今回の実例は、Twitterから。
国連本部のある米ニューヨークでの時間で2020年10月24日、核兵器禁止条約(Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons, またはNuclear Weapons Ban Treaty)が、発効要件(50か国の批准)を満たし、90日後の来年2021年1月22日に発効することとなった。
国際条約の発効には、通例、署名を経て批准という手続きが取られるが、そういったことについては ウィキペディアの「条約」の項目を参照されたい。
この条約の採択・発効に向けた取り組みで大きな役割を果たし、それによって2017年にノーベル平和賞を受けた核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)の日本語版Twitterは、次のようにツイートしている。
2020年10月24日(ニューヨーク時間)、国連憲章発効75周年のこの日に #核兵器禁止条約 は発効に必要な50か国の批准に達しました。90日後、2021年1月22日に核兵器禁止条約は発効します。 #nuclearban #YesICAN pic.twitter.com/km8ZBGOao0
— ICAN Japanese (@nuclearban_jp) 2020年10月24日
核兵器に関しては、すでに、核拡散防止条約*1があったわけだが、冷戦期に締結された発効したこの条約が、核兵器保有国の数を制限することを目的とし、核兵器そのものやその開発*2・保有については必ずしも否定的なものとは言えなかった一方で、今回発効が決まった核兵器禁止条約は、核兵器そのものを「違法」なものとするという画期的な条約である。
ただし、この「違法」は何らかの強制力のあるものではなく、例えばガーディアンの記事に "the historic though essentially symbolic text" と記されているように、シンボルとして、つまり、いわば高々と掲げられる規範としてのもので、この条約が発効したからといってすぐに核兵器がなくなるわけではない。そのことについては、クラスター爆弾禁止条約が発効した(2010年)からといって、クラスター爆弾が廃絶されたわけではなく、現に今もナゴルノ=カラバフ紛争でアルメニア、アゼルバイジャン双方*3によって使用されているということを思い起していただきたい(クラスター爆弾禁止条約は、ロシア、米国、中国、シリア、トルコといった国々も署名していないから、実効性はかなり限定的ではあるが、それでも、この条約ができてからは、この非人道兵器が使われたときに「おいおい、クラスター爆弾が使われてるのかよ」というような方向での関心が広い範囲から集まるようになってはいる)。
この点については、ICANの事務局長の発言が端的である。
条約の批准を各国に働きかけてきた国際NGO「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)のフィン事務局長は「発効すれば(核軍縮を進めるべきだという)強い国際規範が生まれる」と指摘。条約の枠外にいる核保有国にも核軍縮を迫る圧力になると強調している。今後は批准国を増やし、「核なき世界」を求める国際世論をどこまで強められるかが焦点になる。
さて、今回の実例は、そのICANのツイート。
Can we have your attention? 📢 WE GOT IT! 🙌 The UN Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons just reached 50 ratifications. On 22 January 2021, the ban on nuclear weapons will come into force. The #nuclearban is here. pic.twitter.com/8aM1JAlpjb
— ICAN (@nuclearban) 2020年10月24日
最初の文、"Can we have your attention?" は「注目していただいていいですか」、つまり「お知らせがあります」の意味。 その次、"WE GOT IT!" と全部大文字で書いてあるのは、《大声で言っている》ことを視覚的に表した表記(英語で、見出しなどではなく文章を全部大文字で書くと「怒鳴っているみたいに見える」ということで場合によっては嫌われるから注意が必要)。その次の第3文は、本稿で述べたように「50か国で批准された」ということを述べている文。
そしてその次。
On 22 January 2021, the ban on nuclear weapons will come into force.
この《助動詞》のwillは、《単純未来》のwillである。
《単純未来》とは、話し手の考えとか意図といったものとは関係なく、時間の経過に伴って生じることや、単にこの先に生じることについて用いる時制のこと。「来年、私は15歳になる (I will be 14 years old next year.)」とか、「数分この道をまっすぐ行くと、大きな白い建物に気が付くでしょう (Go straight along this street for a few minutes, and you will find a big white building.)」とか、「明日は雨が降るでしょう (It will rain tomorrow.)」といったものだ。
現代の英語は文法が単純化されているので、「動詞の単純未来形」というものがないのだが、欧州のほかの言語では、単純未来は動詞の形を変えて表したりする。例えばフランス語では、英語のbe動詞に相当するêtreは、1人称単数主語ではserai, 2人称単数主語ではseras, 3人称単数主語ではseraと活用するが、英語では何人称でもwill beでオッケーということになっている。楽ちんだ。
さて、この《単純未来》と対置されるのが《意思未来》である。これは話し手の意思で将来どういうふうになるということを言うもので、「私がチャンピオンになってみせる (I will be the champion.)」とか、「あの男のことをゆるすつもりはない (I will never forgive him.)」とかいう場合のwillだ。"You will regret this." は「お前はこのことを後悔するだろう(後悔することになる)」というより「俺はお前にこのことを後悔させてやる」という意味合いの場合もある。
そして、《単純未来》は、確定している未来の予定について用いられることがあり、その場合は「~するだろう」という話し手の予測や判断を示す表現ではなく、単に「~する」と考えないと、辻褄が合わなくなることが多い。
今回の実例のwillはこのパターンで、"On 22 January 2021, the ban on nuclear weapons will come into force." は「2021年1月22日に、核兵器禁止条約は発効します」であり、「発効するでしょう」だとちょっと違和感が残る。
けれども、学校のテストでは、willは一律「~するでしょう」と回答しないと減点されるということも、実際には、生じている。残念なことだが、その場合は学校のテストでもらわなくてよい減点をもらわないようにすることを優先してテストでは「~するでしょう」と書き、本当は「~する」の意味だと考えておく、といった立ち回りが必要となるかもしれない。
参考書:
単純未来については、『ロイヤル英文法』が江川の『英文法解説』より具体的でわかりやすいかもしれない。§184にまとまっている (pp. 415-417)。
*1:別名「核不拡散条約」; Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons: NPT。1970年発効。
*2:開発にともなう核実験については、1963年の部分的核実験禁止条約、1996年の包括的核実験禁止条約についても参照されたい。後者は2020年時点で未発効である。
*3:両国ともこの条約に加わっていない。