Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

「~ひとつにつき」の意味を表す不定冠詞のa(サッカー、対イスラエル戦でのアイルランド代表の喪章と握手拒否)

シリア内戦が始まった時期にアイルランドを旅行したが、アイルランド人は難民化するシリア人をジャガイモ飢饉と英国の強権支配による国民離散の歴史に重ねていた。「支配され殺される側」の意識が強い国だと思った。

https://b.hatena.ne.jp/entry/4793677383482856610/comment/aquatofana

……拙、もうすでに目がキラキラして早口になっていてやばいので自制しますが、シリア内戦(というか、当時は「民主化要求運動」もしくは「革命」)が始まる数日前にここ日本で起きた東日本大震災(2011年3月11日)のときも、アイルランドの人たちはSNSで日本に対し「大丈夫? 住むところ、ある? なければアイルランドにおいでよ。(リーマンショック後の不況で)建てかけで放置されてるやつで悪いけど、家ならいっぱいある。ちょっと手を加えれば住めるから」と、心配して声をかけてくれていた人たちである。

「じゃがいも飢饉」(映画『タイタニック』の背景にもなっている19世紀半ばの出来事)は、第二次大戦後に法的に定義された「ジェノサイド」と位置付けられうるものかどうかは論争のネタとなってきたが、学術的には「位置付けられよう」といったあたりに落ち着いてきたようだ。とはいえ「ジェノサイド」の認定は、リアルタイムで起きていることについて、ウクライナのブチャの事例を除いては*1簡単にはいかないということは、ガザ・ジェノサイドはもとより、ロヒンギャ(ミャンマー)やタミル人(スリランカ北部)、ウイグル(中国)、ティグレ(エチオピア)、トルコのクルド人(舟越『その虐殺は皆で見なかったことにした』など参照)などの事例に明らかな通り。

 

というわけで、はてなブックマークのトップページを見たら、「欧州男子サッカー、アイルランド代表がイスラエル代表との握手を拒否 - BBCニュース」があったのだ。

https://b.hatena.ne.jp/

ちょうど昨日、それについて、noteで書いたところだ。「それについて」というか、主題はここに至るまでの紆余曲折についてなので、例によって長文である。

また、今月半ば、マックルモア(アイリッシュ・アメリカン)がパレスチナ連帯ゆえに降ろされたエド・シーラン(両親のひとりがアイリッシュなのでアイルランドのパスポートを持てるイングランド人)のツアーから、マックルモアと一緒に降板した新人SSWのアーロン・ロウ(アイリッシュ)と、アイルランド・トラッド音楽のベオガ(アイリッシュ)のステートメントについても、noteに書いてある。

アーロン・ロウは「けれど、アイルランド人として、ジェノサイド、強制された飢餓、暴力的占領について、僕らは知りすぎるほど知っているわけです」と述べている。

ベオガは、バンド結成後の拠点はアイルランド共和国にあるが元々は北アイルランドの人たちが結成したバンドなのだが、「わたしたちは、植民地主義を理解しているアイルランド人です。……法の下の正義を求める活動に真剣に取り組んでいますし、これからもその立場には変わりはありません。今回の事態は、またもや、真の問題から目をそらすことにつながっています。最も近い時期の所謂『停戦』のあとに殺害されたパレスチナ人は、1000人以上にのぼっています」と述べている。

これにまとわりつくアイルランドのナショナリズムの空気もまた、SNSでだってたっぷり感じられるが(『創造の共同体』のアンダーソンは、アイリッシュだよ)、それについても書いてある。

 

というわけで、アイルランド成分(ギネス)差し入れてくれていいのよ。

 

"A Guinness a day" は「1日に1杯のギネスを」の意味。 "a day" の《不定冠詞のa》は、「~ひとつにつき…」の意味を表す。私がこの用法の不定冠詞のaを覚えたのは、「1日にリンゴ1つで医者知らず」ということわざ (An apple a day keeps the doctor away) だったが、ギネスのこの広告もこのことわざを踏まえたものだ。

実際にギネスは健康効果があるらしいんだけど(発酵飲料だし)、アイルランド全国酒飲み音頭、酒が飲める飲めるぞ、酒が飲めるぞ♪ という方向性の宣伝文句でもあり、真に受けすぎてはならない。アイルランドの何ごとも、真に受けすぎてはならない。

 

今回のUEFA Nations Leagueでのアイルランド共和国代表の振る舞いもそうで、詳しくは上記のnoteをご覧いただきたいのだが、半年間にわたって「相手はロシア同様追放されていてしかるべき国の代表だ。そんな試合はボイコットすべきだ」という人々の呼びかけが続き、スポーツ界の名士ら160人の連名での要請もなされるほどだったが、決定権のあるアイルランド共和国サッカー協会が「試合は実施する」と決定していた以上、代表チームも個々の選手も、できることはごくごく限定的だった。イスラエルとの試合の直前、Nations Leagueでの1つ前の試合(対コソヴォ共和国)が終わったあとに選手たちで話し合って投票をおこない、試合はボイコットしないということが決定されたが、その決定を受けて控えのゴールキーパーがジェノサイド反対を理由にチームから離脱した(そのGKの代わりにGK登録されたのがDFだったとのことで、ミラクル・オシェイさんを思い出してフフフってなった)。

控えのGKが離脱しただけで、試合は実施するという発表がなされたときに、「紛争の犠牲者すべてのために、腕には喪章をつける」というようなざっくりしたステートメントが出て、私の見るSNSの画面で試合をボイコットせよと呼び掛けてきたアイルランド人たちは一様に落胆し、「また『どっちもどっち』のエド・シーランみたいなのが出てきた」と憤っていたのだが、「犠牲者すべて」論はUEFAに喪章着用を許可させるための方便だったのかもしれない。選手ひとりひとりの胸の内にあったものが「犠牲者すべて」では必ずしもなかったとしても、それは内心の自由だ。ピッチで示されたのは、その「内心」だったのだと私は思う。

アイルランド共和国代表、お見事なフェイントでした――と解釈するのも、私の内心の自由だ。公開の場に書くのは表現の自由。

 

 

 

*1:むしろ、ウクライナだけがなぜあんなにすんなりと「ジェノサイド」認定されたのかを問うべきなのかもしれない。ただし日本の場合はジェノサイド条約の段階から蚊帳の外なので、日本国民はそっから何とかする必要がある。

過去分詞単独での後置修飾(2001年9月11日のこと)

25年前、2001年9月11日*1の今ごろは、私はいつものように仕事から帰って、いつものようにテレビをつけて、夜のニュースを見ていた。その画面には、信じがたい光景が写っていて、アナウンサーが緊迫した声で、信じがたいことを言っていた。いわく、ニューヨークのワールド・トレード・センター (WTC) に、旅客機が衝突した。WTCは高層建築として有名な建物ではあるが、飛行機が飛びかうような高さまで到達してはいない。直感で「テロだ」と思ったが、「テロでやるか、これ?」とも思った。

当時、「テロ」といえば北アイルランドのリパブリカン武装組織やバスクのETAがやることで、実際、2001年8月にはReal IRAがロンドンのイーリングの街をボムっていた(自動車爆弾)。ロンドン西部にあるイーリングには日本人の駐在員家族も多くて心配だったが、不幸中の幸いで死者はなかったし(何人かが怪我をした)、日本人が巻き込まれたということもなかったので、日本での報道はあってもベタ記事程度だったと思う。そのくらい、アイリッシュ・リパブリカンのボムはよくあることだった。そしてアイリッシュ・リパブリカンの武装勢力には、アイリッシュ・アメリカンの草の根の支持・支援があった。1998年のグッドフライデー合意でProvisional IRA(IRAのいわば本流)が武装活動を停止しても、それに反対した分派(Real IRA)の活動は続き、そこにアメリカから草の根の支持が寄せられていた。それが、2001年9月11日以降、ぴたっと止まった、ということを、少し後にProvisional IRA筋とつながっているシン・フェインの政治家が述べていたことを、BBC Newsで知った。

2001年9月11日にWTCの2つのタワーが崩れ落ちたとき、巻き込まれた現地の消防隊員にはアイリッシュ・アメリカンが大勢いた(ニューヨークのアイリッシュが多く就く職業のひとつなので)。

旅客機が4機も乗っ取られて爆弾代わりにされるという荒唐無稽な(当時、日本のニュースは口々に「荒唐無稽」と言っていた)ことが起き、航空機が庶民というかビジネスパーソンや旅行者の足だったアメリカの空の便は麻痺し、「望むように移動できないことがいかに不自由なことか、世界の人にはわからないでしょう!」とネットではアメリカ人がわめいていた。自分たちの豊かさ、自分たちの特権をまるで意識していない人たちがUSA! USA!と声を上げてひとつにまとまり、前年にかろうじて大統領選挙に勝って大統領職についていた共和党のジョージ・W・ブッシュが宣言した「テロとのたたかい(対テロ戦争: War on Terror)」が挙国一致的に開始され、世界もそれに巻き込まれた。

ニューヨークでWTCを倒壊させ、周囲の建物のいくつかも倒壊させ、何千人もの人を死傷させ、アーリントンのペンタゴンの一部を破壊して数百人を死傷させ、さらにワシントンDCに向かう途中で乗客たちによる反撃のためピッツバーグ郊外で墜落した旅客機の乗員乗客数十人の命も奪った米同時多発テロは、私たちの知る世界を変えた。

当時、私は、自分が25年後に25年前のことを書いたり話したりするようになっているとは思っていなかった。というか、「25年後」のことなど考えてもいなかった。

 

WTCには、大学の同級生の職場があった。在学中は面識はなかったが卒業後に大学のメーリングリストで知り合い、メールのやり取りをするようになった同級生だ。ニュースを見て青くなったが、数時間後に、彼女の個人サイトが更新され、無事を伝えていた。たまたま休みを取っていたのだという。彼女の仕事、彼女のこれまでの蓄積のすべてがWTCとともに塵となったが、とにもかくにも無事でいてくれて本当にほっとした。他のニューヨークのあたりの知人らもみな無事だった。

 

事件から25年を迎えるにあたり、BBC Newsに、WTC倒壊時にその現場にいて、いまだ見つかっていない犠牲者たちについての記事がでている。25年が経過してなお、今の技術でのDNA鑑定が進められているという。考えてみれば、2001年9月11日の後にヒトゲノムの解読完了が宣言されており(2003年)、そのときは特定できなかったケースも今なら可能ということもあろう。

www.bbc.com

同様のDNA鑑定での遺体の身元の特定は、9/11のような物理的に圧倒的な力でなく銃殺などで殺されて埋められたボスニアのジェノサイドの犠牲者たちについても進められている。10年ほど前だったか、英ガーディアンで詳しい報道記事を読んだが、掘り出された遺体を「名の知れぬ誰か」のままにはしないという人々の意思の強さに打たれた。WTCの犠牲者たちについても同様だろう。そしてそれは、とても尊いことだ。

 

だがこの「9.11から25年」の記事を読んでいるとき、リアルタイムでガザ地区は爆撃されており、以前の爆撃で建物もろとも吹き飛ばされてどこに行ったのかわからなくなってしまった人々の身体の一部であったものを付着させた建物の瓦礫は、現在の「イエローゾーン」でイスラエルの支配下に置かれた地域では、勝手に持ち去られている。フランチェスカ・アルバネーゼ国連特別報告者が「殺戮の証拠隠滅」と先日指摘していたが、法的に「証拠隠滅」であるばかりでなく、現地の人々にとっては「抹消」である。

 

同時に、私は思う。広島で、長崎で、埋められたままになっているご遺骨のことを(先日、小林エリカさんの文章を読んだのだ)。沖縄のガマのことを。長生炭鉱のことを。きっと私が知らずにいる、埋められたままの人々のことを。

 

先ほど挙げた、9.11で巻き込まれて亡くなったニューヨークの消防士たちについてのBBC記事にも、私が今まで、25年間知らずにいたことが書かれていた。今回の英文法はその部分から。

Scauso added that because of the timing of the attacks, many firefighters were changing shifts, but some stayed to help, grabbing whatever extra gear they could find. This meant some first responders recovered were wearing uniforms with others' names, complicating identification.

New technology may bring more 9/11 victims' families closure

南棟と北棟の2棟から成るWTCに旅客機が2機突入したのは、現地午前9時前後で、オフィスで働く人々が出勤してきたころだった。その時間帯というのは、消防士のシフトの切り替えの時間帯でもあったという。つまり、夜勤と昼勤の交代時刻。そのため、自分の防火服ではなくほかの人のを着て現場に急行した消防隊員もいたということだ。つまり、服にある名前は、それを着ていた遺体となった人の名前ではない場合もあった。それにより、特定は一筋縄ではいかなくなった。

英文法は下記のところ。これまた、普通のウェブ検索では見つけられないし、コーパス検索でも無理目。

some first responders recovered were wearing uniforms with others' names

形容詞用法の《過去分詞》が、単語1つであるにもかかわらず、修飾する語の後ろに置かれている。

通例、分詞単独の場合は修飾する語の前に置かれるのだが、稀に、このように後置されることがある。文意は「(遺体が)回収された消防隊員の一部は、他人の名前がついた制服を着用していた」。

あと、この文のbe wearingもちょっとメモしておきたいかも。woreではないんだ、という点で。

  

 

 

 

 

*1:カレンダーで確認すると、火曜日だった。 https://www.benri.com/calendar/2001.html

off the tableとnot on the tableのはざまに(アンディ・バーナム首相のほぼ失言といっていい軽率な発言を大臣がカバー)

英労働党のアンディ・バーナムが英国の首相となってから初の北アイルランド訪問での発言が、いきなり物議をかました。北アイルランド紛争を終結させた和平合意(ベルファスト和平合意、またはグッドフライデー合意。正式文書では前者の名で、一般には後者の名で呼ばれ、GFAと略される)に規定されている「アイルランドの32州統一の可否を問う投票」(以下、慣用にならって「ボーダーポール border poll」とする)について、 "off the table" だと述べたのである。

www.bbc.co.uk

offはonの対義語で、off the tableはon the tableと対になっている。on the tableの意味はこちらにある通りで、人々が議論したり検討したりすることができる状態に置かれている、ということ。日本語の慣用表現では「俎上に載せる」に相当する。

ということは、その反対のoff the tableは「議論で取り上げられない状態にある」「議題から外されている」ということになる。

 

バーナム首相の「ボーダーポールは議題としない」という発言は、GFA堅持の観点からいったいどうなのという議論を引き起こした。GFAは英国の国内法ではなくインターナショナルな合意で、首相の一存でオンしたりオフしたりできるものではなく、常にそこにあるものだ。

まあ、どう見ても「アンディ、やらかしたね……」「とりあえず、GFAの条文、読もうか」という話なのだが、英国政府としてはそういう話にはできない。何とか辻褄を合わせて体裁をつけねばならない。

というわけで、クリス・ブライアントNI大臣の出番である。この方はなかなか波乱に満ちた経歴の持ち主なので、ウィキペディアは楽しくご一読いただけると思う。いわく、スコットランド人とウェールズ人を両親に持ち、ウェールズで生まれ、父親が転勤族で欧州などにも暮らし、大学はオクスフォードで、大学時代は保守党員。卒業後に労働党に鞍替えしたのだが、その前に、イングランド国教会の聖職者となるべく勉強して資格も取り、実際に教区で牧師として仕事もしていたのだが、1991年に教会を去った。理由は、自身がゲイであることと教会での仕事とはうまく整合しないということだった*1。2001年にウェールズの選挙区から立候補して英下院議員に当選し、以降その議席を保持している。

そのブライアント大臣が、バーナム首相の "off the table" 発言について、次のように説明したのである。

 ... on Friday, Sir Chris said the point Burnham was making was that discussions for a border poll were "not on the table" during discussions on Thursday.

"He was not making a general statement about the whole future of the Good Friday Agreement," Sir Chris said.

www.bbc.com

つまり、バーナム首相が言いたかったのは、ボーダーポールがoff the tableだということではなく、今は別の課題がたくさんあるので、俎上には乗っていない not on the tableという意味だった、という説明である。大丈夫大丈夫、首相はGFAはがっつり支持していますから、ということだ。

 

信じるか信じないかはあなた次第……!!

 

と、内容としてはこういうことなのだが、英語としてなかなか興味深い。off the tableだと述べた、というボスの発言を否認せず、その意味を軽減するために、not on the tableだという意図だった、と部下が弁解しているのである。そして実際に、そう説明されると「ああ、そういうことですか」と何となく納得してしまうのだ。「ほかの議題があるため、当座は俎上には載せない」という意図なんですね、と。

offとnot onのはざまに、なにがあるのだろう。この報道記事を見てから数日、考えてるんだけど、あんまりよくわからない。

あんまりよくわからないので、わからないまま、メモだけしておくことにした。

そしてまた、私は、「GFAをニラニラしながら見守る会」の活動にいそしむことになるのだろう。バーナムのこのうっかり発言は、「失言ではない」っていうことになってるみたいだけど、こんな発言、北アイルランドのベテランたちが見逃すはずはないわけで、今頃、ジェリー・アダムズ(引退済み)が現役世代の若い政治家たちにレクチャーしてるんじゃないかと。ヲチャ的には、ほんとに目が離せない。

TwitterのGFA、元気かな。私は本来のアカウントをイスラエル絡みのことで奪われて、同時に、仲良くしていた北アイルランドの鍵アカ(鍵かけてるのは相当の理由があるわけだが)へのアクセスも失った。GFAは「変なことに興味のある日本人」がおもしろかったようで、ときどききゃっきゃうふふしてたんだけどね。

 

 

※拙は楽天へのボイコットには加わっていません。考えたうえでのことです。そして拙は、BDSを最優先に考えています。つまり、イスラエルの兵器を買うことを阻止するのが第一。

*1:なお、シヴィル・パートナーシップが認められたあとでブライアントは男性のパートナーと正式なパートナーシップを結び、同性間での結婚が認められた後でその人と結婚もしている。そういう人を、キリスト教原理主義が主流だったあの北アイルランドを担当する大臣にするあたり、バーナムもなかなか……。

quasi-とpseudo-, そして勝手に補って結果的に誤情報を提供してくれるAI

 

【本文】

日本でもイスラエル国によるプロパガンダが本格的に始まりそうな感じだが: 

b.hatena.ne.jpイスラエル国内からイスラエル国の粗雑なプロパガンダを批判した国際法専門家イタイ・エプシュタインさんの発言を、先ほど、全訳してnoteのほうにアップした。

note.com

今、フランチェスカ・アルバネーゼ国連特別報告者(被占領パレスチナについての)の著書、When the World Sleepsを英語で読んでいるのだが*1、英語で読んでよかったと心から思うのは、用語がいちいち日本語を経由しなくてよいということで*2、とりわけ、イタリア語を母語とする筆者が、英語で仕事をする上での用語上のジレンマが、イスラエルが国際法に違反して建設を続けてきたsettlementという語に集約されているのがわかったのはとてもよかった。フランチェスカ、すごいな……。イタリア語ではそういう、いかにもイギリス的な婉曲表現(あの人たち、北アイルランド紛争をthe Troublesって呼んでるからね)とは相いれない直接的な表現で表しているのだそうだ。フランス語でもそう。イタリア語やフランス語でsettlementをどう表しているかは、英語版で本人が「補記」みたいなので説明しているのでそれをお読みいただきたい。電書が2500円もしないし(日本語版より安い)、内容は専門的なものではなく基本的にエッセイなので、英文はするすると読めます。

 

さて、イタイ・エプシュタインさんの発言は、Twitter/Xの投稿で、さくさくするすると読める英文ではあるのだが、日本語にするとなると専門用語をどう扱うか、するする読める原文の文体とどう折り合いをつけるかという点で考えるところがいくつかあった。うまくいっているかどうかはまだわからない(数日後、訳文を読み返して「ああ、こんなはずでは」と思うかもしれない)。

彼の主張のコアは「プロパガンダは事実とは違うことを言うかもしれないが、国際法は徹頭徹尾事実に関するものだ」ということで、「1足す1は2である」と同じくらい、反論の余地はない。

ただし文面が少々文学的というか、英語母語話者にするんと入っていくような言い回しが使われている。例えば: 

That legal conclusion does not rise or fall with quasi-historical, biblical, security or political claims advanced by successive Israeli governments. 

太字で示した "does not rise or fall with ~" は、DuckDuckGoのウェブ検索に投げても「そういう用例はないですね」と言われてしまうのだが*3: 

……読めばわかるよね。「~とともに、浮きもしなければ沈みもしない」とすると直訳に近くなるが、要は「~の影響などまったく受けない」という意味だ。私はこの部分は、「この法的結論は~と連動して出てきたものではないし、それによって潰えるものでもない」と、かなり速度を落とす感じで日本語化してある。

 

上記引用箇所でもうひとつ。下線で示した "quasi-historical"。quasi-は「準」という日本語に相当する接頭辞で、「それそのものではないがそれに近い」ということを表す。日常用語ではないが専門用語では頻繁に使う。カカオバターの代わりにパーム油を使った「準チョコレート」とか。

で、これと似たものに、psuedo-という接頭辞がある。これは「偽」の意味で、「それを名乗っているがそれではない」ということを表す。カニ肉を使わずに作るカニカマはpsuedo crab meatである。

どちらも口語では「本物ではない」という意味で「偽物」と言えるが、厳密に考えると両者には違いがある。

チョコレートやカニカマなら扱いやすいが、このエプシュタインさんの文のようにhistoryやhistorical claimsが問題となってくると、扱いにくい。psuedo-historicalなら「偽史」という専門用語が一般にもある程度は通じるはずだが(「江戸しぐさ」とか)、quasi-historicalはどうか。

実例はいくつか思い浮かぶ。例えば大河ドラマで、ストーリーの展開のために、史実を無視してお市の方が夫を介錯したことにしているのはquasi-historicalだろう(とはいえ、私は大河ドラマそのものは見ておらず、この記事もたまたま目にして驚愕しただけだが……*4)。それがドラマや映画、小説等での作劇の都合上のことなら何も目くじらを立てなくてもよいのではないかとされるだろう。

ここでエプシュタインさんの文を読みながら、私は考えてしまう。

イスラエルの主張が「事実無根」ならば、書き手はpseudo-historicalという表現を使えただろう。日本にキリストの墓が云々みたいなやつ。

けれど実際には「事実無根」ではなく(とエプシュタインさんは考えている)、quasi-historicalというべき状態にある。つまり、事実のかけらを都合よく取捨選択して継ぎ合わせているような……とここまで考えて、"quasi-historical, biblical, security or political claims" というひとまとまりの語句を見る。これは "A, B, C or D claims" の構造だが、AからDの4つをそれぞれ並列のものとしてしまっていいのだろうか。

ここでちょっとはまってしまった。なぜなら英語としてこの文を読んだとき、私は "quasi-historical, biblical" の部分を「つまり」でつなぐようにして読解していたということに気づいたからだ。「疑似的な歴史」つまり「聖書」と。

だがそれは私の勝手な解釈であり、原文はそんなことは言っていない(「歴史」と「聖書」は別個のものと扱っている)のではないか。

だが、イスラエルの主張がbiblical claimsであるというとき、それは「旧約聖書を事実の記録とみなした主張」のことである。それ自体がquasi-history、すなわち「擬史」ではないか。

……と、考えているうちに頭がぐるぐるしてきたのでウェブ検索に投げてみたところ: 

私が年寄りで、こういうときに「AIに投げる」ということが習慣化されていなくて本当によかったよ。AIは勝手に補って答えてきている。

ウィキペディアが「擬史とは」と書いているところ、AIは「擬史 (pseudohistory) とは」と補っている。

pseudohistoryは「擬史」ではなく「偽史」の対訳語だ。つまり、これは誤情報。AIエバンジェリストたちが言うかっこいい「ハルシネーション」などではなく、もっと単純な、レベルの低い間違いで、日本語の「ぎし」の区別がついていないのだ。

何かを調べていてわからないので専門家に聞きに行ったら、ちょっと物知りな高校生が専門家のふりをして答えてくれた、っていう感じ。

この件は、「役に立ちましたか」のアンケートに回答するついでに、何がどう役に立たなかったかを説明する目的で投書はしておいた。反映はされないと思う。「擬史」と「偽史」を混同してはならないということを、両者を混同している英語圏の機械相手に説明できるとは私は思っていない。

できるのは、「AIを使った検索は、少なくとも積極的には使わない」ということだけだ。

ちなみに、DuckDuckGoでは、自分のアカウントを作ってログインなどする必要なくAIが使えるし、下図のように、AIがかかわってくる頻度も調節はできるようになっている(歯車のアイコンから)。



こんな困ったところもあるAIだが、普通に役立つこともある。エプシュタインさんの文の最後の1文: 

 Unlawfulness does not mature into title with time.

文脈から、意味は取れるのだが(大学受験や普段の読書ならそこまででよい)、日本語に訳せるかどうかは別問題である。"does not mature into title" をどう日本語にしたらいいのだろう。

昔なら、うちに何冊もある紙の辞書をひっくり返して調べていただろうし、わからなければ図書館に行っていただろう。だが今はウェブ検索だ(電子辞書で串刺し検索の環境が整えてある人はそれを使うといいと思う)。

ぴえん。

「辞書」なしで普通にフレーズ検索しても、米国の法律解説の文面4件しか出てこない。Googleに行った方がいいんだろうが、めんどうなのでDuck.aiに聞いてみた。

その結果: 

「mature into title」は英語の表現で、日本語では「所有権を得る」または「権利を確定させる」という意味です。  より詳しく説明すると:  法律・不動産用語としての意味  この表現は主に法律や不動産の文脈で使われます。特に信託(trust)や遺産相続の場面で、受益者(beneficiary)が最終的に完全な所有権を獲得することを指します。  例えば:      信託財産が受益者に移る過程で、条件が満たされると「所有権が確定する」     遺産相続で、遺言の条件をクリアすると「完全な権利が確立される」  日常的な使い方  より広い意味では、時間の経過や条件の充足を通じて、ある権利や地位を完全に自分のものにするという意味で使われることもあります。  「mature」は「成熟する」という意味で、「into title」は「所有権へと」という意味なので、合わせると「成熟して所有権になる」→「所有権を確定させる」というニュアンスになります。  何か具体的な文脈で出てきた表現でしたら、教えていただければ、より正確な説明ができます。

というわけで、noteのほうをよろしくお願いします。

 

「国際法」になんか、ほぼ誰も関心を持っていない中で。(実際、「ハマス」を語りたがるようになった人の方が、「国際法」を語ろうとする人より、何倍も多かったんだよね、連帯の現場でも、英日の翻訳者の間でも。あれにはびっくりした)

 

 

【追記】

本稿にコメントをいただいたんですが、トピックと関係がないので非承認とします。ただ単に非承認とすると文句を言われると思うので、文面だけはここにキャプチャ画像で広く皆様にご紹介することにします。当方、年季入ったネットユーザーで、自サイトの掲示板運営で自分にはまったく益がないのに時間ばかり取られるという経験も豊富で、トピずれは一切許容しないという基本方針を、もう四半世紀以上、「チラシの裏に書いてろ、な?」という箴言が日々口にされていたころからずっと、一貫して持っております。ご閲覧の皆様方におかれましても、今後ともそのような行為はご遠慮いただけますよう、なにとぞ。なお、当ブログはコメント削除した場合はその後のコメントも拒否という方針でずっとやっておりますので(そういうことは、ひと手間で終わらせたい)、その点もご了解いただきますよう。

 

*1:日本語訳も出たが、翻訳した人が私のことを「博論も書いたことないくせに」と公開の場で罵倒してきたセコい人間だから「お前に食わせるタンメンはねぇ」みたいな感じで「お前の懐に入ってOKの翻訳印税は私にはねぇ」し、原著はイタリア語だから、英訳からの重訳で日本語で読むなら英訳で直接読んだ方が原文からの距離が近い。

*2:法律用語は動かしがたいんだけど致命的レベルで古くて、例えばrapeは「強かん」と書かれる。「強姦」ならまだいいんだけど「姦」の字が使えないから変な混ぜ書きになり、言葉そのものが破壊された記述を甘んじて受け入れるよりない。

*3:コーパスだとまた違うと思う。あるいはGoogleウェブ検索でも違うと思う。

*4:名古屋出身だもんで、興味の有無にかかわらず、織田信長については小学校の自由研究の調べ学習で詳しくなってる。

本来の意味でのkneecapの実例(アイルランドのギャングとディシデント・リパブリカン)

今日、7月26日の15時から、フジロックのAmazon生中継で、北アイルランドのラップ・トリオKneecapのステージが見られるんだけど、さっきアイルランドのニュースをチェックしていて、ものすごく久しぶりに、固有名詞(バンド名)ではなく、人体の部位をいう名詞でもないkneecapという語を見たのでメモ。

ここ↓にある。

https://www.independent.ie/irish-news/crime/dublin-criminal-in-hiding-after-kneecap-revenge-threat-from-dissident-republicans/a/159050070.html

https://www.independent.ie/irish-news/crime/dublin-criminal-in-hiding-after-kneecap-revenge-threat-from-dissident-republicans/a/159050070.html

引用符で囲われているのは、それが一種の専門用語というか業界用語だから。これは、アイリッシュ・リパブリカン(武装闘争主義者たち)が私的懲罰としておこなっている行為で、「膝の皿 (kneecap) を銃で撃ちぬくこと」を言う。動詞として用いられることもある(「膝の皿を銃で撃ちぬく」の意味)。

ニュースの内容は、ひどい銃撃事件を起こして禁錮刑に処せられていたギャングがシャバに出てきたが、シャバには報復を期したディシデント・リパブリカン(IRA本体、つまりProvisional IRAではないIRAを名乗る組織やその他のリパブリカン組織)がいるので、身を隠している、という話だ。別に記事を読む必要はないような、しょうもない話である。

ただ、kneecapの実例は最近レアものになってきているので、書き留めておく。

バンドのKneecapのステージは楽しみましょう。あれはあれで背景はアレなんだけど(映画に一瞬、ジェリー・アダムズが出てきたでしょ。そういうこと。私はそれには抵抗はない)。にしても1月に来日して8月にも、と、日本で短期間で2度もフェスに出てるのにはびっくり。1月の単独はものすごくよかったです。

ついでなので今日のフジロックのタイムテーブル。Massive Attackの配信なんて、ちょっとすごすぎる(都会で単独があったら行くつもりでした)。

 

追記: 

代替案を思いつかないのでママにしておきますが、自分でも失笑。

「こりゃ、話が長くなりそうだな」を言う英語の慣用表現(ワールドカップ決勝、そしてガザ地区)

※暑すぎて何もできず、本稿は20日に書き始めて中断していたものである。22日の夜中にようやくアップロードできるところまで書いた。

 

やっとサッカーのワールドカップが終わった。長かった。サッカー、という米語表現を使うのが決定的に嫌になった今大会なので「フットボール」と言いたいところだが、これは慣用なのでおとなしく「サッカー」と言い続けるとして、個人的にこのスポーツは楽しく見たいほうだが、ガザ・ジェノサイドでガザのサッカー場が破壊されてクラブも破壊されてフットボーラーも指導者たちも大勢が殺されているのに何の反応も出てこないことから競技そのものに関心を失ってしまい(でも公園の競技場でやってる子供のサッカーは通りすがりに見てたりする)、さらにFIFAはボイコット対象なので大会そのものは見ていない。結果だけはニュースとして入ってくる。とりあえず、これ以上いやな思いをしなくて済む結果になってよかった。

今回の決勝、アルゼンチン対スペインが「イスラエル対パレスチナ」の代理戦争みたいになっていたというのは本当で、国の政治としてイスラエルというかシオニズム支持・ジェノサイド否認のアルゼンチンと、イスラエル首相を戦争犯罪者と認識しているスペインとの試合になったことで、私の視界は「スペインがんばれ」で満たされていた。ピッチでの「アルゼンチンのファウルは取らない審判」という問題でアルゼンチンのアンチになっていた人もいたかもしれないが。なお、イングランドのファンは私の視界にはほとんどいないので、フォークランドのバナーがピッチに持ち込まれた件の影響はなかったと思う*1。

これは決して「所謂『にわか』を含むファンが勝手にやっていたこと」ではない。イスラエルでジェノサイドをおこなってきた政治家や過激派らが公然と発信しているメッセージだ。

他方、スペインのエース、ラミン・ヤマルは、W杯に先立ってスペインの国内リーグで所属するバルセロナが優勝したときのパレードで、パレスチナ旗を掲げていた。その時の写真が、今回の決勝に際してまた回覧されていたし、決勝戦終了後も回覧されていた。

キックオフ前か試合中かはわかんないけど、街頭テレビのこんな報告も。

そして試合終了後のガザの中からは、スペインの優勝の瞬間の喜びようを記録した映像や、スペイン勝利を喜ぶ声がたくさん、画面に流れてきている。

↑このバブリック・ビューイングやってる人、一応「アルゼンチンのユニを着る係」と「スペインのユニを着る係」がいたんだろうけど、前者もスペイン勝利を喜んでて笑える。

市民ジャーナリストとしての活動のほか、ガザ北部に水を届ける活動を少し前に開始したターメルさんも、テント村で無料栄養相談所を長く運営したあと、現在はシファ病院でボランティア勤務医として働いているメド先生(モハンメド医師)も、喜んでいる。

 

決勝戦のカードが決まってすぐ、今大会でいつも応援するチームの旗を持ってパフォーマンスを見せてくれていたローラースケートの子供たち(私はひそかに「光GENJIガザ」と呼んでいる)はスペインの旗を掲げており: 

脚を失った人々による松葉づえサッカーはアルゼンチン対スペインの模擬試合をおこなっていた。

Gaza loves life. 

Gaza teaches life. 

彼らがよくツイートしてくるこれらの言葉は、空虚なスローガンではない。本当のことをシンプルに言語化したものだ。

イスラエルによってガザで殺害されたフットボーラーや関係者は、567人にのぼっている。破壊された施設の数も、すさまじいことになっている。これでも沈黙してきたのがFIFAであり、またパレスチナが所属するAFCである。情けない。

 

という中で流れてきた投稿の中に、当ブログに書き留めておきたい実例があった。今回は「ウェブ検索では探せない英文法」や「マニアが喜ぶ英文法珍例」ではなく、とても素直な慣用表現の実例である。

慣用表現とは、文字通りに解釈しても意味が通らない言語表現のことだ。「おまえのために骨を折ってくれた人を、そんなに悪く言うものではない」の「骨を折る」は、「そうですか、大変でしたね、ギプスはもう取れましたか」という話ではない。そういうことだ。

実例を見たのは、今回決勝戦にも出ていたアルゼンチンのエースであるメッシと、GOAT (the Greatest Of All Time) の称号を争ってきたクリスチアーノ・ロナウド(ポルトガル代表)のファン・アカウントの投稿である。ロナウドのことはいまだに「クリスチアーノ」と呼んでしまうのだが(かつてブラジルのロナウドと区別するためにそう呼ばれていた)、マンチェスターUで「泣き虫 (cry baby)」呼ばわりされていたころから認識はしているプレイヤーであるものの、特に思い入れはない。GOATの称号争いにも関心はない。なのでこのアカウントの発言は普段は視界に流れてこないのだが、W杯決勝戦という文脈で、私の画面のFor Youタブにこれを流してくるTwitter/Xのアルゴリズムは、やっぱりすごいと思う。

実例があるのは最後の一文: 

If Ronaldo did something like this we would never hear the end of it. 

まず、英文法としては《仮定法過去》(下線部)だが、素直な用例なのでそこは特に注目しなくてもよいだろう。

問題となるのは太字で示した表現、"will never hear the end of it". これが、直訳しても意味がとれない。そういうのはだいたい慣用表現である(ここで「慣用表現だな」とピンとくるかどうかは、嗅覚というかセンスに依存するかもしれない)。

直訳は「それの最後を耳にすることは決してないだろう」だが、そこから解釈を加えれば何とか意味らしきものは見えてくるかもしれない。「それの話はいつまで経ったって終わらないだろう」ということだ。

「慣用表現だな」とピンときたときに、普通に英語を使える人がやることは、辞書を参照することである。というわけでケンブリッジ辞書を見てみよう。

If you say you will never hear the end of it, you mean that someone is repeatedly going to speak proudly, disapprovingly, etc. about something: 

https://dictionary.cambridge.org/dictionary/english/will-never-hear-the-end-of-it

つまり、この表現は、「誰かが何かについて、誇らしげに、あるいは憤懣やるかたないといった調子で何度も繰り返して話すと思われる」ときに用いられる。

日本語の表現では、「また話が長くなりそうだな」というのがあるか。

ちなみに、10年以上前だが、駅前のスーパーで買い物をしていたときにとても上品な老婦人から、高いところにあるものを取ってほしいと依頼されてそれに応じたところ、なぜか延々とご子息についての自慢話を聞かされたことがある。「ドイツに赴任しているんですよ。あなた、ご存じ? シュツットガルトっていう街」「名前は知っていますよ」……みたいな。まさに「いつ終わるんだろう」って思ってた。次にそういうことになったら、心の中で "I'll never hear the end of it" と唱えてみよう。心の中だけで。

 

というわけで、当エントリもいいかげん長い。ここまで7800字も書いている。このままではいつまでたっても終わりそうにないので、無理やり終わろう。

 

ガザの人たちが目をうるうるさせて見ていたのは、試合終了のホイッスルが鳴った直後、スペインのヤマル選手がピッチに膝をついてお祈りをささげている様子だった。その背後で、アルゼンチンの大暴れ(下記の投稿の人は「UFCか」と言っている)が展開していたのだが。

 ガザの詩人で不死鳥図書館館長のオマール・ハマドさんは、決勝戦の試合そのものでなく、いきなり導入されたハーフタイムショーなるものを通じて、次のように総括している。

 最後、切れて表示されている文は "This is an irony that the world no longer believes."

訳は……これはnoteのほうでやろうとも思ったが、ページ遷移が面倒なのでこっちでやっておこう。

「ワールドカップ決勝のハーフタイムの間に起きたことは、奇妙な矛盾を前景化させるものだ。アメリカは、自国は平和と愛の土地であるという偽の原則を売り込んでいるときに、私たちを殺戮し全滅させるためにミサイルをイスラエルに送っているわけで、マーケティングされているのとは対照的な真実の側面がありありと示されている。

この皮肉を、もはや世界は信じていない」

【私はガザの人たちの英語を日本語にすることで、その英語を書いた本人にどんなに少額でもお金を入れるという活動をしている。私の作業賃を全額、お読みになった方の自由意志で、原文著者のクラファンに送っていただくという形を取っている。普段はnoteでそれをやっているが、今回はここでやっているので、上記の分、54語×標準レートの1語当たり15円=810円を、オマール・ハマドさんのクラファンに送っていただきたい。利用されているクラファンのサイト、Chuffedの使い方がわからない場合は、拙note記事で使い方の説明をご参照いただきたい。】

 

もう1件。昨年10月に、劣悪な環境の中でオンラインでおこなわれた高校卒業試験で、過酷な状況にもかかわらず驚異のスコア95.1を叩き出したものすごく優秀な女子学生マハ・エドワンさんの言葉。彼女はまだ19歳なのに、一家の長子として、技師のお父さんとともに、一家の生活を支える資金を集め、自身の学業のために資金を集めている。

「ワールドカップは終わりました。というわけでそろそろ私たちに関心を向けていただいてよろしいでしょうか。寄付は止まってしまい。私たちの状況は悪化し、ジェノサイドは続いています。私が家族に食べるものを提供できるよう、どうか金銭的ご支援を賜りますよう。」

【36語×単価15円=540円をマハさんご一家のクラファンに、どなたか、お願いします。今は一番下の妹のジュワンが幼稚園に通えるよう、費用を募っています。私なんかよりずっとずっと優秀な若者で、高い水準にあったガザ地区の高等教育を少しでも受けることができた最後の学年の学生です(ジェノサイド開始時に高校1年生でした)。】

 

マハさんもこの投稿。ニュース映像で伝えられるガザでのサッカー観戦風景は男の人たちの集まりだけだけど、女の人たちもカメラのないところで観戦してるってことですね。ガザについての日本語圏の偏見は本当にひどくて、女性が外に出られないと思ってる人すら普通にいるくらいで(保守的な価値観の家父長制社会ではあるものの、女性が髪を隠すかどうかも個人の選択だし、キリスト教徒もいる)、こういう取るに足らないような細部は、とても重要。

*1:ちなみに、イングランドがアルゼンチンに負けた瞬間に、ABE (Anyone But England) 勢もすっと消えた。ABE勢もイングランド対アルゼンチンでアルゼンチンを応援してた人はいなかったと思う。そのくらい、ひどすぎた。

副詞節内の主語とbe動詞の省略(ノルウェーの2点目)

日本時間で7月12日の早朝におこなわれたサッカー・ワールドカップのノルウェー対イングランドの試合、途中までは何となくテキスト実況をチェックしていたが、途中で「またか」と思わされて、見るのをやめた。(なお、試合の中継映像は見ていないので、細かなところは把握していない。)

その点、ブルーノ・マサンエス*1氏が呆れ返っている文面。添付の映像は観客席からの撮影。

英文法解説ができる部分がてんこもりなのだが、取り急ぎ1点: 

Norwegian second goal was no foul but even if foul it was before play started so not a foul. 

副詞節の中で主語とbe動詞の《省略》がある。それを補うと(あと、ちょっと読みづらいのでコンマも入れておこう): 

Norwegian second goal was no foul, but even if it was foul it was before play started so not a foul. 

これでは "it was", "it was" という連続になってしまって読みにくい、というかほぼ読めない。こういうとき、自然な選択として省略がおこなわれる……のだが、ここは本来、不定冠詞のaがあって "it was a foul" になるべきなのではないかなどともこれを打鍵しながら思っていて、これってfoulを名詞とするか形容詞とするかだななどと沼にずぶずぶと沈みながら考えている。楽しい楽しい冠詞沼。

こういうとき、今はさくっとAIに投げるのが流行ってるかもしれないけど、英文法に関してはAIより素のGoogle検索の方がいいです。特に日本語でAIを使う場合、英文法に関しては、ろくな教師データが与えられていないのだろうけど*2、解説がデタラメなので。

Google検索: 

https://www.google.com/search?q=%22it+was+foul%22

https://www.google.com/search?q=%22it+was+a+foul%22

不定冠詞のないものもあるものも、どっちも文例がある。英米差もありそう……これはこれで沼。

 

ブルーノ先生の投稿の当該箇所の文意は、「ノルウェーの2点目はファウルではなかったが、仮にファウルであったとしてもプレイが始まる前なのでファウルを取られるものではない」という意味。

 

文脈はこれです。

Clément Turpin主審、ノルウェーの2点取消しで一部から批判の声が上がる

 

英文法の他のポイントは、あとで書き足すつもり。

*1:お名前の読み方は https://courrier.jp/news/archives/409031/ で確認した。

*2:ウェブ上にあるいい加減な「英文法ブログ」みたいなものばかり参照していて、江川や安藤といったまともな英文法書を参照していないのだろうと思われる。

「アメリカ人としては、ベストなプレイヤーを欠いたチームに勝ちたいかと言われたらノーだ。だから出場停止処分を取りやめさせたトランプは評価できる」という言説の存在

サッカーのワールドカップで、アメリカ代表のプレイヤーの1人がベスト32の試合でレッドカードを出されてベスト16の試合に出られなくなったら、米大統領トランプがFIFA会長に「処分の見直しは要請したが、指示はしていない」(そりゃそうでしょうよ、「指示」する権限など1ミリもないのだから)という、民族浄化の否認における「退避を勧告はしたが、命令はしていない(退避しなければ爆撃するが)」というのとそっくりなロジックの展開を経て、出場停止処分が「猶予」されて、ベスト16の試合にはスタメンで出場、ということが起きた。

このあとに書く部分で英文法解説できるとは思えないんで、今やっとく。"He gave him a red card." は《SVOO》の構造です。はい、今回の英文法解説終わり。

この画像を使うしかない局面。リーダーありがとう

「ルールなんてくだらねぇから破っとけ、イノベーションのためにならん」っつって、ルールに違反して建造し、深海まで潜って何度目かで、水圧でつぶされた潜水艇がありましたね……。

そしてUEFAがFIFAに激怒し、さらにゼップ・利権食いの汚職まみれ・ブラッター前FIFA会長まで苦言を呈するというすさまじい事態を経た後のベスト16の試合で、アメリカ代表はベルギー代表に4-1でぼっこぼこにされて、大会を去ることになった。まさに Good riddance! としか言いようがないが、めちゃくちゃ苦い思いをさせてもらった後味がまだ残ってるんで、全然メシウマではない。

 

この試合結果を報じるCNNの日本語版記事についているブコメを見ると、どうも、この事態はトランプが悪くて、トランプのやったことはアメリカでも不評だということになっているっぽいのだが、私が実際に眺めていた画面では、「アメリカ人だいたいみんなヒャッハー」な状態だった。つまり、レッドカードによる出場停止を回避するロジックを、広く一般のアメリカ人は受け入れていた。

レッドカードを出されたのはアメリカ代表のエースで、彼が出場停止になると、この3週間でにわかに増えた「サッカーファン」が盛り上がらなくてビールの消費も増えなかったからかもしれない。

と、いわゆる「経済効果」の話がどうしても出てくるのは、レッドカードによる処分を取り消せと言い出したのは商務長官のラトニックだったという報道を見たから。今はDisclose.tvのフィードしか見つけられないんだけど、元はPolitico、手堅い筋の話だ。

USA! USA! と騒げそうだということでにわかにサッカー熱に取りつかれたアメリカ人は、ベルギーがサッカー、いやフットボールの強豪だということすら知らなかったかもしれない。英国人のピアース・モーガン(1ミリも信頼できない奴だが、筋金入りのフットボール・ファンである*1)の番組でリモートでインタビューを受けたアメリカ人(誰なのか私は知らない)の発言。

「ベルギーにいるのが大統領なのか指導者なのかも知らないし、ベルギーのことは何も知らないっすね、ただアメリカがぎゃふんと言わせてやる相手だという認識しかなくて……」的な発言。

バカなんじゃないのと言われても弁解の余地はない。

これにイギリスからこんなリプがついている。

キレッキレでいいですね。「ここまで恥ずかしい奴らだなと思うのは、アメリカがイランとの戦争に30回目に勝って、300bnドルを与えたとき以来」。つい最近じゃないですか。

この画像もいっぱい流れてきた。ルカクの煽りをもろに受けて棒立ちのアメリカ人3人。「ベルギーだかエネルギーだかイデオロギーだか知らんが、ぼっこぼこにしてやんよ」と思ってたんだろうな。

ともあれ、試合前、どうやらアメリカでは、レッドカードの事実上の取り消しについて、「こちらのチーム最強のプレイヤーを欠いていては、仮に相手が勝ったとしても不満足であろう。そのため、相手のためにも、最強のプレイヤーの欠場という事態を生じさせないよう、万全が尽くされたのである」という理屈にもならない理屈が喧伝されていて(絵に描いたようなプロパガンダだ)、それをアメリカ人の多くが真に受けて、USA! USA! とキモチヨクなっていたようだ。その言説が日本に入ってきている感じがしないんだけど、私の視界にはがんがん流れてきてたので*2、書き留めてたのは少ないけど、おすそ分けしておくね。

「アメリカ人として、俺なら、ベストなプレイヤーを欠いたチームに勝ちたいかと言われたらノーだ。やるなら徹底的にな*3。外国では話が違うようだが」とナメたこと言ってるMac氏、試合後に「外国」の人から刺されている。

Economissive氏はNZの方。「これが、最高の状態のアメリカ」と書き添えられた映像クリップは、……ああ、ご愁傷様です。【7月11日追記→】投稿に埋め込まれている映像が著作権問題で消されているので注記。この映像はベルギーの(確か)2点目の映像で、USAのキーパーが前に飛び出していて、ベルギーが楽々と得点を決めたシーンのものでした。日本語記事: アメリカGKが「衝撃的ミス」痛恨の失点 W杯大騒動の一戦で…米ファン憤慨「マジで恥を知れ」【←追記ここまで】

この映像クリップの中でアメリカの解説者が叩いてる軽口をまじめに検討しているFrans Cassar氏は欧州、マルタの方。

「VARをめちゃくちゃな使い方をしたことで競技自体が損なわれたが、それがどういうものだったかを如実に表す発言が、このアメリカ人解説者の『VARでファウルと判定されない限りは』だ」。私は今回、ガザ・ジェノサイドを黙認して平然と行われている大会そのものをボイコットしていて、試合は全然見ていないので、VARの使われ方はよく知らないんだけど、すごく評判が悪いということだけは知っている。

さらに煽る「外国」の人もいる。

この方はチリの方。「ベストなアメリカ代表 vs 最悪のベルギー代表*4。そんな試合でもベルギーにはがっかりした。1点献上したの、このチーム相手に」【7月11日追記→】アメリカの1点はセットプレーからのものでしたね。【←追記ここまで】

「俺らがサッカー強くなってきちゃったから世界がびびってる」と、プレミアリーグで耳にする応援歌みたいなことを言って自信満々のアメリカ人を長文で刺しているこの人はフランスの方です(お名前はイタリア系だけど)。Allez les bleus! 

「親愛なるアメリカの友人のみなさん。ええ、その通り、まさにそうなんです。何しろ、貴国代表の中で最高のプレイヤーは4番目のリーグで7番目に強いチームで4番目に優れたプレイヤーですから。みなさんが、対戦相手の脚を踏みつけることに問題などないと考えていることとは無関係ですし、貴国大統領が堕落した上に歯止めの利かない人物であることとも無関係です」。【7月11日追記→】レッドカードで出場停止になったはずのバログンは、フランスのリーグアンのモナコ所属*5。【←追記ここまで】

あんまりこんなふうに上から目線で語ってるのも見てて気分がよいものではないけどね。そういうのをひっくり返したカーボベルデは、ランキング的にはもっと低いところにいるプレイヤーの集まりだったはず。

一般的には、強豪があんまりナメたまねしてるとぼっこぼこにされるのがサッカーでもあるのだが(3月にウェンブリーで日本にやられたイングランドみたいに)、この試合はそうではなかった。スタジアムはUSAのホームなのに。

試合前に「ぼっこぼこにしてやんよ」と盛り上がってたアメリカ人の皆さんの映像をベルギーのアカウントがさらしている。ハイになってるっぽい人もいるけど(試合会場シアトルだから合法)「ベルギーって、ちっちゃい国じゃん」とか言ってるのはさすがに限度超えてるよね。

これ見て、「うわっ」って思う以前に、私は怖くなった。こんなにも簡単に踊らされちゃうんだ。日本でもサッカー報道(「報道」って言っていいのかどうかはわかんない)はすぐに「撃破」とか「伝説」とか勇ましいことを言って煽り立てるし、サポーターの中に入ると「うおー」っていう人しかいないから根拠もなく「行ける行ける」と上がっていっちゃうものだろうけど、少なくとも日本では、強豪と当たるときは一定の距離感を持って闘志を燃やしていると思う。「胸を借りるつもりで」っていう慣用表現があることも大きいのかもしれない。【7月11日追記→】イングランドのサッカー番組などでは、それで批判もされてるんですけどね……。「腰が引けてる」「もっと堂々とすることを覚えるべき」と。【←追記ここまで】

 

こういうイケイケのお祭り好きばかりではない。一応「インテリ」の区分に入ると思われる人もこうだ。

途中で切れちゃうので全文: 

If rest of the world is pissed at us because we're starting illegal wars or funding Israel's genocide, I get it. But when it comes to World Cup, I'm unapologetically for Team America. This is a country where a Turk and an Armenian can come together and fight against a genocide.

This is a country where we can put old, ethnic grievances aside and work together. This is a country where the citizens expect and demand freedom. It's a gorgeous country with good, decent people. We have a plenty of faults, but this is still a place of hope and opportunity.

I believe in America. And I will always root for it. So, during the World Cup, here's what I have to say to the rest of the world - USA, USA, USA!!!

これは、ガザ・ジェノサイドを止めるべく情報を共有している界隈でよく見かける*6アカウントの発言。発言者のCenk Uygur氏はトルコ系(トルクメニスタン人かもしれない)米国人で、左派ポピュリズムの著名人でメディア運営者。つまり、一般受けするというか、「刺さる」ことを言って生計を立てている人だ。

ええ、トルコ人もアルメニア人もジェノサイドに抗して戦えるのは素晴らしいことですね。でもそれが、レッドカードによる出場停止というルールをひっくり返すことと何の関係が? 誰がそんな話をしてるんでしょう。すり替えもいいところ。

こんなのはサクッとミュートしておけばよろしいかと。

 

まとめとしてはブルーノ先生(ポルトガル)のこちら: 

「これはあとになってからお気づきになられることでしょうが、アメリカ社会は、リベラルも左派も含めて、国旗をまとったものであればどんなものだって支持するんですよ」

 

あと、「ルール無視」ということでの国際政治との関連についての指摘が束にして売るほどあったんですが、それはまた別にまとめておきます。 【7月11日追記→】まとめました→ https://posfie.com/@n0fr1ll5/p/JqHZZkm 【←追記ここまで】

 

こういうの↓がたくさん流れてきた。

Did you want a sense of why and how Israel cheats so profoundly and considers itself wholly justified? Just look at Trump's America and Balogun's red card suspension. Now Americans are explaining that FIFA's decision to cancel the automatic suspension is a reward for his mature behavior when being issued the card in error. Other Americans have gone on a social media rampage, accusing Europeans of being everything from cry-babies to saboteurs. No one doubts the American response should the proverbial shoe have been on the other foot. While no Palestinians are being killed wholesale, this is precisely what Israel does when it moves Gaza's yellow line, when it bombs a tent camp of displaced persons claiming it "thinks it saw a tewowist (think Elmer Fudd)" or when it refrains from fulfilling various territorial promises (evacuating occupied territory in Lebanon) just because it feels like it. Cheating is the heart of murderous solipsism.

【7月11日追記→】発言主のオリ・ゴルドベルグさんは在イスラエルのユダヤ人。ガザ・ジェノサイドを「ジェノサイド」と呼んでいるイスラエル人のひとりで、中東研究を専門とする研究者。病気治療中のため病院のベッドからSNSで書いている。この投稿とか読むといいです。【←追記ここまで】

 

うんざりだよね。ガザの子どもたち見て気分切り替えましょう。

 

【以下、7月11日追記】ブコメたくさんいただきました。ありがとうございます。

「「胸を借りるつもりで」っていう慣用表現がある」相撲発祥らしいので伝播したのでなければ他国では使われまい。

確かに。

検索で見つかった相撲分野の報道の文例: 

仕上げのぶつかり稽古では二所ノ関親方(元横綱・稀勢の里)に指名された。17番連続で取ってへとへとの状態ながらも必死に腰を下ろして横綱を押し「重かったです。きつかった」。現役を引退して5年半以上経っても大関・大の里や白熊の稽古相手を務める横綱に胸を借りたことには「うれしし、です」とおなじみの決めぜりふで感謝した。

https://www.sponichi.co.jp/sports/news/2024/11/06/articles/20241106s00005000162000c.html

 

https://x.gd/bJjCg こちらが詳しいが主張したのは判定でなくVARの運用のほうで、不適切な運用で出されたレッドなので懲戒規程第27条より罰則を猶予しろという論理。論理の導き方、法的措置を持ち出す点が米国的と感じた。 

リンクありがとうございます。 https://number.bunshun.jp/articles/-/871137

一野洋さんによる2回構成のレポートで、2回目はこちら→ https://number.bunshun.jp/articles/-/871138

サッカーにおいてレッドカードを覆すということは不可能なので、そのレッドカードの元となったVARを突いた、という解説は*7、事態発生直後に回ってきた専門家(サッカー・ジャーナリスト)の音声解説で聞きました。私のフィルターバブル内なのでイングランドのジャーナリストの誰かですが、誰だったかは覚えてないです。

で、Numberのレポートの2回目にあるんですが: 

英紙『The Guardian』が問題視したのは、開催国への特別扱いそのものではない。トランプ大統領の働きかけやホワイトハウスによる法的対応の動きを詳報した上で、「もし今回のような手続きが認められるのであれば、今後は同様の法的異議申し立てが相次ぎかねない」と指摘した。ベルギー協会が「大会の公平性」を理由に強く反発したことも紹介し、この裁定がワールドカップの運営に与える影響へ警鐘を鳴らしている。

 

この記事が7日に出たのと前後して、こういうことが起きてたんですよね。The Sunの政治部エディターの投稿: 

この話↑は個人的にはよくわかりませんが(試合開始時刻の話まで私は追ってない)、イングランドのサッカー協会(FA)ではなく、英首相がFIFAに直接接触したというのが重要。FAが言うべき話だと思うけど、違うんですかね……。

で、そのメキシコとの試合でレッドカードもらったイングランドのジャレル・クアンサーは、今度は1試合ではなく2試合の出場停止。

この「2試合の出停」という判断の前に何があったかというと: "A government minister has suggested that Sir Keir Starmer is 'probably texting' FIFA to overturn England star Jarell Quansah's World Cup suspension." 

https://metro.co.uk/2026/07/06/keir-starmer-colleague-suggests-pm-may-intervene-england-stars-red-card-29061470/

 

政治家が公然とスポーツ大会に介入するというこの事態を、私が見る画面では人々が「第三世界か!」と非常にアレな表現 (third-worldism) を使って憤っていました。国家が大会に政治的圧力をかけて、それでも負けて国に帰ったら投獄されるとか拷問されるとかいうのが、「第三世界」の独裁政権では実際にあったわけですが、もはやその「第三世界」という旧植民地に対する上から目線の設定自体が崩壊しているという……。

 

まあ日本人の大半も、ベルギーは首相なのか大統領なのか知らないし、地図でどこか示せないので、アメリカ人の無知を笑えるレベルではない。

いやあ、「大半」ってことはないんじゃないですかね。「ベルギー王室御用達」はチョコレートの高級ブランドの惹句になっているし、中学でも「立憲君主制の国」として習うはずだし、それに普通につい最近のニュースであったばっかりじゃないですか。

天皇皇后両陛下は、6月20日から26日までベルギーを公式訪問されました。
国王夫妻と旧交を温めたほか、愛子さまと同い年のエリザベート王女をはじめ4人の子どもたちとも親交を深められました。

https://www.fnn.jp/articles/-/1070679

ひょっとして、「国王」(君主制)と「大統領」(共和制)は両立しないということを日本人の大半は知らない、という話じゃないですよね……実際に私も学校でそれを習った記憶はないのですが。

 

あと、文中に書いた件、文脈を書き留めておくために本題以外のものも多めですが下記にまとめてあります。単にまとめただけで小見出しなどは入れていません。"米大統領の「要請」でFIFAがサッカー・米国代表のレッドカードを事実上なかったことにした件。国際法における法秩序の無視との連関まで指摘されている。"

posfie.com

さらに、どうでもいい追記。当エントリにスパムコメントが投稿されましたので、はてなユーザーのみなさんにIDを共有しておきます。下記画像をご参照ください。画像にALTテキストつきです。はてな運営には通報済みです。

id:yy9882はスパム。はてな運営には報告済

 

 

 

*1:ちなみにグナ。

*2:主に、呆れかえって引用で投稿している欧州の学者界隈のせいで流れてきていた。

*3:"I want all the smoke" はアメリカのスラングの表現だそうだけど、私がおもしろいと感じないのでスルー。銃を文化ってことにしてる国で、始終誰かが撃ち殺されているヒップホップ界隈発祥の表現。

*4:ベストなメンバーはベンチだった……。デブライネは最初から最後までベンチだったし、ルカクも途中で投入された。

*5:ユースからプロデビューまではアーセナルで、ヴェンゲル人脈かな……。ちなみにアメリカ目線では、彼の両親は英国在住のナイジェリア人で、母親がたまたま訪米中に彼を産んだため、彼自身はイングランド育ちでアメリカとはほとんど縁がないにも関わらずアメリカ代表となっている。そう、トランプ政権がなくしたがっている「アメリカで生まれたために米国籍を持っている市民」のひとり。

*6:見かけるだけでフォローはしていないので、実はよく知らない。

*7:ここで各日本語は私の脳内に格納されている要旨で、そのままの文言だったわけではありません。

強調によってonlyの句が前に出たことによる倒置、など(サッカー・イラン代表がロッカールームに残した言葉、アルジェリア代表への歓迎、など)

前回のエントリで、サッカー・ワールドカップのために米国入りしているスコットランド代表のサポーターたち、通称「タータンアーミー」のことを書いたが、米国各地にポジティヴな足跡を残したのはスコットランドだけではない。

まだこの後があるので厳密には「足跡を残した」わけではないがノルウェーは代表サポが街のあちこちや観戦に訪れた野球のスタジアムで「バイキングの船漕ぎ」をやって盛り上げ(シンプルな動作なのでとても親しみやすいというのも受けたみたい)、カンサス州ローレンスという大学街をキャンプ地としたアルジェリア代表は街の人々のハートをつかんで、街の人たちがアルジェリア国歌を歌うなどして熱く応援している。「イスラム教徒は入国させるべきではない」的な極論に支配されているかのように見える米国だが、実は政治家やプロパガンディストと遠いところにいる一般の人たちはそんなでもないということが広く世界に共有されたことは、アメリカの人々にとってよいことだっただろう。ただこれはスティーヴン・ミラーなど今の政権の中枢にいる過激派イデオローグには面白くないだろうから、祝祭が終わったあとがどうなるかは心配だ。「移民を歓迎するアメリカ人」に対する締め付けを強めるだろうから。

アルジェリア代表を応援するローレンスの人々、地元のバーにて。

ローレンスの町がいかにアルジェリア代表を歓迎したかは、こちらのTwitter/Xのまとめにも。

https://x.com/i/trending/2064423348126580819

あと、代表がキャンプ地に入ったころに、何とかっていう国会議員だか元議員がSNSに投稿していた現地報告がバイラルしてて、懐疑的な人は「アメリカ人が気分よくなれる物語だよね」と冷めた見方をしていたけど、全般的に好意的にとらえられていたものがあったなあ、とぼんやり思い出してTwitter/Xで検索してみたけどうまく探せず、duck.aiでChatGPTやClaudeに探させたけど「その議員の名前を教えてください」とか言い出すありさまで(それがわかれば大量の資源消費を生じさせるあんたたちには聞いてない)全然使い物にならなくて、ダメ元で古典的にGoogle検索したら2秒もかからずに見つかったっていうね。やっぱり古典的Google検索が一番強い。

https://www.google.com/search?q=congressman+algeria+lawrence

Adam Kinzingerというお名前の元国会議員で所属政党は共和党、トランプ弾劾に賛成票を投じた人。Google検索結果トップに出てるのはRedditだが、元投稿はFacebookにある。

www.facebook.com

高校のときに学校で使ってたリーディング教材を思い出させる見通しの良い文体で、ポジティヴな気分になれることを綴っている。ぜひご一読をおすすめしたい。

アルジェリア代表がローレンスの町の人々に歓迎されたのは、代表チームが明るくオープンな態度で、街の人たちがすごく楽しくなったということが一番のようだ。2002年大会時のことがご記憶にある方ならばきっと、カメルーン代表と大分県の中津江村のことを思い出されるだろう。

2001年11月、出場国で最も早く公認地に選ばれた。まだ予選リーグの組分け前、日本か韓国か、どちらで試合があるかも分からない状況で選んでくれた、それがカメルーンだった。

村の人は国がアフリカのどこにあるのかも知らなかった。中津江中学校にはサッカー部もない。競技自体に「?」の村民も多かったという。ただ、そこからの一体感が、小さな村の類を見ないキャンプ地物語を動かしていった。

むかしカメルーン代表、いま大ヒットアニメ聖地…中津江村に行ってみた - サッカー : 日刊スポーツ・プレミアム

 

一方で、今大会で一番気の毒な立場に置かれたイラン代表は、開催国のひとつである米国とFIFAからひどい扱いを受けたが(試合はアメリカの都市で行われるのに、アメリカに滞在することを許可されず、試合当日に飛行機でメキシコから移動している。さらにチームスタッフや協会の人の中には入国拒否されている人もいて、万全の体制ではない)、キャンプ地のメキシコのTijuanaでは熱く歓迎されている。

イラン代表のプレイヤーはおかげでスペイン語を少し覚えてしまったそうだ。7番の人のインタビュー(英語。欧州のどこかでプレイしているのだと思うが、日本人プレイヤーがここまで英語でなめらかに話をしたら日本のメディアが「流暢な英語を披露」とかって大はしゃぎして、複数の出版社から「〇〇選手の英語本」が出るだろう、というレベルで流暢)。

 

グループリーグ最後の試合は遠くシアトルで行われたが、イラン代表は試合が終わってその足で空港に行くことを余儀なくされ、メキシコのキャンプ地についたのは朝の4時だったそうだ。W杯開催国決定時にはアメリカがこんなふうになるとは予想もされていなかったとはいえ、今回のこれは、到底、まともなスポーツ大会ではない。イランと同じ組で勝ち残ったチームも、釈然としない思いはあるだろう。

で、グループリーグ最後の3試合目(対エジプト)も、粘りに粘って最後に押し込んだゴールがVARの結果認められないということになり、試合結果は1-1の引き分けで、別試合(オーストリア対アルジェリア)の結果により、グループ3位のイランはトーナメントには進めず、これで帰国することになった(イラン代表は逆境の中での3試合すべて引き分け)。まともに試合できる環境も得られない中で、最後までつないだ望みをこんなふうに断ち切られたら、口もきけなくなるだろうに、彼らは試合後にきれいに片付けたロッカールームにこんな手書きのメッセージを残していったのだという。

https://x.com/wire_pitch/status/2070874535109259722/photo/1

赤で書き添えられた #minab のハッシュタグに、彼らが背負ってきたものの大きさと重さを思う。(#168 というハッシュタグの数字は、ミナブの学校爆撃で報じられた犠牲者数で、シンボル化している数字。最終的には負傷者が病院で亡くなっているので、さらに増えている。)

 

というところで英文法実例。上記手書きメッセージの6行目から: 

Perhaps points can be won in many ways, but respect cannot.

Perhaps a teams can advance from a group, but only through fairness and honor can one stand tall before history.

……かっけぇ……。

文法的には、

but only through fairness and honor can one stand tall before history

この下線の部分が《倒置》の構造。強調のため "only" とそれに続く句(意味のまとまり)が前に出たことにより、主語の "one" と述語動詞の "can stand" のところに倒置が生じて、"one can stand" が "can one stand" となっている。

この "one" は「人」の意味を表す代名詞。古風で威厳のある響きも伴う表現で、これを書いたのが、外国語としてがっつり英語を勉強した人だなという印象もある。

文意は、「ポイントの勝ち取り方は1つではないのかもしれないが、レスペクトを勝ち取るには1つの道しかない。チームは(何をやっても)グループステージから勝ち抜けることができるかもしれないが、歴史を前にして胸を張ることができるのは、公正さと名誉を通じ(てそれを成し遂げ)たときだけだ」。

つまり、「勝ち点を多く取ればいいというのなら何でもありかもしれないが、汚い手を使えばレスペクトは勝ち取れない。勝ち抜ければ何でもいいという考え方もあるかもしれないが、フェアなやり方をしていなかったら堂々と胸を張ってはいられない」ということだ。イランの勝ち抜けは別組でのアルジェリアとオーストリアの試合の結果次第となっていたが*1、その試合が途中からやる気のない、ただのボール回しみたいな形で両者3点ずつのドローだったということで、「自分が上に進めれば何でもありなのか」という憤りがあるわけだ。当然だろう。「それもサッカーのうち」と涼しい顔をするのがかっこいいんだろうけれど、今大会で急にこの方式が来たので。

 

イラン代表のメッセージのその次の行: 

Fairplay is not just a line in football's rules, (but) it is the soul of the game.

《not just[only] A but B》の構文で、口語的にbutが落ちてしまっている形。文意は「フェアプレイとは、サッカーのルールにある1本のラインのことだけではなく、この競技の魂だ」。最後の最後にVARで認められなかったゴールがあまりに微妙なオフサイドという「1本のライン」にかかわるものだったということを踏まえれば、この一文に込められた無念さが伝わってくる。

これは、2002年大会のときに行っていた都内のパブで隣り合って雑談になったアフリカの国の人たちも皮肉を込めて言っていた言葉である*2。「フェアプレイ」を言う側が勝手に決めたルールを金科玉条のごとく押しつけておきながら、自分たちは恣意的に適用するのが常だ、という皮肉で。

イラン代表の言葉にはその皮肉のニュアンスはなく、抗議のニュアンスだけがある。「フェアプレイという金科玉条を大真面目に信じてきたのに、自分たちはフェアに扱われていない」という抗議。

 

なお、私がイラン代表が残していったこのメッセージのことを知ったのは、Pitch Wireというスポーツニュース(主にサッカー)のアカウントの投稿からだ。このアカウントは英語とアラビア語併記で運営されており、使われている英語はイギリス式。アカウント情報を見ると拠点はスペインとあるので、欧州でイギリス英語とアラビア語を使う人(たち)がやってる情報アカウントということはわかる。

で、このアカウントがイラン代表の手書きメッセージに手を加えた編集版の文面を投稿しているので、それも見ておこう。これが実例として見られるのは非常に珍しいことで、誰かが書いた原稿を編集者が手直しするとこうなる、という点での実例だ。私が書いたものも編集の手にかかればこんな感じでバッキバキに直されるのがデフォだが、私にある文法ミスはイラン代表にはなくてすごい。

https://x.com/wire_pitch/status/2070874535109259722

これはテキスト分析するようにして読むと、いろいろ見えてくる。stand tallをhold one's head highと言い換えるようなのは好みと言えるかもしれないが、fairplayをsportsmanshipに書き換えているのなどは、かなり思い切っているように見える。sportsmanshipといえば、映画『炎のランナー』に描かれていた時代の英国ではスポーツマンシップには「アマチュアであること(スポーツによって収入を得ていないこと、曲芸やサーカスなどの芸人ではないこと)」が必須の条件だったが、今やあの映画でイギリス人によって敵視されていたものとして描かれていたアメリカ流の「プロ」スポーツが定着したうえでますます先鋭化し、巨大ビジネス化して、そこにFIFAが居座って、そこに今回の大会がある。

 

また、Pitch Wireの投稿の冒頭には "Iran leave another message" とあるので、イランがロッカールームに手書きメッセージを残していったのはこれが初めてではないとわかるのだが、その以前のメッセージが下記。

確認してみると、イラン代表の試合は最初の2試合がロサンゼルスで、3試合目がシアトルだったので、これはLAでの2度の試合が終わったときのものだろう。

 

 

*1:これまでみたいに、「4チームのグループ中上位2位が上に行ける」っていう形の方がいいよね。ていうか今回、本当にボイコットしているから、グループ3位のチームも一部を除いて上に行けるという方式だということも、スコットランドについてスコットランドのメディアが騒いでいたから数日前にようやく知ったんだけど。

*2:失礼なことにどの国の方だったかは思い出せないのだけど、カメルーンではなかった。というか大会前のカメルーン代表のもっと給料上げろという要求に始まるごたごたを強く批判していた。

時制、いわゆる「ウナギ文」、不定冠詞など(ガザで医療ボランティアをしてきたスコットランド人)

前回取り上げた北アイルランドDUPのジェフリー・ドナルドソン(の「秘密」と、実はそれを知っていた政治家たち)について、毎日本当にひどい話が出てきていて、ちょっと癒しが必要なので、とてもシンプルな実例について書く。英文法は癒しだ。

今回のサッカー・ワールドカップは完全にボイコットしていて、試合結果すら自分から進んでは見ていない。ガザ・ジェノサイド以降、サッカーに興味を失ってしまった(ガザ地区であれほど多くのサッカー選手が殺され、施設が破壊されているときに、うんともすんとも言わない「フットボール・コミュニティ」とやらに呆れた)というのもあるが、2018年のロシア大会以降、構造的に、FIFAを受け付けなくなっている(ちなみに2018年、ロシアはとっくにウクライナに対する暴力を行使済みであった)。

だが、ニュースとして入ってくる情報というのはあって、私のフィルターバブル内ではガザ・ジェノサイドへの現地の反応についての報道を積極的におこなってきたスコットランドの地域紙The Nationalが大きな存在感を持っているので、今回何十年ぶりだかでW杯に出場したスコットランド代表とそのサポーター、特に「タータンアーミー」と呼ばれるスコティッシュ・ナショナリズムを絵に描いたような人たち*1のことは、毎日流れ込んでくる。

スコットランド代表はグループリーグ3試合のうち2試合をボストンでやっていたそうで*2、ボストンの街がタータンアーミーの奏でるバグパイプの音に満たされ*3、街頭のバスカー(ストリートミュージシャン)とタータンアーミーの即興演奏が行われたり、ボストンじゅうのパブの酒が飲み尽くされてしまったり*4、グラスゴーの伝統(?)に従って街角にある彫像という彫像にはトラフィックコーン(カラーコーン)がかぶせられたりしていて、ボストンの人たちがあまりの楽しさに「帰らないでほしい」と言い出すことになった。ボストンは周知のとおりアイリッシュが多い街なので、「ケルト」のつながりを語る向きもあった。

ちなみに、試合日程によりスコットランドは3試合目はマイアミに移動し、マイアミでもまたタータンアーミーがポジティヴな印象を残したあとで、おそらくグループリーグ限りで帰国することになる。

この人たちは何なの、ケン・ローチの映画から出てきたの。

サッカーの試合がない日は地元のスポーツを見に行こうっていって、大挙して野球を見に行ったりしているのも好印象のカギになったようで、「国際交流」のお手本みたいな人たちだとも思う。

本当に、これだけやかましい系の人たちがこんな人数で集まっていて、誰も暴れていないだけでもすごいと思う(イングランドの見すぎ。ちなみにボストンの「ザ・ダブリナー」というアイリッシュパブは、イングランドの試合がボストンで行われる日は「タータンアーミーさんさようなら、みんなお疲れ。というわけで休暇が従業員に必要」という貼り紙を出して閉店していた。涙出た。これでも、おもしろくもない歴史参照*5を見かけなかったのはとてもいい気分)。

 

そんななかで流れてきたのが下記。「サッカー・ワールドカップで自国代表の応援に行ったスコットランドのファン、イスラエルの旗を見て『フリー・パレスタイン(パレスチナ解放)』と声を上げる」というリード文が添えられたツイートだ。

映像を見ていただきたいのだが、リード文で "A Scotland fan" と説明されているのは金髪の女性で、彼女が「フリー・パレスタイン」と言った直後に撮影者が彼女に問いかけている。それに答えて彼女は

‘I was a nurse in Gaza 🇵🇸’
‘I volunteered’
‘I saw it for myself’
‘It is a genocide’

と答える。中学生で問題なく読めるくらいシンプルな英文だが、《時制》の使い方のエッセンスがぎゅっと詰まっている。

以下、私が中学のときにこういう説明を受けていたらよかったのにと思うようなことを書く。

まず、動詞の過去形で表される《過去》の時制だが、これは「過去の事実」を述べるときに使う。「今日は朝6時に起きた」、「朝ごはんにヨーグルトを食べた」、といったものだ。また、「私は6歳のときに大阪に住んでいた」、「子供のころはレゴ遊びに夢中になった」といったもの。あるいは「1945年に日本の敗戦で戦争が終わった」とか、「紫式部は『源氏物語』を書いた」といったもの。例ならいくらでも思いつくだろう。

ここでは、スコットランド代表ユニを着て子供を腕に抱えたこの女性は、

‘I was a nurse in Gaza 🇵🇸’

「ガザで看護師をしてたんですよ」


‘I volunteered’

「ボランティアで行ったんです」

と、過去時制で自分が何をしたのかという過去の事実(自分の行為)を述べて、流れるようにして、

‘I saw it for myself’

「自分の目で見たんです」

と、質問の意図に食い込むように一歩踏み込んで、自分の体験を述べる。そして間髪入れずに、

‘It is a genocide’

「ガザはジェノサイドです」

と、ここは《現在時制》で述べている。それは、ガザのジェノサイドが現在行われている現在の事実だからである。

仮にこれが「私の見た限りでは」という話なら、ここは It was a genocide. という表現になっていただろう。

また、主語の "It" は《漠然と状況を表すit》だが、日本語にすれば「ガザ(で起きていること)はジェノサイドです」だ。

 

これで思い出した。以前、下記のような実例を見たのだった。

 

発言者のミズ・レイチェルは、米国の子供番組の司会進行者で、「うたのおねえさん」的な人。ガザ・ジェノサイドを早い段階から「ジェノサイドである」としており、「子供を殺すな」と言って「反ユダヤ主義者」呼ばわりされている著名人のひとりである。「レイチェル」という名前がユダヤ系の女性名でことから考えて、「イスラエルの方針を否定する身内」として激しく攻撃されているのだろう。

 

genocideは、warなどと同じで、それ自体は《不可算名詞》だが、個別の具体的事象を言う場合は《可算名詞》となる。「戦争というもの」は抽象的存在だからwarだが、「イラク戦争」や「ベトナム戦争」は具体的な存在でa war, 「イラク戦争とベトナム戦争」というように複数の戦争を言う場合はwarsとなる。Genocideも同じである。

ガザ・ジェノサイドの時代に、「ジェノサイドが可算名詞となる」ということがつきつけられるようになって、私が見る世界は重苦しくなった。世界を重苦しくする《不定冠詞のa》、である。

ジェノサイドといえば、今日は、イスラエルがアルメニアのジェノサイドをジェノサイドとして認めるとかいう話も流れてきた。これまで「ジェノサイドは唯一無二、われらの上にしか起こりえなかった」という立場で、ガザ・ジェノサイドも否認し、否認するためなら何でもしてきたイスラエルが、トルコとの敵対関係を固めるために、歴史的事実を利用しにかかってきたのである。ショアー(ホロコースト)より先にジェノサイドが発生していたことを認めたら、足元が崩れるだろうに(実際には、足元を崩さないために、ますます無理と嘘を塗りこめて、事実をゆがめるだろう)。

*1:在外スコットランド人も多く参加している。

*2:ほかの代表はあっちこっち長距離移動を余儀なくされてるのに、そういうくじ運もあったのかー、と。米国と交戦and/or停戦中のイランは「国際政治ニュース」枠で情報が入ってきたのだが、本当にかわいそう。

*3:もっともよく演奏されるThe Braveって確か軍歌のはずなんだけど、「野山と動物たちを描写した平和的でほほえましい曲」のように聞こえた。

*4:バドライトしか残っていなかったそうだ。「バドライトはタータンアーミーでさえ飲まない」とアメリカ人に笑われていた。

*5:ボストン茶会事件。

仮定法過去完了(北アイルランド、大政党DUPの党首だった政治家が、性犯罪18件で有罪に)

前回、ものすご~~~く地味で、世間の人々にとってはものすご~~~くどうでもいいけれど、その筋の方々をざわつかせた実例で取り上げたのが、英首相キア・スターマーの退陣表明という大きなニュースで、これは日本語圏でも記事になっていた。だが、それとほぼ同じタイミングで北アイルランドから出てきたこの衝撃ニュースは、たぶん日本語圏ではスルーされているだろう。

今月、ベルファストでの暴動について、「北アイルランドといえばIRA」という完全に間違った思い込み(あるいは政治的な思惑)から「IRAがやった」という方向で騒いでいた人々も、情報源が日本語だけだったら、きっと知らずにいるだろう。英語でニュースをチェックしていても、北アイルランドに関心がなければ捕捉されなかったかもしれない。何しろ英首相退陣と同じタイミングでのニュースだから。

 

このブログで紹介するのを忘れていたけれど*1、先日北アイルランドについて書いたときにブコメなどを拝読して必要性を感じたので、北アイルランドについての基本についてまとめておいた。普通に書くと長文にならざるをえないので、読むことに苦痛が伴わないよう配慮し*2、スライドの形にした。Docswellにアップしてある。このファイルのPDF版はnoteにアップした(Docswellだとリンクがうまく表示できないため、noteに置いてある。中身は同じ)。CC BY-NC-ND 4.0での公開なので、非営利でのご利用は改変しないことを条件にご自由にどうぞ(営利目的では使わないでください。原稿料が発生する仕事としてのご依頼があればお受けしますが)。

www.docswell.com

「北アイルランドといえばIRA」という知識しかない方は、今回のエントリを読む前にぜひこのスライドをご一読いただきたい。今回の衝撃ニュースは、ユニオニスト側(つまりプロテスタント側)で起きている。IRAと関係のない方だ。

そして、「性犯罪絶対に許さない」「女・子供を守れ」っつって暴動も辞さないはずのイングランドや北アイルランドの移民排斥論者は、今回、デモのひとつも起こしていない。

 

■目次■

 

DUPのジェフリー・ドナルドソン

DUPという政党

北アイルランドの「DUP*3」という政党、と聞いてピンとくる人が日本語圏にどのくらいいるか、私は知らない。何でもかんでも日本語にしなければならないという時代*4を引きずっているマスコミ用語では「民主統一党」と言われているが、上記スライドの6ページ目に書いた通り、この政党の「U」すなわちUnionistは「統一」の意味ではない(連合王国の「連合」である)し、「D」すなわちDemocraticも「民主」と訳すと微妙である(反ローマ・カトリックの宗教的概念を前提とした表現である)。

この「DUP」という政党、すなわちDemocratic Unionist Partyは、イアン・ペイズリーという宗教家が立ち上げた政党である。ペイズリーは名前を見りゃわかるとおりスコットランド系で、宗派としてはプレスビテリアン(長老派)だが、既存のプレスビテリアンに飽き足らず、自分の宗派「フリー・プレスビテリアン・チャーチ」を立ち上げた過激派である。映画『ベルファスト』に主人公の少年バディをおびえさせるような恐ろしい説法をする牧師が出てくるが、あれのモデルがペイズリーである。ペイズリーは米国の「ディプロマ・ミル」と位置付けられている大学で宗教の学位を取っていたりして、書くことが多い人物なのだが、それを書いてると先に進めないので割愛する。

そんな宗教家の立ち上げた政党だから、ゴリッゴリの宗教政党である。党員の宗派は党首の宗派に限らないが、プロテスタント(非国教会)で反カトリックであることは基本中の基本、という党だ。北アイルランド紛争を「宗教紛争」と位置付けたがる人は、単純な勘違い*5でなければ、ユニオニスト/プロテスタント側の人である。

ゴリッゴリの宗教政党にはゴリッゴリの人が集まっている。「進化論は学校で教えるべきではない」とかいうのはアメリカに限った話ではない。そういった科学否認だけでなく、「家族の価値」云々の言説ももちろん基本中の基本みたいになってるし、その価値観からの同性愛否定・差別の問題もリアルだ。

そういう「家族の価値」論を他人にも社会全体にも押し付ける人が、自分は自分と婚姻関係にある人以外と関係を持つ、ということもある。それで大騒ぎになったのが、党設立者イアン・ペイズリーの右腕でペイズリー引退後に跡目を継いだ形のピーター・ロビンソンの妻、アイリス。ロビンソン夫妻は夫婦そろって政治家だったのだが、妻のほうが20歳も年下のカフェオーナーに惚れて、浮気した(カフェオーナーのほうは、大物政治家には逆らえなかった、という程度)。夫婦間では泣いて謝れば済む話だったかもしれないが、「家族の価値」を振りかざしてアイリスにボロくそに言われていた北アイルランドのゲイの人々や、婚姻外で(妊娠させられて)子供を産んで差別され子供も奪われるといった目にあわされた人たちにとっては到底許せない話だ。アイリスは政界引退した。一方の夫は思わぬところで「弱い一面」を見せたことが逆にいい影響をもたらしたみたいで塞翁が馬みたいだったが、和平プロセスが進むにつれて、反カトリックの党で「これからは教派の対立ではなく政策で戦っていこう」という方針を立てるようになり、党員(の中でもベテランの強硬派連中)の反発を買って降ろされた。

ピーター・ロビンソンの次にDUPを率いることになったのがアーリーン・フォスター。女性である。彼女は、タイミング的にちょうどBrexitのときに党運営をすることになって、英国政府(テリーザ・メイ首相)との交渉でかなり目立っていたから、日本語圏でもご記憶の方もおられよう。だが、再生エネルギー導入促進策を悪用した利益供与というスキャンダルも乗り切った彼女も、Brexitで党内強硬派が求めるような「ハード・ブレグジット」を実現できず(彼女じゃなくても、誰も実現できなかったと思うよ……)、やがて党内から「あまりに穏健すぎる」と言われて退陣。DUPってのはそういう党である。

フォスターのあとの党首としてDUPが選挙で選んだのが、ヤング・アース論を奉じる宗教過激派のエドウィン・プーツである。ちなみにこのときはまだ北アイルランド自治政府の第一党はDUPだったので(和平プロセスで自治政府がまともに機能するようになって以来ずっと、第一党はDUPだったのだが)、「北アイルランドの政治トップがビッグ・バン否定、進化論否定で、聖書に書いてあることを事実と信じるヤング・アース論者」ということになってしまい、さすがにやばいだろとヲチャとしても顔が笑ったままになるよりなかったのだが、プーツは1か月で党首の座を降ろされた。(以上、ソースはウィキペディアの「DUPの党首」の項、およびそのリンク先)

あのとき具体的に何がどうなっていたのかはもう忘れてしまったが、こうして2021年6月末にDUP党首となったのが、ジェフリー・ドナルドソンである。

ジェフリー・ドナルドソン

ドナルドソンは元々はDUPの政治家ではなく、UUP (Ulster Unionist Party) の所属だった。UUPは、DUPが台頭するまで北アイルランドの第一党だったユニオニストの政党だが、1990年代の和平進展の中で、絶対的な敵としてきたシン・フェインと政治的な権限を分かち合う「パワー・シェアリング」に応じるという判断をした。この判断をした当時の党首、デイヴィッド・トリンブルはノーベル平和賞を共同受賞することになる。

一方で、これにより、UUPという政党は有権者の支持を失い、党内からも人材を失った――「IRAが武装解除するまではシン・フェインと交渉などすべきではない」的な立場(今のイスラエルがハマースについてどう言っているかを参照すると話がわかりやすくなる)だったジェフリー・ドナルドソンはUUPと決別し、より「過激」なDUPに移籍した。

そのDUPもまた、ドナルドソンの移籍から数年後にはシン・フェインと同席してともに自治政府を動かしていくことになる。その過程でDUPも有権者の一部の支持を失い、党内からは過激派が離脱して超過激派の政党を立ち上げるなどしていくのだが、ドナルドソン自身は、いわゆる「時代に合わせた変化」を成し遂げたというか、シン・フェインに対して昔のような強硬な態度では臨まなくなっていた。DUPの中でドナルドソンは順調に出世し、国会議員として当選していて、エリザベス2世のもと、ロンドンの枢密院のメンバーに選ばれたりもしていた。

まあ、つまり、「家族の価値」を重視する政党で、現実を見て堅実に仕事をしている政治家、だったわけだ。

2021年に党内の争いとゴタゴタがあり、フォスター退陣とプーツの党首当選、そして1か月もしないうちにプーツの退陣ということがあって、党首になったのがドナルドソンだった(このときのメインの政治課題はBrexitに際して北アイルランドをどうするかということだった)。

このとき、確か自治政府は機能していなかったのだが、DUPは自治議会第一党で、自治政府トップ(ファーストミニスター)を出していた。それが、党首ではなく副党首の人で(どういう経緯でそうなっていたかはもう私も思い出せない)、そこでごちゃごちゃしているなかでおこなわれた2022年の自治議会選挙で、DUPは第一党の座を失った――シン・フェインが第一党になったのだ。

だからドナルドソンは、DUPの党首ではあっても、北アイルランド自治政府のファーストミニスターは経験していない。

2022年5月の自治議会選挙のあとはまた政治が空転していて、その選挙結果を反映した自治政府が発足したのは2024年2月だった。第一党のシン・フェインからミシェル・オニールがファーストミニスターとなり、第二党のDUPからエマ・リトル・ペングレーが副ファーストミニスターとなった。その翌月、2024年3月に、ドナルドソンは逮捕された。政治家の逮捕といったら汚職とか職権乱用の類かと思ったらびっくり、性犯罪だった。しかも被害者は若年者 (minors) で、ドナルドソンの妻も一緒に逮捕された。

ちょうどジェフリー・エプスタインとギレーン・マックスウェルのことが始終ニュースになっていたころで、夫婦そろっての未成年者への性犯罪での逮捕ということで何があったのかと目を回すよりなかったが、英国のことなので、公判にならない限りは具体的なことは報じられない。(この前書いたとおり、陪審団に影響を及ぼすことがないよう、事件についての詳細な報道は、裁判が終わるまで、事実上禁止されている。)

 

ドナルドソンの裁判とその結果

それから2年2か月もの歳月をかけて、2026年5月にようやく、ドナルドソンの裁判は始まった。夫のほうは普通に公判がおこなわれたが、妻のエレノア・ドナルドソンは精神的に耐えられないと判断されて通常の刑事裁判ではなく、事実認定裁判 (trial of the facts) という形になった。これは現地でも珍しいようでメディアで用語解説記事のようなものがよく出ていたが、起訴事実にある行為をおこなったかおこなっていないかは法廷で判断されるが、それによって刑が科されることはないというものだそうだ。病人向けの制度だろう。

ジェフリー・ドナルドソンは1980年代から2000年代にかけてのレイプを含む18の罪状で起訴され、すべて「無罪」を主張していたが、裁判を終えて6月22日に陪審が出した結論は、18件すべてについて有罪、というものだった。妻エレノア・ドナルドソンも起訴されていることはおこなったと判断された。ジェフリーが子供に対して性加害し、エレノアはそれを止められたのに止めなかった、というのが大筋だ(なのでエプスタインとマックスウェルのような悪辣な組織犯罪ではないと考えられる)。

今回の裁判の被害者(サバイバー)は2人だが、被害者が本当に2人だけなのか、裁判までできる力があったのが2人だったのかはわからない。うち1人はドラッグ依存で助けを求めた団体の施設で被害を打ち明けたということが裁判の過程で明らかになっている。つまり、常套句でいう「人生を壊された」状態に陥れられている(というと「その人のドラッグ常習と性被害との関連は証明されてないですよ? 断定するのはどうかと思いますが?」と知らない人から絡んでこられるだろうが)。

加害の具体的な内容は、法廷で明らかにされたこととして各社報道で伝えられてはいるが、あまり詳細なものではない(ベルファスト・テレグラフの記者は「法的事由で報道ができないものもあるが、仮にその制限がなくても、細部は到底紙面に掲載できるものではない」と説明している)。実際の法廷での発言を引用しているため、法廷で使われる事務的な表現で描写されているそれは、それでも、十分に痛ましい。特に、男に加害されているときにその男の妻が助けてもくれなかったというのは、年若い被害女性をどれほど傷つけたことだろう(本当に誰も助けてくれないからね。「1対1にならなければ大丈夫」と思ってる人は本当に気をつけて)。

ジェフリー・ドナルドソンの量刑は9月に言い渡しになるとのことだが、6月22日に裁判が終わってその場で収監された。おそらく刑期は長いものとなるだろうと言われている。

結審までは、現地の裁判で一般的なように、身柄は保釈されていて裁判の都度出廷する形だったので(北アイルランドでは武装組織メンバーの裁判も拘置所に留め置かれたままということはあまりない。よほど狂暴なテロリストや、海外逃亡のおそれのある人物は拘置所に留め置かれるが)、政治家時代と同じパリっとしたスーツでニュース写真になっていたが、ドナルドソンがそのような姿で公に姿を現すことは、少なくとももう当分はないだろう。

 

【英文法実例】仮定法

ドナルドソンの子供に対する性犯罪による有罪評決と収監という衝撃的な事態を受けて、Brexit関連の交渉でアイルランド共和国側の窓口役を務めたサイモン・コヴニー前外相がメディアのインタビューに応じている。コヴニーは現在は政界を引退してコンサルに転身している。

インタビューでのコヴニーの発言からTwitter/X投稿で文字起こしされている部分: 

I would never, ten years ago, five years ago, have even contemplated that he could have been convicted of these crimes

太字にした部分は《仮定法過去完了》だが、この文にはif節がない。《条件》の部分が言うまでもないというか、わざわざ言語化しないときの構文だ。

contemplateは他動詞で「~を真剣に考える、~を熟考する」の意味。

この文は、「10年前、あるいは5年前に、彼がこういう犯罪で有罪になることがあり得るなどと言われても、真剣に取り合うことなどなかっただろう」といった意味。

実際、ドナルドソンのこの件については「まさかあの人が……!」という驚きが一般的な反応のようで(「あいつならやりかねない」ではなく)、北アイルランドという分断された社会でUUPなりDUPなりに投票することは絶対にないという立場の人(つまりナショナリスト/カトリック)からも、「投票先にはなりえない政治家だが、それでも家族を大切にするまっとうな人だという印象だったのに」といった反応が出ている。

こうなるともう、何信じていいのかわかんないよね。

(ちなみに、分断の向こう側のリパブリカンの側も、何かを信じる方がおかしいというくらい嘘や圧力、隠蔽ばかりである。シン・フェインを権力の座につけてはならないのはそのため。)

 

一方で、ドナルドソンのメンター的な存在で、ドナルドソンが長く当選してきた英国会議員としての選挙区をドナルドソンの前に地盤としていたUUPのジェイムズ・モリノーが関連していたとされることから、ドナルドソンのペドフィリアを「キンコラ少年の家」と関連付ける発言もSNSには見られる。それ自体は話半分なのかもしれないが、北アイルランドでは実際にペドフィリアなど到底他人には言えないようなことをテコとして工作員の徴募が行われたりしている(そのくらい知られていた)わけで、ばかばかしいと片付けるのもどうか、というところか。

というわけで手持ちの電子書籍を見ていたら、すごいものに遭遇した。

 

なお、モリノーからドナルドソンと、ユニオニストの大物がずっと議席を持っていたLagan Valleyの選挙区は、ドナルドソン逮捕後におこなわれた2024年5月の英総選挙で、初めて、ユニオニストでない政治家が当選している。アライアンス党のSorcha Eastwoodというアイリッシュ・ネームの女性議員だ。アライアンス党は北アイルランドの旧来の「ユニオニズムか、ナショナリズムか」の二者択一の枠組みにはまらないところにいる政党。何だかんだ言って軸足はユニオニズムの方にあるから(アイルランド統一に積極的というわけではない)、特にユニオニストの政党にうんざりした有権者にとっては十分に投票先になる。ピーター・ロビンソンが妻アイリスのスキャンダルや自身の汚職疑惑で窮地にあったときに彼がずっと地元としてきた東ベルファスト(今月の暴動で燃やされた地域)で落選し、代わりに当選したのもアライアンスの政治家だった。

en.wikipedia.org

 

*1:noteには書いたし、Twitter/Xにも書いた。これだけ立て込んでるときに同じことをあっちこっちに投稿するのは、正直とてもめんどくさいし、大変なストレスになっているので、こういうふうに「忘れる」という事態が発生する。

*2:私が仕事以外でそういう配慮をするのはめったにないことだ。

*3:読み方は「ディー・ユー・ピー」でいい。

*4:インターネット登場の前はそれが常識だった。「コンピューター」が「計算機」だった時代。

*5:北アイルランドのデモグラフィーを「プロテスタント」か「カトリック」かで語ることから、両派の「宗教紛争」が起きていると勘違いしている人は、とても多い。実際にはスライドで説明した通り、社会的・政治的な対立である。ただし「プロテスタント」の側は、エキュメニズムの立場を取らない限りは、基本的に「反カトリック」である。これはルターやカルヴィンの時代からのこと。

報道記事見出しにおける変則的省略、あるいはasが連なるときにどうしたらよいかについて(キア・スターマーの退陣表明)

ものすご~~~く地味な実例。ウェブ検索では当然、探せない。

キア・スターマーが辞意を表明した。涙ながらの会見の様子をちらりと見て、「ドラマ・クイーンの才能はあったんじゃん」と思ったが、ごく最近見られるようになった、隙あらばガザの知らない人から「わたしにはお金が必要!」という個人宛のメッセージ等が来るという事象がひどくなってきて*1、私の精神状態は最悪なので、この闇落ち政治家にはもはや関心を持つことすらできなくなっている。というか、そもそも「闇落ち」したのかどうかもわからない。元からこうだった(中身などなくて場の空気に合わせてきた)んじゃないかと今は思っている。忘れられないのは、ジェレミー・コービン下ろしのころにガーディアン(この媒体は労働党のキングメイカーと思っておいてよい)でのインタビューでスターマーが「そりゃ、権力の座にはつきたいですよ」と言っていて、そのためなら変節だってする、というようなことを述べていたことだが。

そんな前置きはどうでもいい。

そのニュースが出たときにBBC Newsをチェックしていて気付いた実例。まず、ヘッドライン・ニュースの見出し: 

 

見出し: 

Keir Starmer resigns as UK prime minister, Andy Burnham confirms he'll run to replace him

接続詞なしで、コンマで2文を連結している。非常に珍しい形だ。見出しではピリオドは例外的なときしか使わないので*2、ピリオドの代用としてのコンマ、という見方もできるかもしれないが、そんなひねった解釈をするまでもなく、ここでは接続詞が省略されていると考えられる。

通常なら、ここは《接続詞のas》が来るはずだ。次のように。

Keir Starmer resigns as UK prime minister, as Andy Burnham confirms he'll run to replace him

ただそうすると、すぐ前にある "as UK prime minister" (このasは《前置詞のas》である)とかぶってしまって読みにくい(as ~ as ...の構文みたいに見えるし)。そこでさくっと接続詞のasをトルツメにしてるんだな。見出しだから許される。普通の文なら、as以外の接続詞を探すか(汎用性が高いのはwhileなんだけど、単語が長くてスペースを取るから、記事見出しには入れられないこともあるかもしれない)、分詞構文にするかといった工夫をしなければならない。

……ということは、あとから思った。見つけたときは「うひょ~、珍しい実例!」という喜びで頭がいっぱいである。

 

続いて、トップページの見出しを見たうえで、リンク先の記事に進むと: 

個別記事の見出し: 

Keir Starmer resigns, as Andy Burnham confirms he will run to replace him as Labour leader and PM

さっき自力で補った《接続詞のas》が入った形だ。

一方で、 "Keir Starmer resigns as prime minister" の "as prime minister" (下線部)は省略されている。

これは、見出しの最後の "as ... PM", つまり「アンディ・バーナムが労働党党首および英首相としてスターマーに置き換わるために立候補すると確定」とある部分とのダブりを避けるためだろう。

そもそも、個別記事を読みにくる人には "Keir Starmer resigns as prime minister" の下線部はわかりきっている情報で、いちいち言わなくてもいい。

対するに、BBC Newsのトップページでは、「キア・スターマーというのは、英国の首相の名前だ」ということを説明したほうがいいのだろう。

場によって書きかたが変わるし、情報の見せ方、配置、重みづけも異なるわけだ。

 

拙ログ貼り付け: 

 

 

アンディ・バーナムは、専門家や英国政治オタク以外にも少しは名前は知られているかもしれない。元々がマージーサイドの人で、エスタブリッシュメントが「死んだ奴が悪い」という話にしようとしていた「ヒルズバラ(ヒルズボロ)の悲劇」の真相究明に真剣に取り組んだ唯一の政治家だ(2009年から)。

私が彼の顔と名前を覚えたのがいつだったかは記憶にない。泣きそうな顔をよくするので、Twitterで今は亡き大喜利王サイモン・リケッツ*3らのネタになっていたことは覚えている。ブレア政権下からブラウン政権下で中央政界で出世街道に乗っていたが、労働党の勢いが弱まると中央を離れて地方政治に行き、新設されたグレーター・マンチェスターの市長となった。今回、スターマー下ろしの動きが本格化する前に、一度、中央政界に復帰して労働党党首選に挑もうとしかけたのだが、党執行部がそれを許さなかった(中央政界復帰のために必要な「補欠選挙での労働候補者としての擁立」を党は認めなかった)。それから数か月して、今の状況。

「ヒルズバラの悲劇」の真相究明委員会の最終報告書が出たときのバーナムのスピーチは、すばらしかった。


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ヒルズバラ関連ではこんなのもある。バーナム自身はエバトンのサポだが。


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だが、バーナムは2003年イラク戦争では賛成票を投じている。これはあとからひどく後悔はしているようだが、先日の、メイカーズフィールド選挙区での強引な補選(特に辞する理由があったわけでもない労働党の議員が辞めて、バーナムが立候補……バーナムに国会議員という地位を与えるためだけに)のときに回覧されていたように、2015年(まだマンチェスター市長になる前、国会議員だったころ)には明確にシオニズム支持の立場を表明して発言しており、これはリサ・ナンディやイヴェット・クーパーら、かつてパレスチナ連帯の側にいて今はシオニズム支持に回っている労働党の政治家たちよりも早い。つまり、かなり早い段階でイスラエル・ロビーに買われている政治家なので、パレスチナ連帯、ストップ・ガザ・ジェノサイドの立場からは、何も期待できない。


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英国の内政では、パランティア(日本語圏では「エプスタインの友達の元駐米大使」としてしか知られていないも同然の暗黒卿、ピーター・マンデルソン案件)だとかNHSだとかが重要だが(「ボートに乗ってくる移民を止めろ」と騒ぐ政治家たちやその支持者、およびそれを大ごとにするメディアによって、その重要さからは目をそらされているのが実情)、そっちもどうなるかはわからない。関心がある方は、ジャーナリストのCarole Cadwalladrさんをフォローしておくといい。

*1:知ってる人だったら少なくとも「拡散しとくねー」って反応できるけどね……そもそも知ってる人は個人宛にそういうことはほぼ言ってこない。広く公開された場での発言としてはしょっちゅう言ってても。

*2:見出しにおいても、誰かの発言を引用符で示すときに、引用符内でピリオドが使われることはある。

*3:リケッツは病没し、死後、おそらく遺言があったのだろうが、メディア掲載の記事以外はネットの痕跡をほぼすべて消してしまっているので、もう何も確認ができない。

仮定法過去完了(ベルファストでの殺人未遂事件と人種主義者たちによる暴動の件まとめ)

ベルファストが燃えている。日本語圏ではあまり報じられていないようだが*1、少し注意を払って英語圏のニュースを見ている人ならば、特に北アイルランドになど関心がなくても、下記のような写真で報じられているのは見ているだろう。

なお、これは北アイルランドの話であり、アイルランドの話ではない。北アイルランドとアイルランドの違いについてはしょっちゅう書いてきたのでどこに何を書いたかも忘れてしまったが、最近では、アイルランド大統領選挙に関する説明文でさくっと書いてあるから、それをご参照いただきたい。

note.com

■目次■

 

「ベルファストでの暴動」の基本的構図(いつものやつ)

さて、ベルファストが燃えていたところで、わりと「いつものこと」なので、「なんだ、またか」と流してしまう人が日本の報道機関の編集部に多いとしても不思議ではない。だが今回のこれは、「いつもの」とは文脈が違うし、起きていることも異なる。

「いつもの」は、だいたい、警察を標的とした暴動である。若いのが(一応政治的な主義主張を掲げるなどして)暴れる→警察がごっつい車でやって来る→若いのが警察車両に火炎瓶を投げつける、みたいなパターン。暴れるのはナショナリスト(←以降、語義はリンク先を参照。20年近く前に私が書いてウェブにアップしてある現地資料の翻訳解説である)の側の若者たちであることもあれば、ユニオニストの側の若者たちの場合もある。ちなみにナショナリスト側の暴動は2020年代に入ってからはほぼ聞かなくなっている*2。

この「ナショナリスト(およびリパブリカン)」「ユニオニスト(およびロイヤリスト)」は北アイルランド紛争(1969-1998, または2005*3)当時の概念であるだけでなく、北アイルランド社会の基本構造の一部で、宗派や居住エリアが違うだけでなく、義務教育の学校も異なる。紛争が終結して20年以上が経過して、職場などを含め社会一般ではこういう区分もなくなってきているだろうが(紛争の時期は就職差別、住宅差別などもあった)、暴動を起こす界隈ではその区別が頑として存在しつづけていて、基本的に両者が交わりあうことはない。というか両者が接点を持とうものなら、暴動が大暴動になるので(実際になったこともある。2021年4月のことだ)、両者引き離しは大前提だ。ナショナリスト側の若者たちはナショナリストの地域で(警察を呼び込んで)暴れ、ユニオニスト側の若者たちはユニオニストの地域で(警察を呼び込んで)暴れる。これが基本である。

ただし今回は、「どうせまたいつものでしょ」と先入観を持っていると、まったく事態を見誤る。

 

今回(2026年6月)の暴動は「いつもの」とは違う

今回、2026年6月に発生した暴動は、上述したような「いつもの暴動」とは背景が異なる。背景は異なるが、現れ方はだいたい同じになるのが北アイルランドらしいという感じだが、荒れているのはユニオニスト(つまり親英の側、プロテスタント)の地域であり、ナショナリスト(カトリック)の地域ではないし、都心部の商店は面倒になることを予期してシャッターを下ろしていて、幹線道路も閑散としていると伝えられている。下手に暴動エリア近くに車を出せば乗っ取られるか燃やされるかするからだ。その地域の経済も停止してるんだろうな……これはいつものことだ。20年ほど前に、北アイルランドや北アイルランドの武装組織の活動があったイングランドについて「テロ慣れしている」と言うとなぜか何も知らないはずの日本語圏の人が「失礼な!」と怒り狂って挑んできたりしたものだが(私は彼らがいかに「テロ慣れ」しているかを直接の体験として知っている)、紛争後のベルファストという都市は「暴動慣れ」しているのだ。

戸惑っているのは団体ツアーの観光客で、壮麗な建築として知られる市庁舎前警備で増派された警官と写真を撮るくらいしかやることがないようだ。現地紙ベルファスト・テレグラフのフォトグラファーの(ちょっと笑える)報告。

今回起きたこと

組織面での基本的構図

「いつもの」暴動は、地域を仕切るその筋の組織が若いのを動かして展開するのが通例だ。「その筋の組織」とは、北アイルランド紛争時の武装組織の成れの果てで、ナショナリスト側ならIRAやその分派組織の系統があり、ユニオニスト側にはUDAやUVFの系統がある。

IRA側は、分派(旧Real IRA=現New IRAなど)の活動が派手でやることも凶悪なので(人混みに発砲してジャーナリストを撃ち殺したりとか)分派の活動が目立っているが、IRA本体の組織的統率力みたいなものは残っているようである。上層部が「動くな」と指令を出せば人は動かないだろう。そりゃそうだ。IRAには「政治部門」があり、それは今や北アイルランドでは第一党だし、アイルランド全島規模で大政党だ。この点、いろいろあるんだけど、いちいち書くのはやめておく。映画『ニーキャップ』の行間読める人は読んでね。一瞬だけ出てきた大物がいたでしょ……。

他方、UDAやUVFのほうは、ほぼ独立状態となっている各支部が乱立している状況のようで、すでに中央の指令が有効でなくなっているとかいう話もあり、ゆるくつながってる状態の武装組織を誰も統率していないという極めて危険な状態にあると考えておくのがよいような雰囲気になっている。暴力団ではなく半グレの集団みたいになっているというか。誰も統率していなければ、小支部の判断でそれぞれ好きなように、外部の者とでもつながりを持っていくのが自然だろう。Brexit後の暴動*4では旧来の北アイルランドの組織だけでなくブリテンからも何かあったっぽいが、ブリテンの極右組織と北アイルランドのロイヤリスト組織とのつながりなど、今に始まった話ではないわけで、まあ、あれである。あと、あまり語られないけれど、北アイルランドのプロテスタントはスコットランド系で(元がスコットランドからの移民)強烈なカルヴァニズムで、プロ・ライフ、つまり妊娠中絶反対とか、同性間の結婚に反対とかいうことを政治運動化しており、その点で共鳴すれば誰とでも手を組んでいる(誰とでも手を組まないと数が足らないので)。アイルランド共和国内のカトリック保守過激派との連携も実際にある。共和国でのプロ・ライフ系の活動は人々の投票の前に敗北したが(妊娠中絶は合法化、婚姻の平等も実現)、北アイルランドでは、中絶手術を行うクリニックの閉鎖や、啓発団体つぶしといった形で強い影響力を誇示している。

話が長くなったが、今回、2026年6月の暴動に際しては、プロテスタント/ユニオニスト武装組織は直接の関与を否定しているが、個々の成員を止めようとはしていないという。現地紙がトップ記事にしている。

研究者のコメントを取ってるメディアもある。(The Irish News. ナショナリスト側のメディアである。)

つまり、「組織的関与」があるかないかというと、法的にはないとしか言いようがない(したがって暴動の計画や教唆などで起訴はできない)が、現に今回の暴動を引き起こしているのはロイヤリスト側の人物である。

リパブリカンの側は、暴動の中での攻撃対象とされた人々とともにあると明確に示している。

北アイルランドとアイルランドの区別なんかつけなくてもいいと考えている人々は、この点で間違えていて、今回ベルファストなどで暴れたのは「アイルランド人」だと考えている。だが実際には、暴れたのは「アイルランド人」を自認する人々ではなく「英国人」を自認する人々である。

笑えるのは、北アイルランドの外から暴動を扇動した北米などの極右勢力がそれを全然わかっていなくて、IRAの画像(有名なプロパガンダ写真に文字を書き加えたもの)で暴動を称賛して、普通に北アイルランドについて常識的なことを知っているイスラム排斥の極右筋から「暴れているのは、アルスター*5のブリティッシュのプロテスタントである」とツッコミを入れられているのが、北アイルランド界隈で画像で回覧されていたことだ。

笑いごとじゃない、不謹慎だ、と怒られるかもしれないけど、めっちゃ笑える。コメディの台本だ、これ。

 

具体的に何が起きたのか

6月8日の北ベルファストでの殺人未遂事件

さて、今回の暴動には明確なきっかけがあった。それは突発的な、誰も予期・予定していないものだった。

6月8日(月)の夜、ベルファスト北部の住宅街で、40代の男性が刃物男に襲われた。襲われた男性の悲鳴を聞いた近所の人たちが現場を確認し、警察に通報したところに車で通りがかった人がいて、たまたま持ち合わせていた*6ハーリングのスティックで刃物男に挑みかかり、襲われた人から引き離した。刃物男は現場で取り押さえられて警察が逮捕し、襲われた人は病院に搬送された。被害者は、命に別状はないが、一時は昏睡状態だったようだし、片目を奪われてしまった(目を刺されたので)。事件後数日経過してなお重篤ながら安定した状態が続いている。これから回復に向かうことだろう。私も遠く離れたところから、順調な回復を願っている。

ここまでなら、残念ながら「よくある事件」として地域ニュースになる程度だったかもしれない。ハーリングのスティックということに話題性があるので(ハーリングはナショナリストの側のスポーツで、いろいろあったためにIRAを強く連想させる)、その点で深掘り記事が出るかもしれないが、せいぜいそのくらいで、2週間もすれば忘れられるような事件だ。

加害者は「移民」というか「難民申請者」

だが、この刃物男の事件が暴動を引き起こしたのは、加害者が極右勢力やメディア、一般的政治家らから「移民 immigrant」と呼ばれる立場の人物だったからだ。刃物男は2023年にフランスから空路ダブリンに入り、ダブリンからベルファストに来て、そこで難民申請をし、2028年までの英国滞在許可を得たスーダン人である*7。詳細はBBCのこの記事などにある。ちなみに2023年の英国は保守党のスナク政権である。

他方、被害者の男性は白人で、スコットランド系のお名前、つまりおそらくはユニオニスト側のコミュニティの人だろう。事件現場の住宅街自体は紛争後に新たに開発された住宅地で、エリア的にはナショナリストのエリアだが(Google Street Viewで何年も前までさかのぼると、通りの一番北端のあたりにナショナリスト系の落書きがなされているのが確認できる)、この新しくてきれいな住宅街では、近年、ユニオニストによるナショナリストの追い出しが実行されているともいう(北アイルランドってまだそんなんなんですよ。今の和平がfragile peaceと言われている通り。ロイヤリスト武装勢力がいる限りはずっとそうだと思う)。

ちなみに、被害者を救出したハーリングスティックの人は西ベルファストの住民で、お名前はこてこてのアイルランド語名。この点、北アイルランド紛争の構図で考えていると面食らうと思う。

なお、現行犯逮捕された加害者は、殺人未遂や武器不法所持などですぐに起訴された。初回の出廷(名前などの確認程度)はすでに済んでおり、次の公判は7月8日に予定されている。

そして、このあとはしばらくは加害者についての情報は出ない。裁判が陪審制の英国では、陪審団に先入観を与えることがないよう、起訴された加害者についての報道は基本的になされないからだ(個人でも憶測などをネットで公開の形で書けば、法廷侮辱罪に問われうるので、個人のSNSやブログなどを掘っても、事件については何も出てこない)。日本みたいに近所の人に話を聞いて回ったり、動機を学者が推測したりということは絶対にない*8。今後も、判決までは、法廷で語られることだけが報道に出るだけである。よって、「事件の動機は……」といったことはたぶん判決が出るまではわからないし、判決が出てもわからないかもしれない。実際、つい最近、イングランドで「反移民」のムードを高めていたヘンリー・ノヴァクさん殺害事件(インド系のシク教徒の男が、白人の男子大学生を刺殺した事件。法廷で明らかにされた警察の現場での対応のまずさから警察への抗議行動→暴動が起きた)では、判決後に凶器についての記事はいくつも見たが、動機が報じられた記事を私は見ていない。

アイルランドの南北のボーダー

アイルランドは北部6州(北アイルランド)と南部26州(アイルランド共和国)に分断されているが、その境界線(ボーダー)は、(北アイルランド紛争の終結以降は完全に)開放されている。「国境」と言うこともテクニカルには可能だが、そこでは「国境」らしい実態はなく、パスポート・コントロールはない(Common Travel Area)。これは、「アイルランドは島全体でひとつの国」というアイルランド側の立場と、「英国の一部である北アイルランド」という奇妙な存在の矛盾が凝縮されたようなものだから、特に2016年の英国のEU離脱決定以降、EU加盟国であるアイルランドと、EUを離脱した英国との間の境界線をどうするかというのはめちゃくちゃ厄介な問題となった(それを考えもせずにEU離脱可否を問うレファレンダムを実施したキャメロン政権の責任はとても大きい)。現実にはBrexitがあろうとなかろうと現状維持をする以外の方法はなく(非常に英国的)、特に関税をどうするかといった点で官僚らがめっちゃ難しいパズルのようなことをやって辻褄を合わせて何とかしている状態だが、Brexit後もダブリンとベルファストを結ぶ鉄道内で越境時にパスポートチェックがあるわけでもないし、道路だって、日本の県境程度かそれよりも地味だ。ダブリン(アイルランド共和国)に入った人がノーチェックでベルファスト(英国)に入るのは、私が東京都から千葉県や茨城県に行くようなものだ。

この点で、またひと悶着ありそうな流れなのだが、今はまだそこまでは踏み込めない。紛争後の北アイルランドの自治は、いずれかの側に権力が集中する単純な与党・野党の仕組みではなく、一定数の議席を獲得した政党がすべて大臣職を担当して行政を担う「パワーシェアリング(権力分譲)」の仕組みで、現在はナショナリストのシン・フェインが第一党でファーストミニスターを出しているが、それと同格の副ファーストミニスターはユニオニストのDUPから出ている。シン・フェインは言うまでもなく「移民歓迎」の立場だが、DUPが逆で、今も「そもそもあの刃物男が入ってきたのはダブリンのせい」「ボーダーが問題」という方向で動き出しているようだ。ヲチャとしては「またか……」と目を閉じるよりない。

 

「反移民」の側の理由付けと動き、およびメディアの奇妙な用語法

今回の北ベルファストでの事件は、住宅街で、その街に暮らす人が「移民(難民申請者)」に襲われた、と単純化できる。

それは、例えばロンドンで女性が帰宅中に現職警官に襲われて殺された事件を、「女性が男性警官に殺された」と単純化するのと同じだが、ここで「男性警官は全部危険な存在だから禁止すべき」などと言い出す人がいたら、頭がおかしいと扱われるだろう。

そのくらい雑なことが、「移民」のこととなると「まっとうに取り合うべき政治的意見」として扱われる(ようになってしまったのが今の英国である)。

そもそも、加害者が逮捕されてほぼ即時で起訴されている刑事事件に対し「抗議 protest」も何もあったものではない(加害者が野放しになっているとか、何かの忖度で起訴されないとかいうことがあるのなら「抗議」もあるだろう)。しかし実際には、この事件を受けての「反移民」陣営の行動は「反移民の大衆運動・抗議行動」としてメディアで言及され、そのように扱われている。さらにいえば、その行動が「抗議行動」をはるかに超えて、放火や破壊、襲撃、略奪といった、普通に「暴動」と呼べる状態*9になってもまだ、大手メディアは「抗議 protest」扱いだった。明らかにおかしい。(そのうちに、BBCは「騒乱 disorder」と言い出したが。)

どうやら、暴れている側の大義名分は「女性・子供が危険にさらされる前に守れ、という抗議だ」ということらしいが、暴動を起こしている側に、自分の配偶者やガールフレンドを殴ったり殺したりしてるのが何人いるんだっていう話だ、という声もガンガン上がっている。それらのフェミサイドに対し、今暴れている連中が一度だって抗議行動に出たかというと出てないだろう、と。

実際、日本語圏にまでは届かないが女性がDVで殺されるという事件はときどき報じられている(紛争時代は「紛争のトラウマ」で語られることが多かった北アイルランドのDV問題だが、もう紛争のトラウマなど持っていない若い人が加害者になってるんだよね……)。日本の北海道で起きたのと非常によく似た状態で被害者が遺体で発見された、若年者の川での変死事件があるのだが、この事件で亡くなったのは民族的マイノリティ(白人と黒人の間の子)の男児だ。「移民」が原住民(白人)に危害を加えるというファンタジーを盛り立てたい人々は注目もしない現実。

 

6月9日(火)、暴動

詳しい経緯はすでにウィキペディアにまとめられているが、上記の北ベルファストでの殺人未遂事件を受けて、その犯行の異様さ*10も手伝って、いつものネットの極右インフルエンサーが騒ぎ出した。X.comのオーナーのイーロン・マスクも例外ではなかったようだ。私は個人的に、そのころはガザ情勢で忙しくてベルファストの殺人事件のことは知らなかった。仮に知ってても「また殺人か」と流していたと思う。

私が知ったときにはもう政治家たちがコメントを出していたが、まだ暴動が始まる前だった。

※「警察は把握しておらず」というのは、国際手配されている人物だったり、英国の当局が独自に追跡等している人物だったりしていないということ。つまりテロ容疑者ではなく、テロ組織内で操ろうとしていたスパイ候補者の類でもない。

このころには、約20年前に毎日読んでいた北アイルランド政治に関するグループ・ブログ、Slugger O’Tooleで書いていた人たちが、現地から緊迫した情勢について非常に重いトーンで伝えてきていた。

ドネリーさんのこの映像なんか、映画『ベルファスト』の1シーンみたいでしょ。街並みもそっくり。典型的な労働者階級の住宅街。そこを、犬笛に集まった暴徒が練り歩いている。

ちなみにこれらの暴徒(の側の人々)、これまでにさんざん、「移民」への追い出しの暴力を働いてきた連中である。その種の暴力・圧力は、何度も何度も報道されている。

 

そして実際に、ベルファストでは放火攻撃がおこなわれた。「ポグロム」である(ベルファストでは北アイルランド紛争の始まりの時期に、プロテスタントがカトリックの家に火をつけて追い出すということが組織的に行われた。これを俗に、主に被害者の側から、「ベルファスト・ポグロム」と言う。映画『ベルファスト』はその時代を扱っている)。

BBC Newsのこのフィード↑にある写真、わかりにくいが、よく見ると、歩道の縁石が赤・白・青の3色に塗られているのがわかるだろう。これはロイヤリストのエリアのしるしだ。つまり、奴ら、自分らの街を自分らで燃やしている。またか。事件現場とは全く関係のない場所で暴れている。

以下、現地からの報告などは、別途、まとめておくことにする。

→作業中

いきなりですが英文法解説

こんなタイミングで見た現地記事に美しい《仮定法》があった。なので、本稿、seesaaのブログ*11ではなく、英文法ブログであるここに書いている。

https://www.belfastlive.co.uk/news/belfast-news/belfasr-family-would-been-beaten-34094377

見出し: 

Belfast family 'would have been beaten to a pulp' says woman who helped them flee home

見出しだから読みにくいので、普通の文体にすると: 

The woman who helped them flee home says the Belfast family 'would have been beaten to a pulp' 

記事を読めばわかるが、これは暴徒が襲撃した家から、その家に暮らす家族を救出した女性の証言である。反射的に体が動いたようだが、同じ街路の家に暴徒が押し掛けるのを見て慌てて駆け付け、「この人たちは事件に関係ない!」と暴徒を一喝し、その家に暮らす家族の盾になるようにして一緒に歩いてその家族の身を守った。紛争のときもこういう堂々たる女性の行動があったのだが、お手本にしたい立派な人である。

見出しの情報を含む部分を本文から抜き出すと: 

The woman said she believed that "definitely, something really bad would have happened" had she not intervened.

 

"I think they would have been beaten to a pulp," she said.

2文とも《仮定法過去完了》で、太字にした部分が帰結節、下線が条件節である。

第1文は条件節があるが、《ifの省略》により《倒置》が起きている。これを省略・倒置のない形にすると: 

... "definitely, something really bad would have happened" if she had not intervened.

文意は「もし自分が介入していなかったら『きっと、ものすごくひどいことが起きていたのではないか』と確信している、とその女性は述べた」。

 

第2文は条件節(if節)がない仮定法になっているが、直前にある "had she not intervened" がダブるので省略されていると考えることができる。青い太字の部分が仮定法過去完了。文意は「『(私が介入していなかったら)ご家族はめった打ちにされていたのではないかと思います』と彼女は言った」。

 

be beaten to a pulpは慣用表現と言っていいと思うが「めったうちにされる」「タコ殴りされる」「ボコボコにされる」。pulpは紙を作るあの「パルプ」で、めったうちにされて体中骨折したらそういう状態になるという比喩表現。

 

こうやって暴れている人々は……

こうやって暴れている人々は、大半がティーンエイジャーから20歳そこそこくらいの若者で、「IQが低い (low-IQ)」とか「知能が低い (low intelligence)」といった言葉で語られてさえいるが、実際に何年か前の北アイルランドでの調査では、労働者階級プロテスタントの白人男子だけが突出して学習ができていないという結果が出ていたので(同じ労働者階級白人男子でもカトリックの側は普通)、何か構造的なものがあるのかもしれない。

個人的にこれを「IQ」や「知能」という語で語る気にはなれないのだが、彼らが本当に何も考えていない(考えられない)ことは、長屋形式の住宅街に放火しているという事実からもわかる。こんな住宅街の1軒が燃えたらどうなるか、2秒も考えればわかるはずだ。だが火をつけちゃう。日本に生まれてたら闇バイトでひどいことをやってただろう。

同じ労働者階級プロテスタントの白人男性ジェイミー・コリーさんは、13年間暮らしてきた家を、この暴動で焼かれた。隣人の車に暴徒が火をつけ、そこから彼の家に延焼した。彼の持ち物は全部、お父さんの思い出の品なども一切合切、灰にされてしまった。殺人未遂事件が起きた北ベルファストとは全然関係のない、東ベルファストの住宅街でのことだ。殺人未遂の加害者が、入国・滞在を許可すべきではない類の外国人であったのに入国できてしまったのだったと仮定したところで、この住宅街の人々は、かの人物の入国許可に何の関係もない。

これの何が「抗議行動 protest」だというのだろう。

 

ちょうどベルファストの劇場で公演をするはずだった俳優(黒人女性)は、あまりのおそろしい事態に宿泊先の家のブラインドを開けることもできず、外に出ることなどもちろんできず、公演はキャンセルとなった。

www.bbc.com

 

*1:日経報道:

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF10A3P0Q6A610C2000000/

*2:今は敵側の施設に落書きの応酬といった活動はあるようだ: https://x.com/BelTel/status/2064000612358930743 "A Sinn Féin councillor has condemned an attack on Rasharkin Orange Hall. It came a day after a GAA club was sprayed with sectarian graffiti in the Co Antrim village." ナショナリストのスポーツ施設にロイヤリストが不穏なメッセージを落書きし、プロテスタントのオレンジ・ホールにリパブリカンが落書きを残す、ということがあった、という話。

*3:紛争の終わりを和平合意の終結とすれば1998年、武装組織の武装闘争終結宣言とすれば2005年

*4:英国がEUを離脱してもアイルランドには関係がなく、1998年の北アイルランド和平合意でアイルランドとの境界線を極めてあいまいなものにしてある北アイルランドにとって「EU離脱」とは何かということになるので、その点で政治的圧力をかけるために大衆運動・暴動が起きた。

*5:ユニオニストは、北アイルランド/北部6州のことを「アルスター」と呼ぶ。本来のアルスターは、人口比でカトリックがプロテスタントを上回らないよう計算された境界線が考案されたことでアイルランドの分断時に北部6州から外されたドニゴール州、キャヴァン州、モナハン州を合わせた9州から成る。

*6:息子さんの習い事でもあるスポーツの用具を車のトランクに積んでいたようだ。

*7:事件発生直後はソマリア人という誤情報が警察から流されていた。ちょうどワールドカップ審判団のひとりのソマリア人審判が米国から入国拒否を食らうというニュースがあった日で、「ソマリア」には人々が過剰反応したかもしれない。

*8:日本も、裁判員制度を導入したんだし、何とかすべきだよね……。テレビのワイドショーで、特に知見があるわけでもない芸能人が、刑事裁判について、「私の意見」を述べていられるような状況はいつまで放置されるんだろう。

*9:ちなみに、2010年代までかなり激しかったナショナリスト側の暴力的抗議行動については、「人が集まった段階でメディアが暴動 riot 呼ばわりする」という問題が指摘されていた。ロイヤリスト側が同じようなことをしても「抗議行動 protest」扱いなのに、と。

*10:切り付けたとされる場所がね……。

*11:https://nofrills.seesaa.net/ 絶賛休眠中

分詞構文など(レバノンで、イスラエルの攻撃の標的にされて殺された女子大学生とそのご家族のこと)

ドナルド・トランプの大変に下品な言葉遣いでのネタニヤフ罵倒を取り上げたエントリで、「追記」としてネタニヤフからの反応(とされるもの)を書き添えた際に、たまたま、レバノンにおいてイスラエルが国際人道法などガン無視して行い続けている蛮行に尊い命を奪われた若い女性のことに言及したら、ブコメでそれに反応をいただいた。

 

私自身は、残念なことに、こういう話にもう慣れてしまっていていちいち反応しないところまで来ているが、普通に考えれば、下品な言葉遣いなどはどうでもいいので*1、そんな時間があるのならばこういう話を取り上げなければならないのだろう。

 

■目次■

 

レバノン南部、ある女子大学生とその家族の爆殺

トランプとネタニヤフの電話会談のあとで、イスラエルがレバノン南部で行った攻撃で、若い女性が殺された。巻き込まれたのではなく、彼女が乗っていた車が標的とされて爆殺された。彼女が標的だったのか同乗者か、あるいは何か別な事情なのかは私にはわからない。彼女の死は、もはや報道機関のニュースフィードに乗ることもない、あまたの死/戦争犯罪のひとつに過ぎない。

殺された人はテオドシア(セオドシア)さんという女性で、髪の毛を覆っていない自撮り写真がある。何かを確認するまでもなく、キリスト教徒と考えられる。

殺害が行われたのはレバノン南部のクラヤア。と、ウェブ検索してみるとウィキペディア記事が出てきて、マロン派(マロナイト)の人々が暮らす街であることがわかる。

※上記のサラさんの投稿の時点ではまだ初期段階の情報錯綜があったのだろうと思われるが、のちに細部は修正されている。

 

Twitter/Xを使ってより詳しく調べる

「なぜキリスト教徒の村が攻撃されているのか」を調べようとしても一般人のウェブ検索ではどうにもならないかもしれないが(そもそもレバノンにおいてキリスト教徒も攻撃されているということもあまり報じられていない。今イスラエルがレバノンに対してやってることが「ヒズボラに対する戦争だ」と思い込んでる人には想像もつかないことだろう)、彼女について知りたければ、Twitter/Xだけでもある程度は調べられる。Twitter/Xは自動翻訳が導入されていて言葉の壁はとっぱらわれてるんだから、問題は、手を動かすに足りるほどの関心があるかないかだけだ。

https://x.com/search?q=Theodosia&src=typed_query&f=top

↑この検索結果で彼女のフルネームがわかるので、精度を高めるためにフルネームで検索するのが常道。

https://x.com/search?q=Theodosia%20Karam&src=typed_query

 

※今、Twitter/Xの検索は何かが変わったようでめちゃくちゃになっているが、少なくとも私が検索したときには、Theodosia Karamさんのお名前での検索は普通にできている。

 

現地英語メディアのフィード

彼女の殺害について、より詳しいことがわかるフィードを拾っておこう。まず、現地メディアAl Mayadeenの英語版のフィード。このメディアはヒズボラと関係が深いのだが、それを念頭に置いて見る分には大丈夫だ*2。

全文: 

While returning from university, the vehicle of Theodosia Karam from the town of Qlayaa was targeted by the Israeli occupation, resulting in her martyrdom along with her father, physician James Karam, and her brother Tony, in a drone strike on the Nabatieh–Khardali road, South Lebanon, on June 1.

This is one of many attacks "Israel" carried out recently, deliberately targeting civilians in Lebanon, killing women and children. 

Just this morning, Lebanon's Civil Defense announced that six martyrs and three injured were recovered from under the rubble of a building targeted by "Israel" in South Lebanon.

英文法解説

※「人の不幸を伝える文を素材にするのは不謹慎」と怒る人がいるかもしれないが、本エントリははてブでの反応を受けて「レバノンでの民間人爆殺」の事案をより詳しく知るためにはどうするかということを書くのが目的であり、なおかつ当ブログは英文法のブログなので英文法解説をやる。

第1文: 

While returning from university, the vehicle of Theodosia Karam from the town of Qlayaa was targeted by the Israeli occupation, resulting in her martyrdom along with her father, physician James Karam, and her brother Tony, in a drone strike on the Nabatieh–Khardali road, South Lebanon, on June 1.

書き出し、 "While returning from university" は「大学からの帰途」の意味。whileは《接続詞》でこの部分は《接続詞+現在分詞》の形の《分詞構文》と考えられる*3。

そのあと、太字にした "resulting" までの部分が主文で、 "resulting" は現在分詞で《分詞構文》。

言っていることは、

  • 6月1日、テオドニア・カラムさんを乗せた車が、大学からの帰途、クラヤアの街でイスラエル占領軍に標的とされた
  • この攻撃により、テオドニアさんと、父親で内科医のジェイムズ・カラムさん、兄(弟)のトニーさんが亡くなった*4
  • 攻撃はドローンによるものだった
  • 攻撃場所はレバノン南部の Nabatieh–Khardali roadであった

これだけの情報量をぎゅぎゅっと詰め込んだのが、上記の文である。なお、「亡くなった」ことについてmartyrdomという単語を使っており、これは多くイスラム教の宗教的な概念として解説されるが、実際には宗教の区別なく使われているようで、キリスト教徒であるカラムさんご一家についてもmartyrと位置付けられている。(ご本人たちのコミュニティがそのような言葉を使うかどうかはまた別の問題かもしれない。)

第2文: 

This is one of many attacks "Israel" carried out recently, deliberately targeting civilians in Lebanon, killing women and children. 

《one of + 複数形》は多くの場合 "one of the popular authors" のようにtheを伴うが、ここではmanyが使われているのでtheは出てこない。

Israelに引用符がつけられて「所謂イスラエル」「イスラエルと称するもの」と表記されるのは、「アクシス・オヴ・レジスタンス」を自称する陣営などで広く採用されている表記法。私はこの「アクシスなんちゃら」には与しないが、Israelに引用符をつける流儀にはシンパシーを感じ始めている。

下線を施した2つの-ing形について、現在分詞か動名詞かなどを問うことはあまり意味のあることではないだろうが、問われたら答えられるようにしておかないと、日本語母語話者にとってはこの構文が自分で使えるものにはならないので重要。"targeting" は先行する "many attacks" を修飾する現在分詞だろうし、 "killing" は《結果》を表す《分詞構文》。「これは、レバノンにおいて意図的に民間人を標的とし、結果、女性や子供を殺している、所謂イスラエルが最近おこなっている多くの攻撃のひとつである」と直訳される。こんな不格好な日本語では「翻訳」としては通用しないとされてきたが、今は通用している(機械翻訳の訳文でOKということになっているので)。

第3文: 

Just this morning, Lebanon's Civil Defense announced that six martyrs and three injured were recovered from under the rubble of a building targeted by "Israel" in South Lebanon.

太字にした "targeted" は《過去分詞》で直前の "a building" を修飾。「レバノン南部で所謂イスラエルによって標的とされた建物のがれきの下から、死者6人、負傷者3人が救出されたと、レバノンの民間防衛隊が今朝、発表したばかりである」が文意。

「民間(市民)防衛隊」Civil Defenseはそういう用語なのだが、活動内容は「消防・救急隊」のそれに相当する。場合によっては「隊」ではなく「団」かもしれない。

 

テオドシアさんについて、アラビア語の投稿(Twitter/Xで自動的に英語にしてくれている文面)

もうひとつ、別のフィードを見ておこう。これは元がアラビア語なのだが、私の手元では英語で表示されている(Twitter/Xの言語をEnglishに設定してあるので)。

 

https://x.com/Rulaelhalabi/status/2062240231022358671

文法解説は省略。殺害の数日前、テオドシアさんはおそらくテレビの討論番組か何かで、安全が確保されない状況なので、大学の試験をリモートにすべきとの意見を教育省に対して述べていた(埋め込まれている4コマの左上)。

右上は追悼写真で、お父さんのジェイムスさんと、テオドシアさん、兄(弟)のトニーさん。イスラエルのいつものやり口から考えて、標的はお父さん(医師)だろう。トニーさんやテオドシアさんも医療方面の人だったのかもしれない。テオドシアさんは大学で白衣で研究室のようなところにいる映像がある。

左下は攻撃された車の残骸と、シヴィル・ディフェンス、赤十字の人々。

右下は葬儀。写真をフルサイズで表示してみてほしい。

 

葬儀

葬儀では、年齢的にテオドシアさん、トニーさんのお母さんと思われる女性が、この受け入れがたい死について、「イエス・キリストは私たちを殺した者たちを赦しなさいとおっしゃられた。けれどこれはあんまりです」と叫んでいる。

 

棺を担った人々が教会に到着したところの映像。銃を担った軍服姿の人もいて、かなりの厳戒態勢だ(同じくキリスト教徒だったパレスチナのヨルダン川西岸地区のジャーナリスト、シリーン・アブ・アクレさんの葬儀は、イスラエルによって妨害された)。

 

テオドシアさんの大学での日常生活

前の記事にも追記したが、テオドシアさんのご学友がネットにアップした大学生活の様子の映像。白衣を着ているので医学部か、実験を伴う理系の学部だろう。「試験を受けていたテオドシア。まさかそれがあなたの最後の試験になるなんて、誰も思ってなかった」

 

試験が終わって、「どうだったー?」「難しかったねー」「私、ヤマ当たった」「えー、いいなー」みたいなたわいのない会話もしただろう。「試験終わったし、お茶飲みに行けるといいんだけどねー」とか。

 

彼女たち一家の街では3月にも殺戮が発生

テオドシアさんご一家の暮らしてきたクラヤア Al-Qlayaaの街では、この3月にもイスラエルによる殺戮が発生している。

On 9 March 2026, Israeli forces killed priest Pierre al-Rahi in the village of Al-Qlayaa in Marjayoun, Southern Lebanon.

An Israeli tank fired twice on a house in the Maronite Christian village of Al-Qlayaa resulting in the death of al-Rahi as well as four other people being injured. The killing was condemned by Catholics.

 

Since the start of the 2026 Lebanon war, thousands of residents from Southern Lebanon have fled the region. However, many of the Christians of the area, including the residents of Al-Qlayaa refused to leave despite warnings from Israel to do so.

The day before the attack, Rahi spoke to the French news channel France24 stating: “We are forced to stay despite the danger, when we defend our land, and we do so peacefully. None of us carries weapons. All of us carry peace and goodness and love".

That same day a Christian man, Sami Ghafari, was killed by an Israeli airstrike while in the garden of his home. His brother, Father Maroun Ghafari, is the parish priest of Aalma ash-Shaab and like al-Rahi encouraged Christians not to evacuate their villages and instead defend them.

 

On 9 March 2026 around 2 P.M., an Israeli Merkava tank struck a house on the eastern edge of Al-Qlayya, injuring the owner and his wife. Father Pierre and ten other men rushed to the house to help and another shell hit the house, wounding Rahi and four others. Rahi and the others were rushed to a local hospital but he did not survive, dying before reaching the hospital door.

Killing of Pierre al-Rahi - Wikipedia

つまり、イスラエルがそんな権限などありはしないのに住民に退避せよと言っていて、住民はそれを拒絶している(ほかに行くところなどない)という文脈がある街だ。しかもキリスト教徒のコミュニティ。

そこに3月上旬、イスラエルの空爆があり、キリスト教徒の男性が自宅庭で殺された。殺された男性の兄弟は神父で、イスラエルの言うとおりに退避などせずに、自分の街にい続けることで街を守ろうと呼び掛けていた。

そして3月9日の未明、メルカバ戦車が街の東の端にある家屋を砲撃して、家主夫妻が負傷。負傷者を救出しようとピエール神父らそこにかけつけたところに2度目の攻撃(イスラエルのダブルタップ攻撃。もはや誰も驚かないよね。シリアでアサドやロシア軍がやってたときは声を限りに非難してたであろう西洋の人たちももう何も言わない。完全に常態化されているので)。これによってピエール神父らは負傷し、病院に搬送されたが到着する前に神父はこと切れた。

 

こういうことが「ヒズボラ対策」の名のもとにおこなわれている。レバノンで。あの内戦の経験があるレバノンで。

 

……ということが起きているわけです。ドナルド・トランプの卑語など、どうでもいい話です。トランプとネタニヤフの喧嘩などしょせん(日本語の俗語でいう)プロレスに過ぎない。そこに関心を向けさせるAxiosなんざに踊らされててどうするって話です。(Axiosがどう、という話は前のエントリにちゃんと書いてあります。ブコメでの反応もありました。) 

 

でも仮定法は大事です。

hoarding-examples.hatenablog.jp

以下、印刷して持って歩いてるとまあまあ反応があるプラカ。プラカやバナーなどとしてのご利用は非営利を前提にご自由にお使いください。上半分の赤いところは、確か2024年ですが、ガザ地区出身で今は国連で働いている人がツイートしていた画像。下の黒いところはその対訳(拙訳)。

 

 

*1:ましてや、assとassholeの区別もしない人々の対応などしなくてもよいんでは、とも。

*2:ただしこのメディアがヒズボラ系だということを隠蔽して語る立場を取る人たちには要注意。日本語圏にもいるよ。

*3:beforeなど接続詞でもあり前置詞でもありうるものなら、《接続詞+現在分詞》か《前置詞+動名詞》かの判断は難しいが、そもそもそこはたぶん判断する必要はないし、今どき、その判断を迫る設問もないだろう。whileは前置詞の用法はない……はず。

*4:JamesもTonyもクリスチャンの名前である。

ジェノサイドが実況され続けてくるガザ地区から届いた仮定法過去完了の例文

"You'd be in prison if it weren't for me." という例文を取り上げた昨日のエントリ、はてブで上位に表示されていた影響もあり、閲覧数が多くなっている。ブコメも多くいただいており、その中に英語の「仮定法」についてのものが少なくない。私は元々「仮定法ハンター」と異名を取る(取ってない)ほどの例文収集家だが、おかげさまでそれに輪をかけるようにして目が「仮定法」に最適化されてしまった。もはや仮定法スポッターである。

そんな今日のことだ。いつものようにガザ地区から直送されてくる英語の投稿の中に、「それ」はあった。投稿の主は、非常に厳しい状況にあるガザ地区北部でテントを拠点に無料診療所を開設し、自宅を失った人々に医療を提供しているエジディーン医師。2023年10月7日の直前に、留学先から戻ったばかりの若い医師で、これからばりばり働くぞと意気込んでいたところ、すべてを奪われたのだが、そこで折れずに無料診療所を立ち上げて組織化し、現在はHOPEという名称のNGOとしていて、内科や外科、皮膚科といった部門にとどまらず、歯科診療所も設けているし、遠隔診療も手掛けている。運営費は世界から集まった寄付金なので、お志がおありの方はNGOのサイトからご寄付いただきたい。

彼の英文は、エドワード・サイードが指摘していた「外国語として英語を学んだアラビア語母語話者のクセの強い英語」なのかもしれないが、独特のうねりがある。読んでるとぐるんぐるん回される感覚になる。なので体力が弱っているときは読めなかったりもするのだが、読む価値は十二分にあるので、英語が読める方はアクセスしてみていただきたい。

https://x.com/ezzingaza/

また、彼のツイートは、かなりきれいに編集された形だが(うねりが抑えられている。いいシャンプーを使った日のくせ毛のように)、1冊の本にまとめられている。電子書籍で手軽に買えるので、ぜひ読んでみていただきたい。

 

さて、今日見つけた「それ」はこれである。

https://x.com/ezzingaza/status/2061901968281641073

スクショ内の3パラグラフ目: 

Had our timing been slightly different, had we stopped for a few extra minutes, had we taken another route, perhaps this post would never have been written.

《ifの省略》によって《倒置》が生じた《仮定法過去完了》の文である。省略と倒置のない形にすると: 

If our timing had been slightly different, if we had stopped for a few extra minutes, if we had taken another route, perhaps this post would never have been written.

住んでいる場所のすぐ近くに空爆があり、2人が殺され、12人が負傷させられた、という報告に続き、「自分たちもその場所にいることがある」と述べたあと、「ほんの少しだけタイミングがずれていたら、あと何分かその場所にい続けていたとしたら、別な通り道を通っていたら」と仮定し、「この投稿は書かれることはなかったかもしれない」と結んでいる。

ここで「私は死んでいたかもしれない」とか「それは私だったかもしれない」とかではなく、「この投稿は書かれることはなかったかもしれない」。この書きかた、この視点、この《読者》との関係性への間接的言及――イスラエルによって標的とされて殺害されたジャーナリストのアカウントから、没後12時間後くらいに流れてくる「この投稿をあなたがご覧になっているとしたら、それは私が死んでいることを意味します」といった、タイマーでセットされた投稿を連想させる――、これがエジディーン医師の英文の特徴だ。何気ない一言が、読者の心をゆさぶる。それが連鎖していく。

かなりとんでもない書き手である。

この日の投稿全文を読めば、それがわかるだろう*1。

例文として検討した仮定法のところ以外にも、英文法・英語表現上のポイントはたくさん入っているので、ぜひ全文をお読みいただければと思う。

そして、ガザからの叫びに耳を傾けていただければ、と。「翻訳フィルター」なしで。

 

 

*1:これも仮定法で表せるな……。

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