Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

「地面」の意味で使われるfloor(ロンドン、レスター・スクエアの傷害事件で、極右デマが始まりそうな情報空間を見た)

7月末にマージーサードのサウスポートで子供たちが何人も連続して切り付けられ3人が亡くなるという痛ましい事件があってからしばらく続いていた英国(主にイングランドと、北アイルランド)の極右のネットワークによる暴動は、日本でも関心を集めたようだ。ただその関心の少なからぬ部分が「背後にロシアが絡んでいる」という誤情報、もしくは「ロシアがらみでは」という推測に基づくものだったようで、英国ウォッチャーとしては「ロシアなんか絡んでこなくたって英国では極右は活動してます。もうずっと昔っから」と指摘しなければならないだろう。イーロン・マスクが英国でものすごい影響力を持っているかのような認識もあるようだが、英国でのインフルエンサーはマスク以上のがごろごろしているわけで、「マスクがー」ってのもちょっと違う。

そう思ってブログを書こうとしているのだが、何せそんなことは書いてて楽しいわけでもなんでもないのだから、全然やる気にならない。しかもこの暑さである。ここ数日は、東北地方にいきなり上陸した台風のおかげで、その南側に入っていた関東地方は熱帯の空気を直送していただいている状態で、気温は35度程度と今となってはさほどではない気温かもしれないが、「暑さの質が違う」としか言いようがなく、もうほんとに何もできない。

そうやってだらだらしているときに、イングランドでまた、子供が刺されるという痛ましい事件が起きた。今度はロンドン、それもレスター・スクエアだ。東京で言えば新宿アルタ前とか、六本木交差点とか、銀座和光前みたいな、超メジャーなスポットである。

そしてまた、Twitter/Xでは、サウスポートのときのように、「子供を襲う外国人*1」というステレオタイプを一方的に連想しては、(石原慎太郎が何度も繰り返し強調して言っていたような)「悪い外国人」という言説をばらまこうという動きが見られた。

今回、それをちょっと見ていたので、そのことを記録しがてら、その過程で遭遇した英語の語法実例について書いていきたい。

 

◆目次◆

  • レスター・スクエアでの事件
    • レスター・スクエア (Leicester Square)
    • 刃物男が女性と女子を刺し、警察に身柄を拘束された、という報道
    • 事件現場
    • ニュースに飛びついた極右インフルエンサーたち
      • トミー・ロビンソン(本名スティーヴン・ヤックスレイ=レノン)
      • アンドルー・テイト
    • 事件のヒーロー
    • 取り押さえられ、警察に拘束された容疑者は白人
  • 英文法・語法の実例
  • 極右デマが始まりそうだったネット上の界隈
    • アンドルー・テイトの投稿のリプライ欄
    • Twitter/Xという場
  • 事件翌日、容疑者の名前が判明して……
  • おまけ

 

*1:immigrant「移民」やasylum seeker「難民申請者」とカテゴライズされる人々だが、日本語では「外国人」と表現するのがいいと思う。

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be going to do ~を使った表現, have no idea+what節, など(ガザの大量料理人と、Twitter/Xでの心温まるやり取り) #ガザ市民の声翻訳 #ガザ #Gaza

たまには心温まることを書こう。

先日、当ブログでエントリ化した刷り物で取り上げている、ガザのWatermelon Reliefで、真顔で大鍋で大量の料理を作って子供たちを笑顔にしているハマダさんの7日の投稿: 

パンクチュエーションがくだけた文体のものになっているので、それを格式ばったものに改めると: 

I'm gonna need your help, my Spanish-speaking friends..

I was sent this video, but have no idea what she is saying.

Thank you @informativost5 for this report.

というふうになるだろうか。

英文としては、ほぼ誰でも「読めばわかる」文だと思うが、自分でゼロからこれが書ける/言えるかどうかは別で、もし書けなければ、暗記して、自分で使える文のベースとして頭の中にストックしておくといいと思う。「復文」の練習素材にしてもいいだろう。

文面を見ていこう。

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「~を経験する」の意味のsee, 感覚動詞+目的語+過去分詞(ヘイトに基いたイングランドの組織的な極右暴動とSNSでのデマの拡散、フェイクニュース)

イングランドで、悲惨な事件が起きて、それを利用して極右が暴れている。

そのニュースを追って(ものすごく久しぶりに)ガーディアンの報道記事*1を読んでいたら、この内容はどうしても書き留めておかなくちゃと思うと同時に、収集している英文法・語法の実例に遭遇した。

というわけで、昔のような形式のエントリをこれから書く。

◆目次◆

  • サウスポートという街で、事件は起きた
    • サウスポートという街
    • 7月29日のひどい事件
    • 容疑者は17歳(だから名前も即時公表されない)
    • 暴動
      • なぜモスクが標的に
  • 誤情報の拡散についてのガーディアン記事
    • 英文法・語法の実例の箇所
  • 誤情報拡散についての関連記事と、拡散元サイトの1つの内容
    • このサイト、中の人の名前がわからない
    • このサイト、記事が古い
  • ちなみにその後、暴動は……

*1:ガザ・ジェノサイドに際してのシオニスト丸出しの姿勢にうんざりして、昨年10月にアプリを消して以来、ガーディアンでは個人が寄稿する論説記事しか読んでいない。報道記事はガーディアンのは読まなくなってしまった。

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極限状態のガザ地区で、自身も苦境にありながら、ほかの人たちや動物たちを助ける活動をしている人々(リンク集)

昨年10月にTwitter/Xで始めた翻訳ハッシュタグについて、紙に印刷してネットの外(リアル世界)に持ち出すようになったのが今年になってからのことだ。細長い短冊形で、A4で6枚取るという小さなスペースのものだった。

ハッシュタグ(現在は廃用)紹介の短冊

この初代の翻訳ハッシュタグの印刷物を配り始めたまさにその日にとんでもないことが出来し、普通にツイートを読んでるだけではわからないし、部外者が簡単に書けるようなものではない(しかし、翻訳などをするなら当然想定しておかねばならないような)各種の危険をおかして発言を続けているガザの人々の安全を脅かすと判断したので、初代のハッシュタグはほどなく自分の中では廃用とし、数日のうちに2代目のハッシュタグに差し替えることになった。それの印刷物も作った。

#ガザ市民の声翻訳 と #ガザ市民のための声翻訳 ハッシュタグ紹介の短冊。2月から配布

この「短冊」は、最初は表面にハッシュタグを印刷しているだけだったが*1、手渡した人が裏返しているのを何度か見たので、裏面も活用しようと考えて、ずーっと前からフォローしているガザの学校の先生ムハンマド氏がやっている支援活動*2Care For Gaza (CFG) を紹介する文面をこしらえて、gofundme.comのページのQRコードをつけるなどするようになった。

片面でハッシュタグ紹介、もう片面で現地支援団体を紹介した短冊。5月から配布

やがて、CFGに加え、私が「真顔料理ニキ」と呼んでいる料理人ハマダ氏(支援物資の特に美味しくはなさそうな食材を使って子供たちを笑顔にするなかなかの豪華料理をすごい大鍋で作ってて見事なのだが、その様子を収めたTikTok調の映像ではなぜかずっと真顔でカメラ目線なのである。ちなみに彼は元々フードブロガーだ)や、サッカー好きのジャーナリスト、アフメド氏らの支援活動であるWatermelon Reliefの紹介文とgfmのQRコードも付け加え、それを6月のプライド月間に合わせてセレクトした翻訳ハッシュタグからの抜粋と裏表にしたA5判の印刷物を、6月から7月にかけて、池袋、新宿、高円寺などで配った。

片面にハッシュタグ紹介(Pride月間仕様)、もう片面に現地支援団体2件の紹介の印刷物。6月から7月に配布

そして、その印刷物約600部(もっとあったかも)を配り終えた今、さらに多くの支援団体を紹介すべく、新たな印刷物を作っているのだが(後述)、A5のスペースにはどうにも収まりきらない。

というわけで、そういった支援活動の情報を、ブログにまとめておくことにした。

ブログなら、紙のような「スペース(紙面の面積)」という制約もないし、Twitter/Xを埋め込むこともできるので、紙よりも詳しく紹介できるだろう。

なお、ここでは個人のガザ退避のための募金活動は基本的に扱わない。それが未来への唯一の希望となっていたり、精神的にもっと深刻なことになっていたりするケースを私はいくつも知っているが、それは別なカテゴリなように思うのだ。(ただし、他者のための支援活動をしている人が、自身の家族のために募っている募金には言及すると思う。)

極限状態にあって、人が人を助け、動物を助けるということは、「生命の尊厳」そのもののための活動だ。それを、世界中の人たちがネットワークを作って支えていこうとしている。

「ジェノサイドが起こるのをただ放置している世界」は、実はただ放置しているだけでなく、政治的意思決定層を動かそうと努力しても動かすことができずにいる一般人は、個人にできる限りのことをしている。そのことは、記憶にも記録にもとどめるべきだろう。

以下、書きかけ。とりあえず、ページのURLを決めるためだけに、ここまで書いていったんアップする。

◆目次◆

  • 極限状態のガザ地区で、自身も苦境にありながら、他者や動物を助けるため尽力する人々にご支援を
    • Care For Gaza (CFG) 
    • Watermelon Relief 
    • Cat lover 
    • Sulala Animal Rescue (Sulala Society) 
    • Salam Animal Care
    • Help Animal Gaza
    • Cruelty Free Meals for North Gaza
    • Gaza Animal Care 
    • eSIMの寄付

 

*1:その後、マイナーバージョンアップで、ハッシュタグQRコードも入れるようにした。

*2:今般のジェノサイドが始まる前から、恵まれない立場の人たちに食料支援などをしていた。

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性別を特定しないとき、また、特定する必要のないときに用いられる3人称単数の代名詞they(ドナルド・トランプ銃撃事件で警官は……)

ものすごく久しぶりに、元々このブログでやっていた書き方でのエントリを上げようと思う。つまり報道に出てくる英語の実例と、英文法の解説だ。さくさくと、20分くらいで書き終えようと思う。

久々にあれをリンクするぞ。どーん。

といっても、20世紀のあいだに編まれたこの文法書では、今回ここで取り上げるような21世紀に入ってからの英語はフォローできない。著者も2006年に没している。

あんまり余計なことを書いてると20分では書き終わらないので先に行こう。以下、敬称の類は略して書く。

7月13日、米ペンシルヴァニア州に設営された野外ステージで、支持者を集めて集会をおこなっていたドナルド・トランプに向けて、近くの建物の屋上から銃弾が発射された。何発かの銃弾で、トランプは右耳を負傷したが大事には至らず、家族を伴って聴衆の中にいたトランプ支持者の男性が、銃声でとっさに家族に覆いかぶさって被弾して絶命、他2人が負傷している。

銃撃があってすぐにトランプはステージから降りて車で病院に向かったそうだが、このときに聴衆に向けて拳を掲げてみせる瞬間をとらえたAPのフォトグラファーが撮影した写真がバイラルした。それが日本語圏で「王者の風格」云々ときゃっきゃきゃっきゃと取りざたされているのを見てしまったが、あの写真の写真としてのすごさと完璧さ*1はさておき、連写されている写真の1枚で、トランプの背中側にいるSP(男性)がトランプの背中を強く押すような様子で、さらに手前にいるSP(女性)が「お願いですから、そんなことやってないで、身を低くしてください」という表情で必死にトランプにしがみついているのに相手の体が大きすぎて何ともなっていない様子がうかがえて、痛ましいと思った。あのときさらにまた銃弾が発射されていたら、と考えるとぞっとする。米国のSPは、トランプのような「本質的に『俺様』をアピールすることにはすごい反射神経を持っているショーマン」を普通に警護するにはどうしたらいいかということに、頭を悩ませていることだろう。「カメラの前にさっそうと登場して笑顔を振りまく」タイプとは違う。常に「強い俺」をアピールしたがるタイプだ。

*1:撮影したフォトグラファーはステージの反対側からあそこまですっ飛んで行ってあの1枚をものした。「その場にいる」こと、「構図を決める」ことなど、訓練とスキルの賜物の1枚だと思う。

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五輪開幕も迫るなか、イスラエルは爆撃してパレスチナ人アスリートを殺し、私は翻訳の調べものに四苦八苦する(ChatGPTは翻訳者の実務に使えるか)

2023年10月7日以降、初期段階で世界中のジェノサイド研究者らが「教科書通りのジェノサイドである」と位置づけ、標的にされる危険をおかしている現地のジャーナリストや一般市民/市民ジャーナリストによってTwitter/XやInstagramなどでほぼ生中継されながらも、「国際メディア」と呼ばれる大手メディアからは「自社の記者が入れないから伝えられない」的に無視され*1、「国際社会」と呼ばれるものもろくに動こうとせず、したがって、リアルタイムで世界中に現場から事細かにひどい状況が伝えられているにもかかわらず、誰も止めようとしないという異常な状態で続けられてきたガザのジェノサイド (Gaza Genocide, the Genocide in Gaza) は、今月7日、うちら東京都民が都知事選で投票をした日*2に、事態の開始から9か月を迎えた。

状況は、悪化する一方である。そして、大手メディアは相変わらず、事態をろくに取り上げようとしていない。特に最大の軍事的支援国・米国では、大統領の記者会見で、パレスチナの都市と民間人に対して用いられる爆弾を送ることについて、誰も質問しないという状況であるそうだ。この事実が物語っている現実について、1秒でも考えてみてほしい。

私の見るTwitter/Xの画面では、大手メディアが取り上げようとしない大きなニュースが日々、英文で280字以内でフィードされてきたり、分析や解説が長文で投稿されてきていて、そして、「どうしてこれを大手は取り上げないのか」という怒りと絶望とフラストレーションの声が流れてきて、その合間合間にガザ地区現地から「お願い、スルーしないでください」とする募金要請や、「アカウントが制限されているので、Twitter/Xのアルゴリズムに働きかけるため、リプライをつけてください」という要請が入る。5月から6月にかけて盛んだった欧米の大学からの抗議行動に関するフィードは、大学が夏休みに入ったこともあって、今は激減している。その分、ガザからの直接の情報が多く表示されているように思う。同時に、大手でない(独立系の)報道機関などや、イスラエルの報道機関の重要な報道も相次いでいる。一例が、かの『ランセット』誌(英国の、権威ある医学誌)の推定死者数に関する記事だ(「学術的に普通に考えて、関連死を含め、犠牲者数は186,000人になる」という内容)。ジェレミー・スケイヒルが、自身が立ち上げたThe Interceptを離れて新たにスタートしたばかりのDropSiteNewsでも、いきなりなんかすごいのがきてる。イスラエルの新聞ハアレツは10月7日の「ハンニバル指令」のことを報じている(つまり、10月7日に攻撃で殺された人々のうち少なくない人々が、イスラエル軍に殺されたということが、事実として明らかになっている*3。)。こういうのが、日々、現地からのめちゃくちゃな状況を伝える文章や映像と一緒になって流れてくる。もういっぱいいっぱいだ。

ガザ情勢を(英語で)追っている人たちは、誰しも同じような状況だろう。

もう9か月にもなり、「まずは知ることから」と言っていられる局面はとっくに通り過ぎていて、そして毎日悲惨な写真や映像が次々と流れてくる。その中でわかりやすいもの、手に取って自分のペースで検討できるもの、手に負えるという感覚をもたらすものは、個人からの寄付要請や「買って応援」系の情報だが、「そもそも情報量が多すぎて、何をどうしたらいいのかわからない」という状態になっている人は大勢いるだろう。とりあえず確実に「何かができる」のは、eSIMの寄付だ。 #ConnectingGaza (ガザをつなぐ)というハッシュタグで情報がやり取りされている。eSIMの寄付のやり方は、こちらでisaokodesuさんが丁寧に解説してくださっている。

isaokodesu.hatenablog.com

さて、ここまでは前置き。

今日、先ほど、ガザ地区南部ハンユニスで、2021年の国際大会にパレスチナ代表として出場した陸上選手が、イスラエルによって自宅を爆撃されて殺された、という報告を日本語化した。たいていスルーされるか、リツイート/リポストされても数件というのがデフォの拙の翻訳ハッシュタグ「#ガザ市民のための声翻訳」の投稿では珍しく、280件を超えてリツイートされている。やはりスポーツについては関心が高いのだろう。ちなみに私は、今年3月の新宿での集会で、柔道のイスラエル代表の集会乱入というインシデントを目撃していて、事後に彼らの流したデマ(うちらデモ隊が柔道代表に襲い掛かって柔道着をもぎ取って逃げた*4、的な)に対抗して実際にあったことを英語で書いたことでロンドンのスポーツ・ジャーナリストと知り合ったのだが、今回、ハンユニスでの陸上選手の爆殺は、彼女のツイートを通して知った。スポーツはこういうふうにも人をつないでいる。

スポーツ選手がイスラエル空爆で殺されることは、医者や学者、ジャーナリストが同様に殺されるのと同じように常態化しており、スポーツのインフラも破壊されていて、英語版ウィキペディア"Palestinian sports during the 2023–2024 Israeli invasion of Gaza" としてまとめられている。サッカー選手が殺されればUEFA*5FIFAへの抗議の声が上がらなくはないが、「国際メディア」はまず取り上げようともしない。そしてサッカーのEuroも、もうすぐパリで開催される五輪も、何事もなく進行する。

 

目次

  • パレスチナ代表の陸上選手が、イスラエル空爆によって殺された
  • 調べもの1: sporting bodies 
    • まずはウィキペディアを使ってみる
    • 次にChatGPT-4を使ってみる
      • こっちがわかりきっていることについてドヤ顔で説教してくる
      • 根拠も示さずに断言してくる(通常運転)
      • 「根拠を出せ」と言われると根拠と主張するものを示しはする。だがそれを見ているかどうかは別だ
      • ChatGPTはひとまとまりの文章の単語を適当に拾って脈絡なく結びつけることを「読む」と称しているだけ。意味は取っていない
      • 結論: ChatGPTでは私のやりたいような調べものはできそうにない
      • ChatGPTは翻訳者の実務に使えるか
  • 調べもの2: the young Palestinian runner Wasem Ayman Abu Deeb
    • 人名はこの場合、シンプルにいける
    • runner が難しい……《意味》がわかることと、それに《適した日本語》を与えられることとは別
    • 余談: こういうときに「マイナーなアスリートのことを調べるのは大変ですね」などとは言わないようにした方がよい
    • 出場大会の記録から、特定の選手の出場科目を調べる
    • ウィキペディアウィキペディア本文だけでなく、最下部に注目。そこに使えるものが埋まっている
    • 調べものは行き詰まった。ここでどうするか
    • 訳出しないという選択

*1:その前哨戦であるかのようにして、ここ10年の間にガザ地区でどのくらい国際メディアのオフィスなどが破壊されてきたことかを振り返っておくことも必要だろうが、たぶん、誰もそこまで手が回っていないのではないかと思う。また、ジェノサイド開始から9か月となって、イスラエルの外国人記者団体が「イスラエル国政府が、外国人記者を、ガザ地区に入れさせないことは問題である」との非難声明のようなものを出していることも特記しておくべきだろうか。

*2:もちろん、盧溝橋事件の日でもある。1937年、中国の北京郊外で何者かが日本軍に対して発砲、日本はこの機をとらえ、「自衛権」を掲げ、宣戦布告をせずに大々的な軍事行動に出た。日中戦争の始まりである。

*3:実際、ハマスの攻撃力ではなしえないような攻撃のあとがあったんだけど、英語圏の、Twitterでだけ声の大きな(増幅装置として作用する)素人探偵というか自称OSINTの人たちは無視してたよね。ハスバラだろう。

*4:筋肉の塊でしかない格闘技の選手が、しっかり着こんでいる衣類を、スマホやプラカードを持つのに忙しい一般人が奪い取れるわけがない。なのに、イスラエル柔道代表の流したデマを受けて「これが事実だったらよくないことだ」と拡散する日本人がいた。しかも大手新聞の在米記者とかがそうしてたの。新聞記者なら何よりもまず先に事実を確認しろっての。

*5:イスラエルが所属しているのはUEFAである。パレスチナ代表はアジアなのに、イスラエル代表はヨーロッパって、そもそもおかしいでしょ。サッカー界がずっと無視してきたイスラエルの特別扱い。

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「敵の敵は味方」ではない――パレスチナ支援の中に紛れ込む極右・ネオナチについて(実例記録)

イスラエルによるガザ攻撃、というより「ガザ・ジェノサイド」は終わる気配などまったくないが、「停戦 ceasefire」を求める声はやんでいない。

というより、「停戦 ceasefire」を求める声はやんでいないが、イスラエルによるガザ攻撃(というより「ガザ・ジェノサイド」)は終わる気配などまったくない、と書くべきだろうか。

そんなことで悩んで数分が流れていったが、目薬をさしても肩のストレッチをしてもどっちがよりよいという結論が出なかったので、両方書いておく。自分のブログだからそこは好きにしてよいだろう。

ともあれ、そのようにして続いている「停戦 ceasefire」を求める声――「昨年10月に始まったときには、まさか、夏になっても同じことを言い続けているとは思ってませんでしたよね」と言いつつ、続いて発されている声――に便乗して、というかその中に入り込むようにして、ただただ「ユダヤ人」を排斥したい勢力の声が発せられていることは、決して軽視されるべきことではないと思う。

といっても、私が見ているのは、英国の労働党ジェレミー・コービンを排斥したときに行われたキャンペーンのスローガンのようなものだった「左派の側の反ユダヤ主義」ではない。もっとド直球の反ユダヤ主義、「極右の反ユダヤ主義」、もっと言えばネオナチの発言だ。

紛争に際してよく言われる言葉に、 "The enemy of my enemy is my friend." というものがある。「敵の敵は味方」という意味だ。例えば1980年代において英米と対立していたリビアカダフィ大佐は、英国を攻撃していたIRAを支援し、武器や訓練施設を提供した。リビアの独裁者がIRAの理念をまったく無視していたとは思えないが、かといってその理念(アイルランドの統一の回復)ゆえに支援していたとは思えない。

今般のガザ・ジェノサイドでは、「私の敵」がシオニストであるとして、シオニスト批判者はすべて「私の敵の敵」になり、したがって「私の味方」である、という単純でわかりやすい《構図》(マスコミ用語)に自分たちを当てはめたいのだろう、ガチの極右勢力がかなり活発に草の根で発言をしており(例えばアンドルー・テイト*1)、私もTwitter/Xでときどきそういうのに遭遇する。

遭遇したところで、そもそも見たくもないものだから、単に画面をそっと閉じることがほとんどだが(ついでにミュートしたりブロックしたりするくらいのこともする)、「Jan6」と称される米議会襲撃事件で議事堂に乱入した暴徒が身につけていたりした極右のシンボルについて常識的なことを書いたら予想外にも大きな反応があったことなども思い出し、この分野について日本語で書いておくことは意味のないことではないのだから、と、特に書きたくもないトピックについて書いておこうと決意した。

以下、今日、今から数時間前に実際にTwitter/Xで遭遇した「パレスチナを支持する西洋の極右」の実例の記録である。

パレスチナ支援活動参加者各位におかれては、くれぐれもご注意いただきたい。

【目次】

  • 遭遇した実例について
    • どこでどういうものに遭遇したか
    • 遭遇したものの詳細
    • 埋め込まれているシンボリズム
    • 当該アカウントはどういうアカウントか
  • 追記(7月9日)
    • また別の例
    • 不快極まりない反ユダヤ主義言説
      • 図像と色
      • 「アマレク」言説
      • 「アマレク」とは
      • 当該の映像について
      • 当該のアカウントについて

 

*1:

https://en.wikipedia.org/wiki/Andrew_Tate#Views_and_influence 'In November (2023) he accused Israel of "genociding" Palestinians and claimed that the Hamas attack on Israel was as "an eye for an eye".'

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Twitter/Xでアンケートをやっている件で、英文解説をしておきます。 #ガザ市民のための声翻訳

ふとした思い付きで、Twitter/Xで、4月3日の18時過ぎから、下記のアンケートを実施しています。4日の18時過ぎまでご回答いただけるようになっているので、Twitter/Xのアカウントをお持ちの方は、ご協力いただけると嬉しいです。「何のための調査」といったこと、というか調査の目的は特にありません。何となくの思い付きです。現時点で表示回数が1100回程度、回答数は130件程度です。

ここでは「読む」の内容を、「英文を自力で読める」「英文を日本語にできる(翻訳できる*1)」と定義し、なおかつ「どうしてそのような日本語になるのか(そのような解釈になるのか)を(文法的に)説明できる」ということも範疇に入れてあり、それらはわりと細かく分けて選択肢にしてありますが、「読めない」は4番目の選択肢の「上記以外」にまとめてしまってあります。これは、私のツイート/投稿がリーチする範囲が「読める」人たちに偏っていると思われるためで、選択肢を6つくらい設定できたら「読めない」方面ももう少し細分化していたと思います。

で、「自力で読めるし、日本語にできる」という点について、ただこの英文をぽーんと投げておいただけでは「間違いのない解釈(読解)ができているかどうか」という点について疑問を残したままになってしまうかもしれないので、これまた思い付きで、こちらで補足しておくことにしました。

最初はTwitter/Xでツリー形式で続けようとしたのですが、そうすると「問題集の答えを見てから自分でやって、自力でできたと勘違いしてしまう」みたいなことが起こりえるので(学習においてはそれは必ずしも悪いことではありませんが)、場所を分離してこっちでやることにします。

*1:「翻訳」という表現を使ってしまうと解釈の幅が出て「直訳は翻訳かどうか」みたいな疑問が出てきてしまうので、あえて回りくどく「日本語にする」と表現しています。

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とんでもないものが翻訳されて青天の霹靂。ハッシュタグ「#ガザ投稿翻訳」を、少なくとも私は、終わりにせざるを得ないことについて(次のハッシュタグもあるよ)

このブログの管理画面にアクセスするのも久しぶりである。12月のうちに、時制の使い方がとても興味深い英文の実例に遭遇したので、それについて書くつもりだったが、なんだかんだと書かずに1月も終わろうとしている。

さて、今回は当ブログのテーマである英語・英文法は扱わない。久々の更新で、英文法目当てにフィード登録してくださっている方をがっかりさせてしまうかもしれないが、現実としては、英文法どころではない状況が2023年10月7日以降、苛烈さを増しながら続いている影響をもろに受けているので、何卒おゆるしいただきたい。

今回は、英語の話ではないが、「翻訳」に関連する話ではある。テクニカルな話ではなくて、実際にやっている翻訳に関連する話である。

【目次】

  • 2023年10月7日
  • パレスチナからの声を日本語にする人々→ハッシュタグの開始
  • でも、あんまり直接的ではない形で、おそらくは善意に基づいて、とんでもない翻訳が行われた
    • 具体的に何があったのか
    • 何がどう「暴走」なのか
  • 私 @nofrills はこのプロジェクトとはまったく無関係
  • 私 @nofrills がよく翻訳しているガザの人たちも、もちろん、このプロジェクトとはまったく無関係
  • このプロジェクトはハッシュタグ「#ガザ投稿翻訳」とは別におこなわれた
  • けれども、ハッシュタグ「#ガザ投稿翻訳」と無縁ではない
    • プロジェクト参加者と @nofrills の接点について
  • というわけで……
    • ブックリスト
  • ※更新履歴
  •  
  • ※デマの流布はやめてください。
    • 「ペガサス」について
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ハッシュタグ「 #ガザ投稿翻訳 」は、第一義的に、ガザ地区の人々に、自分たちの投稿が読まれていることを伝えるためにやってる。でもその意味は?

Twitter/Xのハッシュタグ「#ガザ投稿翻訳」を始めてしばらく経った。ハッシュタグがないよりは多くの人の目に触れていると思うし、ここ数日で作業をやってくれる方も増えた(こちらからはお声がけはしていないが、自主的にやり始めてくださる方が増えている)。感謝したい。記録に関しては、ほっとくと誰もやってくれないので、自分でアーカイヴを取った。量が多いのでいくつかに分けて取っていく。今回取ったのはその最初のひとつである。

togetter.com

10月7日のハマスによる攻撃開始直後しばらく吹き荒れた「ハマスの蛮行を非難しないのか」言説の嵐が収まったあと、現在のネットは「イスラエルを支持しない者はテロリストの支持者である」という、ジョージ・W・ブッシュの "Either you are with us, or you're with the terrorists!" というあの悪夢のような、カルトめいた二元論の言葉の変奏に覆いつくされている

GWBの発言当時、日本における「ネイティブの英語」の推進者たちなどは、発言内容以上に、合衆国大統領の発音、特に "terrorist" の発音に目を白黒させていた。「南部訛りは想定外ですね」「どう扱ったらいいんでしょうね、これは」みたいな感じ。そういう態度についてならば、「ペダンティックだ」とかいう評価が出るのは、英語教材屋から見ても当然だ*1

だが、今回ハッシュタグ「#ガザ投稿翻訳」を始めたことについて書いた拙ブログ記事について、通りすがりのだれか知らない人から「選民意識」とか言われるのは意味がわからん。エントリをアップして10日もしてからようやく、初めてブコメ見たんだけど(Twitterで手一杯で、ブコメ見ている余裕はなかった)、そういうのがあって、(?_?) という顔になったのだが……。

というか、いつもの「日本における英語使いあるある」か。

*1:ついでにいえばブッシュはディスレクシアの当事者でもあり、言葉に難がある人だったが、それについてあげつらうような態度もあちこちで見た。私にはそれはとても不快だったし、「不快である」ということは当時表明している。

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#ガザ投稿翻訳 「パレスチナの人々の人権を擁護することは、ハマス支持者であることを意味しない」(エリック・カントナ)、ほか、サッカー界から。

ハッシュタグ「#ガザ投稿翻訳」を立ち上げて数日が経過した。参照数などを確認する手立てはないが、ハッシュタグなしでばらばらにやっているよりは確実に多くの目に触れるようにできていると思う。

いつもなら、ハッシュタグは情報の共有のためにあるという前提で、ハッシュタグのない投稿にタグだけつけて引用リツイートすることも多いが(例えばESAT-Jに関しては多くの人がそうやって共有を広げてきた)、今回はそれはしていない。タグをつけるかつけないかは投稿者にお任せしたい。ガザからの、またはガザに関する投稿を日本語化している方は、共有の範囲を広げるため、よろしければハッシュタグをお使いください、という感じでこのあともやっていきたい。(なお、当方はハッシュタグの言い出しっぺではありますが、「こういうツイートや記事があります」ということをお知らせいただいても、ただ流すわけにはいかず、こちらも確認しなければならないし、自分の関心事のほかにそれについて私が書かなきゃと思い続けなければならないことは実際ものすごい心理的な負担になるので、そのツイートや記事を見つけた方がご自由にハッシュタグをお使いください。あなたが見つけたものは、あなたが投稿しなければそれで終わり、ということでよろしくお願いします。)

さて、10月17日の火曜日、私の見ているTwitter/Xの画面の右サイドバーに、Eric Cantonaという文字列が表示されていた。何気なく見てみた私は、襟を正さずにはいられなかった。

Twitterは使っていないエリック・カントナInstagramに画像で投稿したメッセージが、画像でバズっていたのである。

https://www.instagram.com/p/Cyfjx1qNFjG/

テキスト化すると: 

Defending the human rights of Palestinians does not mean you are pro-Hamas.

Saying "Free Palestine" does not mean you are anti- Semitic or "want all the Jews gone."

"Free Palestine" means free Palestinians from the Israeli occupation that's been robbing them their basic human rights for 75 years.

"Free Palestine" means stop caging 2.3 million Palestinians in the world's largest open air prison, half of whom are children.

"Free Palestine" means end the apartheid imposed by the Israeli government.

"Free Palestine" means give the Palestinians control over the basic infrastructure in their land.

びしっと襟を立てて*1日本語化したのが、下記である。

https://twitter.com/nofrills/status/1714272291214029215

テキスト化: 

パレスチナの人々の人権を擁護することは、ハマス支持者であることを意味しない。

パレスチナを解放せよ」と口にすることは、反ユダヤ主義者であることや、「すべてのユダヤ人に消え去ってほしいと思っている」ことを意味しない。

パレスチナを解放せよ」とは、75年間にわたってパレスチナの人々の基本的人権を奪い続けてきたイスラエルの占領から、パレスチナの人々を解放することを意味する。

パレスチナを解放せよ」とは、世界最大の屋根なし監獄*2に230万におよぶパレスチナ人(その半分は子供である)を閉じ込めるのをやめることを意味する。

パレスチナを解放せよ」とは、イスラエル政府によって実施されているアパルトヘイト政策を終わらせることを意味する。

パレスチナを解放せよ」とは、パレスチナの人々の土地の基本的なインフラに関する管理権を、パレスチナ人に与えることを意味する。

当たり前のことしか言っていないのだが、今はこの当たり前のことを明確に言語化すること、それを広く共有することが何よりも重要だ。というか、そこまで追い詰められている。考えてみてほしい。「物を盗んではいけません」「人を殺してはいけません」とわざわざ大声で叫ばねばならない世の中を。

エリック・カントナは1980年代から90年代にかけて活躍した欧州サッカー界の大スターのひとりで、フランス人である。イングランド、特にマンチェスター・ユナイテッド在籍時の記憶が人々の間で鮮明なフットボーラーで、引退後は映画俳優もしている「セレブ」だが、時事的・政治的発言でもしばしば注目されている。イスラエルの対パレスチナ政策については昨日今日発言を始めたわけではない。例えば、美談になりやすいときだけ「フットボール・コミュニティ」が立ち現われがちな中で、2012年にガザの海岸でサッカーをしていた少年たちがイスラエル軍に撃ち殺された(このときもイスラエル軍は当初関与を否定していたはずである)ことについて「フットボール・コミュニティ」として黙っていられないとしてはっきりと意見を表明したフットボーラーのひとりがカントナだった。

フランスの首都パリでは、10月7日のハマスによるイスラエル攻撃を受けてイスラエルによる対ガザ戦争が始まってから、パレスチナ支持・連帯のデモが禁止されていたそうだが(一方でイスラエル支持・連帯のそれは禁止されていない)*3、そんなふうに国全体が政府主導で一気にイスラエル側に傾いた中でのカントナのこの英語での発言は、瞬く間に、非常に多くの注目を集めた。私が見た範囲では、単に「カントナがこう投稿した」というフィードが多く、続いて「よく言った」と賛同・称賛する発言が並び、否定的なものは私は見ていないが(そこまでチェックしている時間が惜しかったというのが正直なところ)、たぶん否定的な声もすごいたくさんあると思う。

1966年生まれのカントナは、母方の祖父がスペインからフランスに来た人だ。それもただの「移民」ではなく、1939年にフランコ将軍に対して戦った共和派で、戦闘で負傷して治療のためフランスに脱したという経緯である。今回のInstagram投稿をツイートする人たちにもそのことを引き合いに出す人がいたが、こういうのが欧州大陸で共有されている記憶・歴史の一部、アメリカが「世界の警察」としてデカいツラをし始める以前の歴史の継承である。

*1:というか元々襟の立ったスタンドカラーの部屋着だったんですが……寒いので、フリースの。

*2:ガザ地区を "the world's largest open air prison" 「世界最大の屋根のない監獄」と呼ぶのは一種の定型表現化したスローガンのようなものだが、そこに閉じ込められているのは罪を犯した囚人ではないので「監獄 prison」と呼ぶのはおかしいという指摘もあり、「強制収容所 concentration camp」と位置付ける人たちもいる。ただし「強制収容所」という語がユダヤ人にとってはトリガーワードとして機能するという難しさもある。もちろん、「強制収容所」はユダヤ人だけが経験したものではないのだが……。

*3:ただ、19日にはその禁止令の解除という法的判断が出て、夜にはかなり大規模なパレスチナ支持・連帯デモが行われたそうである。See https://twitter.com/camomille0206/status/1715119519465632226

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"Weaponized grief" に抗う。ガザ地区から送られてくる写真を見つめ、悲嘆をともにしながら。

一枚の写真から、目を離すことができなかった。白のグラデーションと青のグラデーションの中に薄いオレンジ。いわゆる「黄金比」の構図。整った、完成された画面。『青の歴史』を思い起こさせる色。美しい写真。

だがそこに映し出されているのは、人間の、深い、とても深い悲嘆だ。それも、実際に親戚関係や友人関係でなかったとしても、撮影者が今は深いつながりを感じずにはいられないであろう「同じガザの住民」の悲嘆。

吸い寄せられるようにしばらく見つめたあとで自分の中から出てきたのは、

被写体の女性の悲嘆に、ピカソの「ゲルニカ」とムンクの「病める子」が重なって、鮮やかなコントラストと完成された画面に、こんな写真を撮らねばならなかったフォトグラファーの声なき声を聞く。

という言葉だった。

そう書いて、その写真のツイートを引用する形で投稿した。だが数時間後にチェックしてみると、なぜか私の画面では写真が表示されていない。引用したツイートが削除されたわけではない。ただ、写真だけが非表示になっている。

https://twitter.com/nofrills/status/1714656806386139320

Twitter/X運営が、あなたに見てほしくない写真」なのだろう。元投稿のムハンマド・スミリィさんの画面をここで埋め込んでも、きっと写真は表示されないだろう。

ここではその写真がないと私の書きたいことが完成しないので、キャプチャで上げておこう。撮影者クレジットはないが、ガザ地区の人々のWhatsAppやテレグラムなどで回覧されている、現在の攻撃下の写真だろう。

https://twitter.com/MuhammadSmiry/status/1714589054891635132

使い込まれたリノリウムの床に、わりと新しい模造大理石の壁。これはおそらく病院のモルグで、深い青の服を着た女性が抱きしめているのは、彼女の子供の亡骸だろう。まだ小さいが、そこまで小さくはない。自分の意思を持ち、時にはわがままを言って彼女を困らせたこともあったかもしれない子供。何を食べていたのだろう。どんなことを勉強していたのだろう。英語は熱心に習っていただろうか。ここまで大きくなる間に、どれほどのことがあっただろう。何度の爆撃を生き延びてきただろう。

今、ガザで起きていること。

無数に、起きていること。

そしてそれは、今だけ起きているわけではない。もう何年もの間、繰り返し、繰り返し。

この子はシェルショックに陥っている。こんな小さな子供、守られて当然の子供が、シェルショックに。

今、ガザで起きていること。

無数に、起きていること。

「無数に」という言葉が出てくるのは、これまで何度も何度も起きてきたその蓄積を私は知っているからであり、これが今日明日にも止まるとは思っておらず、したがって、この先も起こりつづけるということを知っているからである。

今回の最悪の事態の「連鎖」の発端となった10月7日の、いわゆる「ハマスの蛮行」(なぜ人々は判で押したように、というかコピペしたように、こんな表現を使っていたのだろう。小説『虐殺器官』みたいだった)の中でも最も強烈だったものは、結局デマだったと考えられるのだが: 

それは、あの日に悲嘆にくれた人々がいなかったということを意味しない。

そこらじゅう、悲嘆に満たされる。そして軍事力の行使があって、さらなる悲嘆を生じさせる。誤爆もあろう。スパイ活動を疑われて処刑される人もいよう。武装勢力の実効支配下で、ちょっとした行き違いから悲嘆が生じることもあろう。

だが、今の状況下、そういった悲嘆は、利用される。というか、利用価値の高い情報資源となる。

ここで私が言及している「記者会見」の様子はオンラインメディアなどが映像で報じ、在外パレスチナ人など悲嘆と怒りを共有する人たちによってTwitter/Xではがんがん流れされていた。それらの映像が、また、さらに生じさせる感情も、どんどん流れてきた。

今はTwitter/Xで表示制限がかかっていて年齢登録してあるユーザーにのみ表示されるようになっているが、それは次のようなものだった(うっかり見てよい質の画像ではないので、キャプチャを加工してある)。

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イスラエル政府の言うような "human animals" なんかじゃない。彼ら・彼女らの言葉を伝える翻訳ハッシュタグ

 

【「日本国際ボランティアセンター (JVC)」さんの緊急支援要請】

ガザ地区での活動実績がしっかりしている日本のNGOです

https://www.ngo-jvc.net/news/news/202310_gaza.html

 

 

起きたことに、衝撃を受けすぎて、言葉にならない、ということは、日常にあふれている。ネットなどでよく、「語彙力をなくす」というスラングで描写されるあれである。

10月7日の出来事は、その最たるものだった。

Twitterのログを見返したが、そのときのものは何もない。最近はMastodonに切り替えつつあるのでMastodonに書いたかと言えば、そっちにもない。速報としてスマホに配信されてきた短い文面を見て、「え」と声に出したことは覚えている。そのあとは「マジで?」と思い、BBC Newsの速報を一読して「何これ」と思い、もう一度読んで「は?」と思った。

そして「いやいや……」となった。信じがたいことだった。これが阻止されなかったって、どういうことよ?

12年前、2001年9月11日も、こんなふうに「あり得ないことが起きた」日だった。だがあのときは、自室のテレビの画面の中でそれが展開していた。だからその《事実》を受け止めるには時間はかからなかった。仮にあれが「米ニューヨークの『ツインタワー』として知られる超高層ビル2棟に、相次いで旅客機が突っ込んで……」と言葉だけで伝えられていたとしたら、「え? 何それ? マジで? は? いやいや……」となっていただろう。

その日の早朝、私はいつものように画面の中にパレスチナおよびパレスチナ方面から流れてきたツイートを、いつものように読んで、いくつかリツイートした。

ひとつは、ロンドンを拠点とするMENA専門のニュースサイト、Middle East Eyeのフィード。ヨルダン川西岸地区のフワラという場所で、イスラエルの違法入植地の住民(過激派)が、元から住んでいるパレスチナ人の住宅を襲撃し、19歳のラビーブ・モハメド・ドゥマイディさんの心臓を銃で撃って殺した、というニュースだ。残念ながら、これは西岸地区から毎日流れてくる「よくあるニュース」のひとつで(西岸地区で毎日こんなことがイスラエル側によって行われているということを知りもしない人たちが、今回ものすごい勢いで騒いでいるのを見て、心底辟易したが)、「あとで読む」というつもりでぽちっとリツイートしたものだ。つまり「いつもの光景」の一部だ。

そしてもうひとつは、ガザ地区に住んでいる(つまり、ガザ地区から基本的に出られない)英語話者のTwitterユーザーのひとり、ムハンマド・スミリィ*1さんの、美しい写真だ。

平和そのもののような、青と黄色、空と太陽と海。ガザ地区の海岸線から考えて、太陽のある方角はたぶん西だから、これは夕方だろう。ヨーロッパの絵本のような黄色い太陽のもと、2つ並んだプラスチックの椅子のひとつに人が腰かけて、スマホを見ているようだ。海は静かで、よく、「ガザは観光地として整備したら人気になる」と言われる通りの光景である。

ネットを介して、パレスチナは私にとって、この程度に近い存在だ。行ったことなどはないが。

この写真から何時間か経過して、スマホに入ってきた速報で「え? マジで? 何これ。は?」となった少しあと、同じムハンマドさんのツイートが流れてきた。

ガザ地区は、ニュース用語・論文用語でいう「武装勢力による実効支配」のもとに置かれている。そういう地域では、人には言葉にできないことがいろいろある(そういったことの想像すらできない連中が、「ガザ地区からハマス非難の声が上がらないから」と言って無差別攻撃を正当化したりもする)。

その限界のなかで出されたぎりぎりの言葉だろう、「私が住んでいる場所で、地獄の沙汰になろうとしている(なっている)。私たちのために祈ってください。ガザより」。

*1:Smiryのカタカナ読みが微妙に違うかもしれないがご容赦のほど。

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【小ネタ】翻訳はただ言葉と言葉を置き換えればよいわけではない。例えばprisonは「刑務所」なのか。車のvanはどういう車両で、それは日本語の「バン」で表せるのか。

10日ほど前のことだが、ロンドンで「脱獄」が発生した。調理担当という作業を割り当てられていた被収容者が、食材を運び込んでくる車両の下に潜り込んで、そのまま敷地外に脱出した。つまり、ちょっとありえないくらいあっさりとした脱獄であった。古めの翻訳文体で「やっこさん、まんまと脱獄してのけたのさ」と表したくなるような。

彼が陸軍兵士だった人物で戦闘能力があることと、「テロ」の容疑がかかっていることもあり、ロンドン警察(大雑把に、日本の「警視庁」にあたるが、「公安」の機能も一部兼ねている)がSNSなども使って大々的に捜索をおこなっていたが、即座に国外に脱出しているのではないかといった観測も流れるなか、脱獄者は数日後にロンドン市内で身柄を拘束された。

最初に「テロ容疑者が脱獄」といったように各大手メディアで大々的に見出しが立てられてからの数日間、その脱獄者がどういう人物かについての解説*1と、そんな脱獄を可能にしたシステムについての指摘の記事が、私がネット上にあけている「ペケ」印の小さな窓*2からもかなり大量に流れ込んできた。

そういうのを見るともなく見ているうちに、以前当ブログで取り上げた「duckは『鴨』なの、『アヒル』なの」問題とか、「backは『背中』なの、『腰』なの」問題と同様の、「英語と日本語の違い(というかギャップ)」がある単語の存在に気付いたので、それを少しメモっておこうと思う。俗にいう「解像度が上がる」かどうかの話でもある。

 

◆目次◆

  • Prisonは「刑務所」か
  • Vanは「バン」
    • 「どう見ても『トラック』」と言える車両なのに……
    • 「バン(ヴァン)」とは何か、そしてvanとは何か
    • vanとtruckの境目がなくなるとき
    • 英→日の翻訳の問題としてこのケースを考える
    • 翻訳の際の回避策
  • 補足・DHCの出版部門撤退の件

 

*1:といっても陪審制のイングランドには「法廷侮辱罪」というものがあり、法廷や法廷に提出される書類で語られていないことをメディアが報じることはあまりないので、あっさりしたものであるが。

*2:かつてそこからは青い鳥が飛び交うさまが見られた。

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「A市に生まれた男は、父親が祖父のやっている事業を引き継ぐため、B市に転居する」式の複雑な日本語の文を、ChatGPT, DeepLなど自動翻訳に投げてみた。

現時点での、ChatGPT 3.5と、DeepL翻訳と、Google翻訳に、同一の文を投げて、日本語→英語での翻訳出力結果*1を比較してみよう。

元とするテクストは、何となくクリックしてみた週刊誌の記事から。

61年4月に北九州市で畳屋の長男として生まれた松永は、父親が祖父の営む布団訪問販売会社を引き継ぐため、68年10月に柳川市へと転居する。

7人が惨殺された“最凶事件“の主犯・松永死刑囚の中学時代「無理やり牛乳を飲ませたり、パシリにしたりして」〈卒業アルバムを入手〉 | 文春オンライン

コーヒーなど飲みながらぼーっと眺めるように文字を追っただけでは正確に意味がとれているかどうか不安になってしまい、頭を集中モードに切り替えてまじめに読んで、ようやく意味が取れた文である。

なぜそのように二度読みが必要になったかというと、構造が入り組んでいるからである。カッコでくくるなどすると、次のようになる。

(61年4月に北九州市で畳屋の長男として生まれた)松永は〔父親が祖父の営む布団訪問販売会社を引き継ぐため、〕68年10月に柳川市へと転居する

黒字で示した部分が主節(主文)、朱字で示した部分が従属節で、青字のところは主節に含まれる名詞を修飾(説明)する形容詞節である。

このような文体は、日本語の週刊誌報道や「ルポルタージュ」と呼ばれる文章でよくみられるものだが、「ブリティッシュな日本語」を書くと言われる私がこの文を書いたら、おそらく、

61年4月に北九州市で畳屋の長男として生まれた松永は、68年10月に柳川市へと転居する。父親が祖父の営む布団訪問販売会社を引き継ぐためだった。

と形式上文が2つという構造にするか(こういう文体は、元の文体に比べると「流れるようにするすると読む」ことが少し難しくなるはずで、実際、私もこの文は単独では「うーん」という印象だ)、

松永は61年4月に北九州市で生まれ、68年10月に柳川市へと転居する。畳屋を営んでいた父親が、祖父の経営する布団訪問販売会社を引き継ぐことになったからだ。

と、さらに懇切丁寧に説明する文体(音で聞いて違和感なくわかる文体)にすると思う。

ともあれ。

このように、構造を取りにくい日本語文は、2023年夏に広く一般で利用されている(と思われる)ウェブ上の「翻訳ツール」によってどう処理されるか。

ちょっと興味を持ったので、ささっとやってみた。

本エントリは、その結果を書き留め、同時に一般にシェアすることが目的である。(論評・批評の類は行わない。)

*1:「翻訳結果」とは呼ばない。あくまでもこれらは「出力」である。

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