typed_query
※今、Twitter/Xの検索は何かが変わったようでめちゃくちゃになっているが、少なくとも私が検索したときには、Theodosia Karamさんのお名前での検索は普通にできている。
現地英語メディアのフィード
彼女の殺害について、より詳しいことがわかるフィードを拾っておこう。まず、現地メディアAl Mayadeenの英語版のフィード。このメディアはヒズボラと関係が深いのだが、それを念頭に置いて見る分には大丈夫だ*2。
While returning from university, the vehicle of Theodosia Karam from the town of Qlayaa was targeted by the Israeli occupation, resulting in her martyrdom along with her father, physician James Karam, and her brother Tony, in a drone strike on the Nabatieh–Khardali road, South… pic.twitter.com/GbHcNIYnZa
— Al Mayadeen English (@MayadeenEnglish) 2026年6月2日
全文:
While returning from university, the vehicle of Theodosia Karam from the town of Qlayaa was targeted by the Israeli occupation, resulting in her martyrdom along with her father, physician James Karam, and her brother Tony, in a drone strike on the Nabatieh–Khardali road, South Lebanon, on June 1.
This is one of many attacks "Israel" carried out recently, deliberately targeting civilians in Lebanon, killing women and children.
Just this morning, Lebanon's Civil Defense announced that six martyrs and three injured were recovered from under the rubble of a building targeted by "Israel" in South Lebanon.
英文法解説
※「人の不幸を伝える文を素材にするのは不謹慎」と怒る人がいるかもしれないが、本エントリははてブでの反応を受けて「レバノンでの民間人爆殺」の事案をより詳しく知るためにはどうするかということを書くのが目的であり、なおかつ当ブログは英文法のブログなので英文法解説をやる。
第1文:
While returning from university, the vehicle of Theodosia Karam from the town of Qlayaa was targeted by the Israeli occupation, resulting in her martyrdom along with her father, physician James Karam, and her brother Tony, in a drone strike on the Nabatieh–Khardali road, South Lebanon, on June 1.
書き出し、 "While returning from university" は「大学からの帰途」の意味。whileは《接続詞》でこの部分は《接続詞+現在分詞》の形の《分詞構文》と考えられる*3。
そのあと、太字にした "resulting" までの部分が主文で、 "resulting" は現在分詞で《分詞構文》。
言っていることは、
- 6月1日、テオドニア・カラムさんを乗せた車が、大学からの帰途、クラヤアの街でイスラエル占領軍に標的とされた
- この攻撃により、テオドニアさんと、父親で内科医のジェイムズ・カラムさん、兄(弟)のトニーさんが亡くなった*4
- 攻撃はドローンによるものだった
- 攻撃場所はレバノン南部の Nabatieh–Khardali roadであった
これだけの情報量をぎゅぎゅっと詰め込んだのが、上記の文である。なお、「亡くなった」ことについてmartyrdomという単語を使っており、これは多くイスラム教の宗教的な概念として解説されるが、実際には宗教の区別なく使われているようで、キリスト教徒であるカラムさんご一家についてもmartyrと位置付けられている。(ご本人たちのコミュニティがそのような言葉を使うかどうかはまた別の問題かもしれない。)
第2文:
This is one of many attacks "Israel" carried out recently, deliberately targeting civilians in Lebanon, killing women and children.
《one of + 複数形》は多くの場合 "one of the popular authors" のようにtheを伴うが、ここではmanyが使われているのでtheは出てこない。
Israelに引用符がつけられて「所謂イスラエル」「イスラエルと称するもの」と表記されるのは、「アクシス・オヴ・レジスタンス」を自称する陣営などで広く採用されている表記法。私はこの「アクシスなんちゃら」には与しないが、Israelに引用符をつける流儀にはシンパシーを感じ始めている。
下線を施した2つの-ing形について、現在分詞か動名詞かなどを問うことはあまり意味のあることではないだろうが、問われたら答えられるようにしておかないと、日本語母語話者にとってはこの構文が自分で使えるものにはならないので重要。"targeting" は先行する "many attacks" を修飾する現在分詞だろうし、 "killing" は《結果》を表す《分詞構文》。「これは、レバノンにおいて意図的に民間人を標的とし、結果、女性や子供を殺している、所謂イスラエルが最近おこなっている多くの攻撃のひとつである」と直訳される。こんな不格好な日本語では「翻訳」としては通用しないとされてきたが、今は通用している(機械翻訳の訳文でOKということになっているので)。
第3文:
Just this morning, Lebanon's Civil Defense announced that six martyrs and three injured were recovered from under the rubble of a building targeted by "Israel" in South Lebanon.
太字にした "targeted" は《過去分詞》で直前の "a building" を修飾。「レバノン南部で所謂イスラエルによって標的とされた建物のがれきの下から、死者6人、負傷者3人が救出されたと、レバノンの民間防衛隊が今朝、発表したばかりである」が文意。
「民間(市民)防衛隊」Civil Defenseはそういう用語なのだが、活動内容は「消防・救急隊」のそれに相当する。場合によっては「隊」ではなく「団」かもしれない。
テオドシアさんについて、アラビア語の投稿(Twitter/Xで自動的に英語にしてくれている文面)
もうひとつ、別のフィードを見ておこう。これは元がアラビア語なのだが、私の手元では英語で表示されている(Twitter/Xの言語をEnglishに設定してあるので)。
🕊️ قبل أيام من مقتلها، كانت الطالبة تاودوسيا تتساءل عن قرار الامتحانات الحضورية في ظل الظروف الأمنية غير الآمنة، وناشدت وزارة التربية إيجاد حل يضمن سلامة الطلاب على الطرقات، وكأنها كانت تشعر بثقل الطريق القادم…
— Rula El Halabi (@Rulaelhalabi) 2026年6月3日
قُتلت مع والدها الطبيب جيمس كرم وشقيقها طوني إثر غارة إسرائيلية… pic.twitter.com/50AZYl1evy

文法解説は省略。殺害の数日前、テオドシアさんはおそらくテレビの討論番組か何かで、安全が確保されない状況なので、大学の試験をリモートにすべきとの意見を教育省に対して述べていた(埋め込まれている4コマの左上)。
右上は追悼写真で、お父さんのジェイムスさんと、テオドシアさん、兄(弟)のトニーさん。イスラエルのいつものやり口から考えて、標的はお父さん(医師)だろう。トニーさんやテオドシアさんも医療方面の人だったのかもしれない。テオドシアさんは大学で白衣で研究室のようなところにいる映像がある。
左下は攻撃された車の残骸と、シヴィル・ディフェンス、赤十字の人々。
右下は葬儀。写真をフルサイズで表示してみてほしい。
葬儀
葬儀では、年齢的にテオドシアさん、トニーさんのお母さんと思われる女性が、この受け入れがたい死について、「イエス・キリストは私たちを殺した者たちを赦しなさいとおっしゃられた。けれどこれはあんまりです」と叫んでいる。
“Jesus told us to forgive our killers, but this is too much”
— Hadi (@HadiNasrallah) 2026年6月3日
Heartbreaking moments from the funeral of Theodosia Karam, her brother Tony and their father James in Qlayaa, southern Lebanon. James was driving his children home from their exams when an Israeli drone killed them pic.twitter.com/yAU1fqiLod
棺を担った人々が教会に到着したところの映像。銃を担った軍服姿の人もいて、かなりの厳戒態勢だ(同じくキリスト教徒だったパレスチナのヨルダン川西岸地区のジャーナリスト、シリーン・アブ・アクレさんの葬儀は、イスラエルによって妨害された)。
Funeral of Father and His Two Children Killed in Israeli Strike Held in South Lebanon
— Eastern christians (@Easternchristns) 2026年6月3日
A village is in mourning after the loss of Dr. James George Karam and his two children, Theodosia and Tony, who were killed in an Israeli strike while returning home to Qlayaa in South Lebanon… pic.twitter.com/za5hhbG8UV
テオドシアさんの大学での日常生活
前の記事にも追記したが、テオドシアさんのご学友がネットにアップした大学生活の様子の映像。白衣を着ているので医学部か、実験を伴う理系の学部だろう。「試験を受けていたテオドシア。まさかそれがあなたの最後の試験になるなんて、誰も思ってなかった」
Marwa Harb wrote about her friend, Theodosia Karam, who was killed alongside her father and brother by Israeli forces in South Lebanon yesterday while returning from university:
— Ramy Abdu| رامي عبده (@RamAbdu) 2026年6月2日
“You sat for your exam, and none of us knew it would be your last.” pic.twitter.com/AIgTUnjCUY
試験が終わって、「どうだったー?」「難しかったねー」「私、ヤマ当たった」「えー、いいなー」みたいなたわいのない会話もしただろう。「試験終わったし、お茶飲みに行けるといいんだけどねー」とか。
彼女たち一家の街では3月にも殺戮が発生
テオドシアさんご一家の暮らしてきたクラヤア Al-Qlayaaの街では、この3月にもイスラエルによる殺戮が発生している。
On 9 March 2026, Israeli forces killed priest Pierre al-Rahi in the village of Al-Qlayaa in Marjayoun, Southern Lebanon.
An Israeli tank fired twice on a house in the Maronite Christian village of Al-Qlayaa resulting in the death of al-Rahi as well as four other people being injured. The killing was condemned by Catholics.
Since the start of the 2026 Lebanon war, thousands of residents from Southern Lebanon have fled the region. However, many of the Christians of the area, including the residents of Al-Qlayaa refused to leave despite warnings from Israel to do so.
The day before the attack, Rahi spoke to the French news channel France24 stating: “We are forced to stay despite the danger, when we defend our land, and we do so peacefully. None of us carries weapons. All of us carry peace and goodness and love".
That same day a Christian man, Sami Ghafari, was killed by an Israeli airstrike while in the garden of his home. His brother, Father Maroun Ghafari, is the parish priest of Aalma ash-Shaab and like al-Rahi encouraged Christians not to evacuate their villages and instead defend them.
On 9 March 2026 around 2 P.M., an Israeli Merkava tank struck a house on the eastern edge of Al-Qlayya, injuring the owner and his wife. Father Pierre and ten other men rushed to the house to help and another shell hit the house, wounding Rahi and four others. Rahi and the others were rushed to a local hospital but he did not survive, dying before reaching the hospital door.
つまり、イスラエルがそんな権限などありはしないのに住民に退避せよと言っていて、住民はそれを拒絶している(ほかに行くところなどない)という文脈がある街だ。しかもキリスト教徒のコミュニティ。
そこに3月上旬、イスラエルの空爆があり、キリスト教徒の男性が自宅庭で殺された。殺された男性の兄弟は神父で、イスラエルの言うとおりに退避などせずに、自分の街にい続けることで街を守ろうと呼び掛けていた。
そして3月9日の未明、メルカバ戦車が街の東の端にある家屋を砲撃して、家主夫妻が負傷。負傷者を救出しようとピエール神父らそこにかけつけたところに2度目の攻撃(イスラエルのダブルタップ攻撃。もはや誰も驚かないよね。シリアでアサドやロシア軍がやってたときは声を限りに非難してたであろう西洋の人たちももう何も言わない。完全に常態化されているので)。これによってピエール神父らは負傷し、病院に搬送されたが到着する前に神父はこと切れた。
こういうことが「ヒズボラ対策」の名のもとにおこなわれている。レバノンで。あの内戦の経験があるレバノンで。
……ということが起きているわけです。ドナルド・トランプの卑語など、どうでもいい話です。トランプとネタニヤフの喧嘩などしょせん(日本語の俗語でいう)プロレスに過ぎない。そこに関心を向けさせるAxiosなんざに踊らされててどうするって話です。(Axiosがどう、という話は前のエントリにちゃんと書いてあります。ブコメでの反応もありました。)
でも仮定法は大事です。
hoarding-examples.hatenablog.jp
以下、印刷して持って歩いてるとまあまあ反応があるプラカ。プラカやバナーなどとしてのご利用は非営利を前提にご自由にお使いください。上半分の赤いところは、確か2024年ですが、ガザ地区出身で今は国連で働いている人がツイートしていた画像。下の黒いところはその対訳(拙訳)。

























