Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

「~を経験する」の意味のsee, 感覚動詞+目的語+過去分詞(ヘイトに基いたイングランドの組織的な極右暴動とSNSでのデマの拡散、フェイクニュース)

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イングランドで、悲惨な事件が起きて、それを利用して極右が暴れている。

そのニュースを追って(ものすごく久しぶりに)ガーディアンの報道記事*1を読んでいたら、この内容はどうしても書き留めておかなくちゃと思うと同時に、収集している英文法・語法の実例に遭遇した。

というわけで、昔のような形式のエントリをこれから書く。

◆目次◆

サウスポートという街で、事件は起きた

まず、何があったのかから順番に、簡単に書いていこう。

サウスポートという街

イングランド北西部に「マージーサイド」という州がある。マージー川という河川がアイリッシュ海に注ぎこむ河口の周辺の区域で、この河口で港湾都市として発達したのがリヴァプールだ。「マージービート」(ザ・ビートルズなど)とか「マージーサイド・ダービー」(リヴァプールFCエヴァトンFC)といったフレーズの「マージー」はこの川・河口のことを言う。

リヴァプールから30キロほど北に行ったところに、サウスポートという街がある。産業革命期に大都会となったリヴァプールの人々が遊びに出かけるようになって発展したという海岸の街だ。ウィキペディアを見てみると、2021年の国勢調査によると人口は94,000人あまりという規模の街だが、この街の出身者にはけっこう有名人も多く、マーク・アーモンドやミランダ・リチャードソンのような芸能人や、ケニー・ダグリッシュのような往年のスポーツ名選手もいる。近年、英国でブーム的に沸き起こっていた「反ユダヤ主義者」というレッテル貼りの被害者であるユダヤ人コメディアンのアレクセイ・セイルの名前もある。それから、2011年にリビアの民衆蜂起を取材中に戦闘に巻き込まれて落命したフォトジャーナリストのティム・ヘザリントンもここの人だそうだ。一方、2001年の国勢調査によると、人口の96%が英国で生まれているという街で、たぶん、19世紀末にはいろんなところからいろんな人が来ていたのだろうが、20世紀の末にはそういう人口の流入のようなことも特になかったのだろう。イングランドのそういう街というと、何となく想像がつく。ここの選挙区は、今年の総選挙で保守党の現職を労働党が破って議席を獲得したそうだが、保守党の前はLibDemsが議席を保持していたそうで、真っ赤なリヴァプールとはちょっと傾向の違う街のようだ。

7月29日のひどい事件

その街を、ひどい出来事が襲ったのは、7月29日月曜日のことだ。地域の子供たち(女の子たち)が通うダンス&ヨガの教室を、刃物男が襲った。テイラー・スウィフトの曲で踊っていた子供たちが次々と切り付けられ、6歳、7歳、9歳の子供が命を奪われたほか、子供と大人7人が大変な怪我を負わされて病院で重篤な容態にあると報じられた。事件の第一報を聞いて、私は2001年6月に大阪で起きた事件のことを重ねずにはいられなくて、震えてきた。

容疑者は17歳(だから名前も即時公表されない)

現場で逮捕されたのは17歳の男だった。17歳は未成年だから、イングランドでも基本的に名前は公表されないことになっている(例外はある……それもかなり多く)。警察は、この容疑者については、「17歳」という年齢と、「サウスポートにほど近いバンクスという町の住民で、ウェールズカーディフ出身」ということしか明らかにしなかった。

A 17-year-old boy, from the Lancashire village of Banks but born in Cardiff, has been arrested on suspicion of murder and attempted murder, with police saying the motive remains unclear.

The suspect, who police said was armed with a knife, was being questioned by police on Tuesday. The force is not treating the incident as terrorism-related.

Police name three girls killed in Southport stabbing attack | UK news | The Guardian

そして、このように、「警察は公表しない」という事実が、あらぬ憶測を呼んだ。

憶測を抱いている人は、自分の憶測と同じことを誰か別の人が言えば、「やっぱり」と思う。そして、多くの人がネットでいろんな情報を目にする現代では、自分の憶測と同じことを(どこの誰ともわからないような)誰かが、どこかに、勝手に(未検証のまま)書いているのに遭遇すれば、「やっぱり」と思う。多くの場合、その「やっぱり」の一歩先にあるのは、「またあの連中か!」という決めつけ・思い込みだ。

あるいは、「まさかそんなことはあるまい」と思いつつ「でもひょっとしたら……」と疑っているときに、その「まさか」を誰かが口にしていたり文字にしていたりするのに遭遇すれば、「な、なんだってー」という衝撃を伴って、それは確信に変わる。「私はそんなこともあろうかと思っていたんだ」という自負に裏打ちされた確信に。

それなりに多くの人が「やっぱり」と思うなどしたときに、その情報は(根拠の有無にかかわらず)拡散する。それも、半ば事実のように。

【追記】当局は、現場で取り押さえられて逮捕された(つまり「推定無罪」がほぼあてはまらない)この事件の容疑者の名前についてのデマがその後の展開の一因となったことを理由のひとつとして、「17歳ではあるが容疑者の名前は公益の問題」と判断して2、3日後には名前を公表した。公表された名前は、出回っていたデマの名前とは全然違っていた。

www.theguardian.com

暴動

刃物男に理不尽にも将来を奪われた3人の子供たちの名前が警察によって公表された数時間後には、ロンドンから近いとは言えないサウスポートの街に、抗議デモ隊が集結していた。

「抗議デモ」って何に、と思うだろう。

サウスポートのモスクに、である。

A large crowd has gathered outside a mosque in Southport as tensions run high in the town.

Police riot vans and officers are standing guard outside the building, amid chants of “No surrender!” and “English till I die!” from sections of the crowd, PA reported.

Hundreds of youths and men, and a large police presence, remain on the streets surrounding Hart Street, where the crowd has gathered.

Southport stabbing: chaotic scenes as police clash with far-right protesters outside mosque – as it happened | UK news | The Guardian

このデモ隊は、プラカードを持って集まって行進して社会に訴える系のデモ隊ではない。自分たちが圧力をかけたい施設に押しかけて、投石したり乱入したりする系のデモ隊である。現場では警官隊とデモ隊が衝突して、警察の側に負傷者が出た。この衝突を伝える映像をちらっと見た私は「まーたー、北アイルランドが燃えているのかー」と思ってしまったのだが、そうではなかった。

Merseyside police said an officer suffered a suspected broken nose and police vehicles were damaged and set alight in disturbances outside a mosque in Southport on Tuesday evening. The force said a large group of people – believed to be supporters of the English Defence League – threw items including bottles and wheelie bins at officers and towards a local mosque on St Luke’s Road. Riot police armed with teargas were deployed along with a dog unit.

Southport stabbing: chaotic scenes as police clash with far-right protesters outside mosque – as it happened | UK news | The Guardian

なぜモスクが標的に

デモ隊――というより暴徒――がなぜモスクを標的にしたのかというと、そう信じたい人たちの間でそういう情報が拡散されたからだ。

拡散された情報は無根拠な誤情報で、報道機関もその誤情報をそのままコピペするようなことはせず単に「誤った情報」としか書かないので、報道記事で事態を追っていた私には、具体的にどういうことが言われたのかは本エントリ執筆時には確認できていないのだが、いち早く集結して警察相手にことを構えた暴徒たちがEDL(久しぶりに報道記事でこの名前を見た。まだ生きとったんかい、この組織)系ということから容易に想像がつく通りだろう。

誤情報の拡散についてのガーディアン記事

その誤情報の拡散についての記事が、今回私が「久しぶりに読んだ」と言っているガーディアンの記事である――そしてこの記事の中に当ブログが扱っている英文法・語法の実例がある。

www.theguardian.com

「サウスポートの殺傷事件容疑者に関する誤情報が、ソーシャルメディアで拡散」と題するこの記事は、全文、一読に値する。もはや「フェイクニュース」という言葉ですら陳腐化してしまって、もう誰もいちいちそう言わなくなっているときに、世界では、「フェイクニュース」という言葉と概念を一般化させた2016年(Brexitドナルド・トランプ大統領選勝利の年……今、20代の人はあんまりよく知らないかもしれないと想定しておくべきだろう)よりもずっと極端で苛烈なことが起きている。

あまりに苛烈なことが起きているのに、あたかも何も起きていないかのようにメインストリームのメディアがふるまっているとき、人は「本当に起きていること」を探して、メインストリームでないところに向かう。そしてそこにあるのは、メインストリームにあるもののような検証のプロセスを経ていないものかもしれない。

そのことは、ひとりひとりが十二分に警戒しておくしか対策はできない。ガザ・ジェノサイドについての英→日翻訳だって、正直いえば、中身は、控えめに言っても「玉石混交」だ。ていうか、翻訳だけできても情報の選択眼がない人が無検証のテクストを無検証なまま翻訳しちゃうから、中国のプロパガンダがそのまま流れてたりする。しかもそういうのが拡散しちゃう。制御できる能力がある人たちは、「誤情報の指摘」なんていう、労多くして実りゼロ、むしろ精神を食い荒らしてマイナス、みたいなことはしたがらないから、そもそもチェックしていないか、見かけても無視している。つまり、誰も指摘らしい指摘をしない。そして誰かが指摘をしても、それは注目されないか、ひどい場合は無視される。

そういったことが、サウスポートの「モスク押しかけデモ」でも起きている、という記事だ。

A flood of misinformation about the Southport attack has been spread on numerous social media platforms by sources ranging from far-right activists to fake news websites and conspiracy theorists.

...

The only details released about the suspect by police are that he is a 17-year-old from the village of Banks in Lancashire, who was born in Cardiff.

But on Tuesday night a protest by hundreds of far-right activists, believed to be supporters of the English Defence League, saw missiles thrown at police and a local mosque attacked.

The incident became the latest to raise questions about the policing of content by social media companies, and official watchdogs, and whether the law is fit is for purpose.

Misinformation about Southport attack suspect spreads on social media | UK news | The Guardian

英文法・語法の実例の箇所

さて、この記事内に私が見つけた「英語としての注目ポイント」は、上に引用した部分に含まれている。

https://www.theguardian.com/uk-news/article/2024/jul/30/misinformation-southport-attack-suspect-social-media-conspiracy-theories

キャプ画像内下から2番目のパラグラフ: 

But on Tuesday night a protest by hundreds of far-right activists, believed to be supporters of the English Defence League, saw missiles thrown at police and a local mosque attacked.

太字にした《see》の用例、これを見たら、個人的にメモっておくことにしている。

この文は少々長いので、修飾語句を取り去って構造だけを示すと: 

a protest by hundreds of far-right activists ... saw missiles thrown at police and a local mosque attacked.

つまり 〈a protestがsawした〉という構造になっているのだが、このseeは「~を見る」という意味ではない。protestには目がないので、「見る」ことはできない。これは「~を経験する」の意味のseeだ。

そこまではまあまあよくあるかなという英語だが、この例のおもしろいのはその先だ。

a protest by hundreds of far-right activists ... saw missiles thrown at police and a local mosque attacked.

青で示した部分、《see + O + 過去分詞》の構造になっていることがおわかりだろうか。つまり、missilesはthrowされ、a local mosqueはattackされたのだ。

文を日本語化すれば、「数百人の極右活動家による抗議行動は、警察に向けて投擲物が投げられ、地元のモスクが攻撃される、ということを経験した」が直訳。もっと人間らしい文に整えると「数百人の極右活動家による抗議行動では、警察に向けて投擲物が投げられ、地元のモスクが攻撃された」となるだろう。

さて、この「数百人の極右活動家による抗議行動では、警察に向けて投擲物が投げられ、地元のモスクが攻撃された」という日本語から、私は "A protest by hundreds of far-right activists saw missiles thrown at police and a local mosque attacked." という英語を引き出せるか? 

答えはNoである。

英語の勉強なんてのは、いつまでやったって終わらない、というのはこのことである。

英文法・語法についてはここまで。

誤情報拡散についての関連記事と、拡散元サイトの1つの内容

さて、今回の誤情報拡散については今見た記事にもまとめられているが、さらに調査と分析を進め、その結果を読みやすく「解説」の体裁でまとめている記事もある。

www.theguardian.com

これらの記事で言及されている誤情報拡散元(デマ元)のサイトのひとつが、Channel 3 News Nowというサイトである。

It is unclear what the first source was for the fabricated name, which appeared to have been chosen to reflect Islamophobic tropes, but it was amplified by a faux news website calling itself Channel 3 News Now. That site, which does not have any named personnel and features a mix of emotive US and UK news and sport stories, responded to an email from the Guardian about the report to say: “We deeply regret any confusion or inconvenience this may have caused.”

How false online claims about Southport knife attack spread so rapidly | UK news | The Guardian

これらの記事で、この「チャンネル3ニュースナウ」というサイト(私がこの文字列でウェブ検索して導かれていった先のサイト名は「チャンネル3ナウ」だったが)のことを知ってすぐに確認してみたところ、ほんの数分前に、サウスポートの連続殺傷事件に関する誤情報(デマ)の撤回がなされたというタイミングだった。

サウスポートの事件について、"World" というカテゴリになってるのは、このサイトが「アメリカのニュースサイト」という体裁を取っているからだろう。先ほど、英文法・語法の実例としてみた記事には、このサイトについて次のように記載されている。

a website seen by the Guardian calling itself Channel 3 Now, which mixes potentially AI-generated US and UK news content and is styled like a mainstream American network news channel

Misinformation about Southport attack suspect spreads on social media | UK news | The Guardian

このサイト、中の人の名前がわからない

誤情報(デマ)の撤回記事(「お詫びと訂正」)は、私がチェックしたときには9分前に出たばかり、という状態だったのだが、記者名は記載されていない。ただ「スタッフ」とあるだけだ(下記画像)。

記事の末尾にも署名はない。人間の名前がなく、単に「編集長」とあるだけだ。

About usのページも見てみたが、下記のような状態で、何一つわからない。あやしい商材のサイトならこういうふうでも珍しくないが、ニュースサイトでこれというのは、10年くらい前に流行った収入目的の偽ニュースサイトか、という印象だ*2ネット上の英語圏をさまよっているあいだにこういうふうなサイトに遭遇しても、絶対に信用してはならない、という教科書的な実例だが、SNSで個別の記事のURLが回覧されてくるだけという環境では、こんなところまで確認する人はいない。だからこういうサイトが横行するのだが……。

このサイト、記事が古い

このサイト、トップページを見るとメインのニュースは最新情報をアップデートし続けているように見えるが(ちなみに今日はアメリカのどこかで起きた銃乱射事件のようだ)、その下にある「芸能」とか「ビジネス」のところは、どれもこれも記事が古い。何週間、あるいは何か月も前の記事がそのままになっている。つまり、誰もこのサイトのトップページなんか見ていないのだろう。この状態ではGoogleもまともに巡回しそうにないが、その点はどうなのだろうか。

「芸能」カテゴリ。何か月も前の記事がそのままになっている。

「ビジネス」カテゴリ。同じく、何か月も前の記事がそのままになっている。

ちなみにその後、暴動は……

イングランド各地

7月末に起きた今回の極右のデモと暴動は、イングランド各地に広がってきているようだ。2011年夏のロンドン暴動から各地に広がったのを踏まえると恐ろしいものがあるが、今のところ、デモのときは反ヘイトのカウンターデモのほうが人数が多いようだ。暴動はどうなるかわからない。サンダーランドはひどいことになった。

ロンドンでも、ダウニング・ストリートの入り口のところで極右がデモをやっているし、夏休みで日本から渡英している人も多いかと思うが、BBC Newsの地域ニュースのページや、地元のニュースサイトを細かくチェックして、状況を確認していただきたいと思う。

北アイルランドベルファスト

北アイルランドベルファストでは、移民排斥を主張する勢力が有色人種の暮らす家に石を投げ込むなどの暴力は非常に頻繁に報じられているのだが、8月3日(土)には市の中心部で、極右勢力(簡単に言えばロイヤリストだが)がデモを行い、そこにアイルランド共和国からも極右(つい最近、ダブリンでの移民排斥運動で大変な騒ぎを起こしていた)が合流し、ユニオンジャックアイリッシュトリコロールが極右の主張で連帯し、道路の反対側ではカウンター勢が労組の旗やレインボー旗、パレスチナ旗などを掲げるということになっている。

ほか

SNSで極右ウォッチをやってる人たちのアカウントをフォローしておくと、詳しい情報が入ってくる。

 

 

 

 

 

*1:ガザ・ジェノサイドに際してのシオニスト丸出しの姿勢にうんざりして、昨年10月にアプリを消して以来、ガーディアンでは個人が寄稿する論説記事しか読んでいない。報道記事はガーディアンのは読まなくなってしまった。

*2:今ならTwitter/Xで「インプレゾンビ」になってそうな人たちが、著名人の死亡説などを流す偽ニュースサイトをやっていた時代がある。それがある程度体系化されて起きたのが2016年の「フェイクニュース」ブームだった。

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