今回の実例は、「あの事件の現場は今」的な記事から。
昨年(2018年)の夏、全世界の関心がタイ北部に集まった。地元の少年サッカーチームのメンバーとコーチらあわせて13人が、洞窟探検に出かけたまま戻らず、生存が絶望視されていたところ、手掛かりを求めてその洞窟の中に赴いた英国人ダイバーが全員の無事を確認した。その後の大掛かりな救出作戦で、ダイバー1人が亡くなったが、最終的には13人全員が生還した。一連の経緯については、下記記事が詳しい。
その現場となったタイ北部の洞窟のあたりはその後どうなったかというと、日本語版ウィキペディアから引用すると:
タルムアン洞窟近くには殉職したダイバーの像が建てられ、併設された学習センターでは救出に使われた酸素ボンベや洞窟の模型が展示されている。一帯を訪れる観光客は事故前の年間5000人程度から140万人へ増え、観光地化している。洞窟周辺は2018年10月に森林公園に指定され、国立公園・野生動植物保全局が管理している。国立公園への昇格や洞窟の公開も検討されている。
ここで「検討されている」と記載されている国立公園への昇格や洞窟の公開が、2019年11月1日になされた。今回見る記事は、それを伝える記事である。
実例として見るのは記事の真ん中あたりから。なお、文中の "Unsworth" は、13人の発見と救出において極めて重要な役割を果たした英国人洞窟ダイバーのVernon Unsworth氏のことである。
キャプチャ画像内の一番上のパラグラフより:
Near the cave entrance, a small museum opened in September telling the story of the rescue via cardboard cutout depictions of those involved, including Unsworth and the Thai prime minister, Prayut Chan-o-cha.
この文は、少し読みづらく感じられたのではないかと思う。なぜ読みづらいかというと、文の中心である "a small museum opened in September telling the story of the rescue" の部分がややイレギュラーなことになっているからだ。
この文の主語は "a small museum" で、述語は "opened" で、そのあとの "in September" までは頭から読んでいって何も引っかからずに読める、極めて単純な構造だ。だが、そのあとの "telling the tory of the rescue" という句はどうだろう。
この句はingで始まっているから分詞構文と考えることもできるが、それにしてはコンマがない。"... opened in September, telling the story..." というようにコンマが入っていれば分詞構文なのだが。
実はこれは、《現在分詞の後置修飾》の句で、"a small museum" を修飾している。
《現在分詞の後置修飾》は、説明不要かと思うが、念のためにガチガチの参考書っぽい例文で確認しておくと次のようなもの。現在分詞に導かれる句(ひとつの意味をなす語群)が、その直前の名詞を修飾する。
The boy riding a bike over there is my cousin.
(あそこで自転車に乗っている少年は、私のいとこです)
Do you know the man standing by the door?
(ドアの脇に立っている男性を、あなたは知っていますか)
通常はこのように、修飾される語と、修飾する分詞の句が直結しているのだが、まれに、修飾される語が文の主語で、分詞の句がとても長いときに、先に文の本体部分(主語と述語動詞と……という部分)を完成させて、主語を修飾する分詞の句は後回しにするということが起きる。これは文法的にどうという話ではなく、そうじゃないと読みづらくなる、という理由によるものだ。
今回の実例では、"a small museum opened in September telling the story of the rescue via cardboard cutout depictions of those involved, including Unsworth and the Thai prime minister, Prayut Chan-o-cha" の下線を引いた部分がすべて、"a small museum" を修飾する分詞句である。
これを通常モードで書くと、"a small museum telling the story of the rescue via cardboard cutout depictions of those involved, including Unsworth and the Thai prime minister, Prayut Chan-o-cha opened in September" となってしまう。文法的には全然問題ないし、文として読めなくはない。だが、とても読みづらく、「悪文」呼ばわりされる類の文になっている。
そういうとき、英語ではかなり臨機応変に、句単位で順番が入れ替えられる。繰り返しになるが、これは文法的にどうこうという話ではなく、読みやすいかどうかで決まってくるもので、いわば「文章術」だ。
学校の教科書などではこういうイレギュラーな文はあまり出てこないかもしれないが、新聞記事のような英語圏の日常の文章ではときどきこういうのに遭遇する。
ちなみに文意は、「アンズワース氏やタイ首相のプラユット・チャンオチャ氏など、(救出に)関わった人々を、厚紙を切り抜いてかたどったものを使って、救出の物語を説明する小規模な博物館(資料館)が、9月にオープンした」となる。
この部分に含まれている "those involved" のthoseは、前回の実例にも出てきたが、「人々」の意味。より文章らしく書くと、"those who were involved" となり、実際、法律文書などではこのようなスタイルで書かれているものが多い。
その次のパラグラフに、救出作戦中に亡くなったタイ軍人のサマン・クナンさんについて、アンズワース氏がこう述べている箇所がある。
It’s important that we don’t forget Sam
これは《形式主語のit》を使った構文で、真主語はthat節。直訳すれば「私たちがサムを忘れないということが重要である」となる。
参考書: