今回の実例は報道記事より、テレビの時事系番組での識者の発言を紹介している部分から。
ドナルド・トランプ米大統領がCDC(疾病対策センター)を縮小した自分の責任を回避し、陰謀論を振りかざしてWHOへの資金拠出を停止するとブチあげていることは、日本語圏でも大きく報じられた(んですよね)とおりだ。
ウイルスに国境はない。CDCは「国境到達前の闘い」を実践するため、世界60カ国以上に職員を派遣し、各国の専門家とも交流を重ねながら世界の牽引役となってきた。02年に重症急性呼吸器症候群(SARS)が中国を襲った際、米国がCDCの専門家40人を現地に送って支援したことをきっかけに、両国間の協力も加速した。13年にH7N9型のインフルエンザが中国で発生した際は米中が共同研究を実施し、中国が開発したワクチンが米国側に提供された。
だが、トランプ政権の下で国際保健分野は冷遇されている。政権はCDCの予算を削減しようとし、エボラ出血熱対策の教訓から設けられた国家安全保障会議(NSC)のパンデミック担当チームも18年に解体された。そこに、通商分野を中心とした米中対立が追い打ちをかけた。
トーマス・フリーデン元CDC所長はロイター通信に「トランプ政権のメッセージは『中国に協力するな。彼らは敵だ』ということだ」と語る。……
WHOをめぐっては、アメリカ議会で与党 共和党を中心に中国寄りだという批判が強く、トランプ大統領としては強硬な姿勢を示した形です。
……
アメリカは、WHOの最大の資金拠出国で、拠出を停止すれば感染対策をめぐる国際協力に影響が出ることも懸念されます。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200415/k10012387751000.html
日本語圏ではこの問題について、米国内の「共和党対民主党」の政治問題として回収しようというナラティヴが激しいが(NHKが特に)、今の米共和党がトランプ党みたいなことになってるという前提があるわけで、「トランプの主張を支持するトランプ支持者対その他」と言ったほうがよいのではないかとSNSで米国圏をちらっと見て思うのだが、それはさておき。
この問題について、欧州の小国だが歴史的に米国とのつながりがめっちゃくちゃ太いアイルランドの外務大臣がズバっと直球で批判している。
This is indefensible decision, in midst of global pandemic. So many vulnerable populations rely on @WHO - deliberately undermining funding & trust now is shocking. Now is a time for global leadership & unity to save lives, not division and blame! https://t.co/nOknZnBqDd
— Simon Coveney (@simoncoveney) 2020年4月15日
今回の実例は、外務大臣のこの発言を受けてのアイルランド公共放送RTEの記事から。記事はこちら:
実例として見るのは、サイモン・コヴニー外務大臣の発言そのものではなく、その発言を受けて専門家がTV番組で示した見解を紹介する部分。下記、"RTÉ's Today with Sean O’Rourke" は番組名である。
キャプチャ画像の一番上の文:
Speaking on RTÉ's Today with Sean O’Rourke, Professor Anthony Costello said that for the US to go ahead with this order would "be extremely damaging to America's reputation worldwide, especially given how much support the WHO gives to the world's poorest countries in terms of testing and research and development."
これだとちょっと余分な部分が長いから、アンソニー・コステロ教授の発言内容であるthat節だけを取り出してみよう。引用符は、コステロ教授の発言をそのまま文字にしているということを示す。
... that for the US to go ahead with this order would "be extremely damaging to America's reputation worldwide, especially given how much support the WHO gives to the world's poorest countries in terms of testing and research and development."
太字で示した部分は、《to不定詞の意味上の主語》である《for ~》の構造。これを含むto不定詞の句(下線部)が、that節内の主語となっている。主語なのだからもちろん《名詞的用法》だ。
こういう形になるとき、自然と主語が長くなるので、《形式主語のit》を使うことが好まれるが、それはあくまでも「好まれる」というだけで、「必ず形式主語のitを使う」というわけではない。この文のように、形式主語を使ったらよけいに読みづらくなるだけというときは、不定詞句をそのまま主語にしたほうがよい。
なお、仮にここで形式主語を使っていたら、次のような形になるが、これはとても不自然だ。
It would "be extremely damaging to America's reputation worldwide, especially given how much support the WHO gives to the world's poorest countries in terms of testing and research and development," for the US to go ahead with this order.
これを見ると、「書いてある順番で意味を取る」ことが、元の形(to不定詞句をそのまま主語にしている形)に比べて困難になっていることがわかるだろう。
では、このthat節の後半部分:
..., especially given how much support the WHO gives to the world's poorest countries in terms of testing and research and development.
このgivenの使い方は覚えておくと便利だ。もちろんこれはgiveの過去分詞だが、辞書をgivenで引いてみてほしい。独立した項目になっていて、形容詞、前置詞、名詞の語義が載っていると思う(私の手元にある学習英和辞典が『ジーニアス第5版』なので、それで確認している)。ここでは前置詞である。辞書では次のように記載されている。
…を考慮に入れると; [~ (that)] [接続詞的に]…であることを考慮に入れると
今回の実例に含まれているgivenはこのgivenなのだが、そのあとに来ているのがthat節ではなくhowの節(疑問詞節)で、"how much support the WHO gives to ~" で「いかに多くの支援を、WHOが、~に与えているか」。それとgivenの「~を考慮に入れると」を合わせれば英文和訳もさくっとできるだろう。
下線で示した《in terms of ~》は大学受験では必須の熟語(イディオム)で「~という点で」といった意味。ここでは "in terms of testing and research and development" で「検査や研究開発という点で」ととらえる。andが多すぎるように見えるかもしれないが、"research and development" が元から1つの語なので、この形になる*1。
なお、形容詞のgivenは、下記映画のタイトルにも含まれている。
今回参照した発言をしたアンソニー・コステロ教授は、ロンドンのユニヴァーシティ・コレッジの教授で、英国政府が当初とろうとしていた「集団免疫」の路線(感染拡大を基本的に放置して、多くの感染者を出し、国全体で免疫を獲得していこうという方針。一時的に大量死が出るが、事実上、それはそれで仕方ない、という内容)をくつがえさせるきっかけとなった指摘を行なった医師で、小児科医である。ネパールの僻地(車の通る道路から歩いて2日もかかるような地域)での医療活動を通じて、発展途上国で厳しい環境に置かれている母と子の健康を専門とするようになり、2015年から18年まではWHOで小児・青少年医療部門のトップを務めていた。
https://en.wikipedia.org/wiki/Anthony_Costello
コステロ教授による最初の記事、3月15日: https://t.co/tQkxJGBTud The UK’s Covid-19 strategy dangerously leaves too many questions unanswered
— n o f r i l l s /共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) 2020年4月8日
UCLのコステロ教授のこの指摘のあと、3月17日にImperial Collegeのファーガソン教授らによる研究論文が出て https://t.co/Dl6DmzlvQY 、英国政府は方針を転換した(少なくとも表向きは)https://t.co/upEgw7KSZL 。しかしそこで示された「検査検査検査の方針」はあまり実行されていない。←今ココ
— n o f r i l l s /共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) April 8, 2020
参考書:
*1:"bread and butter" 「バタートースト」と同じ。I ate a boiled egg, lettuce, cheese and bread and butter. で「ゆで卵とレタスとチーズ、それとバタートーストを食べた」となる。