このエントリは、2019年6月にアップしたものの再掲である。センター試験のような基礎力を問う試験でも頻出の項目について扱っているほか、やや例外的なことについても触れている。こういった例外もありのままに見て「実際にはこういうのがあるんだ」ということを少しずつ知っていくことは、楽しいことである。
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今回も、前々回および前回と同じ記事から、文法項目を見ていこう。
記事を読むうえで必要となる前提知識的なことは前々回の記事を参照のほど。
記事はこちら:
今回は、前回まで見てきた部分のすぐ下から。なお、この記事でBBCの取材に応じているBreus氏はウクライナ人で、氏の発言はおそらくウクライナの言葉から英語に翻訳されたものと思われる。つまり、氏の表現そのものではなく、翻訳者の表現であると考えられ、この英語表現は「英語を母語としない外国人の、ときとして不十分な英語」とは考えられない、ということをお断りしておく。
小見出しのすぐ下の部分(HBOのドラマではなく、事故直後に職員として現場入りしたBreus氏自身がチェルノブイリ原発で見たものごとについて述べている部分)から:
"The reactor looked so damaged, it seemed there was nothing else to do there."
これは《so ~ that ... 》の構文でthatが省略され、その位置にコンマが置かれていると考えられる(おそらく話す調子やペースを反映しようとした表記だろう)。爆発の翌朝に現場入りしたBreus氏は、当時のことを「原子炉は非常に損傷が大きい様子で(あったため)、そこでできることはほかには何もなさそうでした」と述べている。
その次の文。文中の "the show" はHBOのドラマ『チェルノブイリ』のことである:
Some of the events he witnessed that morning were realistically depicted in the show, he says, but others he describes as fiction.
ここでは《some ~, others ...》の構文が使われている。これは以前説明した通り、「~もあれば、…もある」という意味を表すときに使う定型表現だ。前半部分の文意は「その朝、彼が目撃した出来事のいくつかは、ドラマでリアルな形で描かれていた、と彼は述べている」。
後半部分だが、ここは《倒置》が入っている。"others he describes as fiction" は、主語はheで動詞はdescribesであり、文頭のothersは目的語で、つまり普通の語順にすると "he describes others as fiction" となるが、ここでは上述の《some ~, others ...》の構文の形にするため、目的語のothersが頭に出ているわけだ。
英語での《倒置》は、「Sの次にVがあり、そのあとにOやCなどが続く」という基本の形が崩されて、OやCなどがSの前に出ることを言う。狭義では、その際、SとVの語順が逆転してV+Sという形になることを特に《倒置》と言うが(例えば、Never was I so depressed. 「あんなに落ち込んだことは一度もなかった」)、広義ではSとVの語順にこだわらず、本来文の後ろのほうにあるべきOやCなどが文頭に出ているときのことも言う。
そして、目的語が文頭に出される場合は、原則として、SとVの語順は変わらない*1。今回の実例はその形で、《O + S + V》という形になっている。
They needed a lot of money to build a school.
→ A lot of money they needed to build a school.
(学校を作るため、彼らはたくさんのお金を必要としていた)
今回の実例での《倒置》は some ~, others ... の語調を作るために行われているが、多くの場合《倒置》は「一番言いたいことを最初に言う」という機能、つまり「強調」のために用いられるということも押さえておこう。つまり文法規則というより気持ち・気分によって使われるものだ。
今回見た部分の文意は、前後半合わせると、「その朝、彼が目撃した出来事のいくつかは、ドラマでリアルな形で描かれていたと彼は述べているが、彼がフィクションだと述べるものもある」。つまり、ドラマで描かれていたことの中には事実に即していたものもあれば、作り事もあった、ということである。
その具体的な内容については記事に詳しく述べられているので、関心がある方は記事を全文お読みいただきたい。
なお、今回のキャプチャ画像内には、かなり小さなポイントがもうひとつある。画像の一番上の部分:
Mr Breus worked with many of the individuals portrayed and has given his verdict of the series.
太字にした部分は、『冠詞+名詞+過去分詞》の構造で、この過去分詞は形容詞の役割。
分詞が形容詞として用いられる場合、それが単独の場合は名詞の前に置き、ほかの語句を伴っている場合は名詞の後ろに置く(後置修飾)というのが原則だ。しかしそれには例外があり、分詞が単独なのに名詞の後ろに置かれることもある。これはそういう例だ。
以前、そういう例があるということを言ったら、「実例を持ってこれないのなら、存在しもしない例をでっちあげた嘘つきということになる」などといじめられたことがあるので、この実例をちょっと書き留めておくことにする。
なお、分詞が単独でも名詞の後ろに置かれることがあるといっても、入試や検定試験などの答案で成句や慣用表現の類でもなく、必要性もないのにそう書いてしまうと、確実に減点対象となるので、ご注意のほど。