Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

年齢の表し方, ハイフンでつなぐ複合語, -ing形, 前置詞+動名詞, 分詞構文, 性別を特定しない3人称単数代名詞のthey(「コロナパーティ」で感染して死亡した30歳の患者)

今回の実例は、報道記事から。

新型コロナウイルスやそれが引き起こす感染症のことを簡略化して呼ぶ場合、日本語圏では「コロナ」と言うことが定着してきたが、英語圏では "Covid" と言う/書くことが一般化している*1。例えば、日本語で「コロナの患者」と言うところは、英語では "a Covid patient" と言うことが多い。

形容詞と化したこの "Covid" は瞬く間に汎用性を獲得し、医療の現場でも症状をいうときに "Covid toes" や "Covid cases" などと表現するようになっているほか、批判や揶揄を目的とした造語である "Covidiot" (= Covid + idiot, 「新型コロナウイルス感染症のリスクを気にしない愚か者」の意味) まで作られ、使われている*2

今回見る記事は、そのような "Covid" という新造語に関するものである。内容は日本語でも報道されているから、既に知っている方も多いだろうし、まだ知らないという場合もまず日本語の記事に目を通しておくとよいかもしれない。

www.nikkansports.com

ただし一点、大きな違いがあって、日本語記事では「男性」と断定されている点が、今回見る英語記事では言及されていないということだ*3。「英語は代名詞で必ずheかsheを使うことになっているので、性別への言及がないということはありえないのではないか」と思った方は鋭い。今回はまさにその点に注目して、英語記事を読んでみることにしよう。

記事はこちら: 

www.theguardian.com

見出しに引用符つきで「いわゆる」のニュアンスつきで表記されている 'Covid party' が、日本語では「コロナパーティー」とされている。

この「伝染病パーティー」というのは、伝染病にかかったことがわかった人のところにみんなで集まって、病気を意図的にうつしてもらい、免疫を獲得しようという行動のことで、新型コロナウイルス/COVID-19とは関係のない感染症(例えばはしかなど)でも行われることがあるが、どの病気だろうと無鉄砲な行動だ。

*1:それ以外の言い方がないわけではない。

*2:先日感染したテニスのノヴァク・ジョコヴィッチも、感染が判明したブラジルのボルソラノ大統領も、"Covidiot" と呼ばれうる。

*3:ただし、英語圏でも別の報道機関の記事では「男性」と書かれているので、日本語記事が事実に即していないというわけではない。

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thatの判別, 同格, 挿入, call + O + C, to不定詞の受動態, 付帯状況のwith, prevent ~ from -ing(香港の「予備選挙」)

今回の実例は、先日「国家安全維持法」が作られてしまった香港の最新の動きに関する報道記事から。

香港ではこの9月に議会選挙が予定されていて、民主派は、それに向けた予備選(候補者選定の選挙)を先の週末に実施した。これについては日本語でも報道が出ている。下記は共同通信のごくごく短い記事: 

www.okinawatimes.co.jp

この予備選について英BBCが出している記事を、今回は見てみよう。記事はこちら。

www.bbc.com

香港とは特別な関係にある英国(1997年7月1日まで、香港は英国の直轄植民地だった)は、この件に関して完全な「外国」とはちょっと違った立場にあるが、BBCではほぼ毎日香港情勢についての報道記事が出ていて、それらを見ていると日本語圏の報道を見ているよりずっと密度の高いたっぷりした情報を得られる。下記のURLで毎日の記事が一覧できるので、関心がある人はここを毎日見るようにしておくとよいだろう。

https://www.bbc.com/news/topics/cp7r8vglne2t/hong-kong

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時制、完了不定詞、stop -ing, start -ing(嘘を嘘と見抜ける人でないと、ネットで投げ銭するのは難しい)【再掲】

このエントリは、2019年8月にアップしたものの再掲である。ここで見たような《時制》の扱いは意外と雑に済ませてしまいがちなので注意したいところである。

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今回の実例は、中国で起きたネット上のちょっとした騒動を紹介するBBCの記事から。

BBC Newsのウェブサイトにはいくつかのコーナーがある。「国内(UK)」、「国際(World)」、「ビジネス(Business)」、「IT・技術(Tech)」、「科学(Science)」、「エンタメ(Entertainment)」など、どこの報道機関でも使っているような一般的な区分けのほか、日々のニュースを追っかけるというより、ものごと・出来事の背後の人の生活や考えといったものを掘り下げる「ストーリーズ (Stories)」のコーナーなどの、BBC News独自のコーナーというかレーベルがある。

今回実例として参照する記事が入っている「BBCトレンディング (BBC Trending)」は、そういった独自のコーナーのひとつだ。

www.bbc.com

名称から察することができる通り、これは「ネットで話題」なものを集めたコーナーで、BBCの記者による取材はほとんど行われず(場合によっては行われることもある)、ネット上で話題になっていることを「まとめ」た、いわゆるコタツ記事を掲載するコーナーだと思っておいてよい。

このコーナーの記事は、記事中にBBC記者による検証などが入っている場合は別として、基本的に「BBC」というブランドにまどわされずに、「そのへんのまとめサイト」くらいのつもりで読むのがよい(「いかがでしたかブログ」よりは全然ましだが)。何かBBC記事のフィードが流れてきても、それがTrendingの記事なら、「あー、はいはい」くらいに構えておくのがちょうどよい。ここの記事はBBCが誇る「プロの仕事」とはちょっと違う。ここの記事に書かれていることは事実の確認・検証という過程を経ていない、「~と言われている」「~と書かれている」の集積である(個人的には、記事を書き慣れていない人が、あちこちにある雑多な情報をいかにひとつのまとまった文章として記事にできるかという点で実践的に練習するための場なのではないかと思っている)。今回の記事はざっと読んだところ特に引っかかるところはなかったが(情報が足りないと思った個所はあるが)、内容がさほどシリアスではないので、このくらいゆるくてもなんとも思わずにいるだけかもしれない。

困るのは、BBCの日本語版のサイトでは ”BBC Trenging" というヘッダー情報がなく、普通の「ニュース」とこの「コタツ記事集積体」を区別せずに単に並べて日本語記事としてアップしてくれるので、どこの何とも知れないネット上の情報を切り張りした程度のものが、あたかも「信頼性抜群のあのBBCがこのように報じた」というように見えてしまっていることだ。

一度遭遇したひどい例に、「日本のTwitterでは蚊に『死ね』とツイートするとアカウントが凍結される」とかいう不確かな(アカウント凍結された本人がそう言っているだけの)噂を、何の裏付けも取らずに英語にして「まとめ」ただけの記事がそのまま日本語にされたケースがある。これは「逆輸入」の形でネット上の日本語圏ですさまじい勢いでバズってしまって、今もまだ修正・訂正はされていないが、噂の出元となった当の「蚊に死ねと言って凍結されたアカウント」は、その後自分でアカウントを削除して消えてしまったので、本当にそんなことが原因で凍結されたのかどうか、真相はわからないままだ(噂の出元となったアカウントは、ひとことで言って、非常にうさんくさいアカウントで、日本語圏の人なら、いわゆる「バイラルメディア」であっても、あのようなアカウントの言っていることを真に受けて記事にしたりはしないだろう。まあ、最初に目をつけたのはBBCではなく、日本にあるニュースサイトの英語版で「日本って変な国だよね~!」という方向のサイトのようだが、それを裏取りもせずにBBCが記事にしたことで、いわゆる「ソースロンダリング」された状態になってしまっている)。ちなみにこの件についてはブログに記録してあるので、詳しくはそれをご参照のほど。

nofrills.seesaa.net

なお、BBC Trendingと似たような、「各国で報道されていることをそのまま英語にします」的なコーナーはBBCにはほかにもあるのだが(BBC Monitoringという)、そちらはもっとずっと本格的。各国の報道を文字通りモニタリングしている。以前はBBC Newsの中に組み込まれていて普通に記事が読めたのだが、現在は全面的に有料サービスになっているようだ。

 

今回見る記事が掲載されているコーナーについて説明していたら、前置きがとても長くなったが、そろそろ本題。記事はこちら: 

www.bbc.com

中国で「癒し系の声を持つ若い女性」として人気を集めてきた女性vlogger (video + blogger: 文字で書くブログではなく映像で情報発信をしている素人。使ってるプラットフォームがYouTubeだったらYouTuber)が、配信中にいつも使っているフィルターがなぜか起動せず、それに気づかなかったためにうっかり素顔のままで配信してしまい、実際は「若い女性」ではなく「中年の女性(おばさん)」だったことが判明し、ファンが愕然、本人はアカウント閉鎖……という、いかにも「ネットで話題」な話である。

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【ボキャビル】「ほとんどの」の表し方, 前置詞のas, different to ~, 等位接続詞and, やや長い文, make use of ~, など(タバコに関するWHO報告書)【再掲】

このエントリは、2019年7月にアップしたものの再掲である。この文書には、「正確に英文を読むために絶対押さえておきたいポイント」が次々と出てくる。英語の勉強のために読んでみる素材文としては、かなりよいと思う。以下、埋め込んであるURLが一部無効になっているケースもあるかもしれないが、WHOのPDFは2020年7月の時点でもまだ読めるので、手元にダウンロードしておくと教材として活用しやすいのではないかと思う。

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今回も前回と同じく、世界保健機構 (WHO) が出したタバコに関する報告書から。

以下、前置きとして前回と同じ文面を少々……

この報告書は、タバコを人間の生活からなくしていこうという方向の動きがどのくらい進んでいるかを世界規模で調査してまとめられたもので、WHOのサイトで全文や全体要旨、付属データなどがすべて公開されている。

www.who.int

報告書(全文)は、アラビア語、中国語、英語、フランス語、ロシア語、スペイン語国連公用語6言語にポルトガル語*1を加えた7言語で公開されている。当ブログで参照するのはもちろん英語で、下記URLからPDFファイルが誰でも自由にダウンロードできる。ファイルサイズがわりと大きい(7MB近くある)ので注意。 

https://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/326043/9789241516204-eng.pdf

 

この報告書のなかで、「加熱式たばこ」に関する部分が、NHKの報道記事になっている。(リンク切れになっている場合はこちらからどうぞ。)

www3.nhk.or.jp

 

今回実例として見るのはその「加熱式たばこ (Heated tobacco products)」に関する部分から、PDFで前回見たところの次、報告書の54ページだ。

*1:人口の多いブラジルの公用語

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not only A but also B, not A but B,【ボキャビル】differ to ~, however, 関係代名詞(WHOが加熱式たばこの規制を提唱)【再掲】

このエントリは、2019年7月にアップしたものの再掲である。WHOが説明の目的で書く文書で使う英語は「世界共通語としての英語」そのもので、英語の勉強にはかなり役立つので、機会を見つけて見てみるとよいと思う。

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今回の実例は、世界保健機構 (WHO) が出したタバコに関する報告書から。

この報告書は、タバコを人間の生活からなくしていこうという方向の動きがどのくらい進んでいるかを世界規模で調査してまとめられたもので、WHOのサイトで全文や全体要旨、付属データなどがすべて公開されている。

www.who.int

報告書(全文)は、アラビア語、中国語、英語、フランス語、ロシア語、スペイン語国連公用語6言語にポルトガル語*1を加えた7言語で公開されている。当ブログで参照するのはもちろん英語で、下記URLからPDFファイルが誰でも自由にダウンロードできる。ファイルサイズがわりと大きい(7MB近くある)ので注意。 

https://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/326043/9789241516204-eng.pdf

 

この報告書のなかで、「加熱式たばこ」に関する部分が、NHKの報道記事になっている。(リンク切れになっている場合はこちらからどうぞ。)

www3.nhk.or.jp

※この記事、NHKが日本語でまとめたものだけを読んで報告書現物に当たっていないと思われるブコメが散見されるが、報告書について何か意見を言うのなら報告書を見るべきである(報道について意見を言うのなら報道だけ見てても別によいのだが)。全部を見るのは大変かもしれないが、該当する部分だけなら5分もかからずに読める分量なのだから。

 

今回実例として見るのはその「加熱式たばこ (Heated tobacco products)」に関する部分。 報告書の52ページだ。

*1:人口の多いブラジルの公用語

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【ボキャビル】ビジネスパーソンの間ですっかり定着している言い回しのリアルな例(ジョンソン首相を私はこう見る)【再掲】

※本日新規記事の代わりに、一昨日・昨日と書いてきたことについてウィキペディアの編集作業を行い、ブログは過去記事の再掲としたいと思います。宜しくお願いします。

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このエントリは、2019年7月にアップしたものの再掲である。ここで取り上げているようなフレーズは確かに「学校では習わない」かもしれないが、こういう「学校では習わない」ようなものだけ知ってれば英語でのコミュニケーションはうまく行く、というわけではないので、その点は注意されたい。

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今回の実例は、近年、ビジネスパーソンの間で大流行して定着したというフレーズが出てきているインタビューより。

英国の公共放送BBCのラジオは、やたらとたくさん局がある。ニュース・天気予報はもちろん、音楽中心のところもあればスポーツ中心のところもあり、討論やリスナーの意見を電話で受けるトーク番組が多い局もあるし、ラジオドラマや教養系の番組が主軸の局もある。これらに加えて各地域のローカル局があり、PCやスマホのラジオアプリで「BBC」と入れると、膨大な数の局が表示されることになると思う。ネットで聞くには、スポーツなど、放送の権利関係がいろいろある番組は英国内からのアクセスでしか聞けないが、そうでなければ日本からでも普通に聞ける。

今回のソース元であるBBC Radio 5 Liveは、スポーツの実況中継もやるが、トークやインタビューが中心の局だ。平日早朝の番組に、"Wake up to Money" という非常に直接的なタイトルの経済・ビジネス番組があり、多くのビジネスパーソンが聴いている。

2019年7月24日、テリーザ・メイ首相が正式に退任してダウニング・ストリート10番地の首相官邸を去り、後を受けるボリス・ジョンソン新保守党党首が首相となる日の朝、番組はやはりこのトピックを取り上げ、何人かの財界人に話を聞いたようだ。

そのひとりがネット通販大手HUTグループの創業者、マシュー・モールディング氏。彼の発言の一部が、BBC BusinessのTwitterアカウントから次のようにフィードされた。

 

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「文法」は何のために必要か: 単語をつなぎ合わせたデタラメな読解をしないために(英語版を元にしているはずの日本語版ウィキペディア記事のデタラメ)

今回は前回の続き。当ブログの扱う事項としては変則的な話題だが、日本語圏で得られる情報の不確かさという点について、またそういう場合に英語圏に飛んで何をどう確認すればよいのかという点についての話なので、しばしお付き合い願いたい。

そういう確認も、正確な読解ができることが前提で(なお、「読解」は「読み取り」であり、「翻訳」ではない。内容を読み取るだけなら「読みやすい翻訳」なんかできなくっていい)、その読解のためには「単語を好き勝手につなぎ合わせて、何となくつじつまが合うように仕立て上げる」ということをしないことが必要不可欠である。

例えば下記の文は夏目漱石の論説文「学者と名誉」の抜粋だが: 

木村項だけが炳として俗人の眸を焼くに至った変化につれて、木村項の周囲にある暗黒面は依然として、木村項の知られざる前と同じように人からその存在を忘れられるならば、日本の科学は木村博士一人の科学で、他の物理学者、数学者、化学者、乃至動植物学者に至っては、単位をすら充たす事の出来ない出来損ないでなければならない。貧弱なる日本ではあるが、余にはこれほどまでに愚図が揃って科学を研究しているとは思えない。

https://www.aozora.gr.jp/cards/000148/files/2383_13558.html

これを一読して、「日本の科学で優れているのは木村博士だけで、他は出来損ないだと漱石は考えている」とか、「日本では愚図が揃って科学を研究していると漱石は厳しく批判している」と読み取ってしまうことは、誤りである。漱石はそんなことは言っていない。漱石は「日本には立派な科学者が大勢いる」と言っている。一読して即座にそう判断できるのは、この文にある語(単語)やフレーズではなく、この文の構造、つまり「AならばBということになってしまう(が、実際にはそうではない)」を読み取っているからだ。その読み取りの基礎にあるのが、《構造》や《文法》の知識である。

他方、ただここにある語(単語)をつなぎ合わせて自分の中で《意味》らしきものをでっち上げてしまえば「漱石は日本の科学者は情けないと嘆いている」といった間違った読みをしてしまうことになるかもしれない。そうしないための《構造》や《文法》だ。

前回から見ている日本語版ウィキペディアのでたらめな記述は、そういった《構造》や《文法》への軽視、というかナメくさった態度が根底にある。

前回見た部分ではおそらく「リプレース」と「リストア」の区別もついていないくらいにすっかすかの知識で無謀にも何かを書くということをしたための間違い(だからそれは「英語の問題」「英語力の問題」というより「日本語の問題」「日本語力の問題」であり、「一般常識の問題」と言えるかもしれない)、および、英語の代名詞のoneとitの違いをわかっておらず日本語で「それ」と把握していたための間違いと考えられるが、今回は、仮に語彙の理解としては問題がなくても、文の解釈がめちゃくちゃになっていると考えられるところだ。

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本日、記事のアップロード時刻が少し遅くなります。

いつもお読みいただきありがとうございます。

本日、記事のアップロード時刻が、定刻の15:30より遅れます。18:30にもう一度チェックしてみてください。

恐縮です。

nofrills拝

代名詞oneとitの違い, to不定詞の形容詞的用法, 分詞の後置修飾(あの事件から15年目の日に、日本語版ウィキペディアのとんでもない誤訳を見つけた)

今回はちょっと変則的に。

日本語圏では忘れられているかもしれないが、15年前の今日、7月7日、英国の首都ロンドンの公共交通機関がテロ攻撃の標的とされた。北の方からこのためにロンドンにやってきた4人の若者たちが、朝の通勤時間帯、ロンドンの中心部で地下鉄とバスを標的に、自爆攻撃を行った。何十人もが殺され、数百人が怪我をした。

2005年当時、私は既にブログを使っていて、東京でテレビニュースやネット経由で何が起きているかを把握しようとし、見たもの・聞いたことをかなり細かくメモっていた。当時お世話になっていたレンタルブログはその後閉鎖されてしまい、その過程で画像などは失われている部分があるが、ログ自体は取ってある

nofrills-o.seesaa.net

あの朝、報道機関のフォトグラファーは流血の現場をカメラに収めていたが、攻撃対象とされた地下鉄車両やバスに乗り合わせていたわけでもない一般のロンドナーが見たのは「閉鎖された駅」「情報を求めて家電チェーン店店頭のテレビに群がる人々」だった。スマホなどなかった頃のことだ。

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Photo by Adam Tinworth (CC BY-NC-ND 2.0) https://www.flickr.com/photos/adders/24229398/

 

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Photo by Adam Tinworth (CC BY-NC-ND 2.0) https://www.flickr.com/photos/adders/24229839/

事実としては、標的とされたのは地下鉄3か所、バス1台だったが、当初は情報が混乱していて、私も東京で「報道ステーション」が実際よりずっと多くの場所(10か所くらい)が攻撃された可能性があると報じていたのをはっきりと覚えている。こういった情報の混乱はよくあることで、近年のパリでもシドニーでもオタワでも、事件発生中には途方もない規模の攻撃が起きているという情報がSNSでも報道機関のサイトでもたくさん出るのだが、たいていは情報の混乱や事実の誤認、混乱して何が起きているのかわからない状態の現場からSNSで直送されてくる誤情報で、そういった誤った情報は数時間か、長くても数日の間には修正され、あとには正確な事実を伝える情報が残る(ときには、誤情報が流れていたことも書き添える形で)。

それが普通である。

だが、日本語圏ではそうはいかないことが、残念なことにかなり多い。それもウィキペディアのような多くの人が参照する場で、ひどくデタラメなことが基本情報として記載されていることがよくある。それも「当初の混乱した情報がそのまま残っている」といった一定の合理性のあるパターンではなく、「どうしてそうなった」としか言いようのない、完全なデタラメ。英語で情報を取ってこれる人が誰も見ないようなところで、英語はGoogle翻訳に頼っていたり、単語を適当につなげれば訳文ができると考えていたりする人が、好き勝手なデタラメ翻訳をウィキペディアに書き込んで、それが放置されたりしているのではないかと思う。

こういうことについて、私は4年前の2016年2月にブログに書いている。国際的にとても意味の大きな項目が、めちゃくちゃだったのを修正した記録だ。

nofrills.seesaa.net

この件での最も大きな問題点のひとつがこれ: 

そして今私は、2005年7月7日のロンドン公共交通機関に対するテロ攻撃についての日本語版ウィキペディアのページに、このアブ・グレイブ刑務所での被収容者拷問についての日本語版ウィキペディアのページにあったのと同様の問題を見つけて、唖然としている。

f:id:nofrills:20200707091438p:plain

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%B3%E5%90%8C%E6%99%82%E7%88%86%E7%A0%B4%E4%BA%8B%E4%BB%B6

おわかりになるだろうか。「1台が爆発し」と書いてある次の行で「爆破された3台」。まったく滅茶苦茶、支離滅裂である。なお、事実としては爆破されたバスは1台しかない。「爆破された3台のバス」云々の記述には出典が書かれてもいない。書き込んだ人物は何を根拠としてこんなことを書いたのか?

さらにおかしな記述は続く。「ロンドンのシンボルとも言えるデニス・トライデント・2型」とあるが、この型のバスを「ロンドンのシンボル」と呼んでいる例が実際にあるのだろうか? バス・マニアの世界ではひょっとしたらいろいろと細かいことがあるのかもしれないが、私の知る限り、一般的に「ロンドンのシンボル」と呼ばれた二階建てバスは、2005年当時は現役だったが、2020年の今から見ればもうとっくに普通の路線バスからは引退している*1旧式のルートマスターだ。下記の写真のタイプ。

f:id:nofrills:20200707093043j:plain

https://pxhere.com/en/photo/970527

さらにめちゃくちゃなのはその次。「最初に爆破されたバスはエンパイロ・400の車体を利用して修復され」の部分。私は爆破された路線番号30番のバスは利用していたことがあるので事件後のニュースには注意を払っていたが、そんな話は聞いたこともない。そもそも、ロンドン当局が、破壊されたバスの車体をいちいち修復する必要もない。単に新しいのを発注すればいいだけだし、実際にそうしているのだ。

というわけで、このめちゃくちゃな記述の「ソース」として示されている記事を、今回の実例として見てみよう。

f:id:nofrills:20200707094818p:plain

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%B3%E5%90%8C%E6%99%82%E7%88%86%E7%A0%B4%E4%BA%8B%E4%BB%B6

f:id:nofrills:20200707095248p:plain

http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/england/london/4304884.stm

この記事は、事件から約3か月後の2005年10月3日に出ている。

書き出しの文: 

A new bus has been unveiled to replace the one destroyed in the 7 July bomb blast which killed 13 passengers.

太字にした "to replace" は《to不定詞の形容詞的用法》で、述語動詞の "has been unveiled" が先行しているために*2少し離れているが、 "a new bus" を修飾している。

問題のウィキペディアの記述は、おそらく、このreplaceという単語を辞書も引かずに思い込みで「修復する」と解釈したのだろう。replaceはre + placeで「置き換える」「入れ替える」「交換する」だ(「リプレース」というカタカナが用いられる分野もある)。置き換え前のものはその場から取り除かれる。「修復」とは全然違う。あまりにお粗末な誤訳で、こんな程度の英語力しかない人が好き勝手に書き換えられるウィキペディアというシステムは、本当に恐ろしいと思う。全然信頼できない。そんな信頼できないような場に、その分野についてであれ、翻訳に関してであれ、専門の知見があるような人が寄ってくると思う方がおかしい。そもそも信頼性が担保されていないような場に時間を割くなどというヒマなことは、専門の知見があるような人はあまりしない。

閑話休題。下線で示した "destroyed" は《過去分詞》で、これは "the one" に対する後置修飾。この "one" は代名詞で、日本語にすれば「それ」だが、itとは違う。ここもおそらく、このウィキペディアンはわかっていないと思われるが、itは「それそのもの」、oneは「それと同種のもの」を言う。次の例文でわかってもらえるだろうか。

  I've lost my umbrella. I've got to find it

  (傘を紛失してしまった。紛失したその傘を見つけなければならない)

  I've lost my umbrella. I've got to buy a new one

  (傘を紛失してしまった。新しい傘を買わなければならない)

 

ここまでで規定の4000字を超えてしまったので、この続きは次回に。

 

なお、日本語版ウィキペディアのこの一連の奇妙な記述、履歴をたどると、最初に出たのは 2013年4月20日 (土) 17:42の版だ。事件から8年近くも経って書き足すようなことか? その版の当該部分のキャプチャ: 

f:id:nofrills:20200707093932p:plain

https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E3%83%AD%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%B3%E5%90%8C%E6%99%82%E7%88%86%E7%A0%B4%E4%BA%8B%E4%BB%B6&direction=next&oldid=47551407

差分(この前の版との違いを示した画面): 

f:id:nofrills:20200707094215p:plain

https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E3%83%AD%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%B3%E5%90%8C%E6%99%82%E7%88%86%E7%A0%B4%E4%BA%8B%E4%BB%B6&diff=prev&oldid=47551727

こんなところでブログねたにしてないでウィキペディア修正してこいって? 時間見つけたらやりますよ。私より先に誰かが正確な情報で上書き更新してくれると嬉しいですけど。 

 

 

*1:今でも特別の用途では走っている。

*2:これを律儀に修飾語句の後に回すと、頭でっかちになってとても読みづらくなるための措置と思われる。文法ではなく「読みやすさ」ゆえの措置だ。

やや長い文, 疑問詞節, 付帯状況のwith, 【ボキャビル】「~に関する」の意味を表すon (新型コロナウイルスと学校というシステム)

今回の実例は、先週月曜日(5回前)に見た新型コロナウイルス禍の中の米国の学校制度についての論説記事より。

先週のうちに扱っておく予定だったのだが、香港国家安全維持法の件があるなどしたので遅くなった。

記事はこちら: 

www.usatoday.com

この論説の筆者についてなどは5回前に書いてあるのでそちらを参照されたい。

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接続詞のas, remember to do ~, keep + O + 過去分詞, 等位接続詞のand (ロンドンの炎暑と動物たち)【再掲】

このエントリは、2019年7月にアップしたものの再掲である。2020年もイングランド(を含む英国)は6月に既に30度を上回る日が出ている。この先、これが繰り返されていけば、30度くらいでは話題にもならなくなるかもしれないが。

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今回の実例は、異様な暑さに見舞われているイングランドから、暑さに対応するための注意喚起の文面。

今年の夏、東京は20日以上ずっと曇りや雨で、じめじめじとじとした気温の低い日が続いていたが、ヨーロッパは尋常ではない暑さに見舞われていた。ほぼ1か月前の6月下旬には、パリ(フランス)で34度とかいう日があった。

jp.reuters.com

 

そして7月25日、#hottestdayonrecord (Hottest Day On Record) というハッシュタグがTrendsのトップだった日、イングランド南東部は熱波による酷暑に見舞われた。「酷暑」というのはうちらにはおなじみの日本の暑さを基準にした表現で、イングランドの人々にとっては「炎暑」、むしろ「炎熱地獄」の域だろう。

このように、ロンドンでは39度が予想されていた(実際にはそこまでは上がらなかったようだが)。東京も25日は暑くなっていたが33度くらい。今年は今までが梅雨寒で気温が低すぎたからめっちゃ暑く感じられるだけで、暑いには暑いけど実は大したことない(最近の日本の基準では)。東京よりロンドンが暑い! ちなみにこの日、ベルギーやドイツでは40度を上回ったそうだ。

 

東京なら、39度だって、仮に家にエアコンがなくっても冷房の効いた場所で過ごすなど暑さから逃げる方法はある。しかし、ロンドンを含む欧州は、冷房が普及していない。近年、夏の暑い日が増加しているが(空気の流れが変わったらしい。アフリカからの熱気が欧州に上がってくるようになったとか)、それでも、あっても扇風機だという。列車などは冷房が備わっていないものと考えておいた方がよい。

そういう中で気温が30度台後半。もう災害だ。実際、(日本でもあまりに暑いと鉄道が安全のために速度を落とすが)この日は朝から鉄道が速度を落とすなどしていたが、ユーストン駅に入る鉄道では線路が燃えていたりしたという。

 

と、「慣れない暑さに、みなさん大変ですね」とのんきなことなど言っていられない状況だが、このように突出した暑さが予想されるときは、英国では「人間が熱中症にならないために」という情報だけでなく、「動物たちを暑さから守るために」という情報が動物愛護系の組織から提供される。よく見かけるのが、庭のある家では庭に水を張った容器を置いておき、野生の鳥や小動物が水浴びしたり水分補給をしたりできるようにしてあげておください、という呼びかけだが、ペットを守るための情報もよく見る。「車の中に犬を置いたままにしないこと」とか「日陰を作ってやること」といったような実用情報だ。

 

今回の実例もそのひとつ: 

 

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if節のない仮定法(ifの省略と倒置)、接続詞のasなど(北アイルランド、武装組織の活動)【再掲】

このエントリは、2019年7月にアップしたものの再掲である。ここに出てくる《ifの省略》は、毎日英語で何かの記事を読むなどしていれば、週に2~3回は遭遇する。書き言葉だけでなく話し言葉でもよく用いられるので、いわゆる「ビジネス英語」をマスターしたいという方には必須の項目だろう。

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今回の実例は、北アイルランドの報道記事から。

もう終結してから20年以上になるので知らない人も多いと思われるが、英国(イギリス)、つまり「グレート・ブリテンおよび北アイルランド連合王国」の「北アイルランド」では、約30年にわたって武力紛争があった。英語ではThe Troublesと呼ばれるこの紛争の背景となる基本的な構図としては、政治や社会的権力を独占してきた「プロテスタント」と、二級市民として扱われ差別されていた「カトリック」の対立、と説明されうる(ただし、非常にざっくりとした説明である)。

紛争の始まりと位置付けられているのは1968年10月の、「カトリック」側の公民権を求める行進を、「プロテスタント」側の暴徒(警察はこちらに加担していた)が襲撃したことであるが、プロテスタントの側にも武装組織があり、カトリックの側にも武装組織があり、そこに英軍が絡んで非常にややこしいことになって、面積としては長野県くらいの狭い場所で、結局30年くらいずっと武力紛争が続いたわけだ。1990年代に紛争終結・和平への動きが本格化し、最終的には1998年の和平合意(ベルファスト合意、一般には「グッドフライデー合意」)をもって紛争は終結したのだが、それから20年以上が経過した今でも、もろもろ、真相が明らかになっていないことはたくさんあるし、紛争期の暴力にどうカタをつけるかという非常にしんどい部分は先送りされ続けているし、何より、紛争期の武装組織の構成員の中でもとびきりの過激派が分派した組織が今なお、細々と、武装活動を継続している。(「紛争」期にメインで活動していた組織は、どちらの側のも武装を放棄しており、現在では政治的目的を有した武装活動、つまりテロ活動はもう行っていない。現在も活動しているのは分派組織である。)

そういったいわば「残党」の活動はプロテスタントの側にもカトリックの側にもみられるのだが、コミュニティが総体としてそのような暴力を過去のものにしている中で、そういった組織は紛争期に地元に持っていた影響力を維持し行使しようとし、社会全体に対する力の誇示を続けようとしている。それがはっきり表れたのが今年4月にデリーでの暴動を取材中のジャーナリストが、現場での発砲に被弾して落命した事件カトリックの側の武装組織)や、毎年の恒例行事である7月11日夜のボンファイア(焚火)の際に、ベルファストで、組み上げた巨大焚火のやぐらを撤去しようとした行政当局の契約業者の個人名などを街角の壁に書いて暴力を煽った事案(プロテスタントの側の武装組織およびその関連組織)だ。

だから、「紛争」が終わって20年も経っているのに、北アイルランドからは相変わらず恒常的に「武装組織の活動」に関するニュースが流れてくる(往時に比べれば威力はずっと低いかもしれないが)。

今回の実例は、そういったニュースのひとつから。記事はこちら: 

www.belfasttelegraph.co.uk

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接触節(関係代名詞の省略), 現在完了の受動態, need ~ to do ...(ウイルス禍の影響をもろに受けている音楽産業)

今回の実例はTwitterから。

新型コロナウイルスの影響で、演劇・音楽などいわゆる「パフォーミング・アーツ performing arts」が、表に立つ人から裏方に至るまで、甚大な影響を受けているのは、日本だけではない。日本は「クラスターが起きた」云々ということで真っ先にやり玉にあげられたのがライヴハウスだったことで、いっそう特殊な状況が生じているのだが、英国でも米国でもどこでも、人が外出することが厳しく規制されたことで、「人々が外出して楽しむ場所」を提供する産業が真っ先に、そして最大の影響を被ったことは同じで、特に小規模な(大資本の入っていない)ライヴハウス*1は、ウイルス禍が人類の上を通り過ぎたあとにいったいどれほどが存続していることか、危ぶまれている。そういった会場を巡るツアーを行っているアーティストは、活動の場を失ってしまうかもしれない。そういった会場の業務を支えている人々(音響技術者や機材のメンテナンスの技術者も、バーカウンターの担当者も、もちろん会場の運営者も)、それにありとあらゆる裏方の人々(ブッキング担当、ローディー、などなど)は、すでにウイルス禍に直撃されていて、この先どうなるのかもわからない。まさに、未曽有の危機である。

ポピュラー音楽を主要な輸出産業としてきた英国では、この未曽有の危機に際して、自身はもう過去の作品の印税で余裕で食っていけるような立場の大御所たちが、音楽産業に対する支援を求めて声を上げた。

 一方で、アーティストや独立系レーベルが直接音源を販売しているBandcampでは、以前も取り上げたが、毎月第一金曜日は自身のサイトの利用手数料をとらず、客が払ったお金はほぼ全額がアーティストやレーベルの元に行くという企画を続けている。今月、7月は、今日3日である。日本時間では3日16時から4日15時59分までだ。詳細は6月に書いたものをご参照いただきたい。

hoarding-examples.hatenablog.jp

Borisも今日7月3日に新作をBandcampでリリースする。私は今回、今のところ完全に裏方で表には出ていないが、この素晴らしい友人たちの言葉を英語にするという作業で関わらせてもらっている(チェックとかの地味な作業も込みで)。

boris.bandcamp.com

 

さて、今回の実例は、そのような状況の中で書かれた言葉から。ツイート主は英国のインディペンデントな音楽メディア、Louder than Warで書いているアンディ・ブラウンさんだ。

 

*1:「ライブハウス」は和製英語で、英語ではmusic venueなどと言わないと通じない。

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形式主語itとthat節の構文, 強調構文, 接続詞のasなど(新型コロナウイルスは、人体で何を引き起こすか)

今回の実例は、新型コロナウイルスについての、日々の数字の動きや社会的な影響の報道とは違った点からの記事より。

このウイルスが人間の体に入ったときにどんなことを引き起こすのかは、実はまだよくわかっていない。顕著なのは肺炎だが、それだけではない。当初「子供は感染しない」というイメージがあったにもかかわらず、子供が川崎病のような全身の炎症を起こして死亡するケースも多く、米国ではミュージカル俳優が、脚の血流が止まってしまったために片足を切断することになった

今回の記事は、その点について、医療を専門とする記者が回復者や現場の医師に話を着てまとめたものである。記事はこちら: 

www.bbc.com

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進行形の受動態, 助動詞 + 受動態, 受動態と時制(速報記事に添えられている定型文)

今回の実例は、前回見た速報記事特有の注意書きから。報道記事を読むうえで知っておかないと正確に情報を得ることができないかもしれない、というポイントでもある。

このトピックは、元々は前回扱うつもりだったのだけど、文字数が規定の4000字を超えてしまうことが確実だったので、分けることにした。

というわけで、今回見る記事そのものは前回扱ったのと同じなのだが、その記事は、私が見たあとで同じURLで上書き更新を重ねているため、今その記事にアクセスしてもここで扱う記述を確認できるわけではないということをまずお断りしておかねばならない。

だから参考程度だが、記事はこちら: 

www.bbc.com

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