Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

without -ing, 関係代名詞, など(訃報: 北アイルランド和平の筋道をつけた政治家の妻、パット・ヒュームさん)

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今回の実例は、ある訃報を受けたステートメントやツイートから。

1年と1カ月ほど前、2020年8月に、1990年代の北アイルランド和平を実現させた最大の功労者のひとり、ジョン・ヒューム元SDLP党首が亡くなった。生涯の最後の何年かは、認知症とともに生きていた。

hoarding-examples.hatenablog.jp

そのヒュームが、和平への取り組みを主導するようになる30年以上前、デリーという街で教職につき、やがて公民権運動の指導者のひとりになろうとしていたころから、彼のパートナーとして常に側にいたのが、パット(パトリシア)・ヒュームさんである。

そのパット・ヒュームさんが、夫の死後1年と少しで、逝ってしまった。

www.bbc.com

ジョン・ヒュームは英語版ウィキペディアで項目化されているが、パット・ヒュームさんは項目化などされておらず、夫のウィキペディアのページで少し言及されているだけである。

まさに "unsung hero" であるばかりでなく、きっとこの人は日本語では「内助の功」という言葉で語られてしまうタイプだろうなと思わずにはいられないほどに*1、公の世界、つまりニュースとか本をはじめとする文献類では、パット・ヒュームというひとりの重要な人間については言及が少ないのだが(実際、Twitterにあふれた追悼の言葉の中にも、「パットさんは夫をよくsupportした」というものも見られた)、北アイルランドの現場を知る人々からは、ものすごく多くの、そしてものすごく密度の高い言葉が、彼女の死に際して発され、そのほとんどすべてが、彼女を、一般人の投票で「現代アイルランド一番の偉人」に選出された彼女の夫のパートナーとしてだけでなく、彼女自身として讃え、悼むものだった。

SDLPのジョン・ヒュームとUUPのデイヴィッド・トリンブルが主導して進めた1998年の和平合意(ベルファスト合意、またはグッドフライデー合意)に反対してUUPを、文字通り本当に(物理的に)飛び出して、当時合意に強硬に反対していたDUPに入り、2021年のあのすったもんだの末に現在はそのDUPの党首となっているジェフリー・ドナルドソンは、パットさんの訃報に次のように反応している。

最初の文は、極めてフォーマルなお悔やみの言葉で、「ご家族の皆様に衷心より哀悼の意を表します」というニュアンス。2番目の文の前半: 

A unique life well lived 

これは《文》ではなく《句》の形で(SVの構造を含まない)、"well lived" は副詞+過去分詞で、直前の名詞を後ろから修飾している(後置修飾)。直訳すれば「よく生きられた、他に類のない人生」となる。

同じ文の後半: 

... and no one who met John left the conversation without knowing Pat.

ぱっと見ただけでこの文の構造は把握できただろうか。主語は何で、述語動詞は何だろうか。

そう、主語は "no one", 述語動詞は "left" で、"no one left the conversation" が文の骨格だ。太字で示した "who" は《関係代名詞》である。

下線で示した部分は《without -ing》の形になっている。「~することなく」、「~せずに」の意味だ。これが、否定文の中に入ると、「~することなく、…しない」、つまり「…すれば必ず~する」の意味になる。

  Keanu never visits the town without eating at the ramen shop. 

  (キアヌは、そのラーメン屋で食事をすることなく、その街を訪れることはない

  →キアヌは、その街を訪れると必ず、そのラーメン屋で食事をする)

したがって、ジェフリー・ドナルドソンのツイートのこの文は、「ジョン(・ヒューム)に会った人は必ず、パットのことを知って、会話を終えることになった」という意味となる。偉人ジョン・ヒュームが会う人会う人に必ず、妻のパットさんのことを話していた、ということだ。

そのわりに、ジョン・ヒュームの回想録 "A New Ireland: Politics, Peace, and Reconciliation" には、政治家としての彼の歩みが始まるまでを描いた第一章でちょろっと言及があるだけなのだが。

 

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John Hume, _A New Ireland: Politics, Peace, and Reconciliation_

 

今日は本来は、DUPドナルドソンに続いて、SDLPの今のリーダーであるコルム・イーストウッドの言葉を見るつもりだったのだが、ワクチン接種副反応での筋肉痛と雨天での古傷の痛みがひどくてちょっと腕がつらいので、そちらはまた次回。

 

パット・ヒュームさん、安らかに。あなたの結婚前の姓がちょっと検索したくらいではわからないことを、今回初めて知りました。語っていかねばならないことはたくさんありますね。

 

※2450字

 

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https://twitter.com/J_Donaldson_MP/status/1433516876609503244

 

 

*1:実際、北アイルランドは、「プロテスタント」側も「カトリック」側も、一部を除いてはびっくりするほど保守的なので、21世紀の今も「内助の功」的な価値観はみっちりと現役である。

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