このエントリは、2019年12月にアップしたものの再掲である。
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今回の実例は……といつもの書き出しで書き始めるのもつらい。中村哲さんが殺されてしまった。
中村哲さんについては私がここで説明するまでもないだろう。今20代以下の人の多くは「英語の教科書で、アフガニスタンでの井戸掘りや用水路づくりの仕事が紹介されていた、日本の偉人」として認識しているだろう。
中村さんは医師。1980年代からパキスタンで医療活動に従事したあと、90年代にアフガニスタンでの活動を始めた。「人が生きていくこと」の根本を追求した中村さんの活動は医療にとどまらず、「水」をめぐる途方もないプロジェクトの実行へとつながっていった。ウィキペディアでも概略はつかめるので、教科書で中村さんの活動について読んだわけでもなく、名前だけぼんやりと知っているとか、軍事的親米の人たちが声高に批判してみせているので認識しているとかいう方は、一通り目を通していただければと思う。
中村さんは、長年の活動により、ほんの2か月前にアフガニスタンの「名誉国民」になったばかりだった。「名誉国民」なのでもう外国人として滞在許可を得たり滞在ビザを延長したりする必要なく、いつでも好きなときに行けるようになった、その矢先の卑劣な暴力だ。
中村さんの殺害を受けて、Twitterではアフガニスタンの人々からたくさんの言葉が捧げられている。ごく一部だが、拾えるものは拾って記録した。
すべてが中村さんを賞賛する内容だが、意図的に編集してこういうふうにしたわけではなく、本当に批判することばはほとんどなかった――「ほとんどなかった」というのは、1件だけ見たからだが、その1件は明らかにその筋*1なので無視するのが当然と思われた。
今回の実例は、こういった言葉の中から。ツイート主はアフガニスタンの外交官である。
#We_are_Sorry_Uncle_Nakamura
— Riaz Sadat (@RiazSadat) 2019年12月4日
May Your Soul Rest in Peace.
We Afghans can't thank you enough for your support, dedication and hard work throughout the past decades. Afghans are immensely indebted for your role in reconstruction of Afghanistan.
ツイートの2行目:
May Your Soul Rest in Peace.
《May + S + 動詞の原形》の形だが、これは《祈願文》と呼ばれるもので、「~しますように」の意味。普通なら《S + may + 動詞の原形》の語順であるはずが、助動詞のmayと主語が入れ替わっている(倒置されている)。
May God have mercy on our dirty little hearts*2
(どうか神様が、わたしたちの汚いちっぽけなハートにご慈悲をおかけくださいますように)
祈願文では文頭のmayが省略されることもある。
(May) God bless you!
(あなたに神の御恵みがありますように)
3行目:
We Afghans can't thank you enough for your support, dedication and hard work throughout the past decades.
太字にした《can not do ~ enough》は、直訳すれば「十分に~することができない」だが、要は「どんなに~しても、これで十分だとは思えないだろう。そのくらい~している」という気持ちを伝える表現だ。
I cannot sleep enough.
(どれだけ寝ても寝足りない)
下線で示した《thank〈人〉for 〈物事〉》は、「〈物事〉について、〈人〉に(対して)感謝する」の意味。これは相手に向かってお礼を言うときの "thank you" の形でも同様で、《thank you for ~》の形になる。
Tom thanked Meg for her help.
(トムは助力についてメグに感謝した)
Thank you for everything you did for this country.
(この国のためにしてくださったことすべてについて、あなたに感謝します)
このforは前置詞なので、直後は名詞か名詞相当語。よって、動詞的なものを置きたいときは動名詞の形にする。
Thank you for inviting us.
(ご招待くださってありがとうございます)
この文のfor以下の部分は、等位接続詞のandによる接続に注意。下記のようなつながりになっている。
for your support, dedication and hard work ( throughout the past decades )
※炎上狙いの逆張りのバカ野郎どもに絡まれるなどしたらたまらないので、コメント欄閉じます。
参考書:
*1:それがどの筋なのかを書くことは、私は避けねばならない事情があるので(脅迫を受けている。詳細は本家ブログを掘ってね)、曖昧な記述になることはご容赦いただきたい。