Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

「水分補給を忘れずに」の自然な英語表現が、ロンドンのデモ現場に登場した(5月第1木曜の地方選から、16日の極右デモまで)

2026年5月の英国の選挙

「リフォームUK」のバカ勝ち

例年通り、5月第1木曜日(今年は7日)におこなわれた地方選挙で、10年前のEU残留可否を問うレファレンダムで「EU離脱」が選ばれるうえで決定的な役割を果たしたUKIPの党首、ナイジェル・ファラージが、UKIPを捨てて自分で立ち上げた新政党、リフォームUK(Reform UK, 以下RFUK)がめっちゃバカ勝ちした、ということは日本語圏でもニュースになっていた。リンクは探すのが面倒なので貼らない。

他方、開票が済んだ瞬間にボロボロとボロが出てきて、「本当は当選するつもりもなく立候補してたんで(名前だけ貸してたんで)当選しちゃっても困る」と言っていきなり辞職する人が出たり、むき出しの人種差別がわかってさしものRFUKも党員資格停止せざるを得ない人(以前から知られていたナチス支持者、元BNPなど含む)が何人も出たり、当選したとたんに離党して別の政党に行ったりする人が続出していて、圧倒的カオスである。通例、英国の政治的カオスは、深刻でありつつ、どこかLサイズのポップコーンを抱えて眺めていたくなるような要素があるものだが(テリーザ・メイのときのDUPの扱いとか)、RFUKのはさすがにポップコーン気分とはほど遠い。ある程度慣れてても、絵面がひどいからね。

 

とはいえ、そういうのは千数百人もの当選者の中の数十人なので、目立たないっちゃー目立たない。目立ちはしないが、事実として記憶に刻んでおく必要はある。

 

英国での5月第1木曜日の選挙、今年はウェールズとスコットランドの自治議会とイングランド各地方議会

英国では毎年この時期に何らかの選挙がおこなわれる。国政選挙(つまり国会議員の選挙で、英国は上下両院から成る二院制だが上院は「貴族院」であるため選挙をせず、下院こと「庶民院」のみが選挙で議員を選ぶ。これが「民主主義の母国」ってドヤってるんだからわけわかんない)、つまり英国会の下院の改選も基本的に任期を迎えた年の5月の第1木曜日におこなわれることになっている。ただ、イギリスの憲法は文章になっていないし、議会の「任期」などあってないようなもので、そのときどきの判断で議会が解散されて総選挙になるのが常だが(なので日本の「七条解散」を英国向けに説明するときには情報量を詰め込まなければならなくなる)、今年の5月はその国政選挙はなく、イングランドの地方議会(市議会など)の一部と、1990年代末から自治がスタートしているスコットランドとウェールズの地方議会の選挙がおこなわれた。あと、補選はあったかもしれないがそこまでは見ていない。

ウェールズ、スコットランド、および今回選挙がなかった北アイルランド

個人的に最も大きいと思ったのがウェールズ自治議会の選挙結果で、これまでずっと労働党が掌握していた議会を、ウェールズ・ナショナリズムの政党プライド・カムリ (Plaid Cymru) が初めて制した。ウェールズ自治政府をPCが取ったのである。

スコットランドは、これまで通りスコットランド・ナショナリズムのSNPが、議席数は減らして単独過半数はとれずにいるが、最大政党として自治政府を担うことになった。

これに加えて、来年選挙を控えている北アイルランドの自治政府が、前回選挙でシン・フェインが最大政党となっているため、英国、つまりグレート・ブリテンおよび北アイルランド連合王国を構成する4つの地方というか「ネイション」のうち、自治議会を有する3つが、中央(ロンドン)からの距離を取って自治を求めるナショナリストが制するところとなった。中央との結びつきを強めようという勢力が少数派になっているのである。これはでかい。

んでもって、選挙結果が出た直後に、これらのうちで最強と思われる北アイルランドのシン・フェインが(自分たちは今回の選挙はなかったにもかかわらず)表にでてきて、「ケルト同盟」を言い出している。

(これは個人的にはポップコーン案件なんで、ゆっくり拝見することにします)

 

イングランド地方議会

今回RFUKが大量に議席を獲得したのはイングランド各地の地方議会(市議会、町議会など)で、RFUKは国政選挙に向けてのターゲット選挙区で思っていた通りの結果を出し、議会を掌握した(議会の与党となった)ようだ。それを図示したのが下記のマップだ。このマップを見てRFUKが掌握した地方議会の数を数えて「たいしたことない」って言ってる人がいたが、冗談・皮肉で言ってるのでなければ、過剰に楽観的だと思う。そもそも今回選挙がおこなわれたのは全部の地方議会ではなく一部だし、このマップを見たら、10年前のBrexitを決めたレファレンダムの開票をリアルタイムで見てた人は、あのときの記憶がよみがえるだろう。この地域の人たち、Brexitで「だまされた」と思ってないんだね。

ほか、この選挙についてはウィキペディア参照。こういうののサムネイルでファラージの顔が出てくるようになったんですよ。

en.wikipedia.orgあと、Twitter/Xでスレッド投稿もしてある。

 

5月16日(土)のロンドンのデモ

さて、16日(土)、英国の首都ロンドンで、2つのまったく別々のデモがおこなわれた。これが、本当に交わることもなさそうな団体2つだったらまあそこまででもないのだろうが、政治的にガッチガチに対立している陣営2つなので、Twitter/Xで感じられる限り、事前の雰囲気はめっちゃくちゃぴりぴりしていた。

が、16日になってみればさほどでもなかった。警察が徹底して、両者が交わらないようにエリアを分けていたようだ。あと、余談ながら同じ日に北西部のウェンブリーではサッカーのFAカップの決勝があって、ロンドンのチェルシーとマンチェスター・シティが対戦していた(勝ったのはシティ)。警察、大変な一日だな……。

「ナクバの日」を記念するパレスチナ連帯のデモはハロッズなどのある高級エリア

一方のデモ、パレスチナの「ナクバの日」(15日)を記念するパレスチナ連帯・支持デモは、ナイツブリッジなどの高級エリアでおこなわれた。暴れて沿道の商店を破壊したりするような参加者がいるという判断が警察の側になかったのだろう。私もどこでやるかは把握してなかったので、ハロッズの前を進むデモ隊の映像(下記。パレスチナ支持を訴えるユダヤ人の隊)を見たときは目が点になった。

BBC記事によると、 "The ... pro-Palestinian march, marking Nakba Day, started in Kensington before heading to Waterloo Place via Piccadilly." つまりケンジントンから出発してピカディリーを経由してウォータールー・プレイス、というコースだったそうだ。暴れ隊がいるデモならこんなコースは通させないだろう。

こちらのデモから。上空はヘリ飛んでますね。

『コモン・センス』のトマス・ペインの肖像画を掲げているTom London氏は、イスラエルによるジェノサイドを厳しく批判している英国のユダヤ人のひとり。

アンドルー・ファインスタインさんもイスラエルによるジェノサイドを厳しく批判している英国のユダヤ人のひとり。

"Genocide: It's only complicated if you're implicated." このimplicateは「悪事の当事者となっている」というような意味で、「自身が関わっているからこそ、ジェノサイドは複雑な背景があるなどと言えるのだ」という主張。押韻を利用してこんなにコンパクトにかっこよく表現できていいなあ。

 

ヤックスレイ=レノンらのデモはいつもの国会らへんのルート

他方、RFUK支持者も大勢いると思われる「ユナイト・ザ・キングダム」デモ(あの層を相手に、現状the United Kingdomである国についてUnite the Kingdomというスローガンをブチ上げたのは、天才的と言っていいと思う。悪知恵の働くのがいるんだね、的に*1)のほうは、政治的デモでよく使うコースだ。BBC記事によると、 "Protesters attending the Unite the Kingdom march gathered in Kingsway, before heading to Whitehall and a rally in Parliament Square." 

「ユナイト・ザ・キングダム」デモの主催は、元EDLのスティーヴン・ヤックスレイ=レノン(芸名「トミー・ロビンソン」)で、こっちはこんな様子だったとのこと。

こっちはあんまりまともに見る気がしないし、私のフィルターバブルの中にも入ってこないからこんな程度で。フィルターバブル内に入ってきてるだけでも、英国の旗以外にイランの王党派の旗(真ん中に獅子がいるデザイン)やイスラエルの旗があって、「極右」観がアップデートされていない方は混乱なさるだろうと思うが、今の欧米の「極右」はイスラエルを断固支持している。というか元から極右はそう。自分たちの街・国からユダヤ人が出ていくことを支持しているので(それが「ユダヤ人排斥」というナラティヴを得るか「ユダヤ人国家設立」というナラティヴを得るかの問題)。

あ、あとBBC記事でここおもしろかった。He = Stephen Yaxley-Lennon.

He also led protesters in a chant of support for technology billionaire Elon Musk, the world's richest person.

Tens of thousands join rival protests in London

イーロン・マスクの肩書www 

「俺らの生活が悪いのは移民のせい」デモの主催者が、富を自分らに集中させまくっている富裕層の中でも一番の人物をたたえているわけ。ばかばかしい。

 

で、これらのデモで逮捕者が何人か出たとBBC報道にはあるのだが、どっちにあったのかなー、っていうかね。パレスチナ連帯はひどく弾圧されていて、今の英国は、特定の文言のプラカードを持っていたら逮捕事由になるというところまで来ているのでよくわかんないけど、デモ隊が通り過ぎた後が、飲み捨てられた缶などのゴミだらけになるのが常なのは今は「ユナイト・ザ・キングダム」になってる陣営の方。

あと、上で述べたように前から知られていたナチス支持者を当選させてしまったRFUK支持者は「ユナイト・ザ・キングダム」に参加してる。でもスターマー首相を含むメインストリームの政治家や体制によって「反ユダヤ主義」で非難されているのはパレスチナ連帯のほう。

《事実》が意味を奪われていくなかで、それでも私たちは事実を支持し続けるよりない。というか「事実」というものは人が支持しようがしまいがそこにあるものであったはず。これが壊されたのが10年前、2016年のことで、当時post-truthという言葉で語られたことは今は無標になっている。つまりそれが当たり前になっている。

ドナルド・トランプの嘘(事実でないこと)を指摘する者も、イスラエル政府のそれにはほっかむりしていたりする。何かのハードルが、著しく下がっている。

 

言葉のメモ

さて、これらの16日のデモについてTwitter/Xに流れてきた言葉のなかから、いくつかメモをしておこうと思う。

「アメリカ化」を批判的に言う

まずはジャーナリストのバリー・マローンさんの言葉。ユニオン・フラッグ(ユニオン・ジャック)を背負うなどした「ユナイト・ザ・キングダム」参加者が、木で作られた十字架(キリスト教のシンボル)を手にしていく様子の現場映像(日本の文化の中にいる私としては「またぐなよ」と思うんだけど)についてこう述べている。

米国に見られる熱狂的なキリスト教(プロテスタント)は、歴史的経緯はどうであれ、今の英国では「アメリカ的なもの」として距離をとって眺められている。教義というより形式的なことで、壇上の説法者が何かを叫んで会衆が泣いたり失神したりするようなのもそうだし、もっと穏やかな、ハリーとメガンの結婚式で披露されたようなアメリカ式のゴスペルのようなものも、王室メンバーを含め王室の結婚式に参列するような方々には相当な異物だったこことはあの結婚式の現場で明らかだった(ウィリアム王子に至っては、アメリカ側の見せ場で下を向いて笑いをこらえていたほどだ)。十字架を掲げて行進するというのもそう(実際には英国にもいるけどね……ガイ・フォークスの日になると出てくるよ。ロンドンじゃないけど)。

そういう「アメリカ的なキリスト教のありかた(利用されかた)」についてマローンさんは一言、 "Yankification" 「ヤンキー化」と言っている。

この「ヤンキー」は日本の俗語のそれ(気志團の人のようななりをした人やそういう行動様式の人を言うもの)ではなく、野球のニューヨーク・ヤンキースの名称の元となった「ヤンキー」の拡大的な意味である。

ヤンキーは、アメリカ合衆国北東部に住む白人に対する俗称である。アメリカ国外においては南部を含むアメリカ人全体に対する俗称、または蔑称。

ヤンキー - Wikipedia

Yankificationという語には、Americanizationという語とは違うニュアンスがある。それはYankeeという語に含まれる語感ゆえである。うちら的には、お寿司が魔改造されているのはAmericanizationというよりYankificationと言った方が近いのかな、的な。

あと、英国、特にイングランドにおける宗教というものは、キリスト教以外の宗教を持ち込むまでもなく、白人のキリスト教に限ってもさほど単純ではなく(イギリス史を少しでもかじった人ならお判りいただけると思う……)、宗教的熱狂がこういうふうに利用されているのが本当に「アメリカ的」と言えるのかどうかということはあるが、イギリスの人々が「こんなの、私の知っているイギリスではない」と感じるような「キリスト教」の在り方が現実になっているというのは、ちょっと心に留めておいてもよさそうな気がする。

というか、イギリスの人々が「こんなの、私の知っているイギリスではない」と感じている/感じさせられているということが、21世紀の重要な要素だが……好景気とロンドン五輪前の建設ラッシュで、当時EUに入ってほどないポーランドなど東欧からの建設労働者があちこちに集住するようになっていて、住宅街の人が「英語じゃない言語でしゃべっている集団がいる。こんなの、私の知っているイギリスではない」と感じて、どぶ板選挙運動中のゴードン・ブラウンに食って掛かっていたころから。

 

「水分補給はしっかりしようね」の英語表現

夏場の気温がこれまでにないくらい高くなっているのは日本だけではなく、20世紀に出た旅行ガイドをみれば「夏も冷房要らずの気候」「半袖だけでは肌寒く感じられることも少なくないので薄手のカーディガンが必要」などと解説されていた英国でも、30度を上回ることはもう普通になっていて、熱中症にならないように水分補給をしましょうという呼びかけは、日常生活の中に定着しているようだ。

日本語でも「水分補給」などという重苦しい漢字4字の語が、建設現場や倉庫などに貼られた標語ポスターなどではなく、また医療現場などでもなく、空調の利いたオフィスのような場所でも日常会話で「スイブンホキュウ」という音声となって発されるのが当たり前の語になったのはここ10年か15年くらいのことだろう。

さて、これを英語で言いたいときにどうするか。機械翻訳・AI翻訳や辞書を使わずに、自分の知ってる英語だけで言えと言われたら、 "Drink water." と言う人が多いだろう。あるいは "Drink some water." とか "Drink water properly." といったように修飾語を使って表現する人もいるかもしれない。

これでももちろん通じる(通じなくはない)のだけど、もっと標語っぽいというか、「水分補給」に近い語感がある表現がある。

それが、「ユナイト・ザ・キングダム」のデモの現場に登場した。「登場した」というよりぶっこまれた。

Led By Donkeysという集団の活動は、以前にもこのブログで触れたことがあったと思う。Brexit推進陣営の嘘のことばを、いちいち読まなければならない文章ではなく、見ればわかるようにデザインして(ツイッターのスクショだったりするのだが)広告掲示板に掲げたりしてきた集団だ。最初は紙に印刷したものを媒体としていたが、ほどなくビデオも媒体となり、人の目を引き付ける映像が、トラックに搭載された大型スクリーンに表示されたり、街の建物に投影されたり、ドーヴァーの白い崖に投影されたりしている。

今回はトラック搭載のスクリーンが登場した。

最初は、ユニオン・フラッグにUNITE THE KINGDOMという文字が入ったディスプレイとして、参加者の記念撮影スポットとなっていた大型スクリーンだが: 

https://x.com/ByDonkeys/status/2055692134095667421

10分後に様子が変わる。人々の様子も変わる。

https://x.com/ByDonkeys/status/2055692134095667421

このように、IMMIGRATION MAKES BRITAIN BRILLIANTと表示された(BRILLIANTはご丁寧にレッド、ホワイト、ブルーで点滅する)画面に続いて、英国を素晴らしいものにしてきた移民たち(歌手ジョージ・マイケル……彼の作ったヒット曲がバックに流れている、陸上競技モー・ファラー、歌手デュア・リパなど)が次々と画面に現れる。やがて、「やられた」と気づいた者がトラックによじ上って配線を何とかしようとしたらしい。そして警察の出番。

画面はフレディ・マーキュリーだね

その後も、Wake me up before you go-go♪ と音楽が流れ、「移民」たちが画面を躍動する中、「みんな移民じゃないですか We're all immigrants」の言葉に続けて、エリザベス2世を皮切りに(現王室はドイツ系である)次々と、「誰もが知るイギリス人だが、実は移民」という人たちが出てくる。アメリカ人やアイルランド人を入れたら確かにこうなる……例えば画面に出てくる中でも最も「英国人」らしい英国人であるウィンストン・チャーチルはお母さんがアメリカ人だし、幼少期はアイルランドで過ごしている。デモ主催者のヤックスレイ=レノンも両親の一方はアイリッシュだし、RFUKのナイジェル・ファラージはカトリック教会の弾圧を逃れてイングランドに亡命したフランスのユグノーの難民の家系だ(そしてBrexitを推進しておきながら自身は母方の家系を利用して取得したアイルランドのパスポートを持ち欧州大陸にも足場を確保していた)。Led By Donkeysは、今の極右陣営が言ってる「移民」はそういう移民ではない(有色人種やイスラム教、ヒンズー教、シク教など異教徒のことを言っている)ということをわかっていてこれをやっている。このころには警察がスクリーンの前に入って、デモ隊とスクリーンの間に壁を作っている。鉄壁のディフェンスである。

https://x.com/ByDonkeys/status/2055692134095667421

そしてデモ参加者たちが騒然とする中、「移民」たちに満たされた画面が切り替わって初期のユニオンフラッグになり、そこにそのメッセージが表示される。

https://x.com/ByDonkeys/status/2055692134095667421

"Stay hydrated." 「水分補給を忘れずに」である。参加者の服装を見るに、この日のロンドンはあまり気温が上がらなかったようだが、5月のこの時期は暑くなることも考えられるわけで、「ちゃんとお水飲んでね」という思いやりの一言を映像に仕込んでいたLed By Donkeysは優しい。

このフレーズについては、英会話情報サイトに何人かの講師が投稿したものが一覧になっているので、それをリンクしておこう。

eikaiwa.dmm.comここに書かれていることを総合すると、 "Drink water." でも通じなくはないけれど、hydrateを使うほうがより自然、ということになろうか。

っていうと日本の人からは「hydrateなんて、そんなむずかしい単語、知らないし、わかりません!」って反発・拒否されるんだよね。あなたにとって難しかろうが何だろうが、現地ではそれが自然だっていうことなんだけど……。「それが自然な英語表現」と言われたらそれで覚えるっていうことの積み重ねっすよ。しかもたった2音節の単語を「むずかしい」って……総理大臣の名字が4音節もあるのに連呼できるんだったら2音節は楽勝。

hydrateという単語についてはDictionary.comを見ておくとよいです。読み方はカタカナで示すなら「ハイドレイト」。

www.dictionary.com

語源(語幹といったほうがわかりやすいか)はhydro-(カタカナで「ハイドロ」)で、これは「水」の意味。というともうカタカナ語で日本語に入ってることに気づかれるかと。土を使わず水と「ハイドロボール」を使った栽培方法を意味する「ハイドロカルチャー」や、ポケモンに出てくる「ハイドロポンプ」など。

 

 

 

 

*1:このUnite the Kingdomという名称の前に、北米のUnite the Rightという運動があったが。

「文脈がすべてである」という命題(引用元確認の必要性)と、今どき、「和訳」を焦点化するというナンセンス

 

とても読みづらい英文が話題になっていた

はてブのトップページにアクセスしてみたら、匿名ダイアリーの次の記事が話題になっていた

anond.hatelabo.jpだらだらと長くなっていて、構造的にも非常に読みづらい英文で、しかもイディオム入りの文である。これを「和訳」できるかできないかでマウントを取る、あるいは世を憂えてみせる、という発想自体が、ラサール石井が当選後に開口一番仮想敵としてぶち上げた界隈めいていて、なかなかほほえましい*1

誰もソースを確認していないようである

で、ブコメをざっと見たところ、誰も「ソースは?」という指摘をしていない。ソースを提示している人もいないようだった(私がブコメを非表示にしているユーザーさんが書いているかもしれないが)。

この文の読みにくさは、「あ、あれかな」と思わせる性質のものだが、誰もそれを確認していないらしい。

なぜソース確認が重要なのか(「文脈」というもの)

こういう読みづらい文に接したとき、うちらが第一にやるのはソースの確認、つまり文脈の確認である。多くの文は単独の存在としてではなく文脈の中で書かれ、文脈全体の中ではじめて意味を成す――というか、「はっきりした像を結ぶ」――ものである。

例えば小説の書き出しで「海を見ていた」とあるとき、読者はそれ単体で意味が取れた気になるかもしれないが、実は単体では意味はなさないように書かれている――海を見ていたのが誰なのかが書かれていないし、その他の状況なども何も書かれていない。それは意図的なライティングのテクニックで、次に関心をつなげ、先を読ませるための文体だ。すぐ後に「ふと、冷たい風の気配を感じた。エリザベスは立ち上がり、スカートから砂をはたき落とすと、徐々に暗くなっていく空のもと、海に背を向けて歩き出した。あれからもう2年になる」*2みたいに続いているのを読んで、読者ははじめて、「エリザベスという人が海を見ていたんだな」と理解し、同時に「日没まで思索にふけっていたのだろうか」「何か思い詰めていたのだろうか」「2年前に何があったのだろう」などと関心を掻き立てられて、先を読む。

この「先を読む」という行為を引き起こすために、冒頭ではあえて漠然とした記述でぼんやりとしたことを書く、というテクニックは、小説だけでなく報道媒体の特集記事のようなものでもよく用いられる(報道の中でも、何がどこで起きたのかといった情報、所謂「5W1H」の情報を伝えることが目的の文は、該当しない。「〇〇高速道路で車6台が絡む玉突き事故発生、通行止め」ということを伝えるべきときに、悠長に「ゆるい左カーブが続く道、ドライバーは一瞬夢の境地に至ることもあろう」などと記事を書き出しているヒマはない。ただし「〇〇高速道路の△△インター付近で続発する交通事故、対策は」といった解説記事ならば、このような書き出しもありうる)。

私がこのような書きかたの最初の遭遇例として覚えているのは、スポーツの試合の分析記事で、文頭が「競技場は静まり返っていた」から始まり、延々と誰かの心理描写や情景描写が続いていて、どっちが勝ったのかさえ、しばらくははっきりとわからないというものだ(日本でもNUMBERの記事などであるかもしれない)。3パラグラフほど読んでようやく、話が具体的に見えてくる。読者をそのくらいの力で引き込もうとする、ドラマチックな文体である(が、英文のスタイルに慣れていないと読みにくくてしょうがない)。

なので、うちらはこういう意味の取りづらい文に単体で遭遇したときは、まずはそれがどういう文脈で書かれているのか、どういう文章のどの位置にある文なのかを確認する。翻訳界隈で言う「文脈がすべてである Context is everything」はそれ自体が多義的で、ひとつの語についても言うが(単語の「意味」というか訳語の確定にも文脈が必要である。英語のsolutionが「解決策」なのか「溶液」なのかは文脈がないと確定されない)、このように、書き手がどういう意図・テクニックでその文を書いているかということについても言う。

この文のソース(引用元)

というわけで、件の文の一部、 "The guy whose actual paid job it is to try to get those in power" をコピペして、引用符付きでウェブ検索に投げてみた。私はオールドスクールなのでこういうときは普通にウェブ検索を使う。

一発である。イランの政治家の発言(の英訳)のソースを探すとかいう大変なことをやることも多い立場からすると、本当に朝飯前だ。

というわけで当該の文のソースはこちら

time.comそして出現箇所は、案の定、文頭。

https://time.com/5932014/donald-trump-christian-supporters/

《文脈の力》で読解する

話は、この次のパラグラフ(第2パラグラフ)でいきなり具体化する。

“If you can defend this, you can defend anything,” wrote Russell Moore, a theologian who is also the president of the Ethics and Religious Liberty Commission (ERLC) of the Southern Baptist Convention (SBC), in an excoriating editorial to his fellow evangelicals about the breach of the Capitol. 

つまり、はてな匿名ダイアリーで取り上げられていた読みにくい文の "the guy whose actual paid job it is to try to get those in power to think about a higher power" は、"Russell Moore, a theologian who is also the president of the Ethics and Religious Liberty Commission (ERLC) of the Southern Baptist Convention (SBC)" である。これでもまだ長いと思うなら、"Russell Moore, a theologian who is also the president of the Ethics and Religious Liberty Commission (ERLC) of the Southern Baptist Convention (SBC)" というように、関係代名詞以降の部分をワンランク下げるようにして読むとよい。

慣用表現だって読解できる

また、件の読みにくい文の "got about as ticked off as a polite Southern gentleman of faith is allowed to get" の部分、これはイディオム(慣用表現)が入っていて、それを知らなければわからないのだが、それも読解は可能だ。これは、受験でいえば東大など国立難関二次対策などでよく練習させられるあれである。

まず、"a polite Southern gentleman of faith" が "the guy whose actual paid job it is to try to get those in power to think about a higher power" とイコールであるということは、翻訳をやるくらいの人なら、匿名ダイアリーのエントリを読んだ段階で一目瞭然だと思うが(これが一目瞭然でない人は翻訳に手を出す前にやるべきことが山ほどある)、これは第2パラグラフに名前が出てくるRussell Moore氏のことである。

そして、この人が "If you can defend this, you can defend anything"(第2パラグラフ)と述べているということが、 "got about as ticked off"(第1パラグラフ)と表されている。

この ticked off というのが、見るからに慣用表現で、それを知らなければ意味が取れないという性質のものだが、"If you can defend this, you can defend anything" という実際の発言が読めれば、何となくであっても意味は取れるだろう。これが《文脈の力》である。難関国公立受験生はこの力を鍛えておくように指導されるだろう。

"If you can defend this, you can defend anything" (「これを擁護できるのなら、何だって擁護できる」)は、つまり "You can't defend this" (「こればかりはどうやったって擁護できない」)という意味で、つまり、発言者は「これ」に対して大変否定的な見解を抱いているし、憤慨している。(「これ」が何かは匿名ダイアリーの筆者が省いて引用したところにJan. 6と書かれていることで判断できるし、2021年1月に常識的な範囲でニュースを追っていた人ならば、記事の日付――Jan 21, 2021――でも、2021年1月6日のことであろうと察しをつけることはできよう。「1月6日」とは何かということは、この記事を読む人には社会的な一般常識と想定されている。東日本大震災をリアルに知るうちらの「3月11日」みたいな日付である。)

その憤慨が ticked off という慣用表現で表されている。

仮にこの慣用表現の意味を知らなくても、このようにして読み解くことが要求されるのは辞書が使えない場合に限られる、今ならAIもある、と余裕ぶっかましたくなるかもしれないが、実際のコミュニケーションのスピードのなかで辞書を引いているヒマがないときやAIが使えないとき、あるいはAIが幻覚を見てらりらりしているときのことを想定すれば、余裕ぶっかましてもいいけど損するのは自分だと知っておいてもいいかなと思う。

ちなみに英和辞典で確認するとこう

ejje.weblio.jp

まだ問題は残る

ここまでこぎつけてもまだ問題は残っている。当該の文(第1パラグラフの文)の述語動詞である "got about" である。get aboutは慣用表現で「歩き回る」といった意味があり、「世俗権力者により高位の力について考えさせることが仕事の人」がget aboutするのだから、「東奔西走するのかな」と読み解くだろう。だがそれだと詰む。

見やすさのために、もう一度件の箇所を示す。ticked offはangryと置き換えてもよいのでそうしておこうか。

the guy ... got about as angry as a polite Southern gentleman of faith is allowed to get.

と、見えてくるものがあるはずだ。

これは、got aboutというつながりではなく、got / about as ~ as ... というつながりではないか、と。

つまり、

He got as angry as a gentleman is allowed to get

にaboutが入り込んで、

He got about as angry as a gentleman is allowed to get

となっている。表現を少しやわらげるための語句で(日本語ならば語尾で調節するような性質の表現)、あえていえば意味は「およそ~」のaboutだろうが、訳出は無理にしなくてもいい。ソースをたどって少し真面目に検討すると、同一文で匿名ダイアリーの筆者が引用していないところにperhapsがあるので、それとの呼応とも考えられる。「断言しきらない」ようにする書きかたというか、そういうの。これは私は自分では使ってないので(使いこなせないから)ぼやっとしか説明できなくて済みません。

 

んで、こういう性質の英文について、「和訳」を焦点化している匿名ダイアリーの筆者は、何を考えてるんだ、と私は思うんですよ。大学受験においてすら、「和訳するための英文解釈」の時代ではもうないわけです。

 

なお、当該の記事は、トピック(Jan6の暴動・クーデター企図と福音派)について関心がある方は全文読む価値があるかもしれませんが、私は関心がないので第2パラグラフまででストップ。(この先に何が書かれているかは私は把握していません。)

 

以下、当該文の対訳例と追加の文法解説を有料でつけておくので、本記事が役立ったと思われたらご購入いただけると幸いです。

*1:ネタでやって、釣ってるんだと思うけどね。最近「英語学習」をせずにすむたった一つのさえたやり方として「AI」を持ち出すというのが定着しているので、それの観測かな、と思ったり。でも、医者、弁護士からエンジニア、デザイナー、画家に至るまで、ガザのTwitterユーザーたちがなぜあれほどのリーチを持っているかというと、あの人たちがちゃんとした英語を自分で書けるからなんだよね。日本についてはその点は絶対楽観できない。多くの場合、インテリでもちゃんとした英語は書けないから。

*2:これは今思いついたもので、何からの引用でもない。勝手に続き作ってくれてもかまいません。

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were to do ~の仮定法でのifの省略と倒置、挿入、イディオム(ホロコーストという過去の現実と、現在を、イスラエルの中から)

ホロコーストを記念する(「記憶に刻む」と言った方がいいかもしれない)ための日は、いくつかある。ホロコーストで殺された人々、特にユダヤ人の逮捕・移送・殺戮が行われた各国でのものもあるが、大きなのは2つ。

1つは国連の「ホロコースト犠牲者を想起する国際デー」で毎年1月27日、これは国際的な追悼と記念の日で、欧州とイスラエルの各国首脳も参列して大々的な式典が行われ、BBCなどで中継される。

もう1つはイスラエルの公休日になっている「ヨム・ハショア」でユダヤ暦のニサン月の27日。ウィキペディア日本語版では2024年までしかリストアップされていないが*1、2026年の今年は4月14日だった。その日、私がいつも見ている画面には、イスラエル国内から、この日のことを伝える言葉が流れてきていた――いくつかは最初から英語で書かれ、いくつかは現地語(ヘブライ語)の投稿がGrokによって自動的に英語で表示されている状態で*2、私がフォローしている範囲内のこととて、そのいずれもが、ホロコーストを利用して正当化されているイスラエルの拡張主義やアパルトヘイトを批判するものだった。その投稿のひとつが、国際法と人道支援の専門家で法律家(弁護士)であるイタイ・エプシュタインさんによるものだった。

というか、その投稿には、最近当ブログでよくメモっている類の、ウェブ検索などでは簡単には見つけられない英文法の実例が含まれていた。それに気づいたときの私の投稿: 

というわけでその投稿: 

実例が含まれている部分は下の方にあって、最初の画面には表示されていない。

*1:誰も見ていないんですかね……。

*2:私はTwitter/Xの設定言語を「英語」にしてあって、使っている端末の設定が「日本語」だが、この3月のGrok翻訳の訳文の自動的な表示の導入によって、自分の画面では日本語と英語以外の言語は自動的に英語で表示されるようになった。といっても今、自動的に置換されて流れてくるのは、ヘブライ語とアラビア語ばかりで、韓国語やインドネシア語などアジアの言葉や、フランス語やスペイン語など欧州の言葉がどうなるのかはまだ確認できていない。

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「持ってる」を英語で言うと(米副大統領の悪運)

今日はもうひとつ、興味深い実例を見かけたのでメモしておく。

日本語の俗語表現で、「持ってる」というのがある。「あの人がやるといつもいい結果になる」といった文脈で用いられる表現で、「2000年代初めごろから、スポーツ選手などが使い始めて広まった」(小学館デジタル大辞泉)とのことだ。逆の意味で「持ってる」こともある(つまり、いつもよくない結果になる場合)。

それに相当する表現が、向こうから勝手に流れてきた。こういう面白い用例に出会えることが増えていることについてはトランプ政権に感謝すべきかもしれないが、この政権が殺している人の命や、この政権のために破壊されている国際秩序や環境といったものに比べたら、そんなポジティヴな点は微々たるもの、パソコンのスクリーンについているホコリの繊維1本くらいかもしれない。

J. D. ヴァンス米副大統領が、フランシスコ教皇に会いに行ったら教皇は亡くなり、イランとの交渉をおこなったら交渉が決裂。ハンガリーの選挙でオルバンの応援に行ったらオルバン大敗。「この人は、持ってるね」という投稿である。その表現が: 

Man’s got a streak.

"'s got" はhas gotの省略形で意味はhasと同じ。"a streak" は「ひとつの筋、流れ」という意味で(streakは、飛行機雲を数えるときに使う)、a streak of good luckといえば「強運が続くこと」という意味になる。

あと、この文のように、主語で無冠詞のmanが使われる例はまれに遭遇するが、辞書を引いても「人というものは」の意味のmanのほかは、特に何も載っていないので解説ができない。個人的には、口語でなおかつ口頭での表現で、This man’s got... のthisが省略されている(わかりきっているものとして落とされている)のだろうと思うが、確証はない。

一応、ウェブ検索結果: 

https://duckduckgo.com/?t=ffab&q=%22man%27s+got%22&ia=web

というわけで、アメリカの人々が世界のために考えてくれている。

「(ハンガリーの)次はどこに送ればいいですかね?」

 

そんなことより、まずは自国内でその問題を何とか……お願いします。

 

 

"the house that Jack built" 式の言葉遊び、など(ホルムズ海峡封鎖に関するトランプ発言をめぐり)

難読英文の例をお探しの英語教育界隈のみなさま、こんにちは。Twitter/Xですばらしい例が、ホルムズ海峡(概念)のほうからどんぶらこどんぶらこと流れてきたので、シェアします。

"This is the house that Jack built" が、《関係代名詞のthat》が連なる形で、どんどん長くなるマザー・グースの童謡があります。

This is the farmer sowing his corn,
that kept the cock that crowed in the morn,
that waked the priest all shaven and shorn,
that married the man all tattered and torn,
that kissed the maiden all forlorn,
that milked the cow with the crumpled horn,
that tossed the dog,
that worried the cat,
that killed the rat,
that ate the malt
that lay in the house that Jack built.

つみあげうた - Wikipedia

どういうことかというと: 

This is the house that Jack built.

  ↓
This is the malt that lay in the house that Jack built. 

  ↓
This is the rat that ate the malt that lay in the house that Jack built. 

  ↓
This is the cat that killed the rat that ate the malt that lay in the house that Jack built. 

  ↓
This is the dog that worried the cat that killed the rat that ate the malt that lay in the house that Jack built. 

  ↓
...... 

という具合です*1

うちら外国語としての英語を習得しなければならない(ならなかった)立場では、これは頭が大混乱してわけわかんなくなる苦行の英文かもしれませんが(英語を勉強として習う立場では、英文がどんどん長くなるのはこういう仕組みなんだということがよくわかる例文ではあります)、英語母語話者の子供たちにとっては同じ言葉が繰り返されてお話が展開していくという楽しい言葉遊び、くすくすと笑えるようなものです。

このような「同じ言葉の繰り返し」は、早口でばーっと語られるコメディのセリフなどによくあると思われますが、文字で見ることはあまりありません。たぶん、文字にならないジャンルの言葉なのだと思います。

そういう例が、ホルムズ海峡(概念)のほうからどんぶらこどんぶらこと流れてきたのです。

投稿主のクリス・マーテンソンさんは、Peak Prosperityという運動体を創設し運営している方で、開発や環境保護、エネルギー問題といったテーマを主に扱い、経済という側面から検討を加えている。つまり、エネルギー問題に詳しい方で、その観点からホルムズ海峡(概念ではない)の事態を見守っておられる。

そのマーテンソンさんの、トランプが……えっと、何を発言したんだっけ、ああそうか、「アメリカがホルムズ海峡を封鎖する」という発言をおこなったあとのこの一言。

A blockade to block the blockade that's blocking the Strait that wasn't blocked before being blocked due to war of choice launched by Trump. 

分解しないと読み解けない(笑)。

A blockade to block the blockade 「封鎖を阻止する(ための)封鎖」

A blockade to block the blockade that's blocking the Strait 「(ホルムズ)海峡を封鎖している封鎖を阻止する(ための)封鎖」

A blockade to block the blockade that's blocking the Strait [ that wasn't blocked before being blocked due to war of choice launched by Trump ] 「トランプによって始められた(必要に迫られてではなく)選択としての戦争が原因で封鎖されている(ホルムズ)海峡を封鎖している封鎖を阻止する(ための)封鎖」

 

筆者は、この「つみ上げ歌」みたいな長い一言に、トランプ文体で "Strategery!" 「戦略!」と付け加えて、投稿を結んでいます。

この strategery という単語も見慣れないのですが、覚える必要はゼロ。言語能力に疑問符がつくジョージ・W・ブッシュが大統領選挙前の討論でなした発言を、コメディアンがネタにしたものなので。

 

なお、この投稿に対してのリプライで、「また思い付きで過激発言してるよね」という発言に、マーテンソンさんは次のように応じています。

辛辣。

これ↓もリプから。めっちゃ笑った。ソースはこちら

ダチョウ倶楽部か(笑)

「ここは俺が海峡封鎖するか」

「やだやだ、ぼくがやる」

「どうぞどうぞ」

 

どう転んでもお笑いにしかならなくて困惑。

 

トランプ・ネタついでに、もう少しメモ: 

「こいつらに比べたらずっとまともな自殺カルトがいくつもあるよね」。同感です。

 

 

*1:今はCtrl+C, Ctrl+Vでするする書けるけど、手書きしていたころは大変な苦行だったはず。私はやったことないけど。

「どこの何とはあえて言わないが」という文脈で用いられる不定冠詞のa(トランプの「文明が滅びる」発言は原文で見ないと読み誤るかも)

米国とイランは停戦で合意したそうだ。こないだアフガニスタンをボムっていたパキスタンが停戦交渉の仲介役となったというのだから、もう本当にわけがわからないが*1、ともあれ条件付きの2週間の停戦は合意されたし、その宣言もあった。なお、パキスタン首相は「レバノンも含めて停戦」と言っているが、イスラエルは「それはない」と明言している*2。停戦発効前からもうぶっこわれている。

www.aljazeera.com

問題は、ほぼだれも、この「停戦」を真に受けていないということである。

そりゃそうだ。「停戦」の看板をかかげながら攻撃を続行するのが昨今のあの人たちの流儀。イスラエルに関してはガザでの「停戦 ceasefire」は "You cease, we fire" (そっちは停止、こっちは攻撃)の意味だと言われているくらいで、今もまだ「テントに爆撃があり、病院に死傷者が運び込まれた」といったことが、現地にいるツイ友たちから連日投稿されてくるのが現実だ。

言葉が意味を失い、信用も失った世界。 You can have my absence of faith. 

 

ともあれ、この「停戦合意が宣言された」というニュースの前日にあったのが、ドナルド・トランプによる「ひとつの文明の徹底壊滅」発言である。この人物の大げさな発言など、YouTubeのインフルエンサーの大げさな動画タイトルと同じくらいに受け取っておけばいいと個人的には思うのだが、問題はこの人物がいわゆる「核のボタン」を握っているということで、こんなのはハッタリにすぎないと広く了解されていたとしても、「これじゃあイランが核武装してもしょうがないよね」「近隣のインドもパキスタンもNPT体制の外で核武装してるしね」「何より最大の敵であるイスラエルがね」というふうに展開することは、止めようがないだろう。

さて、このトランプ発言だが、英語での発言をプロが解釈して日本語化しちゃってあるものだけを見て済ませるのはもったいないというレベルで教材にしやすいものだった*3。トランプの発言が教材になるなどということは(皮肉でなければ)稀有なことなので、ちょっと書き留めておきたい。

トランプの元発言は下記の通り: 

“A whole civilisation*4 will die tonight, never to be brought back again. I don’t want that to happen, but it probably will,” Trump wrote on his Truth Social platform.

https://www.aljazeera.com/news/2026/4/7/trump-on-iran-a-whole-civilisation-will-die-tonight

《不定冠詞のa》は、「特にどれと特定しないものに用いる」と教えられるだろう。私もそう教えている。よくある、というか一般的な用例が、初出個所では不定冠詞のa, 次は定冠詞のthe、というものだ。中学レベルの例文を使うと: 

   I bought a car. The car is white. 

「車を買った。白い車だ」という意味だが、直訳すれば「一台の車を買った。その車は白い」となる。初出の箇所では、発話者が話をしている相手はこの「車」について何も知らない。だから発話者は不定冠詞を使う。2番目に出てくるところでは、話をしている相手は「この人が買った車」だということを了解している。だから発話者は定冠詞を使う。

これが基本的なaとtheの用法だ。

 

では今回のトランプの「文明殲滅」発言はどうか。この場合、トランプが念頭に置いている「文明」はすでに特定されている。トランプの発言を聞いている(読んでいる)人々にとってもその「文明」は「どこかにあるひとつの文明」ではなく「特定の文明」、というか日本語では「某文明」と表されるであろうものだということを知っている。だからここでは、王道の英文ライティングならば、定冠詞のtheを使うべきところかもしれない。

だが実際にはそうではなく、aが用いられている。

これは「どこの文明とはあえて言わないが、ひとつの文明が」という意味で意図的に用いられている不定冠詞で、脅迫的な文脈がある。

小説などであると思うが、「おたくのお嬢さん、かわいい盛りですね。おいくつでしたかね。3歳? ほう、それは目の中に入れても痛くないでしょうね。ところで、そちらさんがこちらの言うことを聞かないんなら、どこのどの子とは言いませんけど、3歳くらいのお子さんが……」というような脅迫の文脈である。

マフィア映画などを掘ればこの不定冠詞の用例はたくさん出てくるのかもしれないが、私ではすぐには用例が思いつかない。というか自分で書けって言われたら、"The civilisation in the whole will die..." といったように書くような気がする。最初から定冠詞を使って「あの文明は」という形で。

 

で、この原文( "A whole civilisation will die tonight" )を読まないと、あるいはこの不定冠詞のaが読み解けないと、トランプ発言は「世界全体の文明というものが丸ごと滅びる」という意味だと受け取ってしまうかもしれない。実際、はてブなどでもそうとらえている方がおられるのだが、それは間違いである。

 

これは確かにわかりづらい。アルジャジーラ・イングリッシュのlive blogでの扱いがわかりやすかったので、スクショでメモっておいた。

https://1-e8259.azureedge.net/news/liveblog/2026/4/7/iran-war-live-trump-warns-of-devastating-attacks-as-deal-deadline-nears

リード文の2番目でトランプの元発言、 A whole civilisation will die tonight” が紹介されているが、見出し*5は "Trump says Iran ‘civilisation will die’..." となっている。AJEの見出しを書いた人がトランプ発言を文脈づけて解説を補った形の見出しである。

AJEと同じような解釈・解説をしている大手メディアは他にも多くある。例えば英BBC: 

Trump condemned over threat that Iran's 'civilisation will die'

https://www.bbc.com/news/articles/cwyk7xgkzvzo

米ABC:

Trump, hours until deadline, threatens Iran's 'whole civilization will die tonight'

https://abcnews.com/Politics/trump-hours-deadline-threatens-irans-civilization-die-tonight/story?id=131797915

米NYT: 

With Threat to Wipe Out Iran’s Civilization, Trump’s Rhetoric Goes Beyond Bluster

https://www.nytimes.com/2026/04/07/us/politics/trump-iran-civilization-threat.html

 

冠詞の話をするとほぼ必ず「そんな細かいことはどうでもいい」という反応が返ってくる。最近ネットで見かけた「AIで英語学習」と銘打った英会話教材の宣伝ビデオでは、人気俳優が不定冠詞を全部抜かしてある変な「英語もどき」でスマホに向かって話しかけて「赤ちゃんみたいに話せば楽しい」という方向でアピールしていた。その英語で実際に乗り切れるとしたら、それは話者が彼で、彼がどういう人か知っている人が話の相手になっているという個々の人間関係がある場合だ(例えば商店の客と店主、といったものでも)。また、会話ではこれでいいんだと言い張るならば、それが会話だからだと反論しておく。「あの人気俳優が書いた」という文脈もなしに、どこの誰とも知れない人物が書いた冠詞の欠落した英文もどきを読まされる人は、「どんなバカがこれを書いたのか」いう疑問が先に立って、書いてある内容が頭に入ってこない状態になるだろう。日本語でたとえていえば、A4にびっしりと書かれている報告書が、全部ひらがな、というようなものだ。読むのが大変で内容が頭に入らないだろう。それが許容されるのは、例えば『アルジャーノンに花束を』のチャーリィの場合くらいだ。

とはいえ、私自身、不定冠詞や定冠詞について「そんな細かいこと」扱いができるほど自然に使えたらいいなと思っている。だが実際には、冠詞というものを持たない言語を母語とし、それによって思考し思考を言語化し記述することが当たり前の身には、aもtheも「そんな細かいこと」には絶対になりえない。英語以外の言語も(かじる程度でも)学ぶと、これの意味がよくわかると思う。

 

ついでに、civilisation (civilization) という語について。「文明」は基本的には抽象名詞だが、トランプ発言で不定冠詞をつけている、つまり可算名詞として扱っているのは、それが「個別の文明」を言っているからである。「文明が滅びる」という日本語から、全世界の人類の文明が瓦解することを想起してしまうのは、「文明」という日本語を抽象名詞で読解してしまっているからだ。

これについて江川『英文法解説』では、beauty, kindness, surprise, death, failure, diappointment, democracy, delicacy, experienceといった語を例に解説している (pp. 5-6)。これを読むと読まないとでは大きな違いがあるので、少しでも英語をまじめに習得しようとしている人は、必ず見ておいていただきたい。また、翻訳をしたい人ならば「言われなくても当然習得済み」のレベル(大学受験レベル、と位置付けられているもの)で、翻訳者を名乗った瞬間に誰も教えてくれなくなるくらいの基礎中の基礎である。

 

 =-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=

 

花吹雪舞う道を歩きながら、「第二次大戦後の世界は、こういう事態を避けるべく『国際秩序』を構築してきたはずだが」と思ったら、とんでもない無常観につつまれて、古文の教科書に出てくる人物のごとく、はらはらと涙をこぼしたくなった。こぼしてないけど。

「ナチスという絶対悪」にすべてをおっかぶせた「世界」(つまり西洋世界)のフィクションは、たったひとりの「気のふれた人物」(エルバラダイらがmadmanと評価している)とその取り巻きによって、あっというまに解体されてしまった。そのあとに現れるのは、ガチもんの「ナチスはよいこともした」論者だろう。

 

イラン攻撃のかげで、米国ではJan6(2021年1月6日のワシントンDCでの内乱/クーデター未遂)関係者の無罪化が進められてもいる。というかこれは、イラン攻撃より前にあった既定路線だろう。

The Supreme Court on Monday cleared the way for President Donald Trump’s administration to drop the government’s criminal case against Steve Bannon, a former White House adviser convicted in 2022 of defying a subpoena from lawmakers investigating the January 6, 2021, Capitol riot.

The Supreme Court’s decision follows a move by federal prosecutors in February to drop the indictment brought during President Joe Biden’s administration. Both the Justice Department and Bannon had asked the high court to toss out an appeals court ruling upholding the conviction and send the case back to a trial court so that the original charges against him could be dismissed. 

https://edition.cnn.com/2026/04/06/politics/supreme-court-bannon-case

 

「エプスタイン・ファイルを隠蔽するためなら何でもやるトランプ」と騒がれているし、その側面はきっとあるのだろうが、それよりもっと大きなのが、アメリカ合衆国という国の在り方を完全に変えようとしていることだろう。Jan6暴動の無罪化・正当化はその始まりだと思う。

 

*1:アラブ諸国は仲介はできる立場にはないし、NATO加盟国もそうだし、イスラエルが嚙んでるので単純な二国間の事態ではないし……ということを考えると、「なるほど」感はあるが。

*2:イスラエルでは反戦運動がかなり盛り上がっているようで、ネタニヤフは相当追い込まれていることは確実。この期に及んでもまだ国外脱出せずにイスラエル国内で頑張っている反戦運動の牽引役がこの規模で存在するということは、うちらは認識しておくべきだろう。パレスチナ支援の気持ちからだろうが、イスラエルという国丸ごとを「悪者」扱いし、国家と国民ひとりひとりの区別をつけることを拒絶する言説が、街頭行動の現場にはあるし――個人的に、たまりかねてカチコミかけたことは一度ではないのだが。うちらだって「どんなに声を上げたって無力」ということはいろいろあるのに、「今イスラエルには、ネタニヤフ批判者は一人も残っていません。残っていたら止めているはずです」みたいな大げさな発言が許容されちゃうというのは、殲滅の許容の下準備でなければ、心底理解不能。

*3:実際、「ソース原文見よう思ったらキャッキャ言うニュースばっかで全然見つからんし」とおっしゃっている方も。

*4:アルジャジーラ・イングリッシュの報道が「元はイギリスの大手報道機関の人たちが作ったもの」というのが如実に現れている綴りでおもしろい。米語ならcivilizationって書く。余談だが、「非米」のあらわれとしての英国式綴りというのは実際にある(私も「非米」明示の目的もあって、ほぼ常に英国式で書いてる)。けれど実際の「大英帝国」という歴史的経緯を踏まえれば、それが非常に屈折したものであることも留意が必要。

*5:当該記事はライヴ・ブログであるため、その後見出しは書き換えられており、現在はこれと同じ見出しは確認できなくなっている。

BBC Newsが合衆国大統領の下品な発言を喜んでいるので、BBC Newsのアプリを見えないところに追いやった

スマートフォンを使うようになってからずっと、ロックを解除して最初に目に入るところには、BBC Newsのアプリを置いてあった*1。一応「イギリス好き」だし、「さて、ニュースをチェックするかー」って思ったときにぱっとアクセスできるようにしてあるのが、BBC Newsだったのである。

さっきそれを解除した。BBC Newsに呆れかえる局面を通り越して、不快感を抱くようになったからである。BBCの美しいロゴは自分の日常生活の一部と思えるほどに好きだったのだが、もうなるべく視界に入れたくない。

 

現在、この位置には(いったんReutersを置いたんだけどそれを取りやめて)アルジャジーラ・イングリッシュ (AJE) が鎮座している*2

 

なぜこんなにBBCへの気持ちが変わったのか。すでにガザ・ジェノサイドで気持ちは離れていたが*3、記事を見るたびに「批判的な私」としてふるまうのも嫌になるほど気持ちが離れてしまったのは、BBC Newsの耐え難い幼稚性のせいである。

 

この「幼稚性」とは何か。

*1:どうでもいいことだが、2段目は無印やダイソーなど買い物系のアプリや電子書籍のアプリとSNS、3段目は電卓やマイクブロッカー、辞書など実用系を中心に並べてある。以上、全部はあけっぴろげにしないけれど概要は開示しておくので、ネットストーカーは詮索しなくていいよ。

*2:ちなみに、アルジャジーラのアラビア語版と英語版は成り立ちが別で、AJEが2006年11月に発足した際に報道の現場で番組作りをしていたジャーナリストたちの多くは、BBCなど英大手メディアから引き抜かれた調査報道等のジャーナリストだ。

*3:なお、ガザ・ジェノサイドでは、自分の価値観の一部を担っていたと言っても過言ではな英ガーディアンを、2023年10月の段階で消している。アプリ削除はもちろん、ブラウザのクイックアクセスからも消したのは、あのメディアがシオニストであるばかりか、ジェノサイド否認のプロパガンダ機関だからである――ガーディアンがシオニストであることはずっと知っていたし、そのうえで「多様な意見」の場として反シオニズムの発言も多く掲載していることや、記者ひとりひとりは必ずしもシオニズムの言説・ナラティヴの担い手ではないということはわかっていたし、それをレスペクトしていたんだが、ジェノサイド否認のナラティヴ(「自衛権を有するパレスチナなど存在しない」という《物語》を含む)で、愛想が尽きたというより嫌悪感をおぼえるようになった。

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助動詞のmay, いろいろなif節、ifの省略と倒置、「現実味のcould」かもしれないもの、など(ドイツの兵役をめぐる法改定)

ぼーっと新着ニュース記事を眺めていたらまたウェブ検索では探せない文法事項の実例を見かけたので、メモっておこう。

記事はこちら

www.bbc.com

内容を要約すれば、ドイツでは、17歳から45歳(いわゆる「戦闘年齢」)の男子に対し、3か月以上海外(国外)に滞在する場合は、軍の許可が必要になる見込み、ということだ(見出しにある「長期間の滞在」は「3か月以上」で、これは旅行業界の概念でも「え」って感じなのではないか。6か月以上ならわかるけど……)。センセーショナルに煽り立てることが活動の一部の収益目当てのインフルエンサーなどなら「ドイツ、徴兵制復活か?!」みたいな見出しを立てそうな話である。

なお、記事を一読した限り、見出しで "German males under 45 may need military approval" と言っていることの根拠は、よほどよく読まないとわからないかもしれない。記事本文でも、第1パラグラフで "German males aged between 17 and 45 may need to seek approval" と書いてある一方で、第3パラグラフでは "In a statement sent to the BBC, a defence ministry spokesman confirmed that males aged 17 and older were required to obtain prior approval for stays abroad lasting longer than three months." と、ドイツ軍からのステートメントを根拠として、許可取得は義務であることが明示されている。これを読む限り「許可を得ることが必要になるかもしれない」という話ではなさそうだ。この点、記事の先を読むと一応読み取れるようにはなっているが、あからさまに「パニックを引き起こさないための文体」で、なんだかなあと思う。

英語の実例としてみるのは第8パラグラフから先: 

https://www.bbc.com/news/articles/cvg3nr83xyvo

The legal basis for the requirement lies in Germany's 1956 Conscription Act, which has been amended several times, most recently last December.

このlieを使えるようにしないとね。lie in ~で「~にある」の意味。the basisとの共起に注目。

次。

Prior to the latest amendment, the obligation to report extended stays abroad applied only if Germany was in a state of national defence or mobilisation. 

これはこれで1文だが、ぱっと読んで述語が見つかっただろうか。

カッコなどを使って構造を示すと(文頭の "Prior to the latest amendment" は文の構造からは外して考えてよい): 

(Prior to the latest amendment,) the obligation ( to report extended stays abroad ) applied ( only if Germany was in a state of national defence or mobilisation ). 

……となり、主語は "the obligation", 述語は "applied" である。このapplyは自動詞で、日本語にすれば「(主語が)適用される」の意味。カッコに入れた "to report extended stays abroad" は主語の  "the obligation" を修飾/説明する句で、全体で「長期間の外国滞在を報告する義務」。末尾の "only if Germany was in a state of national defence or mobilisation" は「ドイツが国家防衛もしくは動員の状態にある場合に限って」で、これが、記事見出しや冒頭で "may need" とmayが用いられている根拠だろう。

日本語でいえば「有事の場合に限り、国民は~しなければならない」みたいなことで、「有事の場合に限り」が重要で、要は「国民は~しなければならない場合もある」と言い換えられる、という理屈だ。

なお、《if only ~》は「~しさえすれば」として暗記している人も多いと思うが、ここではその訳語で考えると意味がわからなくなるだろう。「~した場合に限り」などと、訳語を言い換えられるよう日本語力を鍛えておくことも重要である。

 

で、ドイツ国防省では「同様の決まりは冷戦中もあったので、あんまり違いはないですね」的なことを言っているようだが、冷戦中のドイツは東西分断国家で、互いに敵としあっていて徴兵制もあったので(今も朝鮮半島ではその状態だが)、違いはありまくりだ。国防省がそう言って「パニック予防」を図っているということ自体が、アレだなと思う。

 

次。パラグラフをひとつ飛ばして、

In December, the German parliament voted to introduce voluntary military service, meaning that from January all 18-year-olds would be sent a questionnaire asking if they were interested in joining the armed forces.

この記事、ここまで個別に見てきていないところでも接続詞の《if》が何度も出てきていて、それぞれがどういう《if》なのかを瞬時で読み取る練習にとてもよい素材文だと思うのだが、このパラグラフの《if》は《名詞節》を導いている。この部分は、「軍隊に加わることに興味があるかどうかを尋ねるアンケート」という意味。

やや余談だが、こういう《be interested in -ing》の用法は、これを「…することに興味がある」という対訳でしか考えることができないと、わかりにくいようだ(いくつもの英語エッセイでこれについて書かれているのを読んだことがある)。例えば "Are you interested in obtaining a review copy of my new book?" といえば、「もしよろしければ、評価用ということで新刊を一部、お送りしましょうか」ということだ。わりとかしこまった言い方になる。

 

次。これが本日のメイン。これがウェブ検索ではまず探せない。

From July 2027, they must also undergo a fitness assessment to determine whether they would be eligible for service should war break out.

太字で示した部分は、《ifの省略》で《倒置》が起きている。

  if war should break out 

  → should war break out

そして、この《should》は、江川泰一郎『英文法解説』で「万一のshould」と説明されているもので(p. 257)、「実現の可能性が少ないという話者の気持ちを表す」のだが、現実には「実現の可能性はさほどないのではないかという希望的観測を表す」ということだったりもする。この文は「2027年7月以降は、万が一戦争が起きた場合に、兵役につくのに適格であるかどうかを決定するための健康検査も受けねばならなくなる」という意味。ここはためらいなくmustが使ってあって味わい深い。

そりゃもう、当局がパニック抑制の文体を使いたがるわけです。

ちなみにこういうときのwarは「戦争」という漠然とした抽象名詞ということで《不可算名詞》。個別の戦争は可算名詞です。つまり、概念上の戦争は不可算名詞で "if war should break out," 過去に起きた実際の戦争は可算名詞で "A war broke out." となる。ウィキペディアの「戦争一覧集」のページ見出しはLists of warsである。

 

そしてその次、「ドイツでは憲法(基本法)により女性については兵役は免除され、志願兵に限られている」という説明。これは冒頭からここまでの前提である "German males aged between 17 and 45" に関しての補足なのだろうけれど、おそらくこれでまた現地版の「女さんはー」という女叩きの光景が展開されるのだろうと思う。(「不公平だ」と思うんなら、叩くんじゃなくて法改正を求めて運動しろ。)

 

キャプチャした部分の最後のところ。

While the plan is for voluntary service, if the security situation worsens or if too few volunteers came forward, a form of compulsory military service could be considered.

これはもう「万一のshould」みたいなものもかなぐり捨て、《直接法のif節》、つまり「単なる条件」で「もしも安全保障状況が悪化したり、志願兵があまりに少ない場合には」と書いたうえで、「徴兵制が検討されることになろう/なるかもしれない」と述べている個所。このcouldは《現実味のcould》(「~になることは確実だ」くらいのニュアンス)なのか、《仮定法のcould》(「~になるかもしれない」くらい)なのかは判断できずにいるが、if節が直接法なので、形式的には《現実味のcould》だろうなと思う。

そう解釈すると、文頭のwhileの節が「一応言っとく」的なものということで、筋が通る。「一応、この計画は(徴兵制ではなく)志願兵に関するものだが、安保をめぐる情勢に変化があった場合、もしくは志願兵が人数的に少なすぎる場合は、徴兵制も検討されることになろう」。

 

ドイツはEUの一員で、シェンゲン協定があるので、EU域内なら特に届け出ることなく住むことができる。これと、兵役に関しての「国外長期滞在届け出義務」みたいなのの導入の間には齟齬が生じる。

実際、長期滞在に許可取りが必要ということが注目されたのはこの金曜日(4月3日)になってからだというし、仮に許可を取らずに3か月外国に滞在したとしても、現状、罰則はないということもこのBBC記事には書かれている。

 

'a friend of mine' 型の表現、完了形の動名詞、have yet to do ~、that節の繰り返し、ずっこけ分詞構文かもしれないもの(パム・ボンディ解任)

米トランプ政権のパム・ボンディ司法長官がクビになったというニュースがトップに来ていたので、リンク先の記事をぼーっと読んでいたら(まともに読もうという気はない)、実例を採取できてしまったのでメモしておく。ほか、ちょっと気になるところも含めて。

 

Bondiの読み方を確認する

「パム・ボンディ」は英語で書けばPam Bondiである。Pamは人名(女性名)のPamelaの愛称で、Bondiはイタリア系の苗字だそうだ。

このBondiについて、以前ボンディ司法長官の言動が何かニュースになったときに日本語圏で「読み方が間違っている、『ボンディ』ではなく『ボンダイ』だ」という主張を見かけた。固有名詞の読み方は人それぞれ・場所それぞれで、「この綴りなら必ずこう読む」ということはない*1

確かに少し前にテロ攻撃があったオーストラリアのビーチはBondiと書いて「ボンダイ」と読む。このように、何通りかの読み方がありうる固有名詞については実際の発音を細かく確認することが必要になる。一般人だと本人に聞かないと100パーセント確実なことはわからないが、ニュースに名前が出てくるような人ならニュース映像で確認すればよい。つまりYouTubeで検索するという手段を使えばよい。

ここで注意が必要なのは、自動読み上げソフトなどで作成されているYouTube動画の音声は、固有名詞の読み方に関してはあてにならない、ということだ。そういうのを引き当ててしまうのを避けるためには、大手報道機関が公式アカウントでアップしているニュースクリップに絞り込んで探せばよい。ニュースなら、冒頭部分で局のアナウンサーが当該人物の名前を読んでいるはずなので、確認には30秒もかからない。

私がさっき調べてみたところ、NBC Newsのクリップが見つかった。冒頭のジングルから最初の挨拶を経てキャスターが何かぺらぺらとしゃべったあと、11秒のところで(カタカナにすれば)「パム・ボンディ」と言っているのが誰でも聞き取れると思う。

www.youtube.comというわけで、ボンディ司法長官の場合、Bondiは間違いなく「ボンディ」である。

 

今回の記事はこちら

さて、記事はこちら

www.bbc.com

BBC Newsは基本的に「ドナルド・トランプ大好き」なメディアなので*2、パム・ボンディ解任のこの記事も、冒頭は「トランプさんがー」の連呼みたいなことになっててよくわからない。トランプの筋の通っていない言動を筋が通っているかのように見せかける仕事は大変ですね、という印象でしかないのだが、もとより、(英文のサンプルを探して)ぼーっと読んでるだけなので内容はどうでもいい。

 

"a friend of mine" 型の表現

最初の実例は、ずーっと下まで進んだところにある次の箇所。

https://www.bbc.com/news/articles/ce843ge47z4o

Another Republican critic of Bondi's, South Carolina representative Nancy Mace, accused her of having "stonewalled every effort to hold the guilty accountable" and "seriously undermined" Trump with her handling of the files. 

英語で「私の友人」と言うとき、次の2通りの表現ができる、ということは多くの人が知っているだろう。

  She's a friend of mine

  She's my friend

どちらも「彼女は私の友人である」、つまり「あの子なら友達だよ」を言う表現だ。「使い分け」に血眼になる系の日本の英語教育では細かいことを言うかもしれないが(「"my friend" というと、その子ひとりしか友達がいないみたいに聞こえて変ですよ」など……私も学校でそう教わっている。笑止)、実際には両者の意味は同じで、ニュアンスだけが異なるのだという。ただし、もとより1人しかいないことが前提とされているときは、"a friend of mine" 型を使うのはおかしいので、She's a girlfriend of mine. とは言わない(girlfriendは通例1人しかない存在なので)。こういうのの使い分けは、使い分けが必要なレベルで英語を使うことになる人は大量の実例に接しているうちに自然と身についていることが多いと思う。

というわけで、上記引用で太字で示した "another Republican critic of Bondi's" だが、これは "a friend of mine" 型の言い方で「また別の、共和党内のボンディ批判者」の意味。同じことを "my friend" 型で表せば、another Bondi's critic in the Republican Party とでもなるだろう。不格好だ。だから "a friend of mine" 型を使っているのだろう。

ここで注意しなければならないのは、another critic of Bondi's であって、another critic of Bondiではない、ということである。"a friend of mine" という表現では、ofの直後は目的格 (me) ではなく、所有代名詞 (mine) を使う、ということと紐づけてしっかり確認しておきたい。ちなみに私はこれをまあまあよく間違える。ごちゃごちゃ書いたものを推敲して書き直したりしているときに落としがちな「アポストロフィ+s」である。

 

完了形の動名詞

ついでに同じパラグラフで実例を見ておくと、下線で示した "accused her of having 'stonewalled ..." は《accuse + 人 + of + doing》の構文と、《完了形の動名詞》の合わせ技。文の述語動詞 (accused) より前に起きたことを言うために、完了形にするのである。「かねがねstonewallしてきたとして彼女を批判した」ということだ。

Stonewallというと、日本語圏では1969年の「ストーンウォール暴動/反乱」で知られている語なので、それを連想してしまうと意味が取れないかもしれないが、ここでは固有名詞ではなく(「ストーンウォール暴動」は、その舞台となったゲイバーの名称にちなんだ言い方)、動詞として使われている。stonewallで「議論を妨害する」「話をさせないようにする」の意味だが(まさに「石で壁を作る」ということ。日本語だと「ケンもホロロ」か)、 "stonewalled every effort to hold the guilty accountable" 「加害者に責任を問おうとする取り組みをすべてstonewallしてきた」というこの実例を見たついでにCambridge辞書を見てみると、これが他動詞として使われる場合、目的語として《人》を取ることもあれば(「誰それの発言を封じる」的な用例)、《物事(議論、など)》を取ることもある(「私の呈した疑問点への回答は拒否された」といった用例)ということがわかった。微妙に英米差もありそうだから、より突っ込みたければコーパスで英米比較するのがよかろう。

ああ、辞書っていいなあ。特にウェブ版はスペースの制限がないからいろいろ載ってる。ここまで気にしなければならないのは、自分で英文を書く人だけだが(翻訳者も含めて……最近の人は辞書ひかずに「翻訳(自認・自称)」してるっぽいけど、翻訳する人は普段から辞書ひきましょうね。湖に優雅に浮かんでる白鳥は、水面下では必死の努力をしているということを忘れずに)。

 

yet to do ~がbe動詞じゃなくてhaveを伴っている……

同じスクショ画面からもうひとつ。

Survivors also told the BBC that Bondi had yet to meet them or respond to their emails about Epstein's wrongdoing, and that the matter had become a political liability for Trump. 

冒頭の "survivors" はジェフリー・エプスタインの被害者たちのことをいう。英語では最近、暴力の「被害者」をvictim扱いせず、「過酷な状況を生き延びた人」と言い表すことが一般化していて、ニュースでもsurvivorを使うことが標準となっている。この2つの表現は意識的に使い分けられているものなので、特に暴力の被害という文脈でものを書くことになれば、違いを認識しておくことは必要だ。こちらが参考になる

survivors.org

本題はそこじゃなくて、that節内。

Bondi had yet to meet them 

これを見て「え、be動詞じゃないの」と思ったあなたは私の友人。調べたんですよ。単にウェブ検索しただけだけど。そしたら英語学習系掲示板の大手のスレッドが出てきて、1つ目の回答は難しすぎて読んでてわかんなくなってきたんだけど(have yet to doはhave to doの意味と誤読される、というのはわかるが、「道義的責任」となるとよくわからない。まだ修行が足りてない。I'm yet to learn...)、2つ目が: 

I would say that in North America the standard usage in the sense of "haven't yet done" is always "have yet to."

In Britain, however, they almost invariably write and say "is yet to." No idea why -- I've lived here 20 years and it still sounds completely wrong to me. After all, the auxiliary for almost any verb in English is "have" not "be."

phrases - "be + yet + to-infinitive" vs "have + yet + to-infinitive" - English Language & Usage Stack Exchange

英米差……!!!!! ひょっとして、おまえか!!! 

 

that節の繰り返し

あと、下線で示した "that" は、tellの目的語のthat節が2つ以上ある場合(that節の繰り返し)、2つ目のthatは省略されない、という例の謎ルールのやつ。これも私、よく間違える。下記で下線で示してある構造に注意。

Survivors also told the BBC that Bondi had yet to meet them or respond to their emails about Epstein's wrongdoing, and that the matter had become a political liability for Trump. 

なお、この記事、英文の形・形式しか見ていないので、内容はわかりません。どうせ支離滅裂でわかんないんだし。トランプに忠誠を尽くしてトランプの名前を隠蔽して資料を公開したらトランプにクビにされたんでしょ。意味不明。そのうえ、ほんとに心底どうでもいい。

 

ずっこけ分詞構文

さて、もう少し下までぼーっと眺めていると、当ブログの隠れヒット・コンテンツ、「ずっこけ分詞構文」が出てきた。が、よく見ると「見かけ上のずっこけ分詞構文」かもしれない。これは故・江川先生にお見せしたいレベルの実例だ。

https://www.bbc.com/news/articles/ce843ge47z4o

スクショで3パラグラフ目: 

Since returning to the White House last year, commentators and political strategists had remarked that Trump's approach in his second term had been more disciplined and less chaotic.

冒頭のsinceについて、ちょっと考えてたらわかんなくなってきたんで的外れなことを言うかもしれないんですが(その場合、コメントでご指摘いただけると幸甚です)、これが前置詞ならば "Since returning to the White House last year" は《前置詞+動名詞》の句になり(その場合「ずっこけ分詞構文」ではない)、sinceが接続詞とすれば、これは《接続詞を加えた分詞構文》(江川泰一郎『英文法解説』p. 345)ということになるはず。

ごちゃごちゃ考える前、一読した段階では私はこれは後者、つまり《接続詞を加えた分詞構文》だと判断していて、それゆえ「ずっこけ分詞構文」と考えた。文の主語である "commentators and political strategists" は、 return to the White Houseしていないので。

return to the White HouseしたのはTrumpで、それはthat節内に出ているのだが、これが単にthat節内の主語ならば、分詞構文が長い文の文頭(主節の前)に出たことによって見かけ上ずっこけてるということになるのだが: 

  He told me that his brother met the gentleman while staying in Paris.

  → While staying in Paris, he told me that his brother met the gentleman. 

ここではthat節内での主語はTrump's approachであり、Trumpではない。

Since returning to the White House last year, commentators and political strategists had remarked that Trump's approach in his second term had been ...

となると、sinceは前置詞で、Since returning to the White House last yearは《前置詞+動名詞》なのかなと思うのだが、それにしたってreturningという動名詞の意味上の主語 (Trump) が主節の主語 (commentators and political strategists) と一致していないので、破格っちゃー破格ではあるだろう。

何にせよ、ちょっと崩れてておもしろい実例である。

というか、こんな英文を翻訳者が書いたら、チェッカーから何を言われるかわかったもんじゃないかもしれない。「こんなひどい英語を書く奴に翻訳させるな」くらいまで言われそうだ。

 

なお、パム・ボンディ解任については、前島和弘教授の下記解説が腑に落ちた。

「第2次政権の閣僚は、トランプ氏への忠誠心の高い人ばかりを集めたので、ヨイショがうまい一方、能力的には劣るんです。で、そろそろ化けの皮が剥がれてきた。閣僚たちがトランプ氏にとってプラスと思ってやることが、あまりの太鼓持ちで世間に滑稽に映り、一線を越えるとトランプ氏からの評価も下がる。忠臣でも、目立つミスが一定程度重なると、一人ずつ追放されるわけです。悲劇なのか、喜劇なのか」(上智大教授・前嶋和弘氏=現代米国政治)

……

このままでは「そして誰もいなくなった」となりそうだが、「トランプ氏をヨイショする人は次から次へと出てくる。ただ、同じタイプなので、閣僚に就いてもしばらくしたら、また解任となりかねませんが……」(前嶋氏)。

狂乱のトランプ大統領 終わらない米政権の閣僚解任ラッシュで早くも挙がる“次のクビ”候補|日刊ゲンダイDIGITAL

こういう専門家の指摘を読むにつけ、BBC Newsの異様なトランプ推しっぷり(「トランプは特におかしなことはやっていない」という論調)は際立ってくる。何しろ、ここまででスクショした部分に入っていたように「第一期のころの回転ドア状態での解任祭りに比べたら、今はまとも」みたいなことを書いてるんだから(しかもマイケル・「モスコー」・フリンとFBIのコーミーを同列に扱うという恥知らずなスピンまでかまして)。

 

情報の力点を置き、焦点を当てるべきは、トランプが誰を解任するとかいう以前の問題だろうに……

www.businessinsider.jp

米政治ニュースメディアPoliticoによれば、2025年初め、国防長官に就任したばかりのヘグセスは、「lethality(殺傷能力)に関わらない部署はムダ」という考えに基づいて国防総省の民間人保護部門を縮小・解体した。

中東情勢を左右するトランプ腹心、ヘグセス国防長官の「異様さ」を日本人はまだ知らない。米国内の批判“10のポイント” | Business Insider Japan

 

www.sankei.com

米紙ニューヨーク・タイムズが軍関係者の話として伝えたところによると、ヘグセス氏とジョージ氏は、軍内の黒人や女性の人事を巡る意見の相違などが積み重なり、関係が悪化していた。3月末には、トランプ米大統領に影響力を持つとされる女性右派インフルエンサーのローラ・ルーマー氏がSNSで、ヘグセス氏がジョージ氏の解任を検討していると投稿していた。

ヘグセス米国防長官、陸軍トップを解任 任期1年以上残し、人事巡り対立の見方も - 産経ニュース

 

 

 

 

*1:それをネタにしたモンティ・パイソンのスケッチがあるくらいである……ただし非常に微妙な、ブラックジョークを突き抜けてあっち側に行ってるジョークなので閲覧は推奨しない。「ラグジュアリーヤッチト」のスケッチですが。

*2:1度目の大統領選のときに、共和党内予備選の段階で、ただの候補者に過ぎなかったドナルド・トランプの発言を逐一トップニュースにしていたくらい、トランプ推しのメディアである。同様に推してたのが、最も勢いがあった時期のフランスのマリーヌ・ルペンだ。エマニュエル・マクロンが大統領になったときの仏大統領選挙など、BBC Newsが報じたのはルペンの発言ばかりだった。対抗馬だったメランションの発言はちょろっとあったが、マクロンなど、最有力候補だったのに顔と名前すら投票当日まで大きな記事にはならなかったくらい。まともにニュースを追おうと思ったらBBCじゃなくてFTとか見てないとダメ。英文のサンプル集めならFTのペイウォールの向こうまで行かなくてもBBCでいいと思うけど。

becauseの節(従属節)が独立した文のようになっている実例(サッカー、イングランド代表)

3月末に、「サッカーの母国」イングランドの「サッカーの聖地」ウェンブリー・スタジアムで、親善試合とはいえ、イングランド代表が負けるという波乱があった。相手は日本代表だ。

FIFAのあれこれでいろいろばかばかしくなったうえに、ガザ・ジェノサイド以降、完全にサッカーへの関心を失っている私でも、日本では「大金星」とニュースになっていたのは知っている。1998年のワールドカップ(フランス大会)以降しばらく「日本www」と冷笑ぶちかまされてきた末に、ウェンブリーで!!!イングランド代表に!!!!!苦杯を!!!!!!!なめさせてやった!!!!!!!ということには、謎の高笑いで応じるよりないが、何より、ここに至るまで日本のプレイヤーたちが重ねてきた努力、特にあのイングランドに足跡を刻み込むという大変な努力に、敬意を表したい。見事にケリかましてくれました。こちらに、イングランドとドイツのトップリーグでプレイする日本人選手のまとめがある

この試合の数日前に、リヴァプールFCの「エジプトの王」ことモー・サラーが今季限りで退団するというニュースがあって、彼の活躍で「アラブ人フットボーラー」へのイングランドでの認識が改まったのだという分析みたいなのもちらりと聞いていて、これでFIFAが金満体質でなく媚米でなかったらどんなに明るい未来が描けていただろう、みたいなことをちょっと考えている。

というところで、イングランド対日本の親善試合の結果についてのBBC記事

www.bbc.com

ここに、becauseの節が独立した文のようになっている実例があったので、それをメモっておこう。これもまた、ウェブ検索では探せない。当ブログではカテゴリ「単独の文の文頭で用いられるbecause」として管理している。

《単独の文のbecause》は、口語ではもはや特記する必要もないくらいありふれているが、ニュース記事に出てくるのはまだ珍しい。BBCはBBCでもBBC Sportだから、BBC Newsほど型にはまった文面でなくても通るため、これが起きたのだろう。

実例を見る前に、ちょっと説明だけしておこう。

becauseで始まるものは《節》であり、つまり《従属節》である(理由を表す副詞節)。本来、これとは別に、《主節》があってはじめて《文》が成立する。逆に言うと《従属節》だけでは何の話だかわからない。これがオーソドックスでオーセンティックな文法だ。

  Sorry, I'm late because I overslept

  (寝過ごしたから遅れるわ、すまん)

これが、 "Because I overslept" だけでは話がよくわからない*1

 

一方で、《従属節》だけでやりとりが成立することもある。例えば次のように。

  Why are you late? 

  ―― Because I overslept

  (何で遅れてるの?――寝過ごしたから)

 

これが発展というか何かしたのが、書き言葉でのbecause節単独での用法である。正式な文書では見られないが、ブログや小説などでは当たり前に出てくる。ニュースでは用いられないが、スポーツニュースは「事実を正確に伝える」というより「みんなが知ってる事実についてエモーション的な面での整理を行う」的な目的があり、かなりくだけた文体になる。だから、文体にうるさいBBC*2であってもbecause節単独が許容されているのだろう。

というわけで実例: 

https://www.bbc.com/sport/football/articles/c070185ygpno

下から2番目の文(パラグラフ)が今回の実例である。

記事は、今回日本に負けたイングランド代表は、絶対的エースのハリー・ケインが「練習中に違和感があったために」出場していなかった、ということについて、「ワールドカップに向けての実験的な布陣であった」と位置付けている。ケインももう32歳なので、そうそう頼りっぱにしていられない。けれど実際にはケインのいないイングランドは、ひたすらしょっぱい……。

ちなみに、記事を書いたフィル・マクナルティは、日本代表はベタ褒めしている。

Kane did not figure in either the draw against Uruguay or this loss to an impressive Japan, who sit 18th in the Fifa rankings, some 14 places below high-flying England.

この《不定冠詞》の用法も、英文としては参考になるね。

 

あと、マクナルティの文って軽妙洒脱でおしゃれなんだよね。"He was at Wembley but afforded the night off." なんて自分では絶対に書けない。「ウェンブリーに来てはいたが、お休みをもらった形だ」みたいな感じか。うまく日本語にできない。

 

=-=-=-=-=-=-=

ところで、しばらく前にAmazonのアフィリエイトをやめました。これにともない、リンク切れなどご不便をおかけしていることも多々ありますが、なにとぞご了承ください。

25年くらい前、まだniftyの「ホームページ」で自サイトを運営していたころから使ってたんだけど(第一義的に、広告なら書影が使えるので……本来、書影は誰かの著作物なので、読者は自由には使えないんですよ。販促のための広告という目的があれば使える)、そのサイトを閉鎖して何年もたち、今回ついに「サイト情報を更新せよ」という連絡が来てたんだけど、ガザ・ジェノサイドに関連して、これ以上Amazonを使う気になれなくなってて。

自分個人の買い物は、Amazonしか買えるところがないものはAmazonで買うしかないけれど(英語の本の紙版、古書……)、他人に「ここで買いなさい」と言ってるように見えるのは不本意なので。

なお、英語の本の電書は楽天KOBOが代替になります。電書化の時期が、Kindleより少し遅くなることもありますが。あと、KOBOのほうが安いものが多いです。米英のメジャー系だけでなく、アイルランドの出版社の本もKOBOで電書があるものがけっこうあります。

#BDS #EndTheSiege #StopGazaGenocide 

 

【追記(4月4日午後)】

このエントリを書いたあとで当該のBBC Sportの記事に改めてアクセスしてみたら、当該の箇所が従属節になる構造として書き改められていた(下図下線部)。やっぱりBBCのスタイルガイド的には単独のbecauseはダメだったらしい。笑

https://www.bbc.com/sport/football/articles/c070185ygpno

 

*1:読み返してて思ったのだが、「寝過ごしたから」と言われたらだいたい話はわかる、と言われるかもしれない。例文が悪かったかもしれない。「雨が降っていたので」ならどうだろう。「外出をとりやめた」かもしれないし「洗濯ものが干せなかった」かもしれないし「試合が中止になった」かもしれないし「美術館は多くの人でにぎわっていた」かもしれない。いずれにせよ、リアルな言語コミュニケーションの場では文脈というものがあるので、そのおかげで、ほぼ常に「だいたい話はわかる」かもしれない。

*2:BBC Newsには「スタイルガイド」があって、文体がかなり細かく指定されている。

《make + O + C》の《O》が長大で後回しにされている実例、《make + it + C + that節》の構文で例文をAI/LLMに出力させる(元王子の違法行為の疑いと国王の判断)

最新ニュースをチェックしておこうと、ごはん食べながらBBC Newsのサイトを見ていたら、ウェブであれ書籍であれ、何らかのテクストを、どのように検索しても絶対に探し出せない実例に遭遇したので、メモっておく。

 

記事はこちら。どこからか連れてきた年少の女性たちを性の道具として、世界各国の政界・財界・アカデミアの有力者たちと次々とつながっていっていた故ジェフリー・エプスタイン*1とのつながりと、そこで生じた自身の不品行が原因で、2025年秋に王族の称号を剥奪されたアンドルー元王子に、2026年初春に公開された新たな「エプスタイン文書」において、イスラエル当局とのつながりがかなり露骨で(あるにも関わらず大手メディアはそれを無視していて)ロシアとのつながりも考えられているエプスタインに、英国の微妙な情報を流していたという疑いが生じたため、警察が動くことになり、アンドルーの兄であるチャールズ国王がそれに協力すると表明した、という報道記事である。ちなみに、今回のエプスタイン文書に対する英王室の反応は、これが最初のものとなる。

www.bbc.com

 

《make + O + C》の《O》が長大で後回しに

実例の箇所はここ。

https://www.bbc.com/news/articles/cqlgv3z79klo

第2パラグラフより:

The King has made clear, in words and through unprecedented actions, his profound concern at allegations which continue to come to light in respect of Mr Mountbatten-Windsor's conduct 

この文は、SVOCの構文だが、Oがとても長いのでOとCの順番が逆になっている形だ。つまり: 

S = The King

V = has made

C = clear

(M*2 = , in words and through unprecedented actions, )

O = his profound concern at allegations which continue to come to light in respect of Mr Mountbatten-Windsor's conduct 

 

本題は以上。こんなの、どうやって検索したって出てこないでしょ。なのでメモっておいた。

 

あとは余談。

 

 《make + it + C + that節》の構文

《make + O + C》の構文でこういうふうになるときは、仮目的語のitを使い、《make + it + C + that節》の形にするものが、うちらが「受験戦争」の中で習った「受験英語」で頻出の構文としておなじみで、実際にもときどき見かけるものである(が、ラサール石井氏のような人にとっては、排撃すべき古臭い構文なのだろう)。

ときどき見かける構文なのだが、このエントリのために自分で例文を考えるのがめんどくさかったので、AIに投げた。

 

AI/LLMに出力してもらったこの構文の文例

私が使っているのは検索エンジンDuckDuckGo内蔵のDuck AIで、これはAIというかLLM提供者のサイト外でログインすることなく(つまりLLM提供者に履歴を残すことなく)簡易的にAIを利用できるという便利なもので、検索クエリというかプロンプトを書いてEnterキーを押すと、GPTやClaudeやLlamaなどいくつかのLLMのどれかが答えてくれる。どれが出てくるかはやってみるまでわからないので、「今日のLLM占い」みたいな遊びもできる(意味はわからない)。今回は、初手でGPT-4o miniが出た。

GPT-4o mini

[プロンプト] 英語の構文の実例を教えてください。形式目的語を使った、「make it C that節」の構文の実例を3つ、挙げてください。

 
GPT-4o mini

形式目的語を使った「make it C that節」の構文の実例

  1. Make it clear that you understand the instructions.
    (指示を理解していることを明確にする。)

  2. Make it known that the meeting has been rescheduled.
    (会議が再予定されたことを知らせる。)

  3. Make it certain that everyone will be informed about the changes.
    (全員が変更について知らされることを確実にする。)

この構文は、Cの部分が形容詞であり、その後に続くthat節が具体的な内容を示しています。

全部、対訳が変だ。命令文なんだから「明確にするように」「知らせなさい」「確実にしておきなさい」といったように訳されていなければならない。まあ、このLLMの翻訳の品質は常にだいたいこんなもん。

 

Llama 4 Scout

Duck AIではLLMの切り替えもできるので、ついでにLlama 4 Scoutに出力してもらった。

形式目的語を使った「make it C that節」の構文の実例を3つ挙げます。
  • I made it clear that I would not attend the meeting. (私は会議に出席しないことは明らかだと言った)
  • She made it obvious that she was unhappy with the decision. (彼女はその決定に不満であることを明らかにした)
  • He made it plain that he would not tolerate any further delays. (彼はこれ以上の遅延は容認しないことを明らかにした)

対訳の品質は「うーーん」と思ってしまうけれど(この程度でいいんか、翻訳ってものは……)、例文はGPTのよりよい。ストーリーがある。

ちなみに最初の例文は「私は会議には出席しないことを明らかにした」という意味で、読みやすい日本語にするなら「私は会議には出席しないと明言した」「その会議には出ないからねとはっきり言っておいた」くらいの感じだろう。Llamaのは、英文和訳の答案用紙に書かれてきたら、満点は難しいのではないかと思う(採点基準による)。

しかし、3つとも「~ということを明示した」という方向性の例文なのは、退屈だね。もう1個、Claude Haiku 3.5もいってみよう。

 

Claude Haiku 3.5
英語の形式目的語を使った「make it C that節」の構文について、具体的な実例を3つ挙げます:
  1. It is important that we make it clear that everyone understands the new policy. (新しい方針を全員が理解することを明確にすることが重要だ。)
  2. The manager made it evident that the project deadline would not be extended. (マネージャーは、プロジェクトの締め切りが延長されないことを明白にした。)
  3. Scientists made it certain that climate change poses significant risks to our planet. (科学者たちは、気候変動が地球に重大なリスクをもたらすことを確実なものとした。)
(以下、多弁なところは略)

 

AIが出力してくれる例文は、いずれにせよ、「~ということを明示した」という方向性だね。自分でもそれしか思いつかないから、たぶんこの方向性の内容について使われる定番の構文なのだろう。このあとはコーパスとかで調べないと確定できないけど、その時間はないのでここまで。

 

あと、Claudeも対訳の品質はアレです。特に3番の気候変動のはひどい。この日本語を単独で読んで意味が取れる人もいないと思うけど……。 

 

 

*1:Epsteinの英語での実際の発音は「エプステイン」もしくは「エプスティーン」に近い

*2:修飾語句。ここではコンマに挟まれた《挿入》の形。

現実味のcould, can't do A without doing B (米ニューヨーク市長選で当選確実視されていた候補者についての記述)

松井孝志先生のおっしゃる《現実味のcould》の実例が、先週末、今話題の米ニューヨーク市市長選挙のニュースに乗って流れてきた。火曜日の投票を前にした土曜あたりの*1BBC News記事である。

 

https://www.bbc.com/news/articles/c3rjjdvx5r5o

よく見たら、もうひとつ別の重要構文もこのキャプチャ画面に入っているので、本稿ではその2つを取り上げておこう。

  • 《現実味のcould》の実例
  • 《can't do A without doing B》の構文

 

《現実味のcould》の実例

記事見出し: 

New Yorkers could pick a political newcomer to run their city - and take on Trump

このcouldが《現実味のcould》だ。「~かもしれない」「~することもありうる」ではなく、「~するのはほぼ確実」くらいの意味合いである。"a political newcomer" つまりゾフラン・マムダニ候補の当選は、ここのところずっと確実視されていた。それ以外の結果が出ることはまずあるまい、というくらいに。

*1:BBC Newsは現在タイムスタンプが「〇日前」式で、記事が古くなれば「〇年〇月〇日」の表記になりはするものの、記事がアップされてから1週間くらいは投稿日時の確認ができない。どうしてこういう仕様にしたのか、全然理解できないが。

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without pauseか、without a pauseか、英文書いててわかんなくなったので生成AIに聞いてみた。

検索エンジンにAIが搭載されたことによって、かつてのオフィス環境で職場に常駐しているネイティヴ・チェック担当者に「ちょっとすいませーん、今、2分くらいよろしいですか」と声をかけて「これってどっちがよりナチュラルですかね」と尋ねる、というふうにして実施していたチェックが、自分ひとりでデスクトップだけでできるようになった。

 

AI導入前だって検索エンジンにキーワードと、場合によっては検索したいサイトのURL(語学系質問掲示板など)も入れてEnterキーを押せば、だいたいの調べものはできたのだが、「こちらの質問に、直接、あちらが答えてくれる」というスタイルではなく、どこかのウェブサイトに書かれていることが自分の疑問に当てはまるのかどうかは個別に考えなければならなかった。生成AIが質疑応答の形に落とし込んでくれると、その「自分(だけ)で考える」というプロセスが不要になり、場合によってはさらに確認のための質問を追加して確証を得ていく、ということが可能になった。

 

もちろんこれは、生成AIというものがあくまで《言葉》を扱うものであり、《言葉が表す内容》(つまり情報)には一切の責任を負わないということを前提としなければならないのだが(例えば「『1984』で知られるロシアの作家ジョージ・オーウェルは、ジョージ・マイケルとして1880年にパリで誕生した」というデタラメ文は、情報はまったくのデタラメであっても文としては正しい)、単なる文法チェックや可読性チェックといったことは、かなりの程度まで任せることができる。文の内容まではチェックしてくれないが、それは人力のネイティヴ・チェックでも基本的には同じである*1。ただし、内容チェックまで含めての「ネイティヴ・チェック」という場合もある。

 

というわけで、さっき英文を書いていて「はて」と思った疑問を、AIが組み込まれている検索エンジンに聞いてみた。

 

普段からDuckDuckGoを使っているので(この検索エンジンGoogleなどと違って追跡されないし、検索結果に変なフィルターバブルを作ることもないとされている)今回もここを使っている。アカウント作成なども不要で、Anthropic’s Claude 3.5 Haiku, Meta’s Llama 4 Scout, Mistral AI’s Mistral Small 3 24B, and OpenAI’s GPT-5 mini and GPT-4o mini が使えるようになっている。選べるのかどうかは知らない。私が使うとだいたいいつもGPT-4o miniが回答してくれる。

ここでAIを使って質問をすると、OpenAIのサイトやGoogle Geminiのサイトなどで質問をしたときと同じスタイルでチャット履歴が残っているように見えるが、実際にはDuckDuckGoのチャット履歴はサーバーに保存されているのではなく、自分のPCでローカルな形で保存されているだけである。自分で履歴をオフにすれば何も残らない。

 

というわけで質問した内容。これがまた、「これだから英文法英文法とうるさい奴はどうでもいいことにこだわって」と、英語でものを書くということをしない人たちから冷笑されること必至なのだが(英語でものを書く人からも「そんなことにこだわる暇があったら全体の質を上げろ」と冷笑されるかもしれないが、とりあえず今のところ、AIに英文校正してもらって「今のままで大丈夫だけど、次のように書き直すとフロウがよくなるよ」みたいな反応をもらわなかったことは2度くらいしかない)。

 

Which is correct, "without pause" or "without a pause"? . GPT-4o mini  Both "without pause" and "without a pause" are grammatically correct, but they can convey slightly different nuances.      Without pause: This phrase suggests an ongoing action or process without any breaks. It often emphasizes continuity and is commonly used in more formal contexts.      Without a pause: This version implies a specific instance of pausing and can sound slightly more conversational. It may suggest that there was an opportunity to pause but none was taken.  In most contexts, either phrase would work, but if you want a more fluid expression, "without pause" is often preferred.

without pauseでもwithout a pauseでも、

文法的にはどっちでもいいんかい。

ああ、英語。ああ、楽しい冠詞沼。

 

でも言われてみればここで説明されているようなニュアンスの違いを踏まえて使い分けているような気がしてくる。

 

……してくるのだが、気のせいだ。授業で先生の説明を聞いて「最初からわかってましたけど?」という気がしてくるのと同じで、説明が上手なだけ。自己を過信するな。これを機会に覚える。そのためのステップとして使う。それだけだ。

 

なお、ここで生成AIが言ってることのソースを確認しようとして、回答文面の下にある「ウェブ検索」をチェックしてみても、示されているリンク先にはここに書いてあるようなことはまったく書かれていない。例えば語学学習者の "To pause or not to pause" みたいなスレッドが出てくるのだ(音声教材の聞き取れないところでpauseボタンを押すかどうか、という話題)。私が聞きたいこと(不定冠詞の有無)および私が得た回答とまったく関係なく、生成AIがどうやってこの回答の文面を組み立てているのかは、生成AIというものが話題になりだしたころから変わらず、わからない。つまり、ここで生成AIが流暢に語っていることが正しいのかどうかは、実は直接には確認しようがなくてわからない。実際には「パリに生まれたロシアの作家ジョージ・オーウェル」的なことを言っているのかもしれない。

 

生成AIを使うのなら、この不安定さ、この不確実さといかに「付き合って」いけるかですねー、としたり顔をしておくのがよいのだろう。

 

 

11月1日追記: ガザのメド先生(臨床栄養学のモハンメド医師)から、実例きた。

 

 

*1:ネイティヴ・チェックとは、「『1984』で知られるロシアの作家ジョージ・オーウェル*が*ジョージ・マイケルとして1880年にパリ**誕生した」とあるのを「オーウェル」「パリ」に直すようなもので、「ロシアの作家」云々の記述内容を見るのは担当外、と考えておくと、うまくいくはず。

大切なものを燃やしながら、"My heart burns with it." という言葉が出てくる……これをどう日本語にするか

作業中に詰まっている。

 

ある人が、大切なものを自分の手で燃やさなければならない、という事態を想像していただきたい。そのときに、 "My heart burns with it." と述べている。これをどう日本語にするか。

 

実際にその人のheart(心臓、もしくは心)が燃えるわけではないから、これは比喩表現だ。心理描写のためのメタファーである。そこまでは機械ではない人間なら即座に判断できるだろう(最近のAIもこのくらいの解釈は楽勝だ)。それを踏まえたうえで、直訳(というか文字通りの訳)をすれば、「それと一緒に私の心も燃える」だろう。

 

しかし日本語では、「心が燃える」といえば「何かについて熱い感情を抱く」とか「闘志がわいてくる」といった意味になる。大切なものを燃やさなければならないときの心情を言う表現ではない。物を燃やしながら、これから取り組まねばならない課題に向けての決意を新たにする、といった流れであればこれでいいかもしれないが、私が抱えている案件ではそうではなく、「泣きながらものを燃やし、私の心も泣いている」という話である。ただそれを筆者は「泣く」とは言わず「燃える burn」と言っている。強い。激しい。

 

先日、歌人俵万智さんが、大谷翔平選手の凄腕っぷりに、ベンチ(って言うんだっけ、野球のとき)の選手たちがひたすら驚くしかなくて、手を頭の後ろに回すようにして頭を抱えるしぐさをしていたり、口をあんぐりと開けたままになったりしている状態を、日本の放送局のアナウンサーが「頭を抱える」「開いた口がふさがらない」と描写してみせるのはいかがなものか、と指摘しておられるのを読んだが(どちらもネガティヴな表現なので、素晴らしいものを見て唖然としているときに使われても違和感がある)、その問題と同じようなものである。

昔、お手本として習ったのだが、エドワード・サイデンステッカーのやり方だと、例えば英語の「肩をすくめる」を日本語にするときは、その感情を表す日本語表現に置き換える、というのが鉄則だった(サイデンステッカーの翻訳は英→日ではなく日→英の方向だが)。その方針をとるのが、ナチュラルな訳文を作るためには最善だろう。けれど、それをぴたりと一言で言いあらわせる言葉を探すのが一苦労だ。

 

というわけで少し旅に出る。行き先は辞書。

「旅」といっても、ブラウザの検索窓に burn dictionary と打ち込むだけなのだが。

 

検索結果の冒頭に示されている、ウェブ上の記述を多めに抜粋したところに、アメリカン・ヘリテージ辞書の定義が出ていて、そこに "To be damaged, injured, or destroyed by fire, heat, radiation, electricity, or a caustic agent." とある。

また、ケンブリッジ辞書には "to be hurt, damaged, or destroyed by fire or extreme heat, ..." と出ている。

みんな大好きコリンズ・コウビルド辞書には、めっちゃ細分化された定義の2番目に "you destroy or damage it with fire" が出ている(自動詞ではなく他動詞の用法だけど)。

というわけで、ここで原文筆者が使っている英語のburnは、単に「燃える」「燃え上がる」というより「燃えてだめになってしまう」という意味と考えることに無理はない。

筆者が燃やしている大切なものと一緒に、筆者の心/心臓も燃えてだめになってしまっているのだ。

 

さて、これをどう日本語にするか。「私の心も燃える」は、上述の理由から、ここでは使えない。「燃える」という動詞に問題があるので、日本語の類義語辞典を見てみたりしたが、全然ピンとくるものがない。故山岡洋一さんのご訳業に基づいたDictJugglerさんを見てみても、ひたすら、文脈が違いますしねー、という感じである。

 

自分の脳の外を参照しても特にこれというものを見つけることができないのだから、あとは自分の脳との格闘である。

 

そうしてたどりついたのが「心臓が焼ける思いだ」と「心も燃えがらになる」だ。さあ、どうしよう……。先はまだ長い。

 

ちなみに今回の内容はいわば「小手先」的な話で、翻訳のベースは英文法です(日本の「学校英文法」の知識でもOK)。つまり、My heart burns with it. の burn が自動詞であって、「~を燃やす」の意味ではないということがわからない場合は、「翻訳」という作業はできません。

 

あと「こんなのAI翻訳で何とでもなるでしょ」と思うのは勝手ですが、それをいちいち私に言わないでください。AI翻訳は文脈を理解しない(理解しているように人間に見えているだけ)。訳例をサジェストしてくれるよう依頼する(プロンプトでそういう指示を出す)ことはできるけれど、それは人力でやった「各種辞書の参照」と何も変わらない。ただ、本当に煮詰まっているときは、AIは意外なところからぽんっとヒントを投げ込んでくれるかもしれない。それだけ。

 

 

追記: 

「胸が焼ける」という表現も一瞬浮かんだんだけど、それも日本語では慣用表現とぶつかって、「天ぷらでも食べすぎました?」ってなっちゃうので秒で却下した。オーニホンゴムズカシーネー

「↑→↓↓↓」から「↓↓↓」だけを切り抜いて、それを斜めに配置したAntiFa系のシンボルマークのことだと大騒ぎした主流メディアと、米極右界のネットミーム

Twitter/Xの画面を見たら、Helldiversという単語がTrendsに入っていた。どんなに低気圧でだるくても眠くても、知らない単語があればチェックしてみるのが習性である。字面から漫画か何かか、あるいはガザでアメリカがやってる食糧支援に偽装したデス・トラップ、GHFに参加している面々のことか(GHFには反イスラムの暴力的バイカー集団が参加していることが伝えられている)、と当たりをつけてみてみたら、ゲームのようだ。

時は西暦2084年。宇宙に進出した人類は、さまざまなエイリアンの襲撃を受け、窮地に立たされていた。プレイヤーは、そんな人類の脅威を取り除くために戦う精鋭・特殊部隊“HELLDIVERS(ヘルダイバー)”の一員となり、エイリアンたちと激闘を繰り広げていくことになる。

本作は、一筋縄ではいかない挑戦的なバトルを楽しめる“超骨太”のシューティング。限られた弾薬数、救援が到着するまでの残り時間、無限かと感じられるほどに次々と迫り来るエイリアンたち——。緊張感あふれる戦場では、正確でいて時に大胆なアクションや戦術、そして仲間との連携が重要となる。……

HELLDIVERS(ヘルダイバー) | ゲームタイトル | PlayStation

なぜこの単語がTrendsに入っているかを見てみれば、例えば「新作がアナウンスされた」とか「映画化が決定した」といったゲーム系のニュースがあったからではない。「ターニング・ポイント」という極右デマのムーヴメントを組織化したチャーリーなんとか(関心がなさすぎて名前を憶えていない)を撃ち殺した人物が使ってた暗号みたいなのが、このゲームで使われるコードだったということが判明して、メインストリーム・メディアが流していた「アンティファの犯行」とかいったデマ・誤情報が覆されたのだそうだ。

 

何でも、銃弾のケーシングに彫り込まれていた下向きの矢印3本が並んでいるのが「アンティファのシンボル」として取りざたされていたが*1、それは実はこのHelldiversというゲームで使われるコードで、「下向き矢印3本」だけでなく、「上向き矢印1本、右向き矢印1本、下向き矢印3本」というのがセットになっていて、 そっから「下向き矢印3本」だけを切り出すのは、それなんて国家安康、って感じだな。ちなみにこのコードを使うと Eagle 500kg Bombってのが出てくるんだって。ミームにもなってるんだって。私はゲームをやらないので文字でしか知らないんだけど、「コナミコマンド」みたいなものかな。

Know Your Memeまで出てきてるし…… (^^;)

 

メインストリーム・メディアは、これを「アンティファだー」とか「トランスジェンダーだー」と大騒ぎしていたらしい。こっぱずかしい。ちなみに、Helldiversというゲームはantifaとは逆の側にいる人たち(つまりfa, もっとちゃんと書けばfash)の間で人気なのだそうだ。

 

銃撃容疑者はほかにもいろいろミーム的なものをちりばめているそうで、それらをまとめてくれているスレッドが下記。

"Groyper" ってのがもうわかんないよね。でも私にはどうでもいいから「何かわかんないけどそういう極右フリンジ」とだけ認識して先に行く。いずれにせよ、「アンティファ」でも「トランス」でもない。「サヨク」ではない。

 "transvestigating" ってのがわかんないよね。でもどうでもいい。字面からだいたいわかるし。

アメリカでは、極右が歴史的にアンティファが使っていたものを使うということも平気で起きるんだな。ばかばかしい。まともに取り合ってられるか。

これは過激派あるある。いわゆる「内ゲバ」。Fuentesってのはニック・フエンテスでしょ、この文脈で名前くらいは知ってるような気がするけどそれだけ。調べるのは私にとっては時間の無駄。

下品で幼稚。

 

アダムさんのスレッドを単に貼ってるだけなんだけど飽きてきたので、あとはThreadreaderに投げとこう。

 

ここに列挙されている、銃撃犯の銃弾に彫り込まれていたという文言のように、読んだときに意味が取れないものは、現代の文では、ほぼ例外なく、特定の界隈だけで通用するようなネットスラングミームである。そのまま英語から日本語にしたって意味が取れないばかりか意味がない。警察の人やBBCのような大手メディアの記者だって、その界隈に通じていなければわからないだろう。

 

しかし、やっぱり笑いものであることに変わりはない。

"chefs kiss" というのは、ちゃんと書くとchef's kissなのだが(アポストロフィー)、作った料理を味見したシェフが「最高!」というときに手の親指と人差し指でやるしぐさのことで、意味は「最高」。「メインストリームメディア(MSM)がゲームのヘルダイバーへの言及を認識せず、アンティファが悪いと言っているのは、本当にもう最高だ」といった文意。

WSJがどうたらというのは、さっきはてブで見たんだけど、これですね。

【ワシントン共同】米国の保守系政治活動家チャーリー・カーク氏(31)が射殺された事件で、ウォールストリート・ジャーナル紙は11日、捜査当局が犯行に使われたとみられるライフルを発見し、内部からトランスジェンダーの権利擁護や反ファシズムを訴える刻印のある弾が見つかったと報じた。ただその後、記事を修正し、一部の当局者からこの分析に懐疑的な見方も出たと伝えた。

弾の刻印、分析に懐疑論 活動家射殺で米紙修正|47NEWS(よんななニュース)

 

ここでアレックス・ガーランドの映画『シヴィル・ウォー』を思わずにはいられない。私が見た日本語字幕は「アンティファによる虐殺」と、まったく反対の方向に転がっていくような誤訳をしていたが(翻訳をした人がそういう思想なんだろうなという質の誤訳)、あの映画の中の大統領は何でもかんでも「アンティファがー」と言うタイプの人間で、アンティファを虐殺したあとの世界があの映画の舞台だ。あの映画が始まる前に起きたことは、たぶん、『アクト・オブ・キリング』みたいなことだ。アメリカがどうなるのかはわからないが、『シヴィル・ウォー』の世界にいたる道は、もう整備されているんだろうと思う。ガザ・ジェノサイドの扱いを見ていても。

 

 

 

*1:「アンティファのシンボル」とは、ひょっとして左斜め下を向いてるやつのことかな……銃撃犯が使ってる真下向いたのとは違うじゃん。アメリカって紋章学的なことやってる人っていないの?

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